下町。Vol.10

壬生っ子のアイデンティティと共に生きる四条大宮。
四条河原町から西に向かってひた歩く、
烏丸越えて堀川越えて、この辺りから酒場の匂いがプンプンと鼻についてくる、
次の四条大宮交差点。

ここを北に入ればそこにはこの地に染みつく独特の空気と人情が流れている。

嗅覚、霊感、山勘、第六感の強い人ならば確実に東から西に向かって来た場合ここを右に曲がってしまうだろう、、

完全に無意識で・・・
気が付けば片手にジョッキ、酎ハイとハイボール、、
そう、ここが地元の人が集うディープゾーン、
壬生っ子の町、四条大宮。
この街は夜になると姿を変える。
昼間見る顔とは全く違う顔に、、


さて、その四条大宮飲み屋街のど真ん中に腰をおろした時期がある。
ドアを開け一歩外に出れば両サイドには飲み屋が並ぶ町。
四条大宮通の交差点後院通には全国ご存知の「餃子の王将 一号店」総本山を構える地。


大晦日には年越し蕎麦も食わず、ここで餃子、焼きそば、ビールで地元民と除夜の鐘を聞いた時もしばし・・・
その頃の王将は今の様な立派な建物では無く、二階の部屋に行くのにも細い階段を上がり、ごちゃごちゃと満員で餃子をつつく。
それこそ、その隣には映画館もあり「一杯のかけそば」を観て妙にうるうるしたり、、
交番なんて当時はボロボロですよ。
まぁ、言うなれば「餃子の王将 一号店」がある時点でここは聖地の一つであり、パンチの効いた町である事は確かだろう。
後院通から大宮通へ細い路地に一歩足を踏み入れてしまうと気が付けば朝なんてことはザラにあるわけです。
朝超えて昼とか・・
時間軸の曲がった一本道。

立地的にも非常に便利な場所であり、阪急大宮駅もあれば、嵐電乗り場、ロータリーでバス停にタクシー乗り場もあり、歩いて河原町に行く事も可能、
タクシーならわずかワンメーター。
ここに住めばもう外には出られない、、、
余程のことがないかぎり・・・
住めば都とはまさにここか、、、。
近くに壬生寺を持つ町は、
気性の荒い町とも言われ「壬生っ子」と言う言葉はこの地域の人にとっては一つのプライドでもあろう。

この意識の高さは、上の人や、トンク、はたまた内浜の人達とはまた違う意味合いがある。
四条大宮交差点を中心に四方八方に広がる街は、その地域によって独自の理論が存在すると私は感じています・・・
今回はその中の東北サイドを。
さぁ、飲屋街に潜入。
そうこの地で飲む時には潜入と言う言葉がよく似合う。

スクラムを組んだ様にガッチリと地元 壬生っ子達のこの酒場への地域愛は予想以上に強く頑固なまでに頑なであると感じる。
私はそう言う頑なな文化は非常に大切だと思っている一人です。特にここ京都では。
はじかれてはじかれて、優しい言葉をかけられて、またはじかれて、それでもこの酒場に通えば必ず自分の席を持つことができる、、と。
その時はじめてこの四条大宮 壬生っ子の本当の優しさと地域愛が見えてくる、
愛情とはそう言うものだろう、直ぐ生まれ出来上がるより、じっくり何度も敵視されながらも生まれてくる事に深い信頼が伝わる。
愛する町に受け入れてもらえる日をただただ待つ、
受け入れてもらえた時の酒の美味さと優しさは身にしみる思いでいっぱいである。
彼らはここでただ酒を飲んでいるわけではない、この数百メートル四方の地域文化を間違い無く守っている守護人なのだ、
少なくとも筆者はそう感じており、それがいかに大切かも理解している。
京都の町にとってディープゾーンとは大切な祠である。
特にこの大宮阪急ビルから北へ錦小路通までの数百メートルは幻の様な夜の世界だ、、、
その錦小路の東角に広がる昭和の面影をたっぷり残したブロックは時間が止まった土地でもある。



洛中の中心にありながらも、他とは確実に違う ”京都らしさ” とエネルギーを出している場所であろう。
それは勇気を出して潜入すれば一旦丸肌にされ、そこから打ち解ける何かを教えてくれる地でもある。


