“買談”新書『DRESS』編
古き良きワークウェアを今の空気感で表現するドレスの新作がいい!

ジーンズもカーゴパンツもオーバーオールも、もとをたどれば“仕事着”である。ゆえに、紆余曲折を経て今のメンズカジュアルに落とし込まれた経緯を考えれば、一昨年にデビューを果たしたドレスのアプローチは理に適っているといえるだろう。仕掛け人は、ニートのディレクター、西野大士氏。彼は、ジャンル、国、シーンを問わず土地土地の“仕事着”をつぶさに観察しながら、現代的解釈のもとアイテムを作り込んでいく。そして、URBAN RESEARCH BUYERS SELECT(以下、URBS)のメンズバイヤー、阿部浩もそんなアイテムの魅力に触れバイイングを決めたとか。今回は、URBSの若手メンズブランドPR、松本聖も交え、2022年春夏の新作について深堀る。
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ドレスは、自由な発想やアイデアを具現化する場所


『にしのや』の代表を務める西野氏。彼は、国内の有力ブランドのプロモーションを行う傍ら、業界内外から多くの支持を得るパンツ専業ブランド、ニートのディレクターとしても活躍。パンツ専用ビスポークのお店も立ち上げるなど活動は多岐にわたる。そのひとつがドレスだ。ただ、「ニートと違い、各シーズンのテーマには毎回頭を悩ませていますし、悠長に構えている暇もないので常に時間との勝負」とその製作背景について語る。ただ、彼の中では、そうまでしてもやりたかった、秘める想いがあった。

「パンツだけでなくトップスもやりたいとは考えていました。とはいえ、ニートはパンツ専業で謳っていますし、中途半端なことはしたくない。作るならとことん作り込みたい想いは強かったので、もう少し自由な発想のもと、それをカタチにできるステージが必要だと感じていたんです」
“ドレス=DRESS”は、英語で“正装”の意味があるように煌びやかな印象を受ける。しかし、文脈への用い方によっては、“〜用に作られた”という意味も。そこから推察できるように、ドレスは毎シーズン何かの職種に焦点をあて、そのユニフォームを現代的に再現したコレクションを展開すると西野氏は語る。
「思い返せば、今のメンズカジュアルに分類されるアイテムのほとんどはワークウェア。ひとつひとつ紐解いていけば、その背景がまた面白いんですよ。だからがぜんオリジンの古着に興味が湧いてくる。その背景を考えたり調べれば、それにまた違う何かが付随してきて興味の連鎖が無限に広がっていく。そりゃどんどんハマっていきますよね。その要所要所をさらに深掘りしながら表現していくのがドレスというブランドですね」
ドレスは言うなれば、アーカイブ化された好奇心の発露と、西野氏。それに対し「共感します」とは、九州の各店で販売スタッフを経験し、昨年、URBSのブランドPRに就任した松本だ。

「僕はもともとモードが好きでしたけど、例えば、M-65はハイブランドでもたびたび出されてはいますよね。それはそれでファッションアイテムとして見つつ、M-65の背景も気になり調べるようになりました。それが高じて今では、古着も好きになりましたから」
表現者、西野大士だからこそ作れるものがある
ドレスの製作は、ニートのNEWコレクションの完成が見えたタイミングで着手する。ただ、双方の製作におけるアプローチは異なると西野氏。

「ニートでは、購入した方にそれをずっと穿き続けてほしいという想いがあります。僕が好きなものでもありますし、今後もそれは変わらないと思う。ただ、ドレスはというと、長く着続けて欲しいというよりアイテムを目にする、手に取るその瞬間瞬間を楽しんで欲しいなと思いますね。そのときどきで直感的に感じたことをそのまま表現しているところもあるので。だから、どれだけ評判が良かろうが二度と同じものは作りません」
「ニートにはニートの良さは当然ありますが」と前置きしたうえで、ドレスは、西野氏の独特な感性やそのときの気分がもっとも反映されているブランドとバイヤーの阿部は言う。

「もともと大さんとは、僕が『かぐれ』のバイヤーをしていたときにアーバンリサーチ プレスマネージャーの中山を通じてお会いしました。2015年の夏頃ですかね。そこでニートのサンプルを拝見して素晴らしいモノ作りをされているなと思ったんです。もちろんすぐさま買い付けさせてもらいました。その頃から、大さんはやはり気になる存在でしたし、ドレスは、そんな大さんの気分がすごく反映されている気がしますからやはり興味はそそられますよね。大さんの脳内を覗いている感覚があります」
そのコメントに西野氏も強く同意。
「そうなんです。だからニートではこの手のフレアパンツを作るのはちょっと違うなと思うんです。コンセプトからもズレますし、じゃあスキニーパンツがシーンでも自分としても気分だったらスキニーをニートでやるのかというとそうではない。ニートとしても自分としても手が伸びづらい領域ではあるんですけど、ただ、穿いてみたいという好奇心はあるんですよ。ドレスは、それを発散するブランドかもしれませんね。そういう意味では、ニートよりもファッション的かもしれません」
2020年春夏からスタートし今季で5季目を迎えるドレス。その中で、阿部にとって印象深いシーズンがあるとか。そして、単に時代の空気感だけに寄り添うのではなく、あくまでも表現者、西野大士が背景に見えるからこそより魅力的に見えたという。

