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CULTURE TRIP SEP 12,2018

【ハッとしてグッドな田原市!】猫は渥美半島の夢を見る

渥美半島の先端近くには漁港で栄えた町、福江があります。江戸時代からその発展を見守っていた旅籠と、昭和元年に建てられた当時の粋を凝らした宿。ここへ来たらば、ただひたすらに懐かしき時代に思いを馳せてゆるりと逗留したい。


ようこそいらっしゃいました。わたくし、ミュウちゃんと申しますの。以後お見知り置きを。

当宿にお越し下さってありがとうございますにゃ…ですわ。

下駄箱の横の絵は地元の作家さんが伊良湖岬を描いたもの。

まずはこちらで履物をお脱ぎになってくださいな。
うちではスリッパ類はご用意しておりませんの。なぜって?
ピカピカに磨き上げた松の廊下なんですもの。ぜひ、お客様の足で木の感触の良さを感じていただきたいからなんですよ。他にも紀伊から取り寄せた欅の一枚板など木のぬくもりが随所に感じられるお宿ですの。

それでは改めて、
和味の宿、角上楼にようこそ。

まずは旅館の成り立ちからかしら。
ここ福江地区は渥美半島でもかなり古くから栄えた場所ですのよ。
福江漁港を中心に商店や町などができて賑わったんですわ。

江戸時代の末くらいかしら。角上楼の近く(徒歩1、2分ほど)にある「井筒楼」の建物が旅籠(はたご)として建てられたんですの。
その後、現社長のおじいさまが、昭和元年に井筒楼の側の広い敷地にここ角上楼を建てたんだそうです。

お客様、時代劇はよくご覧になられます?
水戸黄門御一行様も、その他有名な時代劇の主人公たちも旅に出ると「旅籠」に泊まりますよね? そしてその旅籠の1階でお食事しているシーンがありましたでしょ? 1階のお店で悪いお侍様がお暴れになって、2階で休んでいた正義の味方がその騒ぎを聞いてやっつける、なんていう場面もよくありますね。
そう、当時の「旅籠」とはご飯屋さんと、その2階に宿泊施設をつけたものが主流だったんです。
井筒楼もそういう旅籠として建てられたんですのよ。当時は渥美半島唯一の旅籠だったそうです。
現在はその旅籠マインドは角上楼が担っておりますの。
泊まるだけでなく、割烹料理が味わえる宿。
夜のお料理を目当てにお泊りのお客様も多いんですのよ、ぜひお楽しみに。

さて、チェックインも済まされたことなので宿をご案内いたしますわ。

あちこちにアンティークものが置かれていますでしょ。
昔は「旦那衆」と呼ばれる若旦那様は、粋なことがお好きな人が多くて。
遊びに趣味にとまあお金もたくさん使いながら「目利き」する腕を磨いてらしたのよ。

角上楼を作ったおじいさまも、材料や建築などをこだわりにこだわって、なんと建てられるまでに2年かかったとか。

建築の様式としては、“平面”が特徴的なんですって。
柱全体と、面で支える昔ながらの建築技術が集まっておりますの。

この辺りは割と強固な地盤だそうで、昔ながらの建築ですがこの辺り名物のからっ風(山からの強風)にも負けず、今も凛々しく建ってます。

このタイルの洗面所など、若い方にも「レトロで素敵」なんてお褒めいただけるんですよ。

01.懐かしい、というよりも若い世代は見る機会もない昔の電話。今見るとレトロで可愛いです。
02.火鉢には鉄瓶が。おばあちゃん家に来たような雰囲気。
03.こちらも昔懐かしの差し込むタイプの鍵。

お部屋は本館の角上楼、全室露天風呂付きの翠上楼と雲上楼、そして別館として井筒楼がございます。
お部屋はそれぞれ趣向が異なっておりますの。
ぜひホームページをチェックして見てください。

