アーバンリサーチ バイヤー佐藤祐輔のココだけの話。
Vol.4 後編
〜SEEALLデザイナー 瀬川誠人さんに学ぶ、温泉とワイン。そして新しいプロジェクトとは!?〜
ご自宅でたっぷりお話を伺った後、瀬川さんおすすめの鎌倉スポットへ。まだまだ話が聞き足りない僕は、瀬川さんのライフワークである温泉巡りやワインについて、再び根掘り葉掘り聞いてしまいました。まずは歩いて覚園寺へ。
※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行っております。
佐藤 「ここへはよく来るんですか?」
瀬川 「そうですね、頭を整理したいときとかに来ることが多いかな。日本庭園ってすごく綺麗に整理されているじゃないですか。そういう空間にいると頭がクリアになる気がするんです。無駄がなく、静謐なところがいい」
瀬川 「今の住職はとても柔軟な方で、ここでいろいろなイベントが行われているんです。その中のひとつに“テラテラテラ”という自然派ワインのイベントがあるのですが、それはとても面白いですよ。新型コロナ中は残念ながら開催されませんが、再開したらぜひ来てみてください」
佐藤 「お寺でワインですか。面白そうですね」
瀬川 「錚々たる顔ぶれですから、自然派ワインを知るには最高の機会だと思います」
そして鎌倉の名店『祖餐(そさん)』へ
覚園寺を後にした僕たちは、瀬川さんが鎌倉で行きつけにしているという、自然派ワインの名店としても知られる祖餐(そさん)へ。今回は残念ながらワインは楽しめなかったけど、たくさんの価値あるお話を聞けました。
佐藤 「そういえば瀬川さんは、温泉ソムリエの資格も持っているんですよね」
瀬川 「ただ個人的な興味として温泉に入り続けているというだけ。その延長で資格は取りましたが、そんな大袈裟なモノじゃないです(笑)」
佐藤 「いつから温泉にハマったんですか?」
瀬川 「8年くらい前かな。温泉って日本固有の文化で、こんなに多種多様な温泉が湧いている国はほかにないんですよ。法的に分けると12種類の泉質に分けられるんですけど、その中でもさらに細分化されていって、数限りない温泉の種類がある。それを地方地方で入るというのが楽しいんです・・・この話、面白いですか?(笑)」
佐藤 「面白いです。かけ流しにしか入らないと聞いたんですが、そうなんですか?」
瀬川 「温泉には塩素が入っているものや、湧いてきたお湯を再利用する循環消毒というのがありまして、それらの湯は実は肌にあまりよくないんです。僕は手のかかっていない新鮮なお湯に入りたいので、かけ流しにしか入らないんです。温泉って本来医療行為ですから」
佐藤 「全国あちこちで入っているんですか?」
瀬川 「地方によって全然湧いている泉質が違うんですよね。僕が好むのは、いわゆる古湯。建物が文化財登録されているような昔ながらのものが好きでいろいろ巡っています」
佐藤 「いわゆる、秘湯ってやつですか?」
瀬川 「そうです。山を登っていって勝手に入るようなところもあります。そういうところのほうが僕は好きですね」
佐藤 「関東近郊でお気に入りのお湯を挙げるとするとどこですか?」
瀬川 「法師温泉の長寿館。群馬です。温泉マニアの中ではすごく有名なんですけど、足元湧出型というやつですね。建物も昔のまま残っていて、文化財登録されています。行きやすいところだったら、箱根の秀明館。あそこもすごくいい湯ですね。そこは壁からじわじわ湯が湧いているんですよ」
佐藤 「壁から! 日帰りでも入れるんですか?」
瀬川 「秀明館は日帰りのみです。長寿館も日帰りで入れますが、泊まるのがおすすめ。24時間入れるので、夜中の3時くらいに一人で入るのが、もう最高」
佐藤 「絶対いきます」
自然派ワインの魅力とは!?
