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落合のダッチワイフ JUN 15,2021

Hey!凡な日々 Vol.49
だから書くのだ!!!


バイト先にてレジで突っ立っていると、三十代くらいの女性に「この店にダサくないイヤホンはありますか?」と聞かれた。直感でこの人を邪険に扱わないと決めた。彼女がふざけていないことが分かったからだ。「ダサいイヤホンしかないです!」と答えると、「一応見せてください」と言われた。
一番スタイリッシュかと思われるイヤホンを指差すと「これはダサくないですかね?」と彼女は言うので、「まあ大丈夫じゃないですかね」と俺は答えた。
会計する時に彼女は「私はあそこの椅子に座っていつも音楽を聞いているんですけど、私を見かけてもダサいイヤホンしているなって思わないでくださいね!」と言った。
「思わないっすよ!」と言うと、彼女は笑って颯爽と店を去って行った。

去年の五月に始まった落合家の地獄に終止符が打たれた。最後は母が裁判所にて自身の人生を襲った不幸にケリをつけた。

「これから裁判所に行ってきます!!!」というLINEが来ていた時俺はバイト中で、返事ができなかったことを後に悔やんだ。

その日の夜母から電話が来て、俺はよくやった、よくやった、と何度も言いながら泣きそうになっていた。裁判所からの帰り道、母は泣いたらしい。去年の八月に二人で「どうしようもねえ~」みたいなことを言いながら、偶然通りかかった遊園地に寄ってジェットコースターに乗った。乗る前から二人で乗ったら一生の思い出になるなと俺はその時に考えていたが、母親はそんなことを微塵も考えていないようであった。俺は不健康かつ不自然な人間だ。現実に対して作為的な行動を取ることが多々ある。自覚的すぎるのだ。きっと母の方が人の心を打つ文章を書けるのではないかと思う。俺より語彙力が乏しかったとしても。というかだからこそ。

「最後にね、裁判官に「これまでの自分の人生を振り返ってどう思うか?」って聞かれたの。」と母が電話越しに言った。俺はまた泣きそうになった。あまりにも直球すぎる質問だ。がしかし母がなんて答えたのかはとても気になる。彼女が自分の人生をどう思っているかなんてこれまで聞いたことがない。

「急に聞かれたからびっくりしちゃってさ、事前に用意してた他の質問の答えを言っちゃったよ!」と母は笑っていた。俺が彼女だったらかなり決めにいくところだ。それなのに彼女はなんて答えたかさえ覚えていないらしい。物語でいったら終盤の方の重要なシーンであることに間違いはなく、客を泣かせにいくところなのにも関わらずだ。彼女は物語を書こうと思ったことがない。だからこそ俺が彼女を書くのだ!!!

ここ一年はあばれる君のゲーム実況をよく見ている。俺はあばれる君となかやまきんに君がとても好きだ。二人にはいくつかの共通点がある。それはフィジカルな笑いと芸名に自ら「君」を付けているところだ。このバランス感覚が好きだ。二人はよく顔芸をする。「長い間」がある時に顔芸をする。スタジオや会場が静かである時の方が多い。芸風通りであれば顔をぐしゃしゃにする「動」の顔芸をしそうなところだが、二人は真顔に近い「静」の方の変顔をする。これはもの凄く自覚的な笑いだと思う。ニュアンスの笑いだ。かと言って普段の笑いの取り方は力技なのである。自覚と無自覚その二つに二人は両足を突っ込んでいる。珍しいタイプの芸人だと思う。

「運動神経が悪い」等々の先天的な能力を他人からイジられることで笑いに変換していく場合、芸人としての能力が高ければ高い人程苦しそうに見える。なぜなら「え、どこがダメなんですか?」という無自覚を装う必要があるからだ。が、どのポイントでウケるか、なんてことは芸人であれば分かるので、そこで自覚が生まれてしまう。自覚しないと笑いは取れないし、かと言ってわざとらしさがあるといけないので、自覚と無自覚の間で多くの芸人は揺れる。コントでもそうだ。本当に上手な人は、台本を忘れているかのように見える。その場で初めて聞いたおかしなことに対して「なんでだよ!!!」と言っているかのように思える。コントを演じる上で「忘れる」という能力は重要だと、前にいとうせいこうさんが言っていたのを思い出した。

最近はコントを書きまくっている。自分でも滅茶苦茶書いてるな、と思える程には書いている。書いている内に、とある脳の部分が発達しているのが分かる。全てのスピードが変わってくる。脳の筋トレというより、思考の癖付けに近いのかもしれない。お笑いにはパターンがあり、数式のようなもので生み出せる笑いが無限にある。いとうせいこうさんが書いた「今夜笑いの数を数えましょう」という本では、せいこうさんが劇作家や芸人と、ある一つの笑いのパターンについて徹底的に議論している。これを読んだ時に、お笑いは研究対象になると思った。テレビなどで売れてからもなお、ネタを書き続け単独ライブを毎年開いている芸人を僕は心から尊敬している。金銭的な面で言えばライブはコスパが悪いから多くの芸人はネタをしなくなる。意味が分からない。お笑いが手段になっている。

「おもしろいものを作り続ける」ということをストイックにやり続けている芸人は、お笑いを絶えず研究している。だから彼、彼女達のネタは毎年進化し続けている。

芸人の美学なのかなんなのか知らないが、「お笑いって分からない。」みたいなことを平気で言う芸人が数多くいる。それは探求しようとしていないだけで、恥ずかしいことだと僕は思う。あと単純に全てのテクニックを後世に残せよ!!!と最近思う。今僕が知っていることをまとめた本を、17歳の自分に読ませたらどうなっていただろうか。考えるだけでワクワクする。僕は死ぬ前に分厚い本を出す。そこには僕が知る限りのお笑いの数式が全て載っている。それを来世の自分が手に取り学ぶ。そしてまた来世の自分が死ぬ前に分厚い本を出す、それを永遠と繰り返して、俺は発展し続けようかしら。

これはマジなんだけど、先日「金の麺職人」を食べながら歩いているギャルとすれ違った。そのギャルは自分が「金の麺職人」を食べながら歩ていることを自ら人に語らないだろう。俺はそういった人間に憧れ抱きながら、死んでいく。自覚的な人間だからだ。おもんない。

PROFILE

「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
プールサイドというコンビ名で活動中。
毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。

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