時間と空間を愛する宿

江戸時代からの井筒楼はもちろん、角上楼もすっかり老舗となった建物ですけど、掃除や手入れを欠かさずに大事にしておりますので清潔感があるとお客様には言われます。

現在の社長はもともと東京でサラリーマンをしていたそうですわ。
だからこの旅館を継ぐとなった時にまずは「お客様としてここに来た時にどうしてほしいか」を一番に考えたんだそう。

ここに来られた時、住宅街に突如古い木造のお屋敷があってびっくりなさったでしょ? 美しい海が人気の田原市ですが残念ながら当旅館から海は望めませんの。場所も少々不便ですからね。
けれど古き良き日本の宿、という個性を味わえるのがここの一番の良さでもありますから。
あまりマニュアルを作らず臨機応変にお客様に楽しんでもらう、という方針を打ち出しましたの。
だからここに来られたお客様の多くが、“宿に滞在する”ことを楽しまれています。リゾートホテルのように外に出て観光を楽しむ旅も良いですが、宿の中で空間をじっくり楽しむのもなかなかない贅沢な時間になると思いますわ。

そうそう、社長さんはとってもユニークな方なんですの。
がはははっと豪快に笑われるところとか、気さくな雰囲気がまさに現代版の名物大将といった感じ。その辺りも「老舗の旅館」でありながら若いお客様のリピーターも多い理由の一つかもしれませんね。

て、お次はお風呂まで案内させていただきますね。お部屋のお風呂も良いですが、別荘 雲上楼の方にも浴場がありますの。

お風呂上がりはこちらの休憩室でお休みくださいな。
地下水で淹れたお茶をご用意してあります。

そういえばこの前社長が「温泉掘ってみようかなあ」なんてポツリとおっしゃっていたので、そのうち温泉になるかもしれませんね。ふふふ楽しみです。

さてお待たせいたしました。
夕食の準備ができました。

当館の夕食は天然とらふぐをはじめ、旬の食材と地のものを使ったコースが人気ですの。
色々コースはあるのですが今夜はこちらをご用意いたしました。

メインはハモ鍋。脂の乗った美味しいハモが手に入りましたのよ。
他にも地元のお野菜を使った料理やお刺身、岩牡蠣などもご用意いたしました。
食材の多くが田原市の旬の地のものです。特にお刺身やお野菜は新鮮さに自信ありです。もし田原のお野菜がお口に合えば、ぜひ帰りに道の駅などでお野菜をお買い求めなさってくださいね。

上品な脂と、香りが豊かなハモ。これを小鍋で軽く火を通していただきました。

締めのごはん、本日は大葉としらすです。ちなみに大葉もしらすも田原市の名産品なんですのよ。
お米は多古米を使用しています。こちらは千葉県のお米なのですが、献上米として徳川のお殿様も召し上がっていたほどの幻のお米なんですよ。田原市の特産品との相性も抜群ですの。

01.コースの一部をご紹介。これは豪華な先付。鯛の手まり寿司や鯵の南蛮漬けなど 
02.地元の野菜 
03.お造り。鯵、さわら、芽ねぎを巻いたフグなど。お刺身はもちろん添えてある花しそすらも美味。
04.手のひらより大きな岩がき
 05.大葉の香り豊かなご飯
 06.碗は“美味しくて八杯お代わりするほど美味しい”という由縁のある八杯汁

