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吉本 悠佑 OCT 29,2021

【妄想ストーリー】SNS人間~the social networking people~


※以下登場する人物・組織等は架空のものであり実在の企業等とも一切関係ありません。あくまで妄想(フィクション)の物語です。

Matching

最近の俺はといえばすこぶる健康だ。
会社に行かなくていいようになってから自分のペースでジムに行けているし、好きな時間にプロテインを飲み、カフェインだって睡眠だってとれる。髭を少し伸ばし、さわやかさと色気のある30代を目指している。
Webマーケティング会社に入りもう7年。以前は会議続きで午前様、加えての連日の飲み。こんな会社もう辞めてやろうと思っていたけれど、そういったムダが世の中から一気に減った。
もともとデータを生業にしているからリモートワークとの相性もいい。パソコン/Wi-Fi/厳格なセキュリティさえあれば、どこでも仕事へアクセスできる。先日秋の人事異動があったが、辞令をもらうために無能な役員連中の顔を見ることも、もうなくていい。

—Taiga、おつかれー。近いうち出社予定ある?
(仕事中、先輩からチャットが来た)
—Junyaさん、おつかれさまです。ないですよ。どうしたんスか?
(敬語も低レベルでいいから、いい)
—そっか。いやオレ最近出社してんだわ。この前1階のスタバ行ったらかわいい店員さん見つけてさ。もはやスタバに出社(笑)
—なんスかそれ(笑)
(笑ってなくても笑ったことにできるのも、いい)
—たまには一緒にどうかなと思って。
—そういうのってひとりで行った方が可能性あるんじゃないすか? てか、あのエプロンにやられてるだけすよ(笑)
—うるせ(笑)まぁ可能性あるなしっていうか、かわいい子は眺めてるだけで俺は満足。
—そうすね。また行くときは連絡しますよ!

もはやjunyaという名前が記号のように認識される。悪い人じゃなかったと思う。タブン。

スマホが鳴った。
『ルイトモ』:数年前に日本に上陸したシアトル発のマッチングアプリ。本当の名前は『Chemistry』(「相性」という意味)。アイドルグループがCMで「類が友を呼ぶケミストリ~!ルイトモ、探そっ!」と連呼し、すっかり『ルイトモ』の方が定着してしまった。今ではアイコンまで「ルイトモ~Chemistry~」とグローバルブランドの方が申し訳程度。
実際は「友達以上」になりやすいらしく、最近もヘビーユーザーと言っていた男の知人が「彼女と同棲始めました!」とツーショットを投稿しているのを見た。これじゃないかと勘繰っている。

『マッチング度87%——!』
日本版のローンチに関して、インド系っぽいCEOのインタビュー記事を読んだことがある。
『当アプリは世界80カ国以上で展開、現在も拡大中。日本市場に向けては日本人データはもちろんのこと、世界各地の日系人、先行してローンチした香港・台湾など日本人に近しい嗜好の方々のデータも踏まえ、ベースとなるローカル・アルゴリズムを開発。
単なるハードデータ(身長/体重/年齢等)だけでなく、ユーザー間で日々生まれるやりとりをAIが分析、そのソフトデータを活用。例えば「うん」と「うんうん!」ではトーンが全く異なります。自身が前者のタイプでも、好みのタイプは後者だったり。そこまで踏み込んだアルゴリズムは当社独自。
使うほどに精度が増すマッチング・ケミストリーを、是非体感してみてください……』

Hanging

Miyuu…マッチング度87%の女。
〇趣味:俺はジム、相手はヨガ(体を動かすことは基本ひとり。その互いの「独り立ち感」がいい。情報共有はしたいが、常に誰かと一緒は苦手)
〇仕事:webマーケと製薬会社事務で合わない(業種は異なる方がいい。互いを知らないから強く出られない。その方が衝突も少ない)
〇ゴハン:同じ釜の飯はとても重要(写真投稿系SNSと連携させると日々アップしているゴハン写真を解析、マッチング度に反映してくれる)
〇顔面:過去のイイネから好みを選出(俺の顔も登録済。最初に歯医者のレントゲンのように前後左右から撮らないといけないのは少し面倒だが……)
〇その他:医療系や転職系のアプリと連動させれば健康状態や人材価値も反映され、自身のパーソナリティ理解度やマッチング度が増す。
誤解して欲しくないのはマッチする人はする。さっきの知人なんか、食べることに全く興味のない高身長ガリ、高卒の町工場勤務だ。eスポーツ好きでそこでも出会えるとか言っていたから、もしかしたらそっち経由かもしれない。

