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CULTURE TRIP SEP 11,2019

【いつかの暮らし彼方の暮らし 奄美大島】奄美大島で“いつかの暮らし”

“いつかの暮らし”を考えたことはありますか?今住んでいる、生活している場所からもっと自分のライフスタイルにあった場所へ。“いつか、叶えたい暮らし”を探しに、奄美大島へとやって来ました。


今は“多様性”の時代と呼ばれています。

それはファッションや趣味だけではありません。ライフスタイルや働き方という大きなカテゴリーでさえ、“もっと自由でいいんじゃないか。選択肢は広くていいんじゃないか”
そんな風に言われ始めています。

もちろん流行の最先端が集まる都会にこそ魅力を感じる人もいます。でも美味しいものが好きなら旬の野菜や果物がたくさん採れる場所が魅力的だし、サーフィンが好きなら海のそば、仕事をしながら農園を楽しみたい人なら土地の広いところ、温泉が好きなら温泉地が近くにあるところ。健康的に過ごしたいなら空気の良いところ。

ネットや物流の発達のおかげで、もはや“便利で楽しい生活をしたいなら都会に住まないと”なんてことはなく、そのぶん好き場所で好きなことや好きな時間を優先してもいい、
少しずつではありますがそういう考え方をする人が増えているように思います。

わたしも時々、東京ではないところで生活したいなあと妄想することがあります。

とりあえずパッと思いつくのはやはり自然豊かなところ。
北海道や九州など今いる東京からできるだけ離れた場所を思い浮かべます。それと南の方の離島。やはり1年を通して暖かい島でゆったりと過ごすなんていうのも憧れ。

仕事が終わったら小さな農園でハーブを育てたり、海のそばの街で暮らして、おばあちゃんになってもサーフィンを楽しむのも素敵。

仕事の幅が増えて、「働く場所」自体が限定的ではなくなったこと。
そして「日々の暮らしを豊かにしたい」と考える人が増えたこと。
もしかしたらこれから先、「仕事をし、その近くに住む」ではなく、「住みたいまちに移住し、そこで仕事をする」することが当たり前になる時代が来るかもしれませんね。

かつて(ネットもそこまで整備されていなかった時代)なら“夢物語”で終わっていたそんな空想も、現代ではもっと現実的な可能性へと変化しています。もちろんだからと言って”移住”が簡単で素晴らしいことだけでもありません。新しい場所に馴染めるか不安だし、仕事が見つからなかったり家が探せなかったりするかもしれない。またわたしは免許を持っていないので、もしも移住するならば“車がなくても生活しやすい”ことも重要なポイントだったりします。

それに多様性が受け入れられる社会、ということは逆を言えば自分の個性や特性を持たないことには始まりません。自分がどんな暮らし方をして、どんな風に生きていきたいか、それを自らがきちんと考えて行くことも重要なこと。

まあそこまで深く考えなくても“いつかの暮らし”をどこにしようか、そう考えて日々の暮らしをよりよくしていくのもまた楽しいものですけどね。

さて、今回訪れた『奄美大島』は、パッと考えつくイメージは温暖な気候、独特な文化、海が近いからきっと魚も美味しい。南国ならではの果物も手軽に手に入りそう。といった“少しリゾート寄り”なイメージ。でも実際に移住となったらどんな感じなんだろう。

奄美大島での、そんな“いつかの暮らし”を支えてくれる人、そして一足先にその暮らしを始めた人に会いに、いざ、彼方の島へ旅立ちました。

「フリーランスが最も働きやすい島化計画」

なぜ今回奄美大島特集をすることになったのか。
そのきっかけの一つが「フリーランスが最も働きやすい島化計画」というなんとも魅力的なサイトを目にしたからです。

http://www.amami-freelance.com/

わたしは完全にフリーランスのライターやコラム書き(つまりは会社に属していない)ですが、「終身雇用制度」がそこまで機能しなくなった現代では会社員の人でも在宅業務や副業など幅広い働き方が増えていて、“フリーランス的な”動きを見せる人もでて来ています。そんな時代にぴったりマッチするような言葉ではないですか。

さて、この素敵なページですが実は「奄美市」の関連HPの中で見つけました。

ちょっと自虐のようですが今まで「フリーランス」という職に対してのイメージは良いものばかりではなかったように思います。会社に所属していないというだけで都内でも家が借りられなかったり(審査に落ちたり)、クレジットカードが作りづらいなんてことも実体験でありました。なんなら「定職についていない人でしょ」なんて言われたこともあります(涙)。

それが「市役所」自らがフリーランスを応援してくれている??
個人的にもとても興味がわき、早速奄美市役所へお話を伺って来ました。

名瀬の市街地にある市役所は最近新しく建てられたそう。その新市役所がまずかっこいい…。ちなみに外壁のレースのような部分は特産品である本場奄美大島紬の文様をイメージしているんだそうですよ。

このレースのような部分は日よけのスクリーンなんだそう。
市庁舎の中ですごく目を引いたのがこの格子。これは大島紬のタテ糸とヨコ糸を鹿児島産の杉材で表現したとか。様々な文様の最小単位である 「十の字絣」がモチーフなんだそう。
わたしも含め、フリーランスには頼もしく見える“フリーランス支援窓口”の文字!

