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落合のダッチワイフ OCT 15,2020

Hey!凡な日々 Vol.35
~クレーマーとの対決!!~


たまに公共の場で人を注意している人間を見かけることがある。「ここは煙草を吸うところではありません」「さっきから声が大きくてうるさいんですけど」「カバンの角が私に当たってますけど」等々注意内容はそれぞれであるが、そういった光景を見る度に私は一貫して、よくそんなことができるなと思う。注意をしている人間の方にである。

クレーム処理はフレンドリーに

現在私は病院内の売店でバイトをしている。つい先日の夕方六時頃、私はドリンクコーナーの前で病院の事務をやっている女子ときゃぴきゃぴしていた。それはそれは至福の時間で、「残業?」「そうそう」「喉渇いたん?」「そうそう」「なに飲むん?」「決めてない」「へ~でもあれか、残業か」「うん」「あ、コーラ飲むんだ」「うん」「いやあ、いいですよねシュワシュワしてて」「そうですよね」「でもあれじゃない?コーラって言ってもさダイエットコーラだったりさ、カフェインゼロのコーラだったり、季節によってはさピーチ味なんてのもあって」「あっ」と彼女は言って、私の背中に触れた。フレンチキスの準備に向け咄嗟に瞼を閉じたのだが、私の唇が埋まらない。どういう訳かと目を開くと看護師の女性が私の後ろを通ろうとしていた。女子にうつつを抜かしていたせいで、お客様の通路を塞いでしまったことを恥じた私は「すいません」と看護師に言うと、「その靴うるさいんだけど。」と彼女は怒鳴った。そして彼女は私の背後を通過する訳でもなくそこに立ち止まり、「不快なのよ。その靴。」と私のVANSを指差したのである。
コンビニエンストア勤務歴四年の私は、即座に彼女をクレーマーと判断、マニュアルに沿った対応をと、言いたいところだがそれは間違っている。数年前に気がついたのだが、所謂ブラックリストに載っているような客、店員に悪い意味で覚えられているタイプの客の殆どが「機械的な対応」に敏感なのである。これまで行く先々の店でクレームを入れまくってきたであろう人物達は、何百人もの店員達にマニュアルに沿った処理をされてきたに違いない。彼、彼女達は自分を疑うことを知らない、つまりはただ単に「邪険に扱われた」と考えより激高する。よって私は彼女のコメカミを人差し指で突こうと考えた訳だが、私の隣には事務の女子がいるのであった。彼女は明らかに怖がっていた。私が中三であれば、「あ、なんだこら、文句あんのかてめ~、なめてっとぶっ飛ばすぞ」と看護師に向かって勇猛果敢に歯向かっていった訳だが、今年で二十七歳になる。イキってる成人男性が恰好良いとされるのは十七歳まで、もしくは排他的で言葉を持たぬ連中で作られた狭い界隈の中、であり、ここはサササッと、スマートに解決するべきなのである。
機械的な対応をしない、イキらない、この二つを守りながら客の怒りを鎮静化させるには「え!!?俺の靴っすか!!!?!?え!!?マジっすか?音してました??」が正解と考えられる。実際に言ってみたところ「不快なのよ。」と看護師は未だにぶち切れていて、私は即座にその場を離れ事務所へと向かった。靴をVANSから違うVANSへと履き替えたのである。靴を履いている最中、看護師は事務所の中にいるスタッフに私を呼び出すように伝えていた。

私は堂々と事務所を出て、「あの、靴を履き替えました。先程の靴はですね、少し靴底が濡れていましてそのためキュキュキュと音が鳴ったのだと思うんです。その点この靴は濡れていませんので、もう音はしないかと思います。」と言った。すると看護師は「不快なのよ」とまだ言っていた。ここでハッキリしたのは、彼女が「靴の音」を解決することを目的としなくなったということである。

酉の刻、吹き荒れる風、舞う砂埃、揺れる木々、男と女は橋の上で向かい合っていた。「出たな辻斬り、ここで成敗致す」と言って女は妖刀政宗・改を抜いた。人の血を吸う刀、男は刀に物の怪を見た。男は言った「マジで拙者じゃないんですよ、マジで、てか拙者、刀とか握ったことないですし。見て下さい拙者の腰、こんなに引けちゃって、マジですいません」と言って、男は小便を漏らした。
男の足元に溜まる小便を見た女は即座に理解した、こんな腑抜けに人は斬れぬと。そして彼女は思う。なんか、この流れで刀納めんの超恥ずかしいな、鞘に納める動作の最中の間に耐えらんないな、どうしよう、女は意を決して「ここであったが百年目、この辻斬りめ~~」と叫び声を上げ、男をあっけなく斬るのであった。

みたいな状況になってしまったのだ。そうと分かれば、看護師にいやお客様に恥を欠かせないためにも「流石の目利きよ、拙者実は辻斬りでござる」と言って切られれば済む話なのだが、ほら、隣にはまだ事務の女の子がいるのである、いつまでおんねん。流石に道化が過ぎるというか、こっちだって腰抜け侍を演じているだけで、実際はやれるよ、ゴリゴリの侍だよ、みたいな意志を伝えるべく彼女にアイコンタクトを試みたのだが、「落合殿、ダッサイわ。」みたいな目で私を見つめるのであって、となれば斬りはしなくとも、と思い「もう靴履き替えたんで、靴履き替えたんで俺」と刀の素振りをして見せたのが、普段から人様にあまり意見をすることがない私は腰が引けてしまい、ガタガタと声と刀を震わせてしまったのである。すると看護師は「ガムテープでも貼りなさいよ」と言って、どこかへと去ってしまったのである。
嵐が過ぎ去り、店内には私と事務の女子、「はああ、なんだよあいつ、あぶね~、キレそうだったわ俺、マジで俺キレたらどうなるか分かんないからね、下手したらこうなるからね」みたいなことを言って、宙に向かって刀をブンブンと振り回したのである。滑稽滑稽コケコッコー。

URBAN RESEARCH

今になって情けない気持ちと怒りがわいてきた。というのも私が一番引っかかっのは「ガムテープでも貼りなさいよ」という彼女のセリフである。あの時私は正直安堵した、何故なら彼女は具体的な解決策を述べたからで、私はあの時言葉が通じることに安心してしまったのである。がしかしよくよく考えるとどうだろう、コラムを書いて三十数本になるがやっと初めてファッションについて、URBAN RESEARCHなことが言える、諸君、VANSにガムテープは合うのだろうか。VANSを履くくらいの私だから、勿論、この上下にこのVANSは合うかしら、あ、こっちのVANSの方が良いかも、とか様々な試行錯誤を重ねた上で公共の場に出ているのだが、看護師はそんなことを訳知らず、お前のVANSにはガムテープを貼れと言うのである。狂っているのは誰だ。

話は冒頭に戻るが、見知らぬ人物を注意するという行為はとても危険だと私は考える。それなりの覚悟がいる。どのような環境でどのような価値観を持ち生活しているか分からない人間に対し、警鐘を鳴らすという行為がどれ程に危険なのか、正義感のお強い方は今一度考える必要がある。
例えば、私の手がシザーハンズになっていたら、看護師は私を注意しただろうか。していないだろう。ということは彼女は、私を意識的にか無意識にか、とにかく判断したはずである。そしてそのジャッジは当たっていた。だって私は、あの女の見立て通り私は何もできない男だ。
が、私には文章とその文章を掲載してくれる環境がある、不幸を売って金を稼ぐのである。

PROFILE

「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
プールサイドというコンビ名で活動中。
毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。

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