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LIFE STYLE&BEAUTY DEC 30,2020

湯ったり「余白のあるくらし」 URBAN SENTO<前編>

東京・高円寺にある老舗銭湯「小杉湯」とタッグを組んだ「JAPAN MADE PROJECT」の東京編“URBAN SENTO”。担当者の銭湯愛と、銭湯を未来に伝える小杉湯さんたちの熱い想いをお届けします!


URBAN RESEARCH(アーバンリサーチ)が「地域活性化」をメインタスクとして、日本各地の企業やクリエイターによって創られるローカルコミュニティとともに、その土地の魅力を再考し発信していくプロジェクト「JAPAN MADE PROJECT(ジャパン メイド プロジェクト)」。
2020年3月にはその6つ目の地域としてTOKYO編がスタートしました。

このプロジェクトのテーマは「余白のあるくらし」。
東京という大都市。情報や流行が常に集まる便利さがありつつも、忙しさや混雑に追われ、日々をせわしなく消費することも多いことも多い都市です。
ですがここ数年、その中にもライフスタイルを見直し、日々の暮らしの中に楽しみを見つける流れが増えてきました。都市に暮らしながらも日常をいかに豊かにするか。そのためには今まで進歩のために忘れられがちだった“古き良き”ものにも焦点を当てることも大切になってきました。

今回はその大切にしたい文化の一つである「銭湯」に可能性を見つけ、東京杉並区高円寺にある老舗銭湯「小杉湯」とプロジェクト「URBAN SENTO」を立ち上げました。
銭湯は昔から町のお風呂屋さんとして、地域住民の集まる場所であり、公衆衛生の向上、地域交流の場として楽しまれていました。最近は“サウナ”ブームの影響もあり、思いの外近くに多くある銭湯に通う若者も増えています。

このプロジェクトでは日々の暮らしの中に銭湯とアパレルが自然と存在し、それが食や遊びなど街ともつながり、その結果街の魅力や文化の再発見に繋がりますように。そんな気持ちが込められています。

さて、スタートは2020年だったTOKYO編ですが、実はその種まきは2018年から始まっていました。
約2年かけてじっくり育てたこのプロジェクト。ここで改めて企画に関わっていただいた方々やその内容などを前編・後編の2話に渡ってご紹介したいと思います。

座談会メンバー

左手前・平松佑介さん: 住宅メーカーやベンチャー企業に勤め、その後家業である小杉湯3代目に。銭湯の経営のほか、オンラインサロン「銭湯再興プロジェクト」をはじめ様々なプロジェクトに関わる。

右手前・塩谷歩波さん: 体調不良で休職時に小杉湯に出会う。SNSで発表していた、銭湯の魅力を図解した「銭湯図解」をまとめた同著を刊行。現在は小杉湯のイラストレーター兼番頭。

左奥・菅原理之(ガースー)さん: 外資系広告代理店から転職。小杉湯ではチーフ・ストーリーテラーを務め、銭湯の魅力を様々な言葉にして伝え、また経営状況をITによって可視化するなど、ブランドとビジネスの方面から銭湯を支える。

右奥・アーバンリサーチ デジタル営業部カンパニープロモーション兼サステナビリティ推進課 川瀬晃子: JAPAN MADE PROJECTチームの一員として東北の若手漁師さんたちとフィッシャーマンウェアを開発するなど日本文化に深く関わる。大の銭湯好き。

また今回はリモートで大阪本社よりアーバンリサーチ ブランド販促(JAPAN MADE PROJECTも担当) 宮 啓明が参加しています。

※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。

それはひと目惚れならぬ、ひとっ風呂惚れから始まった!?