俺はMiyuuといくらかチャットをした後、早速『会う』をポチした。

『こちらがオススメのカフェです。立地・メニュー・価格帯などからお二人に合うお店を選出しました!予約しますか?』
飲食店アプリと連動すれば、店選びの手間も省ける。
『予約が完了しました。それでは~(アイドルの声で)ルイトモ探そっ!~』
最後のダサさ以外、本当によくできている。

Talking

黒パンに白のプルオーバー。ネットで同じブランドのものしか買わない。生地もフィット感も気に入っているし、太った痩せたも同じ服を着続けていれば、その変化に気付きやすい。

秋晴れの昼下がり。挨拶も早々に晴れて暖かいテラス席に座りタブレット注文する。俺はこの後ジムに行くから豆乳ラテを、彼女は最近ハマっているという浅煎りのフレンチプレスを。「本日のコーヒー豆、私好みの『酸味系』だって!」とホクホク顔だ。
「実はMiyuuって名前、自分ではあんまり気に入ってないんだよね。横文字にするとmi・yu・uってuが二つ重なるのがイマイチ。だったらMiyuがよかった!」
「えー、そう?」
「言い訳っぽいけど漢字では『美しい夕べ』で『美夕』なの。私が生まれた日、美しい夕日が出てたんだって。そのストーリーは気に入ってるんだけど、ハッシュタグ仕様じゃないのがちょっと、ねぇ。そっちはいいよね。#taiga うん。かっこいい」
こうして俺は初めて名前を呼ばれた。

マッチング通り、俺たちの話は細部にまで盛り上がった。
お互いの好きなシャンプーの感じまで一緒だったときは、正直驚いた。
『泡立ち過ぎないナチュラルなもの』——安っぽいシャンプーほど泡立ちが良すぎる、きっとそれはケミカルの力だろうと。泡が多いとジム(やヨガ)のシャワーで、排水溝に泡が溜まってスッと流れないのが嫌だと。かといってナチュラル過ぎて泡立ちが全くないのも洗った気にならないと。うんうん!と。
「この人となら末永くシャンプーを共有できると思い、心に決めました」という馴れ初めがあってもいいじゃないか。特に年寄りにはハートウォーミングなストーリーが必要だ。

「あ、ちょっとお手洗い……」
「うん。中の、あっち……かな」
目で合図する俺にありがとうと言い、彼女は立ち上がった。セミロングの黒髪に健康的なふくらはぎ。高すぎないヒールを履いて俺と同じくらいの背丈。歳は彼女が一個上だが「タメ語ok」だって事前了承済。対等なのが、いい。
対等といえば俺の漢字をまだ彼女に名乗っていなかった。

俺の名は大哥(たいが)。歌うように大きな声で生まれてきた長男。
実際はカラオケが苦手だけど、名付けのストーリー自体は俺も気に入っている。

F*cking

……ちょっ!ちょっ!……
美夕は帰ってくるなり耳打ちするように前のめりに囁いた。
「ど、どしたん?」
「あっち!トイレの近く!会社のマネージャーがいたの!」
どれ、とちらっと見るとグレーのポロシャツの男性が、背を丸めパソコンに向かっている。顔はわからないが背中が老いを語っている。今日は背筋を鍛えようととっさに誓った。
「変な人じゃないよ。前は部署の飲み会とかで話してたし、今でも別に話せるけど……ちょっと久々でびっくりしちゃった」
「そかそか。あ、水持ってきておいたよ」
ありがとうと美夕が言い、二人同時に喉を潤す。

