外部サイトへ移動します
FASHION FEB 17,2023

<SDR通信Plus⑪>次世代のアイディアが照らした「防災×ファッション」。第1回 防災ファッション アイディアコンペティション受賞者インタビュー

株式会社アーバンリサーチ(以下、UR社)は、SDGs(持続可能な開発目標)に関連する取り組みを積極的に推進しております。その取り組み内容を紹介するために始まった社内報<SDR通信>。本来ならお見せすることのない社内報ですが、その中から皆様に広く知っていただきたい内容を、メディアサイト独自の目線を加えた記事<SDR通信Plus>として不定期連載しています。


> 過去のSDR通信Plusはこちらから

2021年9月1日の“防災の日”に、UR社が大阪府の主催する「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」と協働し、当プロジェクトの防災班ユースメンバーとともに立ち上げた「BOSAI FASHION LABO」。
その初回の取り組みとして、次世代を担う若者への防災意識啓発の一環として学生の皆様を対象に「防災×ファッション」がテーマのアイディアコンペティションを開催しました。
多数の応募の中から最優秀賞を受賞した中尾 太紀さん(大阪芸術大学)の作品を商品化し、2月17日(金)より販売しています。

この度の製品化にあたり、受賞者の中尾さんと、「BOSAI FASHION LABO」のプロジェクトメンバー2人を交え、商品に込められた想いやプロジェクトの今後についてお伺いしました。

※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで行っております。


PROFILE

中尾 太紀
大阪芸術大学 デザイン学科 3年生。専攻はプロダクトデザイン(製品デザイン)。大学では自動車の内外装の素材やカラーリングを研究中。
大好きな絵を「人の役に立つ」ものに昇華する「デザイン」という分野にほれ込み、「広く、深く」をモットーにジャンルレスな制作に日々明け暮れている。

渡部 桂太朗
大阪大学大学院(工学研究科)修士2年生。機械工学や防災などを研究する傍ら、大阪府の主催する「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」では防災班のメンバーとして活動中。「防災士」の資格も有しており、地域住民に対して防災教育活動なども行っている。最近ハマっているものは「ゆるキャン△」。

川瀬 晃子
UR社のサステナビリティ推進と社内をちょこちょこ走りまわる担当(代表)。
好きなものはミステリー小説・ビール・銭湯。朝と夜に愛犬とハグするのが日課。


受賞作品
「OMAMORI」

— まずは応募されたきっかけを教えてください。

中尾 太紀さん(以下、中尾) 実は元々スニーカーを探していて、アーバンリサーチの公式サイトにアクセスしたのがきっかけでした(笑)。そのときにサイト内でたまたまコンペティションの存在を知って。
学生にとって自分でデザインしたものが製品化されるのは大変大きなことなので興味を持ちました。僕自身、大学ではプロダクトデザイン(製品デザイン)を学んでいて、服のデザインはしたことが無かったのですが、普段から服などのイラストは好きで描いていたこともあり、応募しようと思いました。また、コンペティションの特設サイト内で「大阪万博」にも触れていて、それに関しては地元が太陽の塔のある吹田市だったこともあり、今回のコンペにはいろいろと縁があったと感じています。

— このコンペティションを実施するにあたって、募集期間中に防災関連における有識者を招いた講演会も実施したんですよね?

渡部 桂太朗さん(以下、渡部) はい。コンペティションに先がけて、防災関連の有識者を招き、さまざまな災害のテーマに沿った講演会を全4回にわたりオンラインで実施しました。コンペティションに参加される学生の中には、既に防災に興味がある方から、全く防災に興味がない方までさまざまな方がいらっしゃいました。そういった方に対して、災害とはどういうものなのか、また具体的な対策の方法について知っていただくことを目的に講演会を実施しました。

— その講演会に中尾さんも参加されていたとのことですが、実際にデザインを考える中で参考になった話はありましたか? 印象に残った話などあれば教えてください。

中尾 一回目と三回目の講演会に参加したんですが、参考になることが多かったです。講演会に参加するまで災害が起こったジャストのタイミングでしかプロダクトを作ることを考えていませんでしたが、講演を通して災害が起こる前の対処を最優先とすることや、二次災害や災害後の課題など、長期的な目で見た「災害対策」を知ることができました。 自分の知っている知識以外で役に立つ内容も多く、デザインをするうえでのアイディアにも反映していますし、防災について知らないことが多かったので、大変勉強になりました。

講演会画像

— デザインに落とし込むのはもちろんですが、災害について広い視点で考えることができたのは非常に素晴らしいですね。準備の面では、有識者の方をアサインしたりと開催までに苦労することもあったと思うのですが、講演会での内容を活かしていただけたというお話を直接聞けて嬉しいですね。

