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落合のダッチワイフ MAR 15,2021

Hey!凡な日々 Vol.45
「僕は君の味方か否か」


「世界中の人がもし君の敵になったとしても、僕は君の味方だよ。」

愛する人に対してこのようなことを本気で思わねばならない、というか俺は思える男である、と思ってずっと生きてきた。そこには一般的な常識、善悪などを通り越したものがあり、愛する人のためであったら、周囲に対してどんな理不尽な言動や行動を強いてもいとわず、例えそれが人の命を奪うような行為だとして、その人のためになるのであればそれを決行して必ずしや君を守り抜きます、という覚悟がある。それくらいの気合を胸に抱き俺は愛している人を愛しているという只その一つだけの理由で、例え何が起ころうとも問答無用で何事も許せる人間であると思っていたのだが、最近そんなことないのかもしれないと考え始めている。

ラーメン屋でのできごと

先日ラーメンを食べに行った。その店はカウンターのみで形成されており、椅子が8席程しかない。店内も狭く、それでいて日々長蛇の列ができているような店だ。ちなみに店内にも食券を片手に立ちながら待っている人が5、6いる。カウンターでラーメンを食べている最中に毎回背後から腹を空かせた卑しい人間達の視線を感じるような気がして、俺はそれが原因であまり食が進まなくなることが多々ある。だからたまに行く。それでもたまに行くのはそのラーメンがめっちゃ美味いからである。
てな感じで俺も腹を空かせながら卑しい目でカウンターを眺めていると、とあるカップルが目についた(空気感というか二人だけの世界みたいなのを物凄く感じたのでカップルだと推定、新宿駅とかで夜21時くらいに滅茶苦茶見つめ合ってる男女のあの感じを思い浮かべてもらえたら吉)。20代の同い年くらいの男女で、男性の方はすでにラーメンを食べ終わっていて、女性はラーメンを食べている。この店は誰がどう考えても回転率を命としている。

「男は先に店から出んかい。」

と俺は思ったのである。その後女性が食べ終わると二人はそそくさと店を出て行った。男性の方しか「ごちそうさまでした~!」と言ってなかったのが気になったがそれはまあ良しとする。

あれ?
そして今日バイト中にそのことをふと思い出した時に、俺はまずいんじゃないかしら、と思った次第である。というのもあの男性がやっていたことは、「食券を持って立たされていた店内中の客全員が「おい早く食えよ!!」と君に怒ったとしても、僕は君がラーメンを食べ終わるまで隣で何食わぬ顔をしながらスマホをイジり続けるよ。」ということであり、それは言い換えれば、
「世界中の人がもし君の敵になったとしても、僕は君の味方だよ。」
になるのだと先程気が付いてしまったのである。
世の中の人々が「世界中の人がもし君の敵になったとしても、僕は君の味方だよ。」と容易に発言できるのは、「世界中の人が敵になる状況」というのが確率的に起きにくいことを理解しているからだと思う。少なくとも俺はそうだ。そんなことはまず起きないと高を括っていた。だが実際は起きる。しかも日常生活のレベルで。ラーメン屋で。
あの男性は「世界中の人がもし君の敵になったとしても、僕は君の味方だよ。」を体現してみせた。
俺はこれまであのような状況になった時に必ず女性を先に置いて店を出た。俺は愛する人が世界中の人にとっての敵になったら、世界中の人と一緒の価値観にすぐさま合わせる薄情な男なのだろうか。割と本気で落ち込んだ。

いや待てバカ、バカかよ。
でもおかしい、どうにもこうにもおかしい。自分が薄情な男だと認めることができないのである。やはりなんかあの2人が、いや、あの男が直感的になにか間違っているような、そんな気がしてならないのだ。となると自分の中で浮かぶ違和感を検証かつ解消していく必要がある。その上でやはりあの男が正しかったのであれば、俺は薄情で気弱な男だったと素直に認め、あの男のような、自分が先にラーメンを食べ終わったとしても彼女を店に置いて行かないような人間になろうと思う。

