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FASHION SEP 10,2021

“買談”新書 AUBETT編
ジャケットでもありブルゾンでもある。禅問答のようなオーベットの別注とは?

デビューは2020年秋冬と、一般的にはまだまだルーキーの域を脱しえないキャリアである。そう、一般的には…。ただ、『オーベット』はそんな普通の物差しでは測りきれないブランドだ。業界内の名だたる識者が口を揃えて絶賛するのはその証左。URBAN RESEARCH BUYERS SELECT(以下、URBS)でもデビューシーズンから扱ってきた。そして今回、満を持して別注アイテムを製作。そこで、URBSのメンズバイヤーの阿部、企画を主導したブランドPRの古橋と共に改装前のオフィスに伺い、別注作を通してブランドの本質に迫った。


※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。

パターン、そして生地。美しさに見惚れた衝撃の出会い

「ブランドの認知度的にも、売り上げ的にも、もうすこしゆっくりと・・・というイメージでいました」

デビューからほぼ1年。周囲からの注目が想像以上に増していく中、これまでを振り返ってデザイナーのひとりである杉原 淳史氏はそう語る。それもそのはず。これまで、世界的なコレクションブランドでパタンナーとして活躍し、帰国後、国内有数のファクトリーでカットソーブランドも手がけてきた腕利きだが、自身のブランドとしてフルコレクションを発表するのは初。ブランドの一翼を担うグラフィックデザイナーの吉村 雄大氏も、「ファーストシーズンはどうなることかとまったく予想もできませんでした」と回顧する。

ただ、いざ蓋を開けてみたら、2シーズンめ以降、話題が話題を呼び、目の肥えた業界人たちを中心に一躍注目ブランドの仲間入りを果たす。最初に目にした時の衝撃は忘れられないと話すのは古橋だ。

「ただただ純粋に綺麗な服だなと。決してこれ見よがしにアピールしてはこない。どちらかというと口数は少なめな服だと思います。ただ、ちょっと違うなと感じました。特に、シャネルツイードのテーパードの効いたパンツは時代に逆行してるとは思うんですけど、それを上回るウィメンズ服のような美しさがありましたね」

バイヤーの阿部は、ひょんなことから偶然目にし、そのクオリティに驚いたとか。


「『オーベット』さんのプロモーションを行っている『にしのや』さんへはよく伺うのですが、別企画の打ち合わせの際にアイテムを拝見しました。確かに、シルエット、生地使い、各部の作り込みなど、美しさとこだわりを強く感じましたね」

その言葉に対し「ありがたいですね」と微笑みながら杉原氏は言葉を繋ぐ。

「お二人がおっしゃるように、その時はウィメンズの服作りに見られる手法も取り入れていました。フランスで一緒に仕事をさせてもらい、強い影響を受けたステファノ・ピラーティは、メンズもウィメンズも立体裁断をベースに作ろう、という人。その当時、そういう思考のデザイナーは現地でもそんなに多くいませんでしたから新鮮でしたね」

別注の契機となったとある不思議なヴィンテージ服

一瞬にして惚れ込み、3シーズンすべての展示会にも足を運んだという古橋は、早い段階から今回の企画の草稿を練っていたとか。

「僕は普段からよくジャケットを着るんですね。それで、パターンメイキングに優れ、素材にも別段のこだわりをもっていらっしゃる『オーベット』さんだったら、すごく良いものができるんじゃないかと思っていました。しかも、その時はまだインラインでジャケットを作っていらっしゃらなかったですし」

古橋が指摘した通り、これまで『オーベット』では品行方正なジャケットを作ってはいない。ただ、そこには確固たるモノ作りの信念に基づく明確な理由があった。杉原氏は言う。

「その手のアイテムは伝統に重きを置いた手仕事の世界。より細部に気を配りながら作っていかないとなかなか魅力を表現しづらいアイテムです。となると、かなりの時間と労力が必要になってくる。もう少しブランドとしての経験を重ねていった先に、選択肢のひとつとして考えていきたいですね」

『オーベット』のコレクションに並ぶのは新鮮かつモダンなアイテムだが、デザイナーのお二人は、服作りに対して誠実でありたいという職人気質な考えの持ち主でもある。では、なぜ今回の別注企画に賛同したのか。それは古橋が着ていたとあるヴィンテージウェアの存在が大きい。

「展示会で僕がたまたま着ていたジャケットを杉原さんも気に入ってくれたんです。英国モノ好きのオーナーが経営している古着屋で購入したドイツのヴィンテージ。たしか、ミリタリーかおそらくはワークウェアなんですけど、調べても全然情報が出てこないんですよね」

「最初にお話をいただいた時に、クラシックなテーラードだったらどうしようと思いました(笑)」と話す吉村氏は、そのヴィンテージを目にした際にあるアイテムが頭をよぎったとか。

「ファーストシーズンにジャケットブルゾンというアイテムを作ったんですよ。ピラーティが過去に作った、テーラードだけどブルゾンライクなアイテムを『オーベット』的な解釈で仕上げたアイテム。それと似ているなと」

「それは僕も思いました」と杉原氏も同調する。

「袖なども立体的な作りだったので親和性もあると感じましたし、なにより、古橋さんが着られていたジャケットが、またユニークなアイテムだったんですよね。一般的には考えにくいところにダーツが入っていたり、3枚袖になっていたりする。コートではしばしば見かけますけど、ジャケットでは珍しいですね」