渡部 そうですね。

川瀬 晃子(以下、川瀬) 講演会に向けた打合せの中で、さまざまな防災に関わる知見をお持ちの方を防災班のみなさんにリストアップいただいたのですが、そのリストを見たときにみなさんのコミュニティの広さに非常に驚いたのを覚えています。確か、第三回講演会に登壇いただいた卜部さまは渡部さんが高校生のときからお世話になっている方なんですよね。

渡部 はい、そうです。

川瀬 私たちだけではそういったコネクションもなかったので、講演会を開催できたのは防災班のみなさまのおかげだなと改めて思います。

「フェーズフリー」を意識したデザイン

— 洋服のデザインは初めてとのことでしたが、「防災×ファッション」をテーマにデザインをしてみていかがでしたか。デザインで意識した部分などがあれば教えてください。

中尾 今回初めてお見せするのですが、コンペティションに応募する前にラフスケッチしたものや、レンダリングの資料などを持ってきました。

渡部・川瀬 すごい!

中尾 服のデザインはしたことが無かったのですが、元々靴や服が好きで、趣味で描いたイラストをSNSにアップしたりしていました。そのため、応募する際にはかなりのめり込んでリサーチやデザインスケッチに取り組めました。

デザインするにあたっては、普段使いできるという点を意識し、講演会の中でも話されていた「即時対応とフェーズフリー」もコンセプトに組み込みました。
例えば、雨が降ってきた際にだけ使えても意味がないので、雨以外の場面や、被災地でも使えるなど、特定の災害やシーンに特化せず、身体の保護やモノの運搬、目隠しなど、現場の状況に応じて柔軟に対応できる設計を目指しました。

※身のまわりにあるモノやサービスを、日常時はもちろん、非常時にも役立てることができるという考え方

※取材時の製品はサンプルのため、仕様などは実際の製品と異なる部分がございます

中尾 また、ポンチョとしての使用以外に、カバンとしても使える仕様になっています。ポンチョを広げた形がトートバッグの形に似ているなと思ったのがきっかけだったのですが、災害時に荷物の運搬などにも役立つかなと考えてデザインに組み込みました。
コントラストが強い配色にしつつ、普段使いしやすさも考慮した色味を意識しています。(記事内で紹介しているのはチョコ×ラベンダーの配色)

— 細かな点まで意識してデザインされているのが、この資料からも非常に伝わってきますね。そんな中尾さんのデザインですが、実際に審査にも入られたお二人からみていかがでしたか。選出理由なども含めて教えてください。

渡部 中尾さんのデザインで一番良かった点は、先ほどご本人もお話しされていた「フェーズフリー」という考えがまさに表現されていたところです。
僕は「防災士」という資格を持っているので、防災の視点から災害時に本当に役立つのか、というところは審査で重視しました。また、今回審査するにあたって、防災の専門家の方にも何人かにデザインを見ていただき検討した結果、最終的に中尾さんのデザインが良いなとなりました。

川瀬 アーバンリサーチの評価ポイントとしては大きく2点あるかなと思っています。ひとつ目は「ファッション性」で、企画書からも伝わる詳細なディテールの提案や素敵な色使い、完成度の高いデザインなど、担当者からみても評価できる部分が多いと思いました。
もうひとつは頭部にボトルを収納できるデザインで、そこがまた防災面でも機能的に働くというユニークさがなにより印象的で、着眼点が素晴らしいなと感じました。 全体を通して「コンセプト・機能性・デザイン・新規性」の大きく4項目の評価ポイントをあげて評価させていただいたのですが、中尾さんの「OMAMORI」はどの項目も点数が高かったです。
ちなみに、本コンペティションでは、たくさん応募いただいたなか、最終選考に残った作品が11作品ありました。その11作品で全社員に向けてアンケートを取ったのですが、そこでも中尾さんの作品がトップの評価でした。

— さまざまな側面から評価されているのが分かりました。普段では考えつかないようなアイディアが学生のみなさんから集まるというのは、コンペティションを開催する良さだったりするんですね。

— ポイントとしていた頭部の保護の部分など、実際に商品化するうえではクリアしなければいけない壁もあって、当初考えられていたデザインからは変更せざるを得ない部分があったとお聞きしました。当初のイメージと異なる部分や、実際に企画を進めるなかで難しいと感じた部分などがあれば教えてください。

中尾 水が入れられるパックボトルを頭部に取り付ける案についてはインパクトを狙った部分があり、「こういう機能・デザインがあったらいいな」というアイディアとして入れていました。
頭部の保護というのが一番の目的で踏み込んだデザインにしたのですが、コストやさまざまな面で難しい部分があり、給水と絡めるのは少し欲張り過ぎたなと。 ただ、僕自身服作りについては素人なんですが、ファーストサンプルが上がってきたときに、ほぼ思い描いていた物が出来上がって感動しました。企画の打ちあわせのときには、(先ほどお見せした)ラフスケッチなどはあまり見せていなかったのに、パタンナーの方って凄いなと。サンプルの打ち合わせで出たレガースの素材を使用したアイディアなどは目から鱗で、勉強になりました。

