アーバンリサーチ バイヤー佐藤祐輔のココだけの話。
Vol.1 前編
〜セブンバイセブン デザイナー 川上淳也さんと、ものづくりやサンフランシスコの話など〜
バイヤー佐藤がブランドのキーマンに突撃訪問。クリエイションのことからプライベートでハマっていること、ぶっちゃけ話まで、付き合いの近いバイヤーだからこそ交し合える対談をゆるりとお届けします。
記念すべき第一回は、飛ぶ鳥を落とす勢いで人気上昇中のブランド〈セブンバイセブン〉デザイナーの川上淳也さん。ゆるい雰囲気を持ちながらも芯は熱い。そんなご本人の素顔に迫ります。
※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行っております。
「この秋冬もヤバイですよ」。
セブンバイセブンのショールームで、川上さんが開口一番、僕に放ったのがこの言葉。川上さんはいつもそう。僕らをワクワクさせるのが上手いのだ。
佐藤 「今季もヤバイですか」
川上 「相当内容が濃い。このインタビューではまだ内容は明かせなくて申し訳ないんだけど、こんなのとか、こんなのとか…」
(…こっそりデザインを見せてくれた)
佐藤 「確かに、ヤバイ(笑)。今回もやりきってますね」
川上 「もうやれるところまでとことんやんないとって思って」
佐藤 「でもこれって結構コストかかるんじゃないですか!? そうなると値段もそれなりに…」
(実物が見せられなくてすみません…2021秋冬コレクションの公開を乞うご期待!)
川上 「なると思います。でもね、最近本当に価格じゃないなって思うんですよ。2020秋冬シーズンでも上代の高いものはいくつかありましたけど、かなり早い段階でソールドアウトになった。つまり高いとか安いとかじゃなく、値段に見合った、ちゃんと価値のあるものを作っているかどうかってことなんだと思うんです」
佐藤 「でも毎回そんなに絞り切ってたら、ネタ切れするんじゃないかって不安になりません?」
川上 「します。でもいつも結局湧いてくるから大丈夫かなって(笑)」
いつ、ファッションに目覚めたんですか?
佐藤 「川上さんって確か新潟出身でしたよね? いつ頃、何がきっかけでファッションに目覚めたんですか!?」
川上 「年の離れた兄と姉がいるのでその影響は大きかったとは思いますが…もしかしたら叔母の影響が強かったのかもしれません」
佐藤 「おばさんですか」
川上 「母方の叔母は東京に住んでいて、たまに新潟に帰ってくるときはコム・デ・ギャルソンとかヨージヤマモトとかの服を着ていて。子供ながらにそれがすごく刺激的だった。純粋に格好いいなって思って見ていたのを思い出します。もちろんその時はまだファッションの仕事に就きたいとかは思わなかったけど、どこかでその記憶が影響しているのかもしれないな」
佐藤 「川上さんは確か78年生まれですよね? ということは裏原世代ですか?」
川上 「世代的にはそうですけど、新潟ではなかなか手に入らなかったので、古着屋ばかり通っていましたね。で、高校を卒業してサンフランシスコの大学に行って、今に至ってこうなったと」
佐藤 「後半めちゃめちゃ端折りましたね(笑)」
川上 「でも実際そんなもんですよ(笑)」
佐藤 「でも、川上さんはやっぱり根が凝り性ですよね」
川上 「それはそうかもしれません。高校生までは結構バスケを本気でやってましたし、ハマるととことんっていう性格かもしれません。それでいうと、古着に本気でハマったのはサンフランシスコに行ってから。ドネーションを知ってから価値観が変わったと思います」
※ ドネーション:寄付、寄贈の意味。持てるものから持たざる者へ。不要になったものを寄付する文化がアメリカには広く根付いている。
サンフランシスコで培った審美眼
佐藤 「どんな風に変わったんですか?」
川上 「ひねくれた(笑)。まあそれは半分冗談で、ドネーションの服が配られる場所って独特で、本当にいろんな人が集まるんですよ。ホームレスの人もいるし、古着のバイヤーみたいな人もいる。そこで手に入れた服を違うところで売って生計を立てている人もいます。そのとき見つかる服次第でその日の夕飯の質が変わるなんて当たり前。そういう僕も当時は本当にお金がなかったから、そこで見つけた服を売ったお金は結構頼りにしていました」
佐藤 「寄付された服の山の中に、時折、価値のあるものが眠っていたりするんですよね」
川上 「そう。そこは倉庫みたいな場所なんですけど、ぐるっと金網が張り巡らされていて、その奥に寄付された服がある。全部分別されて時間になるとカートに乗って出てくるんですが、みんなそれをじっと見て『あの箱にあれが入ってるな』とか目星をつけるわけです。で、そのカートの前にみんな1列に並んで、ヨーイドンで漁り始める。隣の奴と取り合いになって喧嘩になるなんて日常茶飯事。特にパタゴニアとかリーバイスが取り合いになってたな」
佐藤 「ガチな環境で目利きの力をつけたんですね。でもそこには、そんなに価値のあるヴィンテージものはないですよね?」
川上 「滅多に出ないですね」