直後、彼女は手招きするおばちゃんのようなしぐさで、饒舌に喋りだした。
「そうそう! 出社しなくなってから、たまたまあの人のインスタを見つけたの! 顔出ししてなくて犬かなんかみたいなプロフィール写真だったけど、アカウント名が会社のニックネームと同じだったし、そういうのって雰囲気でわかるじゃない? でね、投稿が見事にラーメンばっかりだったの!しかもオール・コッテリ系! 画面いっぱいに豚骨!豚骨!豚骨!ときどき餃子!唐揚げ!みたいな」と笑いだした。
ああ、ここは(笑)か。と、俺も少し笑ってみせると、それは「しゃべり続けてオッケー」のサインと取られたようで
「でね、さっき見たら、やっぱり……」
と彼女は続け、店内を見渡すフリをし、あの猫背をもう一度確認した。
「かなりデブった! 前は多少見れてたのに。そりゃあんなもんばっか食べてたら太るよね。出勤しなくなって本当に分かれた。私達みたいに体動かすチームと、不摂生チーム。あ、そういえば大哥君の行ってるジム、あそこどう? きれい? ひろい?」
途中から少し意識が飛び「あ、うん。快適」と空返事のようになってしまった。
彼女はコーヒープレスを最後ギュッと押し、その絞り汁をカップに注ぎだした。
「そっか、私もそっち行こうかな。あのインスタ見た瞬間ね、3Dみたいに飛び出る脂っこさでオエ~ッてなったの。だからね、ちゃんと友達申請される前にブロックしておいたの」
薄濁った黒い液体を舌先で確かめるように少し舐め「最後の一滴はおいしくない」と彼女はつぶやいた。そして俺の視線を誘導し、また囁いた。

……見て。あのホイップクリームとメープルシロップびっしゃりがけのラテ!……

俺は抹茶を飲み干すように水をズズッとかっこんだ。その勢いのまま氷にかじりついた。
ボリッと音を鳴らし、ふーん、と鼻息のような返事をしたところで彼女が
「あー、喉乾いた? 10月にしてはまだ変に暑いもんね。水もらってくるよ」
と俺の紙コップを持ち、立ち上がってくれた。

彼女の世界から解放され、ようやく氷を味わえた。

そしてトイレへと立ち上がった。
どこにでもいそうな背中むっちりめの短髪の男が、端の席でキーボードをカタカタと叩いている。空いた透明のプラカップには白やら明るめの茶色の残像がまだへばりついていたけれど、子供の描いたクレヨン画のようで、邪気は全く感じられなかった。

Blocking

家に帰りしばらくすると彼女からチャットがきた。今日は楽しかった、大哥君思ったより背が高く見えた、黒スキニーのせいかななど、と。こちらこそありがとう、と。
しかし俺は一点だけ伝えたかった。
—今日、マネージャーさんいたよね?
—ああ。うん。どうしたの?まさか知り合いだった!?(笑)
—いや、知らない人。でもさ、これは俺の感覚っていうか、少し気になったことなんだけど、太ってるとか何を食べてるかとか、そういうのって人の自由だと思うんだよね。
—どういうこと?
—ラーメンが好きならそれでいいし、甘い物が好きならそれでいい。そういうこと、あんまり他人である俺に言わなくてもいいかなと。
—何か悪い気させた?
—太ったとか顔出しキツいとか、そういうこと言ってたじゃん。
—顔出しキツイなんて言ってないよ。
―そうだっけか、ごめん。
(思考停止に陥っていた時だ。正直覚えていない)
―私もそういうの、自由だと思うよ。
(少し考える俺)
—ごめん、タイガ君が何を言いたいのかわからない。
(カタカナに呼び名が戻る。常用漢字ですぐ出てこないから変換がめんどくさくなったんだろう)
—私も人がどう生きようが自由だと思ってるよ。インスタは彼と繋がる前にちゃんとブロックしたから彼を傷つけてはいない。今日は彼がデブだとかなんとか言っちゃったけど、それがタイガ君を傷つけた? 傷つけてないよね?
—タイガ君に悪いことしたつもりは一切ないけど?
(立て続けに2通来た)
—そうだね。傷つけられたとは思ってない。ただ、本人のいないところでああいうグチっていうか、特に身体的なダメ出しをとやかく聞かされるのは、あまりいい気がしなかったなって。
(少し間が空く)
—そう? わかった
(また少し間が空く)
—タイガ君がそれで気分を害したなら申し訳ないけど、私はこういう生き方なの。今も誰も傷つけずに生きてるつもり。たしかにあのマネージャーのことは得意じゃないけど、傷つけたことなんて一切ない。そりゃあ面と向かってそんなことゼッタイに言わないよ? それをしたらアウトだけど、私があの人をどう見てようが、ブロックしようが、それは自由。