佐藤 「瀬川さんは本当に多趣味で、ワインもお好きですよね?」
瀬川 「好きです。実は自宅のうらの崖の斜面にやぐらがあるんですが、そこをワインセラーにしようかと思って」
佐藤 「やぐらがあるんですね」
瀬川 「やぐらって温度が一定なので、ワインの保管に向いているんです。さっき覚園寺でテラテラテラという自然派ワインのイベントがあると言いましたが、そのときもお寺の奥にあるやぐらをワインセラーとして活用しているんですよ。あ、ちなみにそのイベントの主催者が、この祖餐の石井さんです。自然派ワインの第一人者」
佐藤 「そうなんですね。こんな時代で、今日は楽しめなくて残念です・・・」
佐藤 「瀬川さんのワイン好きはやっぱりイタリアから?」
瀬川 「楽しみがワインしかないところにいたので(笑)。必然的に毎日飲んでいると、やっぱり詳しくなってくるじゃないですか。そのときは自然派ではなくいわゆるクラシックなワインでした。自然派に傾倒したのは日本に帰ってきてからかな」
佐藤 「そうなんですね」
瀬川 「イタリアにも自然派ワインの生産者はたくさんいるんですが、飲めるところが意外に少ない。クラシックなワインのほうが強いように思えます。特に田舎だとそうですね」
佐藤 「自然派になったきっかけというのは?」
瀬川 「それは温泉と一緒で・・・ってこれ、石井さんの前で話すのすごく嫌ですね(笑)」
瀬川 「僕がやっている自然農と同じように、できるだけ農薬を使ったりしないというところがまず一番。作り方もそうで、極力人為的な操作を減らして造るところが好きなんです。培養酵母といって、ブドウの皮についている自然の酵母で造っていたり、温度管理も機械を使うのではなく自然に任せて、みたいな。人の手を加えるところはしっかり加えるけれども、加えすぎない。そうやって完成するワインっていい意味で安定しないからひとつひとつに個性があって面白いんです。作り手のパーソナリティがすごく出るというかね」
佐藤 「自然農園も同じようなきっかけですか?」
瀬川 「それは全然別です。自宅の庭づくりをしているうちに、どうせだったら食べて美味しいものを作ろうかなと単純に思っただけです。やることはほぼ一緒なんです」
佐藤 「でも食べ物のほうが難しそう」
瀬川 「めっちゃ難しいです。でもすごく面白いです。イタリアの友達に種をもらって、珍しい品種に挑戦してみたり。それが成功したりすると本当に面白いですね」
佐藤 「何種類くらいやっているんですか?」
瀬川 「120種くらいかな。ぜひ一度遊びに来てください。食べきれないほど野菜があるので」
佐藤 「そんなに?自給自足できますね」
瀬川 「余裕です。自然農は自給にとても向いた農法なんです」
佐藤 「瀬川さんは音楽も詳しいと思いますが、最近どんなものを聴いているんですか?」
瀬川 「今は積極的にリスニングするというより、空間を埋めてくれるアンビエント系かな。いわゆる垂れ流し的な音楽」
佐藤 「家具の延長的な?」
瀬川 「そうそう。『インテリアミュージック』という、エリック・サティの概念があるんですけど、それと同じ感じ。考えることがすごく多いので、思考を邪魔しない音楽が中心。僕は影響されやすいので」
FAARとAFTER HOURS
2つの新しいチャレンジ
佐藤 「すでにいろいろやっている瀬川さんですが、これから何か挑戦したいことはありますか?」
瀬川 「これからチャレンジしたいことは、FAAR(ファー)です」
佐藤 「清澄白河に新しくオープンするお店ですね。FAARはどういう意味なんですか?」
瀬川 「Functions And Alternative Researchの略。それと、英語でFARは遠いという意味ですが、そこにもうひとつAが加わって、より遠いところ、より先にあるものに手を伸ばそうという隠れた意味を込めています」
佐藤 「具体的にはどういったことを展開されるんですか?」
瀬川 「ファッションやアート、インテリアなどジャンルを問わず、まだあまり知られていない新しい作家の作品や、知る人ぞ知るものを紹介していきたいと思っています。Twelvebooksの濱中さんにもご協力いただいて、アートブックもたくさん置く予定。比較的買いやすく、かつきちんとした哲学があるものをどんどん紹介したい。そういうもののハブのようなスペースになればと思っていますね」
佐藤 「オープンはいつですか?」
瀬川 「3月17日です。ぜひ。野菜も売ろうかなって思ってます(笑)」
佐藤 「それは楽しみ! まさに瀬川さんがこれまで培ってきたものが集合するハブのような場所ですね」
瀬川 「そうなるといいなと。だから利益を追求するのではなく、面白いことをもっと発信できる場所にしたいと思っています」
佐藤 「新プロジェクトのAFTER HOURSに関しても教えてください」
瀬川 「僕と、RAINMAKERというブランドのデザイナーの岸くんと、いつもお世話になっているパタンナーさんと、タキヒヨーという生地の商社に勤めている人の4人で立ち上げた新しいブランドです。名前の由来は、After working hours。簡単にいうと、雇われでお客の前で演奏をしたモダンジャズのミュージシャンが、仕事の後にみんなで集まって自由にセッションする時間のこと。直訳すると“働く時間が終わった後”です。今回集まった4人もなんとなく感覚的にそれに近いというか、それぞれ持っている仕事とは別軸で、好きに楽しむために始まったことという意味を込めてその名前にしました」
瀬川 「みんな変な人ばかり(笑)。そういう人たちが好きなことだけを持ち寄って形にしたらどうなるんだろうっていう、マーケティングを全く無視したある種実験的なブランドですね」
佐藤 「アプローチとしてすごく新鮮。ワクワクしかないですよね。楽しみです」
瀬川 「中間的なものが一切ないですからね。足して二で割るとか、そういうものが全くない。面白がってもらえたら嬉しいです」
Coordinate Point!!