「フリーランスが最も働きやすい島化計画」が気になって仕方ありませんが、今回のテーマでもある「移住」についてもお話を伺えたのでその両方について聞いてみました。

とりあえず「移住」に関して気になるポイントを整理してみます。

・そもそも、移住ってまずはどうすればいいの
・住む家はすぐ見つかる? 平均家賃が知りたい
・移住してから仕事を探すって可能?
・そのほか、気をつけることは?

細い疑問点は他にもあるかもしれませんが、まずは「移り、住む」ための最初の一歩をメインに色々と聞いてみたいと思います。

右から 総務部プロジェクト推進課 芝田麻希さん、商工観光部商工情報課 森永健介さん、総務部プロジェクト推進課 三浦有子さん

移住したい! まずどうすればいい?

“1箇所に住まなければいけない”なんて法律がない以上、どこに住むのも自由。だから移住したい、と思ったらそれを縛る法律みたいなものはありません。

基本は“住民票を移せば”移住は完了です。が、もちろん後先考えずに移住しても問題が多発するのは目に見えています。

だからこそ大事なのは事前の情報収集! 奄美大島では市役所のHPも民間の移住関係のHPも充実していました。移住の情報だけでなく、食や文化などの情報も充実。

今回いただいた資料。左端の奄美市の集落の個性を紹介した冊子「シマジマン」は特に読み応えがあって面白かったです(編集部撮影)

市役所でもらったフリーペーパーにも先輩移住者の声もたくさん載っていましたよ。普段ならこういったフリーペーパー、ついさらっと読んで終わりということが多いですがこちらのものはすごく読み応えがあり、今も大事に(いつか奄美大島に移住することがあれば再び参考にしようと)資料棚に並んでいます。

まずはこういった実例をチェックするのも大切。

ちなみに平成30年度のデータでは、全体の78%が県外からの移住者、残りが鹿児島県内からの移住者だそうです。内訳をみると20代が31%、30代が23%と想像以上に若い世代が半数を占めていました。

住む家はどう探せばいい?

奄美大島は「住居数」はそう多くはないそうです。都会のようにタワーマンションもないし、大きなマンションもほとんどありません。

どこの地方もそうですが、高齢化・少子化などの理由で空き家は多くても、先祖のお仏壇があったり、お盆などの時だけ時々帰る、など普段は住んでいなくても“空き家”として貸せない家もあります。そして奄美大島に限ったことではありませんが大家さん・不動産屋さんにとっても“地元の保証人”がいない人にはなかなか貸すのは難しいという場合もあります(東京ですら保証会社制度が取り入れられるようになったのは割と最近ですし)。

保証人になってくれそうな地元の知り合いもいないし…という人はまずは市役所へ相談に行ってみましょう。

市役所では
<定住促進住宅>
<空き家バンク>
<奄美市移住・定住住宅購入費助成金>
<奄美市移住定住・住宅リフォーム等助成金>
の4つの支援があるそうです。

下の3つは聞いたことのある支援ですが「定住促進住宅」ってなんですか?

「これは地域の活性化と地域コミュニティの育成を目的として、公営の住宅を改修して、移住者に提供することで定住を推進していくというものです」(三浦さん)

島内に3箇所(笠利、名瀬、住用)あるそうですが、市が整備した住宅には最大10年間住むことができるそうです。その間に違う家を探したり、または新築や購入したりする“時間の余裕”が生まれる仕組み。
もちろん家賃は発生しますが、「移住して働きたいのに…家が見つからない!」という場合はなんて頼りになる仕組みでしょう。
奄美市はエリアや集落によって個性が様々なので、まずは住んでみてから他のエリアに引っ越しする人もいます。またこの3箇所もそれぞれ雰囲気が違うので、気に入ったエリアに近いところから住み始めるのも「心地よく移住する」一つの方法ですね。

平均家賃が知りたい

これは場所によるそうですが、いただいた資料(奄美大島移住ガイドブックvol1)によると、市街地の1Kから3DKの民間アパートの場合4〜5万円、新築マンションなどでは5〜7万円。市街地エリア以外ではもう少しやすい相場だとか。そして移住定住者が家を購入やリフォームする場合は補助金も出るので安心。

移住してから仕事を探すって可能ですか?