—そうだね。
(そうだね。しか相づちができていない。何か別の言葉を探してみる)
—ごめんね、悪い気してほしくないけど、タイガくんってもうちょっと寛容性が高いと思ってた。
—えっ?
—たったひとつのことだけど、私の言動を制限しようとしてるみたい。実際そう感じちゃってる。
―そんなつもりないよ。
—うん、わかってる。わかってるけど、
(「、」で終わるのはよくない。言いたいことがあるのに、その言い方を考えている間だ)

—私はこうやって生きてきたの。だから、私達やっぱり合わないのかも
—そっか
—なんかさ、二人きりならよかったけど、第三者が出てきて、俺が見たくない部分が見えちゃったのかも。それは俺の信念?ワガママ?潔癖?なのかもしれないけど。
(俺も立て続けに2通入れてやった)
—潔癖(笑)ま、そこも自由なんじゃん? どうする? また会う?
—どちらでもいいよ
(互いに「どちらでもいい」は、Noだ)
—じゃあ、、、やめとこっか?
—そうだね
—わかった!ありがとう。後で私からブロック申請しておくから、承認しておいてよ(※)。これからもがんばってね!
—了解。こちらこそありがとう。そっちもね!

(※)ブロック承認:出会いを目的にフォローし合った二人のうち、どちらかがブロック申請をし、相手がそのブロックを『承認』をすることにより、双方が「赤の他人」に戻れるシステム。これにより他のSNSや街中で偶然見かけても他人のように接しなければならない。これはブロック権保護法「全ての国民はブロックする権利を有し、そのブロックにより個人の生活が脅かされてはならない」に拠る。背景として、過去の残忍なブロック拒否殺傷事件の数々により、急速な法整備とアプリ開発がなされた。

~~~
ジムでのワークアウト前。通知2件とはテンションが下がる。
最近は『Pathway(パスウェイ)』というアプリにハマっている。

~いつもの小道が、出逢いのルートに!~
『BluetoothをONにしていつもの小道を歩いてみてください。半径5m以内に入った相手と双方自動マッチングが開始されます!「一斉受信モード」にしておけばわずらわしい常時通知から解放され、後でメッセを一気読みすることも!
通勤・通学、ジョギング、一人旅で大活躍!もちろん、自宅や職場などの位置情報がバレないようなマッピング・プライバシー設定もできます……』

「あの道はイマイチか。帰りはちょっと遠回りしてみようかな」

~尚、当アプリは日本国憲法第13条で保障されている『ブロック権』(なんびとも人をブロックする権利を有する)に基づき、厳格に管理運営されています。近日中には警察SOSアプリとも連動を開始。万が一のブロック権侵害にも即対応。どうぞ安心してご利用下さい~

—終—

PROFILE

吉本 悠佑 POP-UPイケ麺バー主宰

京都在住『流しの料理人』 Pop-Upイケ麺バーを主宰し各地で手打ちの蕎麦や饂飩を出す傍ら、ライター、金継ぎなどをマルチにこなす。京都の割烹屋・全国の麺処で修業経験有。旅した国は世界40か国近く。大学卒業後、大手の人材会社・広告代理店での営業経験やドイツ在住経験も。gayデス。

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