<SDR通信Plus⑬> 寄付した服の行方。マレーシアまで追ってみた
株式会社アーバンリサーチ(以下、アーバンリサーチ)が作った服には、何らかの理由で汚れたり、破れたりして販売できなくなるものがあります。私たちは、これを再利用する取り組みの一環として、その一部をミャンマーやベトナムで支援活動を行う認定NPO法人ブリッジ エーシア ジャパン(以下「BAJ」)に寄付しています。今回は、寄付先でその服がどうなっているのか、その行方を調査しにマレーシアに行ってきました。
アーバンリサーチで販売できなくなった服は、2018年以降、廃棄衣料をアップサイクルする「commpost(コンポスト)」の原料となっています。その際に行う服の分別作業で、まだ着られそうな服は、BAJの「フルクル」に寄付するようにしています。
BAJの「フルクル」は、古着や企業から出る廃棄衣料などをリユースやリサイクルするプログラムで、集まった収益はミャンマーやベトナムでの支援活動にあてられます。
でも、寄付した後の服はどうなっているのだろう?
素朴な疑問をきっかけに調べてみました。そして、その行方を追ったBAJの記事を見つけました。
フルクルに送られた衣類は、リサイクル業者の倉庫に回収され梱包し、そこから海外に送られているとのこと。
しかし、海外に送った後にどう処理されているのかが分かりません。そこで、BAJ事務局長の新石さんに声をかけて、一緒にその先を追ってみることにしました。
マレーシアの倉庫へ
フルクルで集められた服は、日本からマレーシアの倉庫に送られます。訪問したのは2023年10月初旬。場所は首都クアラルンプールから南西に50kmほどのクラン港の近く。現地では、フルクルで荷物の送付先となっている日光物産株式会社の協力会社Nikko Fibre Sdn.Bhd.(以下「Nikkoファイバー」)社長の武田さんが案内と説明をしてくれました。
マレーシアの倉庫に送られた寄付した服は、倉庫内でリユース、リサイクル、廃棄の3つに分けられ、それぞれ出荷されていきます。
現地の輸入から出荷までの流れ
輸入後、仕分けのための作業場へ
作業場での仕分け作業
仕分けられた衣類を出荷
リユースされる服
フルクルに送られた服の85%強は、リユースされています。リユースの販売先としては、アジア圏(61%)、中東圏(18%)、アフリカ圏(18%)、マレーシア(3%)です。マレーシアには当社の服を取り扱う古着屋等が数店舗あり、そこで販売を行っています。
マレーシアで同社の服を取り扱う古着屋「バンドル」
店内は種類ごとにきれいに陳列されている
リサイクルされる服
フルクルに送られた服のうち、リユースできないもの(10%強)は、リサイクルされています。内訳は、その半分が再生原料(インド・マレーシア向け)、半分が機械類の油や汚れを拭き取るのに使われるウエス(日本・シンガポール向け)へのリサイクルです。その他、作業で出るプラスチック系のゴミも再生されています。
廃棄(サーマルリカバリー)
フルクルで送られた服の5%未満は、リユースもリサイクルもできないことから、マレーシア国内法に従い廃棄されています。廃棄方法は、廃棄物を燃やすときに発生する「熱エネルギー」を回収して利用する方法で、日本では「サーマルリカバリー」と呼ぶこともあります。
現場を見させてもらった後に、廃棄衣料や古着の問題について、BAJの新石さん、Nikkoファイバーの武田さん、萩原の3人でディスカッションしました。
萩原 マレーシアでビジネスを始めたきっかけは何ですか?
武田 ずっと日本でこの仕事をしてきました。15年ぐらい前に行政による服の資源回収が始まってから、取り扱う服の数が爆発的に増え、国内だけでは追いつかなくなりました。主な理由は人手不足で、国内でこの仕事をする人を探すのが難しくなりました。そこで、2008年に自分たちに合うと思ったマレーシアに倉庫を作りました。
萩原 BAJでフルクルを始めたきっかけは何ですか?