それについては阿部、古橋の両名も気になっていたところ。

「阿部さんとも話していたのですが、誰かがお直しした延長のアイテムなのではないかと。調べてみたら、まったく同じアイテムではないと思いますが数点、似たようなものがあって。それらと比較をすると所々で仕様が違っているんですよね」

何より「複数の方々がアイデアを持ち寄ることで、僕の想像を超えたアイテムが出来上がる作業はとてもやりがいがありました」と今回の別注について杉原氏は回想。そして出来上がったのがこのアイテムである。

ジャケットのようでいてブルゾンのような着やすさ

あがってきたサンプルを見るにつけ、その出来栄えに「直すところはほぼありませんでした」と古橋は笑う。

「さすがという感じでしたね。阿部さんにも着てもらって、「いいんじゃない」とお墨付きをもらいました。僕も今回、別注企画は初めてでしたから不安な部分もありましたし、最初は無理にでも直すところを探して指摘した方がいいのかなって思ってました(笑)」


これまでに自身も多くの別注企画に携わってきた阿部は、「いろいろな部分でハマった」と分析する。

「いろいろと企画はやらせてもらってきましたが、一からというのはそこまで多くない。やはりブランドさんの世界観もありますから、それらを優先しながらどうURBSらしさが出せるか、新しい提案ができるかは難しいところです。そういう意味では今回の企画はすごくハマった。こちらが作りたい、お願いしたいものとブランドの世界観もそうですし、感性や方向性もいい方向へ進んでくれたと思いますよ」

まるでラペルのような大振りのオープンカラーやスラント気味に入れたフロントポケット。それでいてこの端正なフォルムは、まさにブルゾンのごときジャケット。袖を通せばその言葉の真意よもり分かる。そして、特筆すべきは素材だ。

使用されているのは2重織のバックサテンギャバジン。表面はウールメインの綾目、裏面はコットンメインのサテンという、2021年秋冬の展示会で非常に好評だったという生地。「ハリ感と厚さにこだわり、オリジナルで開発した生地です」と吉村氏の言葉にも熱がこもる。


「こちらの生地を作っている会社は尾州の津島という場所にあり、海外ブランドの生地も手がける老舗。色はファーストシーズンから継続中の『オーベット』のアイコンともいえるブラウンブラックです。やや茶をいれたパープル感の感じられる黒を先染めで表現しています。どのアイテムとも馴染みやすい色なんですよね」

AUBETT バックサテンワイド2タックパンツ ¥46,200 (税込)

そして、インラインのスラックスと同様の生地で製作したこともあり、セットアップでの着こなしも可能と杉原氏。

「このスラックスは、オーダーメイドで仕立てられたヴィンテージの2タックスラックスを意識したので、その意味では相性はいいと思いますね」

生地から着想を得てデザインする逆転の発想

モノ作りにおいてはデザイン、パターン、素材の三位一体が基本と話す杉原、吉村の両氏。中でも、特に力を入れているのが素材開発と杉原氏は話す。

「パターンもデザインも全部セットなんですけど、スタートの素材がないと始まらない。機屋さんとの協業でお互いにオープンにアイデアを交換し、新たな生地を作っていくことが多く、そこからデザインのインスピレーションを得ることも多いですね」

代表的な例がこの凹凸がランダムなコーデュロイだろう。その経緯を聞くと、ブランドの特別なこだわりが透けて見える。吉村氏は続ける。

AUBETT ランダムコーデュロイカバーオール ¥74,800 (税込)

「先シーズンに別注でコーデュロイ生地を採用したのですが、それがすごく良かったんです。それで今度は柄を表現できないかと。その発端は、ただ単純にコーデュロイ表面の凹凸ってなんで均等なんだろう、というちょっとした疑問でした。僕らは生地にこだわりますが生地作りのプロフェッショナルではない。なので、こういうことできませんか?と機屋さんに持ち込むんです。最初は不可能と言われることもありますが、対話していくことでより良いものを生み出していくプロセスに可能性を感じています」

「生地にこだわっていることは以前から知っていましたけど、そのデザインアプローチは初めて聞きました」と古橋。そして、阿部もその独特なプロセスに苦笑する。

「すごいですよね。もうオタクのレベル(笑)。無茶なオーダーだとしても絶対に作れない理由が分からない以上、逆説的に作れる可能性もあるということですから。それにしても、アイテムをイメージせずにまずは生地をオーダーする。そのアイデアはどこからくるんですか?」

阿部の質問に対して、杉原さんは笑顔を浮かべながら答える。

「出発点は自分たちのクローゼット。そこにないスタンダード、ずっと生活に寄り添ってくれる服。それを探していく作業ですね。例えば、なぜ太番手で高密度の美しいシャツがないの、なぜチノパンって全部同じような生地なの?とか。形からも生地からもそれを考えます。その一発回答的アイテムがあれば買いますし、なければ作る。そういう感じですね」


そして、2022年春夏にはとある試みにも着手しているという。

「次の春夏コレクションから、紡績所も訪ねて、原料から生地を考えています。現場を知ることで、また新しいアイデアを考えていますので期待していてください(笑)」

マニアックなまでの素材へのこだわり。その熱意からは、デザイナーと機屋さんとの密な関係による新たな可能性を期待させる。だからこそ、多くの人が『オーベット』のアイテムに惹きつけられるのだろう。今回の別注アイテムを手に取れば、そのあたりもきっと感じてもらえるはずだ。

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