みちくさ着物道
【#5】 着物はスペック至上主義?

こんにちは! いろんなことが自粛ムードのニッポン列島ですが、しっかり手洗いうがいして乗り越えたいですね。
さて、今回の話は男性も楽しんでいただけそうな内容じゃないかなぁ……と思いながら書いております(男着物の話ではないのですが…)。

「マルキ」って何さ?
私は服好きメンズのファッション談義が大好物で、「このシャツの糸番手が…」「この時代のチャンピオンのタグが…」みたいな話をお酒を飲みながら横で聞いてニンマリするタイプ。意味はよく分からなくても、なんかカッコいいじゃないですか。
そんな私が着物を始めて既視感を覚えたのが、聞いたことのない生地スペックが頻出すること。
「おめし(お召)」「しおぜ(塩瀬)」「めいせん(銘仙)」「おぢやちぢみ(小千谷縮)」「ゆうきつむぎ(結城紬)」「ありまつしぼり(有松絞り)」「おうみじょうふ(近江上布)」など、生地名だけでなく産地も合体している場合もある(“デニム”だけでなく“児島デニム”みたいな)ので、素人にはさっぱり分かりません。
その中でも「おおしまつむぎのななまるき(大島紬の7マルキ)」というスペックを聞いたときは、「ロロピアーナのスーパー130」みたいで、得体は知れぬがなんか絶対良さそう…!マルキって何さ?あんたがたどこさ?と興奮を覚えたものです。

軽く調べてみたところ「マルキ」というのは、生地を織るときの絣(かすり)の細かさを表す言葉。ようするにピクセル数みたいなことで、数字が大きいほうが細かいということらしいです。そのなかで5マルキ、7マルキ、9マルキあたりがメジャーらしく、細かい柄を織るほうが手間がかかるため、5より7、7より9の方がお値段も張るということなのだそう。

スペックよりも、これが「好き」で選びたい
で、マルキの解説をしたかったワケじゃなかったんです。ここからが本題。
洋服を選ぶとき、生地に関してわりと気にするタイプではあったのですが、“綿の産地(または織った工場)”まで気にして買っているわけではなかった(多くの人がそうだと思います)。だけど、着物を選ぼうとしたときあまりにスペックが溢れていて「“◎◎の△△”じゃないといけないのか…?」と思ってしまったんです。
また話が逸れますが、着物界には謎用語(前回のコラム参照)に並び、謎ルールも散見されるのですが、“小紋は普段着だから改まった席にはNG、でも大島紬はOK”というのがあり、それってつまり、高級レストランにデニムはNGだけど、ヤコブコーエンならOKみたいなこと!? 高ければいいの?って……。
着物は衣服であると同時に、古くから人々の生活を支えてきた産業でもあります。その技術に対するリスペクトとしての価値を評価するのは間違いないけど、7マルキよりも9マルキが偉い、みたいなマウントは違うんじゃないかな〜と。
まぁ、それって洋服でも同じなんですけどね。高いものとか希少価値のあるものを着ているからおしゃれなわけでもなくて、そもそもおしゃれって何? ていうかおしゃれである必要ってあるの?……となってくると、冒頭のメンズファッション談義の終盤(=酔っぱらい)みたいになってくるので、ここら辺で止めておこうと思いますが、スペックだけに惑わされずに、自分の「好き」を大事に選んでいきたいと思います。

なんとなく小難しい話が続いてしまったので、次回は私のアウトローな着物コーデの紹介でもしましょうか……需要があれば!
PROFILE

橘川 麻実 Writer & Editor
ライター歴20年。ストリートファッション誌にてキャリアをスタートし、ファッションの第一線…ではなく第三線ぐらいに地味に生息。足を使った情報収集がモットーです。