新石 服などの資源循環に貢献しながら、ミャンマーやベトナムの支援もできる。とても素晴らしい取り組みだと思ったためです。
萩原 フルクルで送られてくる服は、リセール(85%強)、リサイクル(10%強)、廃棄(サーマルリカバリー)(5%未満)とのことでした。寄付もありますか?
武田 はい、少量ですがあります。マレーシア政府に寄付し、表彰されたこともあるんです。
萩原 素晴らしいですね。ちなみに、日本の行政が資源回収として集めた服の場合、この構成はどうなりますか?
武田 平均してリセール(57%)、リサイクル(30%)、廃棄(サーマルリカバリー)(13%)となります。フルクルは、善意やリサイクルなど、高い意識で参加される方々が多いからか、リユース率は格段に違いますね。
萩原 リユース率が約30%近くも違うのですね。次に再生原料やウエスへのリサイクルについて、もう少し詳しく教えてください。
武田 ウエスとは、コットン素材の服を裁断したもので、主に雑巾になります。雑巾といってもミシン縫いされておらず、形も一定ではなく不揃いです。用途としては、工場などでの液体や油汚れ拭き、クッションの中身などです。再生原料は、例えばセーターの場合、ウールを綿状にした後に、撚り直して糸にし、ウールや毛糸に再生します。また、ポリエステル系は、工場の床に敷くマットなどに再生しています。
萩原 なるほど。次にフルクルの廃棄についてお伺いします。リセール先での廃棄はありますか?
武田 BtoBでは販売可能なものだけ買っていくので、売れ残りにくい構造だと思います。実際に海外の取引先の販売店を見に行っていますが、どこもほぼ売り切っており、廃棄はないものと認識しています。
萩原 分かりました。では次に倉庫から出る服の廃棄について、処理した証明書のようなものはありますか?
武田 はい、あります。政府から許認可を受けた廃棄物処理業者に処理をお願いするのですが、処理する度に証明書をもらえます。
萩原 廃棄(サーマルリカバリー)について、何か思うことはありますか?
武田 一般論として、日本でごみとして扱われるものはマレーシアでも廃棄物になります。私たちは、お預かりした服がなるべく廃棄にならないよう、努力を続けていますが、日本から送られてくる服には、廃棄されるものが一定割合で混じってきます。特に行政回収においてはその比率が高いですね。
新石 協力できるところは一緒にやっていきたいです。
萩原 私たちも協力できればと思います。次に、このビジネスの将来について、どのようにお考えでしょうか?
武田 私たちは100年近く同じ仕事をしています。先人から聞いた話を含めて感じることは、その時代によってビジネスの波があるということです。例えば、昔の話になりますが、1ドル360円の時代は、ウェスやウールの再生で業界全体が潤いましたが、今はそんな時代ではないです。大量生産・大量消費の時代になってからは、リユースしていた付属品(例:白蝶貝ボタン)が安物になってしまい、取り引きがなくなりました。コロナウイルス禍では国際物流が滞って荷物が届かなくなるなど、大変な時を過ごしました。最近は日本で古着が人気になってきているといいます。
こうして時代が変わる中で、最近は服を再生する技術が出てきています。技術革新が進めば服の廃棄をなくせるかもしれないと期待しています。そうした変革がなければ、これまでの繰り返しなのかもしれません。
萩原 寄付の裏にはビジネスがあって、そこが安定することで全体がうまく回っているんですね。ではマレーシアでの働き手の安定性はどうでしょうか?
武田 最近、マレーシアでもこの仕事をやりたがらない人が増えています。そこを埋めてくれるのがミャンマー人やインドネシア人などの外国人労働者です。大変な人生を送っている人も多いと思いますが、真面目によく働いてくれています。全員マレーシアの法に従って採用しており、仕事を辞めると帰国を強いられる可能性があります。その人の将来や幸せを考えると「辞めさせるわけにはいかない」という思いが強いです。それもあってなるべくスタッフの働きやすい環境を作ろうとしています。例えば、イスラム教信者向けのお祈りの部屋を作ったりしています。でも家族の問題などで急に休むスタッフが出たりして。日々心配が絶えないですね。普段はみな楽しく仕事をしてくれています。いつもは作業服を着ていますが、年に1回の全体パーティでは、みな着飾ってくるんですよ。スタッフはそういうことが嬉しいみたいで、私も素敵な時間を過ごさせてもらっています。
楽しそうに働くスタッフの方々
萩原 色々と考えさせられる部分もありますが、素敵なお話ですね。フルクルでの服の集まり状況はいかがでしょうか?
