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永田 宙郷 AUG 19,2020

古くて新しいエルメスの財布


ずっと使っていた財布を落としてしまった。

それにはIDからクレジットカードまで僕のだいたい全てが入っていて、コロナ禍は人類にとっての大事件だが、そのコロナ禍のもとで起きた財布紛失も僕にとって、まあまあな事件だった。警察にいき、カードを止め、当面の現金を某先輩に借り、免許証と保険証を再発行した。そして、何よりも新しい財布を探すことになった。

財布は何年も使い続ける性分だし、ここしばらくは職人にああだこうだと要望を伝え、特別に誂えていたので、店頭で出来合いのものから選ぶにもコツをすっかり忘れて選べない。悩んだ結果、次の財布は、これだったら無くさないと思えるものを買おうと決め、珍しく高級なものを探してみることにした。

だけれど、なかなか欲しいものは見当たらない。しかもこんな時に貧乏性が目を覚まし、財布の中身よりも高いものを買う気にはなれないし、サイズや仕様も帯に短し襷に長し的な理由が重なり、しっくりくる財布に出会えない。

もう無理か。諦めかけたその時に出会いはあるもので、偶然に見つけたのが、大切に使い込まれたエルメスのドゴンコンパクトだった。軽くてサイズも片手に収まる希望の通り。ついついレシートを溜め込んでしまう無用な収納力もなく良い感じだ。ついでに店頭ではなかなか見ないシボのある黒革に金の留め具もなかなか渋い。そしてなにより、ピカピカのブランド物を持つのも気恥ずかしい僕にはちょうど良かった。

使い込む中で傷んだ箇所の画像や情報を送ってもらい、これなら綺麗に直せるはずと踏み、腕のよい革修理の専門店を見つけた上で譲り受けた。こうして僕のコロナ禍下での事件は解決し、僕は使い古された財布を自分の新たな財布として生活に招き入れることとなった。

とは言え、現時点では人類の事件であるコロナ禍はまだまだ未解決。早く、手に入れた財布をポケットに入れ、街に買い物に出かけることの出来る日が来るのが待ち遠しい。

PROFILE

「ものづくりをつくる」をコンセプトにデザインディレクターとして新旧のものづくりに異なる視点を付け加える仕事をやってます。花火の打ち上げ師や大学の研究員もしています。

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