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落合のダッチワイフ NOV 30,2021

Hey!凡な日々 Vol.60
自転車屋のお兄さん


去年の夏くらいに自転車屋に行った。タイヤがパンクしてしまったのである。
「修理等のご依頼の場合は自転車を店内へとお持ちください」という張り紙が店の入り口に貼ってあったが、本当に自転車を押しながら店の中へと入っていいものなのかと少し不安になった。「お持ちください」と書いてあるので、持ち込んでいいのだろうけどイメージがわかない。新品の自転車ばかりが並ぶ店内に、自分の薄汚いママチャリを持ち込むことへの抵抗感や、そもそもお店の中に自転車を押しながら入るという行為に親しみがなさすぎて、なんとなく躊躇してしまったのである。しかし堂々と自転車を押しながら店の中へと入る。私はもう自意識というものを解決しにかかっている。

すぐに30代くらいの坊主頭でメガネをかけた男性の店員さんが駆け寄ってきてくれて、事情を説明した。彼は「今ちょっと見てみますんで、少々お待ちください。」と言って、私の目の前で修理を始めた。
このような時じっと店員さんを見ていると、圧をかけているようで申し訳ないので店内をウロチョロすることにしている。例えばクレープを作っているところをずっと真近で見ていたり、自分の犬がカットされているところをガラスに張り付いて監視している人をよく見かけるが、その度になんて自分勝手なやつらなんだろうと思ってしまう。
しかし今回に限っては、彼の修理姿を目の前でずっと見てしまった。というのも作業の手つきに無駄がないというか、全ての動作一つ一つに一貫したなにかを感じて見入ってしまったのである。以前にもここで働いている他の店員さんに、自転車を修理してもらったことがあるが、その時は店内にある色々な自転車を見ることができた。
なんだろう、とにかくかっこよかったのだ。

その後、彼は「なぜパンクしてしまったのか」「どのような修理をしたのか」ということを理路整然と説明してくれた。基本テンションがそんなに高くないというか、低体温な人だったけど決して感じが悪いという印象は受けなかった。それはすごいことだなと思った。サービス業に携わる多くの店員が、必要以上に元気にハキハキと接客をするのは「これさえやっておけば「感じが悪い」とは言われまい」という魂胆があるからである。現に私もコンビニでバイトをしている時は、通常より若干テンション高めでレジを打っている。でもこれは全部嘘だし「こうしてればいい」という投げやりな態度とも言える。
私は殆どのクレーマーをこれまで駆逐してきたが「お前のサービスは過剰だ。違和感しかない。そこまで良くされる筋合いはない。普通に考えておかしい。」と言ってくる客がいたとしたら、閉口してしまうと思う。
タイヤの説明をしているとき、彼はその場でしゃがみこみ素手でタイヤをがんがん触っていた。そこに自覚的なものが存在していないように見えた。
タイヤを素手で触るのは「そうすることが今、一番分かりやすく説明できるから」ということだけでしかない。私であれば「お客様のためだったら素手でいくから。こんなに手が真っ黒になっちゃうけども。」と思いながらやるに違いない。私もおかしい。

そして彼はパンク以外にも欠陥のある部分を見つけ出し、保険適用外であるのにも関わらず無料で治してくれた。
「ありがとうございました!」と言うと、最後にニコッと笑ってくれた。この人めちゃくちゃ好きだわ。と思った。あと絶対おもしろいし。

それから半年後、相方の家に自転車で向かう最中にその店の前を通りかかったので、空気を入れていくことにした。店外に高性能の空気入れがあり、無断で使っていいことになっている。空気を入れた瞬間にネジみたいのがどっかにすっ飛んでいって、タイヤがみるみるうちにしぼんでいった。
そして私はまた空気の抜けた自転車を押しながら店内へと入っていった。
そしたらあの大好きなお兄さんが来てくれて、事情を説明すると瞬時に解決してくれた。
僕の空気の入れ方に問題があったらしく、部品代は保険適用外であったのだが「次から気を付けて!」と彼は言ってまた無料にしてくれた。後日菓子折りを持って行くべきだったのかもしれない。
店を出て相方の家に向かう頃には日が落ちていた。勝手に自転車のライトが付いていることに気が付いた。
彼はライトのスイッチを「ON」にしてから僕に自転車を渡したのである。
マジで大好き。

そして今日、自転車のチェーンが外れたのでまたしてもあの自転車屋に行った。
全然知らないお兄さんが僕の元へとやって来た。「誰やねん」と思った。
自転車を修理してもらっている間、僕は店内の自転車を見ていた。すると入口から電気自転車を押したおじいさんが入ってきて「すいませ~~~ん」と言った。
「はい」と奥のバックヤード的なところから、あのお兄さんが出てきた。髪が伸びていてセンター分けになっていた。
おじいさんは「この自転車、サドルを動かすとバキバキ音がなるんだけど、これはどういうことなんですか?」と彼に聞いた。彼はまた理路整然と説明を始めて僕はそれを「うわあ~~めっちゃ分かりやすい」と思いながら端から見ていた。
結果的にバキバキ音がなる理由は、元々の仕様だということだった。ペダルが下がっていると、サドルが動きにくくなるらしいのだ。説明を受けたおじいさんは、頭では理解できているだろうけど、それでもなんとなく不安そうな表情を浮かべていた。お兄さんは店内で販売している電気自転車を持ってきて、実際にサドルを動かしバキバキと音を出させた。新品の自転車でも同じ音が鳴るということを目の前で証明した時、おじいさんが「ああ~!!」と声を出していた。

なんか私はこう、自分がやるべきことをやっている人が好きなのである。あの姿勢を見習うことにした。

PROFILE

「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
プールサイドというコンビ名で活動中。
毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。

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