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FASHION OCT 23,2020

黒よりも黒く。<京都紋付>の黒染めが教えてくれること

10月から、中古衣類の染め替えプロジェクトがスタートします。このアップサイクルな取り組みを行ってくれる「京都紋付」さんを訪問。黒染めの現場には、これからに活かしたい“着る”暮らしのヒントがありました。


みなさん、「紋付」って知っていますか?
紋付袴の、あの、紋付です。
その名の通り、紋が付いた、つまり家紋が入った着物のことで、江戸時代から人々の大切な場面で着られてきました。

中でも伝統的な正装である黒紋付だけを、100年以上染め続けてきたのが「京都紋付」さんです。
つまり、黒染めのプロフェッショナルというわけです。
今日は、京都の黒染め文化に触れるとともに、その魅力について探っていきます。

さっそく「京都紋付」さんへ

1915年創業の「京都紋付」さん。社内には、立派な黒紋付が飾られています。
吸い込まれるほどに黒い生地ゆえに、白い家紋の神々しいこと!
家紋は、現在約2万種類もあると言われているそう。

現在は、紋付の染色だけでなく、一般衣類の染め替え事業「K(KUROZOME REWEAR FROM KYOTO)」をされています。

今回、汚れなどの理由から廃棄予定になっていた、アーバンリサーチ社の服をレスキューし、実際に染め替えてもらいました。

いざ、黒染め!

染め替え受注した衣類がたくさん集まっています。
あ!これは、染め替えをお願いしたトレンチコート!
たくさんの衣類とともに(胴着なんかもありました)、専用の機械で染められていきます。

<黒染めの工程 -前半->
1. 使用する黒の染料を、お湯で溶かします。
2. 衣類を入れる(一気に25kgまで可能。トレンチコートと一緒に依頼したデニムもありますね)。
3. 機械を回し、衣類にアルカリ剤を馴染ませます。
(アルカリ剤を入れることで反応結合し、染まりやすくなります)
4. 30分後、染料を入れて約3時間かけて機械を回しながら染色していきます。

染め上がるのを待ちながら、代表の荒川さんにお話を聞きました。
1回目の染色が終わった後、さらに黒く染めるための“ある”加工を施すそうで…。

深黒(シンクロ)加工とは!?

左が1回の黒染め生地、右が深黒加工を施した生地。

「いったん反応染色で黒染めしたものに『深黒(シンクロ)加工』を施すことで、光を吸収させてもっと黒く見せているんです。例えば白黒赤の布があって、それを深黒加工すると、白と赤は変化せずに、黒だけがどーんと黒くなる。染料をもって黒くするのではなく、(生地に薬品を含侵させて)光を吸収することで、光を吸収させて黒く見せるという、弊社オリジナルの加工です」。

なるほど。これが、“黒より黒い”黒染めの秘密だったんですね。
しかもこの『深黒加工』、スゴイのは見た目だけじゃありません。

深黒加工のココがスゴイ①「色落ちしない」

「黒紋付は中に白いお襦袢(下着)を着るんですが、汗をかいたりして白い襦袢に色が落ちたら大変なんで、色落ちにめちゃくちゃ強い作りになっています。染め替えした服と他の衣類を一緒に洗濯しても大丈夫です」。

深黒加工のココがスゴイ②「撥水効果あり」

「衣類に水やお茶をこぼしても、玉のように転がります。(上の写真は実際、お茶をこぼしてみました)つまり、それだけ汚れに強いんです。で、当然ながら黒一色なんで、普通の黒い服のように絶対ムラにならない、というのがうちの特徴です」。

深黒加工のココがスゴイ③「着物なのに、アゾ染料不使用」

「着物業界はアゾ染料(※)OKなんです。発がん性があるということで、4年前から日本で禁止になったんですが、着物の業界だけは(アゾ染料を)OKしないと技術が対応できないんで除外されたんですよ。ただうちは、すでに1992年から自主的にアゾ染料を不使用にしています。リスクは高かったですが、色も試験を重ねて…乗り越えるのに3、4年はかかりました」。

※2016年より有害物質を含有する家庭用品規制法において、「特定芳香族アミン」を容易に生成するアソ染料が規制されています。(厚生労働省HPより)

伝統の黒染めから、革新の黒染めへ

染め替えプロジェクト発動&拡大

黒にこだわる「京都紋付」さんが、今回のような一般衣類の染め替え事業を始めたのは2013年からだそう。

「以前からちょこちょこ小売店さまから要望があったので、本格的に受注を始めました。そしたらその夏にちょうど広告代理店の方から連絡があって。WWF JAPANが、衣類の廃棄処分をなくすために黒染めで再生企画をやりたいと。うちも染め替えのHPを立ち上げようと思っていたところに、その秋のデザイナーズウィークでWWFがブースを作るということで、WWFの『PANDA BLACK』というプロジェクトで同時に発信することになりました。そこから、いろんな番組(NHK)とか新聞で取材していただいて、染め替えをどんどん進めていって」。

こうして、荒川さんは『黒染め』を現代的なアプローチで拡大させていきます。

「僕は4代目ですが、当時26歳で会社に入って。いずれ紋付の業界が厳しくなるやろうと予想していました。自分たちの生活スタイルはどんどん変わっていくのに、僕が結婚して子ども生まれた時に娘に紋付を花嫁道具として持たすか言うたら…いらんと。我々の(伝統の技術の中で)一番核となるものを使ってできることは何かと常に考えていました。それがきっかけ、きっかけで繋がっていって今になっているということですね。
最初はね、ただ黒に染めるだけで、何もアイデアもなかったんです。みんなにこれを知ってもらうためにはどうしたらいいかと考えて、宅配キットを作りました。協力店さま、パートナーさまにお配りして、消費者に送ってきてもらい、うちが染め替えるという導線づくりをしたんですね。それがデジタルになったのが今で。自社HPの他にもっともっと受注のプラットフォームを増やしたいと思って、今回のアーバンリサーチさんとの企画を進めていったんです」。

アップサイクルのその先へ

9月6日(クロの日!)からは、一般のお客様に向けたサービスも始めたそう。
ところで、染め替えで一番大変なところは?