佐藤 「となると何を基準に『これだ』って思ってピックアップするんですか?」
川上 「感覚としか言いようがないな…」
佐藤 「その感覚はどうやって磨かれたのかなって思って」
川上 「でも誰よりも服を触ったし、見たという自信はあるかもしれません。例えば、古着=安いっていうイメージ、みなさんありますよね? 実際に安いものは多いんですが、じゃあそれと全く同じものを今作ろうと思ってもできないものが多いんですよ。それは作り方だったり素材だったりの問題なんですが、つまり金額には換算できない価値っていうのが古着にはある。そういう目線が入ってくるとものの見方も変わってくるわけです」
佐藤 「なるほど。あらかじめ決められた価値のあるもの、例えばヴィンテージジーンズなんかはそうだと思いますが、それを探し出す力じゃなく、ものの本質を見抜く力が必要なわけですね」
川上 「手の感触と見る目が肥えてくると、だんだんとそれがわかってくるようになるんです。それで面白いものを発見した時の喜びや楽しさは、代え難いものがありますね」
佐藤 「それは今も変わらず?」
川上 「変わらないですね。日本でも同じことをしていますよ」
佐藤 「ぶっちゃけ、見飽きたりしないんですか?」
川上 「ないなぁ。そこに『新しい発見があるかどうか』っていうのも大事ですけど、その時の自分が『それを見てどう感じるか』っていうのも僕は確かめているので。だから置いてあるものが大して変わらなくても、僕の見方やマインドが変わっていれば新鮮に見える。それってすごく面白いですよ」
佐藤 「そういえば川上さんって、ヴィンテージはあまり着ないですもんね?」
川上 「そうですね。僕はそっちじゃなくて、“今までの価値観じゃはかれない面白いもの”を探すのが好きなので」
川上淳也さんに一問一答!
佐藤 「セブンバイセブンで提案しているのはファッション? スタイル?」
川上 「何かを提案しているっていうより、単純に『これ面白くない?』っていう感覚を共有したいっていう方が強いかもしれない。バカだなぁこいつ、って言われそうなことをやっている方が楽しいっていうか。僕はそこにこそリアルがあると思っています」
佐藤 「ファッションを学ぶための留学先にサンフランシスコを選んだ理由は?」
川上 「単純にアメリカに憧れてたから。自分の感覚に素直に従っただけかな。あと、ニューヨークは寒すぎるって聞いたので(笑)」
佐藤 「サンフランシスコに行って1番良かった事は?」
川上 「今これができるようになったこと。感性として、考えが変わった事」
佐藤 「具体的に何が変わった?」
川上 「んー、すべてですね。さっき半分冗談でひねくれたって言ったけど、半分本気。それまでの自分の価値観をひっくり返された。自由に自分のスタイルを持つことの大事さを知りました」
佐藤 「学校はどうでした?」
川上 「正直、古着屋を回っている方が楽しかったですね。でも絵を描いたり、アートを作ったり、刺激的な仲間ができたり。間違いなく糧にはなりました」
佐藤 「日本のファッションの良いところは?」
川上 「これはみんな言っている事だと思いますが、旬のファッションがこんなに集中する都市は世界中で東京を置いて他にない。これは本当にすごい事だと思う。恵まれています」
佐藤 「サンフランシスコのファッションのいいところは?」
川上 「みんな自分のスタイルがある。自分の中で『これがいい』と思っていることに対して自信を持っている。それが格好良さとして出てると思うんです。自分をわかってるっていうか」
佐藤 「古着の面白さとは?」
川上 「見たこともない面白いものがまだまだたくさんあること」
佐藤 「セブンバイセブンでもそれを表現しようとしている?」
川上 「そうありたいと思うけど、裏を返せばそれって伝わりづらいということでもある。そこが難しいところでもあり、やりがいでもあります」
佐藤 「今ハマっていることは?」
川上 「過去の映画の流し見。インスピレーションを得ることができるので」
佐藤 「最近の悩みは?」
川上 「納期ギリギリになってアイディアがたくさん湧いてきて、みんなを困らせてしまうこと。展示会直前で色々思いついてしまうんです。スタッフに感謝」
佐藤 「今後、何をしたいですか?」
川上 「もっと海外の人にもセブンバイセブンをみてもらいたい。あとショップもやりたいですね。面白いものを作る自信があるので」
終わりに
佐藤 「今回は忙しい中本当にありがとうございました!」
川上 「こちらこそ。何か身のある話になったのかな?(笑)」
佐藤 「もちろん。セブンバイセブンをより理解できた気がします」
川上 「ならよかったんだけど」
佐藤 「最後に、職場の近くの川上さんの行きつけのお店を教えてもらえませんか? これからちょっと、行こうと思って」
川上 「そうなんですね。だったらいいお店がありますよ・・・」
後編 〜セブンバイセブン デザイナー 川上淳也さんが教えてくれた神宮前の名店〜 に続く!
Composition & Text: Jun Namekata
構成・文:行方淳
Photographer: Toru Yuasa
写真:湯浅亨