壬生寺を持つ町、
一癖も二癖もありながらもその癖が愛情と感じた時にこの地域の文化が見えてくる。
いわゆる誤解されやすい おもてなし でもあります、、、
さて、遡ること数年前、
大宮錦の角に「まっちゃん」と言う鉄板焼き屋と、その隣には「ブルー」と言うバーがあった。
この二軒筆者行きつけの店であったのだが残念な事に両店とも今は無くなってしまった、、
とにかく気がつけば昼前なんて当たり前の様な夜のオアシスであり、眠らない街の代表的なこの地のロッジでもあった。
そこに集まってくる情報量と抱えきれない悩みの数々は今振り返ってみても他には例を見ない事だと、、ふと思う。
この二軒にお世話になった人もたくさんいる事だろう、
そしてお世話した人も、、、。
さてさて、いつも美味しいもんへレッツゴー。
大宮通を北へ錦小路を東へ、
新宿会館の立ち呑み やきとり「てら」さん。



ここはこの地に来たら外せない一軒、
とにかく焼き鳥、造りもフレッシュ!


ある夜、筆者は ”お酒の神様” とこの店を訪れた。

噂を聞きつけた常連さんの一本の電話で、あっという間にその地の飲んべえ達が集まってくる・・
速い!とにかく動きが速い!!
あーもこーもないうちに小さな立ち呑み屋「てら」はビルの外まで溢れんばかりの人、人、人、で身動きが取れなくなってしまった、、、
携帯で一本電話した瞬間に一気に集まってくる、、
この一体感こそが四条大宮なのだろう。
しかしながら乾杯の連打でご機嫌な口笛がビル全体に流れたのは言うまでもない。
ここも美味い!
牛テールと牛スジの店「へそまがり」。


カウンターだけの小さなお店だが、味は筆者好みでついついあれこれ食べてしまう、、
牛テール煮込み、煮込みのおでん(ごぼてん こんにゃく たまご 牛すじ煮込み)
追加が止まらないのです、、、


京都らしからぬ濃い目の味ながらどこか優しい口あたり。
たまりません!
あまり教えたくない一軒。
「きりはた」


ドアを開けたらビシビシの細いカウンターの空間、背もたれは引戸です、、
丁寧で上品な料理に無口な大将、
しば漬けのパスタが忘れられない美味しさでした。

この界隈をこよなく愛する地元友人の行きつけの店、
外観からドアを開けた瞬間まで確実にファンになってしまいました。
パンチの効いた人情の地。
今このブロックのまわりもどんどん新しくなり開発ラッシュである、
大通りは既にぐるりと囲むように新しいビルが立ち並ぶ、
後院通にはそこに負けじと地元民の喜びそうなうまいもん屋が増えてきた、
なんとも頼もしい限りだ。
夜が明け朝日が昇る時、幻を見ていた夜にまた足を運んでしまう。
そんな町。

オープン過ぎるこの時代にガラパゴスとも言える場は絶対必要であり、むしろガラパゴスな状態こそ守るべき一つと言って良いでしょう。
誤解されない様に伝えたい。
ガラパゴスとは取り残された状態ではなく彼らが作った生き残る為の集大成的な酒場なのだ。
これがなければ本当の京都らしさと、その中に隠れたディープさは消えてしまい、つまらない街になってしまう。
このブロックにはこんな言葉が良く似合う。
「町は生きていなければいけない、価値を生み出す町が必要であり、世界のどこにもない町づくりが人を集める魅力となる。」
この魅力とはまさに壬生っ子と言う気性が生み出す価値であろう。
アナザーキョウト、ディープキョウト、
四条大宮は奥が深い・・・
四条大宮は守備が強い・・
そう思っているのは私だけだろうか、、
最後の楽園と言って良い地区、
壬生のマイメンに逢えばいつもそんな話しで幕を閉じている。
最後に、ここに集まる地元民を一言で表現するならば「優しい」の一言が良く似合う。
この続きはまたいつかゆっくりと書きたいと思う・・・。
さぁて、紅葉の季節、真っ赤に染まる京の都をお楽しみください。



牧野 広志 TRAVELING COFFEE 店主
1966年生まれ。
94年渡仏、90年代をパリ ルーアン リヨンで暮らす。
2002年 帰国後、京都の新しい情報発信空間の提案者として文化と地域に密着中。
-TRAVELING COFFEE -
昭和2年築の木屋町 元・立誠小学校 職員室で営業していたTRAVELING COFFEE が耐震補強工事の為に高瀬川沿いに建てられた仮設の立誠図書館内で営業。図書館の選書はブックディレクター「BACH」幅允孝氏。
現在、元・立誠小学校をリノベーションした複合施設「立誠ガーデンヒューリック京都」内にて営業。
京都府内の焙煎所を常に6軒毎月選び焙煎家と話し合いシングルオリジン、オリジナルブレンドをオーダーメイド。
スペシャルティコーヒーをハンドドリップで提供。