「染めてみないとどうなるかわからないというところです。合繊繊維だと染まりませんし、例えば90%天然で10%がポリでも組織によって(表面がポリ素材だった場合など)グレーになるし。樹脂加工や形状記憶のシャツ、シワ加工…。でもそれはそれで、めっちゃくちゃかっこよくなるんです。この前もごっつい派手なワンピース、めちゃくちゃかっこよくなりました、真っ黒の。で、裏地は全部縫い直して。全然OKです。逆にお客さんめちゃくちゃ喜ぶなと、こっちがうれしくなるぐらい綺麗に染まるし。

染め替えていく中でいろんなおもしろい発見があって。例えば綿ポリの商品。それやったら消費者に、最初からデザインしておいて染め替え可能ということを表明するタグをつけたらどうかと。真っ黒にならない商品は、このようなグレーになるというイメージを付けると。で、タグのQRコードを読み取ったら染めた後の画像が見れるという仕組み作りです」。

今後はこういう“染め替えできる”という考えを、アパレル業界に広めていきたいという荒川さん。

「僕の最終的な目標は<染め替え可能なタグ>を世の中のいろんな商品に付けて消費者に染め替え可能という概念を知ってもらい、染め替えが世の中の常識になるというような仕組み作りをしたいんです。染め替え可能マークを作って、ウールマークのように世界に広めていきたい」。

日本人の生活に寄り添ってきた「黒」のカルチャー

荒川さんが着ているのも、上下ともに自社で染め替えしたもの。黒染めは天然素材(綿や麻)を染色するため、例えば、左ポケットのステッチ部分は合成素材で染まらない。それが真っ黒なシャツのアクセントになっています。

ちなみに、今日も黒をかっこよく着こなされていますが、荒川さんにとって「黒」の魅力とは何でしょう。

「それよう聞かれるんですけどね(笑)。もう自分の色になってしまってるんでね。ありがたいことにみんなうち来てくれる時は黒着てくれはるし、黒着てへん人は染めたくなるし。僕にとって黒というのは生活の一部なんです」。

続けて、こんなおもしろいお話をしてくださいました。

「ただ、黒というのは日本人にとって特別な色なんです。英語ではBLACKだけですけど、日本人には、黒という表現はいろいろあるんですね。闇とか、射干玉(ぬばたま)とか、カラスの濡れ羽色とか。というのも、日本人は瞳に影響してるんですね。瞳がやっぱり黒いし、黒をいろいろ見分けられるからですね。黒に対してこんなに表現ないですよ。で、黒は自分を控えるという意味もあります。紋付は第一礼装やし。あとは、歌舞伎の黒衣。黒は(気配を)消すし。昔から日本人の生活の中に黒というのは文化として入っているんやね」。

なぜ人は黒く染めるのか

さあ、そろそろ1回目の染色が終了したようです。
染色後はすぐに脱水にかけていきます。

<黒染めの工程 -後半->
1. 遠心脱水機で一気に脱水。数分で乾きます。
2. ひとつずつ人の手で室内干します。
3. オリジナルの深黒加工を施します。

これまでは機械の力でムラのない黒染めを行っていましたが、干す作業は人の手で行います。

ひとつひとつ干すたびに、荒川さんもスタッフさんも
「良かった、このシャツきれいに染まったなあ」
「あの子のパンツ、かっこよく仕上がってるわ!」
と、まるで自分の子どものように、愛情たっぷりに扱う姿が印象的でした。

これらの衣類は乾いた後、深黒加工を施することでさらに黒くし、完成します。

みなさん染め替えをオーダーする理由は、と尋ねると「まず第一に、好きな服を捨てたくない。シミ、オイルやワイン汚れがついた洋服を黒で再生したい。そういう方ですね。あとは自分で染めて失敗したとか、ブラックファンの人。黒はすべてを消す色なので」と荒川さん。

実際、同じバンドのTシャツが10枚ほどあったり、大きいサイズの女性服や、気に入っているのに型落ちして買い替えられないからと、同じパンツを5枚出す人も…。なるほど、みなさん前提は“お気に入りの服”なんです。

「好きな服をもっと大切に着たい」

あなたのシンプルな願いに、「黒染め」はいかがでしょう。
捨てるものをなくして、お買い物をするような新しい喜びを与えてくれる
京都の伝統文化から未来へ繋ぐ、素敵なアイデアです。

> 京都紋付様とアーバンリサーチの衣料染め替えプロジェクト「TO BLACKWEAR」

株式会社 京都紋付
> Web site

K(KUROZOME REWEAR FROM KYOTO)
> 黒染めサービス オーダー

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