さて、これにはいよいよ気になっていた「フリーランスが最も働きやすい島化計画」が関わって来ます。
詳しくはHPにありますが、市役所内に「フリーランス支援窓口」を開設したり、市内全域に光回線を引いたり、コワーキング施設を作ったり…なんと確定申告セミナーまで!
(フリーランス初心者にとって確定申告は名門大学の入試問題を解くくらい難しいのです…)

とはいえ、農業や建築などの専門的な職を持っていない限り、移住して新しく仕事を始めるのは難しいかも…と諦めるのはまだちょっと待ってください。ここの計画には、「フリーランス寺子屋」という仕組みがありました。
これはWEBやライター、ものづくりなど3つのコースがあり、ノウハウや実務経験がイチから学べる仕組み。

ちなみに現在までに、フリーランス育成数は164名、フリーランスの関連移住者は24名(家族含む)いるそうです。実際に寺子屋を経て活躍する方もいらっしゃいます。

わたしは出版社にバイトで入り、そこから地味に修行して独立したのですがもし当時にこんな寺子屋システムがあったら嬉しいし、それが憧れの奄美大島ならもうそれだけで飛行機に飛び乗ってしまっただろうなあ…。そもそも、なぜこんなにもフリーランスを優遇してくれるのでしょうか。

「奄美大島は外洋離島です。大規模な産業が少ないことがどうしてもネックでした。ですが本土にもクラウドソーシングで仕事を受注する動きが出てきたこと、技術を持つエンジニアや職人が少しずつUターン、Iターンをする人も増えてきたことから、正確にはフリーランスも含めた、奄美市における仕事誘致、定住促進、子育て支援(在宅ワーク支援)を促進したいと始めました。フリーランスの方にとっては自然豊かな環境で生活や仕事ができることはメリットだと思います」(森永さん)

ある意味地理的な不利がある離島だからこそ、大規模な企業誘致ではなくいち早く“個人”で稼げる人や、またそういった仕事への理解を深めていったということ。また、移住組だけでなく、地元の人にもこの「フリーランス」という仕事への理解や取り組みを同時に広げていきたいのだとか。

「プログラマーは技術が必要ですが、ライターやハンドメイドは技術がいる中でも比較的取り掛かりやすい部分もあります。現在寺子屋の受講者はIターン半分、地元の方半分。
現在はモデルケースを作り上げているところなので、寺子屋を経て活躍される方が増えるのは嬉しいですね。今後もっと波及させていきたいなと思っています」(森永さん)

ちなみに「フリーランス〜」のページには奄美大島で実際に活躍されるフリーランスの方達が紹介されているページがある。まさにこれから移住やフリー仕事を考えている人にとってはとても参考になるモデルケース。
このページを見て仕事のオファーをされる人もいるとかで、理想ではなく現代にマッチしたケースとして機能しているのが頼もしい。

また「奄美大島」にとっても“情報を発信していく力のある人”が増えることはとても大きなメリットにもなります。

ちなみにこの「フリーランスが最も働きやすい島化計画」事業には、実務業務から企画提案まで「株式会社しーま」という会社が関わっているそうです。

そういえば事前にネットで奄美大島の記事を探すと、「しーまブログ」発の記事にたくさん出会えました。ブログ運営のほか、奄美市の求人&ライフマガジンを手がけるなど、まさに奄美大島の情報発信基地のような会社です。

「しーまの代表取締役のかたも奄美大島出身で、一度県外に出て戻られた方なんです。島の魅力を発信したいという熱い気持ちのある方で、私達も知らない奄美大島の情報をよく見つけてくれるんです。この計画では、今まで活動されてきた経験を元に、企画・運営から寺子屋受講生への年間を通したサポート等を行っていただいており、欠かせない存在です」。(森永さん)

しーまブログの記事は、移住者ライターだけでなく島民からの投稿記事も多いのが特徴的。「地元民だから詳しい」こともあれば「県外から来た人の目で見た新しい発見」もある。その両面があるからこそ、情報は古くなりすぎず、かといって古いものが消えゆくこともなく、新陳代謝が活発になる。どれもユニークな切り口で“奄美大島への興味”を薄れさせることがない。

また寺子屋を経て独立した人たちも奄美大島関連の記事を書くことが仕事となり、それを見た人が奄美大島を訪れ島が活性化する。それはすごく素敵な循環だなと思いました。

「フリーランスが最も働きやすい島化計画」にはこんな素敵な言葉が載っていました。

どこにいてもできる仕事、
ここでしかできない暮らし。

大自然と、豊かな文化の中で暮らすことは「そこにしかない」。
でもフリーランスの仕事なら「どこにいてもできる」

まさに今までの概念とは逆の、だけどこれからの時代を象徴するような言葉です。

そのほか、気をつけることは?