違和感その1 「お前らここじゃなきゃダメだったの?」

大前提として誰が何を食べても自由である。がしかし数ある店の中でどうしてあの二人はあれ程の回転率を誇るラーメン屋、そしてあの混雑する時間帯を選んだのだろうか。女性の方が「どうしても今このタイミングであのラーメンが食べたい!」と言った場合、男性は「いいけど、凄まじい回転率だよ?その上、量も半端ないし」ということをきちんと伝えたのだろうか?今思い返すと、後半の女性は喜怒哀楽のどれにもあてはならない表情を浮かべていたような感じがするのだが、それは気のせいなのだろうか。帰り道二人で「超美味しかったね。」ってなっていれば全然よいのだけど。
というかどちらもあの店のことを知らなかった場合、俺はなんだっていい。ただ、片方があの店舗の驚異的な回転率を知っていた場合話は変わってくるのではないだろうか。なぜならそうなると「世界中の人が敵になる環境」に自ら踏み込んできたということになってしまうからである。そのような状況に自ら追い込まれ、「それでも僕は君の味方だよ。」「ありがとう。うふふ。」なんてのはもう一種のプレイだと言ってしまったら過言なのか?がしかしこれは多くの仮定を含んでいるのでなんのアレにもならない。「アレ」と書いたのは、俺が書きながら今自分が何をしようとしているのか分からなくなってしまっているからである。

違和感その2 「お前なんで先に食べ終わってんの?」

これだ。これ。これである。食べ終わっていない彼女を待つ云々より前に、どうして男の方が先に食べ終わってしまっていたのだろうか。男は器をカウンターの上に置いていたのだが、阿呆なのではないかと今さらになって俺は憤ってきた。お前が先に「食べ終わった」という事実が、我々に「女性の方がまだ「食べ終わっていない」」という印象を強く与えていたのと違うの?と俺は思うのである。
俺は連れがラーメンを食べ終わってなかったら、先に出て店の前で待つと決めているのでそれについて何も考える必要はないのだが、仮に俺があの男性だったとしたら、俺は女性を横目でチラチラと見ながら女性と同じペースでラーメンをすするに違いない。そうすれば二人で食べ終わることができるのである。あの男性は自分の食欲を優先した結果彼女を待つことになったのである。自業自得かつ彼女を追い込んだのはあいつなのかもしれない。

というか違う。もうその2とかその3とかどうだっていいわ。そもそもが間違えていた。俺はこれまで書いてきたことを書きながら勘違いしていたのである。俺は先程、「我々に「女性の方がまだ「食べ終わっていない」」という印象を強く与えていたのと違うの?と俺は思うのである。」と書いたが、そもそも「女性が食べ終わっていない」ことに関して、実際あの場で何も思わなかった。世界中の人が思ったのは一貫して「お前なんで先に出ないの?」なのである。つまり「世界中の敵」となっているのは男の方だったのである。となると話は変わってくる。事態は急展開を見せるのだ。女性視点に立ってみる。俺があの時の女性だったらどう思うだろうか。確かに「一緒にいて欲しい」と考えるかもしれない。その場合彼氏が取った行動は正しい。ここにきて俺は言うことがなくなる。あいつはカッコよかった。
だが仮に内心「え?なんでこいつ先出ないの?」と思った場合はどうだろう。俺だったら確実に思う。こいつがいることで、私が遅い感じになってね?てか、なんで退屈そうな顔してスマホイジってんの?後ろで並んでいる奴らと同じじゃん。でもそうか、こいつはこれが愛の形だと思っていて、全く持って悪気がない、というか当然のこととしてやってくれているんだな。私がこいつを待たせているような感じに思われるのも嫌だけど、それを今この場で「先に出ていいよ」と指摘したら恥をかくのはこの男だ。というか「え、いいよ待つ待つ。」とこちらも見ずに無機質なパズルゲームとかやりながら言うに決まってる。ああ、別れたい。待てよ、冷静になれ、今この場で敵視されているのは誰だ、そう、私ではなくこの男である。がしかしこの男は私のためを思って、世界中にとっての敵になっているのである(正確には無自覚だから結果的になってしまっている)。そして私は今とても恥ずかしい。凄まじい回転率を誇るこのラーメン屋で、「隣で男を待たしながら麺をすすることが当然だと思っている奴」と思われていそうでとても不快だ。ちなみに私の斜め後ろの27歳くらいの汚ったねえ恰好をした、なんかちょっとしたことをすぐにコラムに書きそうな感じの、繊細そうな雰囲気を不自然な形で全身から漂わせているこいつは、絶対私をそう思っているに違いない。それでも私は全然よいのである。私がどう思われようが、彼が世界中の人から敵だとされようが、私は彼を愛している。ゆっくりラーメンを食べて男を待たしてやるのだ。

PROFILE

「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
プールサイドというコンビ名で活動中。
毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。

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