この夏すごくおすすめの、SEEALL×Le minorのオーバーサイズのヘンリーバスクシャツ。ほんのり粗野なヘビーウエイトの生地とジタンブルーと呼ばれるフェード感のある青みが最高に良い。『バスクシャツといえばLe minor』と瀬川さんが太鼓判を押すのも頷けます。デザインはSEEALLのコレクションのスモックシャツから引用されていて、ゆったりとしたサイズ感と襟の遊びが今の気分にピッタリですね。パンツはURBAN RESEARCH別注のWRANGLER。ウエストに1つタックが入った太めのストレートシルエットは、バスクシャツにマッチ。足元はミュールで抜け感を演出しています。
TOPS: SEEALL×Le minor
PANTS: WRANGLER×URBAN RESEARCH iD
SHOES: HENDER SCHEME 私物
恒例の一問一答!!
佐藤 「いやー、もう消化しきれないくらいお話聞けました。本当に楽しかったです」
瀬川 「いえいえ、こんなんでよかったんでしょうか」
佐藤 「ここで、恒例の一問一答、いっていいですか?! ここからは直感で答えていただければと」
瀬川 「わかりました」
佐藤 「生まれ変わったら何になりたい?」
瀬川 「猫。何もせずともかわいがられ、なんなら僕らよりもいいものを食べているから。全部自分のペースだし。あと純粋に見た目がかわいい。猫がとにかく好きです」
佐藤 「人生を交換できるなら誰としてみたい?」
瀬川 「高杉晋作。精神性が好きなんです。僕が思うに、多分あの人が日本で最初のイットボーイですよ。多分、日本で最初のファッションの人です」
佐藤 「家が火事。一つだけ持って逃げるとしたら?」
瀬川 「・・・これは難しい。ちょっと待ってください」
佐藤 「ゆっくり考えてください」
瀬川 「決めました! バウハウスで作られたマリアンヌ・ブラントの貯金箱。20年か30年代のもので、最初の貯金箱といわれているんです。ただすごく小さくて、いっぱい溜めても多分1000円くらいしか入らない(笑)」
佐藤 「最後の晩餐は?」
瀬川 「中津の唐揚げ。唐揚げとワイン」
佐藤 「人生最後のワインは?」
瀬川 「絶対ボーペイサージュです。僕の人生の中で一番好きなワイン」
佐藤 「タイムマシンで行くなら、過去か未来か」
瀬川 「絶対未来です。過去はもうわかっているじゃないですか。わかっていることの中に戻るよりは、わからないほうに行きたいです」
佐藤 「海派か、山派か」
瀬川 「100、山です。自然農もやってるし、山に住んでいる人のほうが好きな人が多いです、どちらかというと」
佐藤 「夏と冬はどっちが好き?」
瀬川 「冬。家の中にいることが肯定されるから。家にいる時間が好きなので」
佐藤 「感覚派? 理論派?」
瀬川 「両方持っていたい。時と場合に応じて使い分けられる人でいたいから」
佐藤 「座右の銘は?」
瀬川 「Less but betterですね。ディーター・ラムス」
佐藤 「ファッションとは?」
瀬川 「難しいけど、今の僕の考えで言うなら、単純に『裸じゃなくなるもの』。服という単純明快なものに流行というものが絡んでしまって、今はいろんな意味が込められすぎていると感じるので。誰が着ているとか、どこで流行っているとか。個人的にはもっとプリミティブなところに戻っていいんじゃないかって思っています。モノづくりも、その延長でできればと思っていますね」
佐藤 「ありがとうございました!」
祖餐
〒248-0012 鎌倉市御成町2-9 2F
https://www.facebook.com/sosan.pilgrim/
前編 〜SEEALLデザイナー 瀬川誠人のセンスを育んだもの〜
Composition & Text: Jun Namekata
構成・文:行方淳
Photographer: Yuko Yasukawa
写真:安川結子
Instagram
佐藤祐輔(URBAN RESEARCH バイヤー) @ yskjohn
URBAN RESEARCH Men’s Official account @ urbanresearch_men