今回お話を伺った三浦有子さんは奄美大島2世ですが、ご自身は神奈川県出身。島の男性と結婚し、“嫁ターン”(Yターンともいうそう)で奄美大島に移住して来たそうです。

ご自身の経験を元にこんな話をしてくれました。

「移住には大切なのは、“ミスマッチ”をなくすこと。島に来てみて、触れてみて、よく知ってもらって、それから移住計画を進めるのがおすすめです。
例えば奄美大島は“理想の南国・海が見えて、ハンモックがあって、1日中水着で過ごせて〜”などのステキな島ライフスタイルのイメージだけを持たれて来る方も多いんです」

(ドキッ! まさにそのまんまのイメージでした)

「“そんなわけはない”と言わせてください(笑)。例えば冬は意外と寒いんですよ。5、6月の梅雨真っ盛りはジメジメしているしカビも生えやすい。台風が来れば船が出航出来ないので、内地(本土)からの物資が運搬できずスーパーから商品がなくなります。そのため“イメージの良い季節”だけでなく、最低でも3回、いろんな季節に来てからの移住をオススメします」

と、1年を通した奄美大島の特徴も知った上で移住を計画することをお勧めしてくれました。

それから“奄美大島で暮らすなら個性豊かなどこかの集落でのんびりと”というのはとても理想的な移住に聞こえるけれど、やはり都会にはないコミュニケーションやしきたり、青年団や婦人会などの会合も多いそうだ。いきなり来てすぐそれに馴染むというのはなかなか大変なこと。

名瀬は様々なお店が集まる賑やかな雰囲気。マンションもあります。
各集落は高い建物もなく平屋の家が多いのが特徴的。のんびりとした雰囲気でした。

最初は市街地である名瀬に住み、奄美大島での暮らしに慣れた頃に自分に合う集落へと移り住む“2段階移住”もオススメしてくれました。

さて、この「フリーランスが最も働きやすい島化計画」自体は2020年目標にしているけれど、そこで終わるわけではありません。その頃には先輩フリーランスがどんどん増え、新しく入るフリーランスさんたちの良い指針となってずっと続いていくような気がします。

「ぜひフリーランスの方にこの取り組みを知っていただきたいと思っています。これからも支援を継続して行きたいと思いますので、ぜひ奄美大島にお越しください」(森永さん)

そうそう、奄美大島への移住が気になる方は、東京や大阪でも開催している移住説明会に参加してみるのもいいかもしれません。
直接住まいや移住支援制度、雇用状況などを聞くことができるそうです。

ちょうど東京で行われた「ふるさと回帰フェア2019」に奄美群島のブースも出るということで、イベントに参加してきました。
これは移住だけでなくIターン、Uターンの相談にのってもらえたり、質問できたりするというフェア。奄美だけでなく様々な市町村が参加し、各々の個性あふれるアピールがとても面白かったのですが、来ていた方たちの世代が幅広かったのが印象的でした。
定年後だけでなく若い世代も「いつかふるさとに」「いつか自分のライフスタイルにあったところに」という思いからでしょうか、どのブースもみなさん真剣に聞き入っていらっしゃいました。

機会があれば「いつかの暮らし」のために是非参加してみてください。

市役所でもお会いした三浦さんと再開! 本物の本場奄美大島紬の法被が素敵でした!(編集部撮影)
「まだいろいろ考えている最中なんだけどねえ」と定年後の移住先を探しているご夫婦が。気候や島ごとの雰囲気などいろいろな質問していました。(編集部撮影)
ブースでは詳しい資料などもいただけます。多い質問は「仕事や住居」に関することだとか。(編集部撮影)

さて、次回からは「実際に移住した」人たちに話を聞きにいきたいと思います。
どんな思いで、どんな方法で移住を叶えたのでしょうか。お楽しみに。

奄美市役所

〒894-8555 鹿児島県奄美市名瀬幸町25-8

TEL : 0997-52-1111 / FAX:0997-52-1001

URL:https://www.city.amami.lg.jp/

PROFILE

大辻 隆広Photographer

福井県出身。
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石黒幸誠氏を師事後、2007年独立。
現在は、雑誌や広告だけでなく、写真展やプロダクトの製作など、ブランドや企業とのコラボレーションも度々発信している。

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

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