— パタンナーの方が聞いたらきっと嬉しいでしょうね。

— コンペティションへの参加、物作りの場に参加して感じたことや、気持ちとして変化した部分はありますか。

中尾 かなりあります(笑)。防災服や防災用のアイテムってかなり大事だなと思いました。
このコンペティションを通して「普段使いできる防災製品」の存在に触発され、災害や事故に対応する制作物が何点か増えました。
産学連携の授業が大学ではあったのですが、靴のメーカーに安全靴のデザイン提案を行うなど、今回の経験にとても影響されていると思います。

— 今回のコンペティションでの経験を今後どのようなことに活かしたいですか。

中尾 今回のコンペティションの制作物を通して、素材の耐久性や、撥水性など、今まで触れてこなかった布製品、アパレル等に対する興味が非常に湧きました。 現在、プロダクトのスタイリング以外にも布を含めた素材や、カラーリングなどを専門領域とする「CMF」という分野を中心に勉強を始めるようになりました。

また、デザインをするうえでリサーチをしたり、スケッチをすることも勉強になりましたし、物を作る中でできることとできないことが分かりました。例えばパックボトルを作るにしても専用の物を作るには一から型を作る必要があったり、非常に費用が掛かるということも知ることができました。そういったものを度外視していると逆に使いづらいものが出来上がってしまうので、自分の中でブレーキをかけたりするという部分も学べました。

※ 「C…COLOR(色)」「M…MATERIAL(素材)」「F …FINISH(加工方法)」のモノの表面を構成する3つの要素のこと。

— 今度は渡部さんにお聞きします。「BOSAI FASHION LABO」は2025年大阪・関西万博の開催テーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」と、コンセプト「未来社会の実験場」を継承し、災害大国である日本の防災意識を、ファッションの力によって高めることを目的としているとのことですが、このコンペティションを経て、今後の活動などで考えていることなどがあれば教えてください。

渡部 先ほど中尾さんから、実際に学業のなかでも今回の経験を活かしているという話を伺えてとても良かったです。中尾さんの意識のなかに「防災」という視点や考えが入ってくれたのだと思います。確か、コンペティションに応募する前はあまり防災に興味が無かったんですよね(笑)?

中尾 そうなんです(笑)。卒業制作と兼ねてやってみようかなと思っていたくらいで。

渡部 まあ、でもそれが普通だと思います。防災って基本的に面白くないし、実際に災害が起こってみないと危機感や防災の大切さって分からないものなので。ただ、元々防災に興味がなかった方が「BOSAI FASHION LABO」をきっかけに興味を持っていただけたのは非常にありがたいなと思います。それを踏まえて今後やりたいことは、まさに中尾さんのような方を増やしたいと考えています。入口はなんでもいいのですが、今回の「BOSAI FASHION LABO」のように、「ファッション」という、より日常的に関わっているモノを通して防災に興味を持っていただき、そこから防災の輪を広げていきたいと考えています。

川瀬 しばらくコンペティションの進行が中心で、今後について話せていない部分も多いのでまた近いうちに話しましょう!

— 今回、ロックダウンの影響等で当初より生産が遅れたり、苦労した部分も多いのではと思います。中尾さんがデザインされた洋服がいよいよ販売となりますが、アーバンリサーチから商品を販売することについて、今の想いを聞かせてください。

川瀬 「#もしもファッション」、身に付けたくなる防災アイテムをテーマにアイディアを募集しましたが、中尾さんの持っているアイディアから、テーマにピッタリな作品に仕上がったと改めて思います。

発売に際して、数量は少ないながらも今回の対談記事などを通して中尾さんと共にどのような想いで一緒に商品を作ったのかを、一人でも多くの方に伝えていきたいと考えています。

川瀬 また、個人的な話をさせていただくと、一会社員をしているなかでこういった若手の方々と一緒に物作りをするという経験は本当に貴重だと思います。 中尾さんがこれから先に歩んでいかれるであろう、キラキラとしたデザイナー人生の一部に私たちが関われているということ自体が嬉しくって、改めて応募いただいて「ありがとうございます」と思っています。なんだか涙が出てきてしまいますね。

あと、渡部さんも、会社や学校などの境を飛び越えて、月一回程度で開催していた「BOSAI FASHION LABO」の打合せも、忙しいなか嫌な顔をせず日程調整を引き受けてくださって。防災班のみんなは心優しい方々で、かつ大阪府の方もとても協力的で、気持ちがひとつになる瞬間がたくさんあったなと思います。
2025年の大阪万博の実現に向けてまた企画立案も一緒にさせていただきたいと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします!

<商品詳細>

商品名:OMAMORI ポンチョ
品番:BOUSAI-1
価格:¥19,800 (税込)
カラー:BRN×PPL / NVY×GRG
サイズ:ONE

page top