「昔のアメリカで活躍していた証券マンたちが身につけている服を背景にしたコレクションがありましたよね。すごく素敵だなって思いました。どのシーズンもとにかくニッチですよね(笑)。ただ、だからこそ大さんのパーソナルな部分がより反映されていて個人的には楽しみなんです」
「確かにニッチ」と苦笑しながら、西野氏も言葉を続ける。


「昔のニューヨーク証券取引所に出入りするトレーダーをイメージしたやつですよね。きっと、そんなモノを作る人はそうはいないと思う。でも、すでに世の中にあるものを僕が作る必要はないと思っているんです。それなら古着や新品を買えばいい。だから、僕は5ポケットの普通のデニムは絶対に作りません。リーバイス®の501XXのほうが絶対に格好いいですから。しかも、業界内にはすごいクオリティでオリジナルに負けず劣らずの一本を作られている方もたくさんいらっしゃいます。となると、僕がやる必要性や意味がないと思うんですよね」
今回注目したのは、アメリカの理髪師
そして、2022年春夏、URBSがバイイングしたのがこちらのボトムスで、今季はとある映画からインスピレーションを受けたとか。


DRESS BARBER KNIT PANTS ¥30,800 (税込)
「1980年代のアメリカにいそうな床屋の理髪師をイメージしました。発端は’80年代の映画。別段、ハイライトでも名シーンでも、ましてやクライマックスでもない。いたって普通のシーンに黒人の理髪師がこういうスタプレっぽいニットパンツに柄シャツを着て、その上にバーバーシャツを重ねて出ていたんです。それがすごく印象に残っていて」
それを聞いて阿部も腑に落ちた様子。

「どこかオールドスクール的な匂いを感じますよね。懐かしくもあり、でも新しい。当時の時代背景もなんとなく感じられます」
映画が好きでよく見るという松本も、そのアプローチに思わず身を乗り出す。

「僕も映画が好きでよく見るんですけど、映画に出ている人たちのスタイリングはやっぱり目がいきますよね。自分もしたいなと思って、持っているアイテムでそれとなく組み合わせながら出勤したりします。なので、ドレスのアプローチに共感しますし、このアイテムも素敵だなって思いました。実は購入し、今穿いてるんですよね。とにかく形が綺麗でなんにでも合わせられる感じがします。あと、実際に穿いてみてより実感するのですが、タッチが本当に滑らかでストレスがまったくない」
「ありがとうございます(笑)」と西野氏。

「その映画で穿いていたものは、スタプレみたいな雰囲気でおそらく5ポケのなにかだと思います。ド直球なフレアで柄もクラシックなんですよ。ただ、それをまんま作ってしまうのもつまらないなと思い、もう少し昔にさかのぼって’60年代頃のスラックス風のスタプレをベースにしました」


「’60年代のスラックスはフロントのL字ポケットが一番の特徴なんですよね。それらのディテールを落とし込みながら、縫製はニートと同じ工場にお願いしました。こっちはウールのスラックスなんですけど、やっぱりそこはちょっとユニフォーム感を出したいということで、ポリエステルのニット編みにして洗濯機で洗えるようにしています」
ベースにした往時のスタプレに反応したのが阿部だ。
「多分僕ら世代はスタプレが売れた時代を通っていると思うんですよ。それで裾がボロボロになるまで穿いたりして。そういう人間からしたらなんの抵抗もなく手に取れると思う。僕もスタプレが好きでよく穿いていましたけど、テーパードシルエットの時代があったりと、時代によってもさまざま。中でもベーシックなシルエットがフレアですよね。そこへしっかりスポットを当てている大さんのアプローチがすごく響きました。URBSが買いつけるアイテムはシンプルで分かりやすいものが多いんですけど、そこへ単純に取り入れてみたいなと思いましたね」
フレアに馴染みのない世代にこそオススメしたい一本
「僕よりも下の世代になるとフレアシルエットに抵抗を感じる子も多いみたいですが、逆にそんな人にこそ薦めたい」と阿部。

「これは当時のようなキツいフレアではないので、すんなり受け入れられると思います。しかも、今回は買い付けてはいませんが、トップスも面白い。おそらく下の世代の方々は、これだけ情報が溢れている時代ですからアイテムひとつとっても掘る必要がないのかもしれませんよね。ただ、そんな方々にもドレスのアイテムはすごく引っかかると思うんです」
それに松本も大きく頷く。

「僕も全然通ってきませんでした。言ってしまえば、フレアシルエットはこれが人生初。でもすごく穿きやすいですし全然違和感がありません」
それに対し、西野氏も同意しながらオススメの着こなしについても教えてくれた。

「そう言ってもらえるとありがたいですよね。こちらを合わせるのであれば、これでもかってぐらいの大きいTシャツをサラッと合わせてもらうのがいいかもしれません。裾をもうダルダルに出して、ビーサンを合わせる。まあ革靴でもいいんですけどそんな着こなしがオススメですね」
「ドレスを始めたときは頻繁に海外へも行ってたので、そこからインスパイアされることも多かった」と西野氏。今となってはおいそれと渡航することもままならない状況で、次なるテーマに頭を悩ませているのかと思いきや、「次はもっと面白いですよ(笑)」とニンマリ。どうやら次シーズンはギャングがコンセプトのよう。これまでのドレスとはまた違った一面が見られるかもしれないと思うと、また楽しみでしょうがない。
URBS(URBAN RESEARCH BUYERS SELECT)
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Photo/Takuro Shizen
Edit & Text/Ryo Kikuchi