残ったご飯はおにぎりにしますね。
ぜひお夜食にしてくださいませ。

お食事後はとっておきの場所をご案内致しますわ。
こちらの中庭が素敵なんですよ。

食後や湯上り後はこちらの中庭で一休みされるのもオツなものです。
喫煙所もありますのでのんびりなさってください。

当館は昼間と夜で雰囲気もだいぶ変わりますの。
昼間は自然光に包まれた木のぬくもりを、夜はやわらかな灯りに照らされたムーディな雰囲気をお楽しみくださいね。

それではごゆっくりお休みくださいませ。

地域に溶け込む宿として

おはようございます
よくお休みになられましたか?
それでは当宿自慢のご朝食を案内いたしますわ。

卵焼きはおかわり自由。ふわふわでアツアツで口の中であっという間に溶けます。

ちなみに朝食は8時、8時半のいずれか。
せっかく当館にお泊まりですもの、ゆっくりしていただきたくて旅館にしては珍しい少し遅めの時間設定なんですわ。ぜひいつもよりお寝坊してくださいませね。
朝食もその時々の旬のものをふんだんに使っておりますが、人気はおかわりができるおひつで炊いたふっくらお米と卵焼きですの。
この卵焼きをお目当てに来られる方も多いんですのよ。
ぜひたくさん召し上がってくださいね。

01.新鮮なイカ刺し、ほうれん草のおひたしなどこれだけで十分なおかず。
02.朝ごはんもピカピカの多古米をいただきます。
03.つみれ汁もホッとする味でした。もりもり食べて朝からパワー全開です。

朝食後はお風呂に浸かるもよし、中庭でくつろぐもよし、チェックアウトまでどうぞゆっくりなさってください。

そうそう、遅くなりましたがなぜ私がここにいるか気になった方も多いですわよね。

角上楼には名物女将ならぬ名物猫がいるんですの。

なんでも昔この宿が“年間のお客様がたった5人”だった時代、ふらりとタンという先輩猫が宿に来たんだそう。その後に宿のお客様がぐんと増えたとこかで、それ以来“福の猫”として大事にされています。今は私とココという猫が2匹で看板猫を頑張っております。もちろん厨房などには決して入りませんのでご安心くださいね。

社長曰く「客商売としては宿内に動物がいるというのは、本当は避けた方が良いのかもしれませんが、うちでは猫は福を呼んでくれますし、“おばあちゃんの家”のような雰囲気を目指しているので許される範囲の個性としてみてもらいと思っています」だそうですよ。

最後に井筒楼についてもご紹介させてくださいね。
200年前に旅籠として建てられ、その後『浪漫の宿 井筒楼』として再生し、長年愛されてきましたが今年(2018年8月)にさらにリニューアルしましたの。

常々社長は「宿として遠方の方が泊まりに来てくれる場所を提供するだけではなく、何か地域の人と関われるようなことがしたい」と思っていたんですって。
当館も宿としてお客様をおもてなしするだけではなく、田原の名産品や地域の人たちが自然と関わるようなことをして、社長曰く「なんか面白い町」になるべく頑張っていこうと思っているそうです。

そこで井筒楼の2階の客室はそのままに1階に「ふらい家いづつ」という名産品の保美豚を使ったとんかつなどのフライもの中心のお店をオープンさせたんです。

さらに1階にはギャラリーを併設したので、旅のお方だけでなく近所の方々にも美味しいランチとギャラリーが楽しめる場所に変身いたしました。

ちなみに保美豚は餌から完全無農薬で育てた豚さんなんですの。

脂はとろけるほど甘く、肉質はやわらか。URBAN TUBEさんは育ててらっしゃる方にお会いに行ったそうですね。そのお話も後日記事にされるとか。

そんな風に、いづつ、角上楼は田原市の歴史や農産物とともにますます美しく年を重ねていく所存ですの。

どうぞ田原にあそびに来たら是非ここにも寄ってくださいませね。

社長の上村純士さん(左)と店長の平岡さん

夢の跡

お風呂上りに廊下の椅子に深く座り、中庭を眺めているうちについウトウトと。
ミュウちゃんの語りは夢か誠か。それはぜひこの地で確かめてくださいませ。

和味の宿 角上楼

愛知県田原市福江町下地38
TEL : 0531-32-1155
URL:ttps://www.kakujoro.com/

ふらい家いづつ

愛知県田原市福江町下地13
営業時間 : 11:30〜15:00 (L.O 14:30) 17:00〜21:00 (L.O 20:30)
日曜営業
定休日:火曜
TEL : 0531-33-1121
URL:
https://www.facebook.com/fry.de.Izutsu/

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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