新石 おかげ様で、2022年は2011年の開始以来、過去最大の量の服が集まりました。今年は通常どおりに戻りそうですが、これからも数量を増やしていきたいです。
萩原 フルクルで得た収益は具体的にどんなことに使われているのですか?
新石 その資金を使って、 ミャンマーの支援地域で、孤児院などへ「Book & Toyミニライブラリー」と題して図書とおもちゃの寄贈をしています。また、女性たちの裁縫トレーニングなどを行っています。学びの場をつくる支援としてフルクルが役立っています。そして、ミャンマーには中央乾燥地域という水不足で有名な場所があるのですが、将来的にはフルクルの資金で水供給の活動もやる計画です。
萩原 新石さん、武田さん、本当にどうもありがとうございました。おかげさまで、フルクルの仕組みや寄付した服の行方も分かり、また、勉強になることもたくさんありました。今後のフルクルのご発展を願うとともに、アーバンリサーチのリサイクルや服の回収などの取り組みにも活かしていければと思います。
取材を終えて
今回、フルクルに寄付した後の流れを追ってみましたが、その結果、リユース(85%強)、リサイクル(10%強)、廃棄(サーマルリカバリー)(5%未満)であることが分りました。この数値は、行政回収の場合と比べ、リユース率は約30%高く、リサイクル率は約20%低く、廃棄(サーマルリカバリー)率は約10%低い、という素晴らしいものです。
また、人権や労働環境についても、問題なかったと思います。一方、この仕事がマレーシアでの外国人労働者の受入口となっている側面もあること、元々は日本での採用難がきっかけとなっていることなど、いろいろと考えさせられました。
また、フルクルでは少ないですが、日本から送られる服の一部がマレーシアで廃棄(サーマルリカバリー)されている事実を知りました。運ぶことによる運賃やCO2排出、焼却による環境汚染などありますし、日本の廃棄問題を他国に転嫁しているようにも見えます。日本で処理できれば良いと思いますが、実際問題、簡単な仕組みにしないと服の回収も進まず、再生も進まなくなる、という側面もあると聞きました。寄付する際にリユースやリサイクル不可のものを見分け、廃棄となるものは送らないようにすればよいわけですが、では具体的にどうやって見分けるのでしょうか。そのような課題はまだたくさんあると思いますが、まずはそうしようとする意識を持つことが大切なのかもしれません。
それから、海外への服のリユース販売については、特にアフリカ圏では現地のコットン産業などの衰退を招いているのではないか、という報道を見かけます。一方で、同地域はいずれ欧米などのファストファッションにビジネスを奪われる可能性が高いし、コットンは欧米向けであり現地住民には高すぎて買えない。なので輸入するリユース品は現地住民に喜ばれている、といった現地元駐在者の意見も聞きます。他にもさまざまな意見があるでしょう。賛否両論あると感じています。
最後に、これからの日本社会は、国内で販売した服を、国内で完全に循環していくことを目指していくことと思います。しかし、今回の視察を通じて、その道のりは長く遠いものかもしれない、と感じるところもありました。もちろん、その実現に向けて、私たちにできることはたくさんあると思いますし、それをみなさんと一緒に進めていければうれしく思います。循環社会への途上にある現状では、フルクルへの服の寄付は、現実的で良い選択肢の一つであると改めて感じました。
萩原 直樹
株式会社アーバンリサーチ 執行役員
2018年よりSDGs推進の社内横断組織「SDR(Sustainable Development Research)」を設立。2019年には独自のSDGs基本方針「3C」を定め、アパレル企業の視点から積極的にSDGsを支援していくことを宣言し、全社のサステナビリティ推進活動に取り組んでいる。