URBAN RESEARCH MEDIA(以下、URM) 今日はよろしくお願いいたします。このプロジェクトを紐解くにあたって今日はこの2年間の流れを中心にお話を伺えればと思います。まずこの企画がスタートするきっかけを教えてください。

川瀬 きっかけは私が小杉湯さんとフィンランド大使館がコラボをされた2018年のイベント<夏至祭>に遊びに行ったことです。お風呂だけでなく色々な集客コンテンツがそこにはあり、そして働いている方がキラキラしていて。これはぜひ、何か一緒に面白いことをしたいな、と思ってすぐ連絡をしたんです。

平松 メールをいただいたときはびっくりしました。普段からアーバンリサーチ、特にドアーズが好きで買い物していたので、そんな好きなセレクトショップから連絡が来て一緒に何かやりましょうと言われたのは素直に驚きました。でもその時にJAPAN MADE PROJECTのお話を伺い、全国展開しているお店が地産地消のアイテムやプロダクトを手がけているのを知って、いい取り組みだなと。

川瀬 メールを送ったのが2018年の8月17日だったんですがすぐお返事をいただいて、8月24日には平松さんと菅原さんとお会いしましたよね。

URM このプロジェクトには小杉湯さんだけでなく、小杉湯さんが関わっていらっしゃった「銭湯再興プロジェクト」や「株式会社銭湯ぐらし」のスタッフの皆様にもご協力いただいたとか。

平松 「銭湯再興プロジェクト」は2018年の4月くらいからやっているオンラインサロンです。約60名のメンバーがいて、1期と2期が終わり、これから3期の形を準備しているところです。小杉湯主体ではなく、“銭湯の価値”をアップデートするために集まったメンバーですね。「銭湯ぐらし」は2017年に小杉湯の隣にあったアパートを無料で貸すから面白いことをやろう、と言われ1年間そこで様々なプロジェクトを行ったんです。アパートは壊してしまったのですが、この時に感じた銭湯がある暮らしを伝えていきたいな、ということで2018年10月に「株式会社銭湯ぐらし」を立ち上げたんです。アパートの跡に建てられた“小杉湯となり”の経営は銭湯ぐらしのメンバーが担当しています。
(※“小杉湯となり”については後編にてお伝えします)

川瀬さんからお話をいただいた時に、小杉湯に集まってくれた仲間にも共有したところ反応も良かったんです。だから“小杉湯”だけで進めるというよりは銭湯が好きなメンバーと一緒に形にしていくと面白いかな、と思ってコミュニティを主体として企画をさせてもらいました。

川瀬 「銭湯ぐらし」の皆さんにも、キックオフから関わっていただき、商品アイデアなど、たくさんご意見をいただきました!
こうやって改めて振り返ると、“URBAN SENTO”を含め、2018年に同時に色々始まった感じですよね!
今日ここに来るまでに当時平松さんたちとやりとりをしていたメールを見返していたのですが、最初のメールを送ってすぐに平松さんが銭湯再興プロジェクトのメンバーの方々にアイディアを募ってくださって。たくさんのリクエストをいただいて嬉しかったです。さらに平松さんから「単発で終わるものではない新しいカルチャーを生み出したい」というメッセージをいただいて、私もファッションだけに留まらない、新しいカルチャーを考えたいと思いました!

URM 川瀬さんの“小杉湯愛”・“銭湯愛”から始まり、その2ヶ月後にはJAPAN MADE PROJECTの東京プロジェクトとしてスタートすることが決定したそうですね。

  JAPAN MADE PROJECTは、地域のコミュニティと一緒に、地域の魅力を再考し、一緒に発信していく取り組みです。地域ごとに魅力は違うので、当然そのアウトプットの方法も地域ごとによって全く違うんです。
JAPAN MADE PROJECT TOKYOの立ち上げに向けて、東京の魅力はなんだろうと考えていました。その中で、東京出身の川瀬が「銭湯」というキーワードを提案してきたときに、すごくしっくりきたんですね。
銭湯は人が多い東京だからこその文化であり、ライフスタイルの一部。それにしかない魅力があるなと。
小杉湯さんのことも銭湯愛溢れる川瀬から教えていただき調べてみると、なんて面白い取り組みをしている銭湯なんだ!と惹かれる情報がたくさん。ぜひとも小杉湯さんと一緒にお取り組みがしたいと思いました。

いよいよキックオフ! からのじっくりミーティング!

2018〜2019年当時のミーティング風景。小杉湯、株式会社銭湯ぐらし、そしてJAPAN MADE PROJECTのメンバーが集まりました。

URM 当時のお写真を拝見しましたが、本当にたくさんの方が関わってらっしゃったんですね!

川瀬 この写真、もう懐かしいですね(笑)。キックオフしてからはひたすらミーティングを重ねました。実はトータル70回以上ミーティングしたんですよ。

菅原 そんなにしていたんですね(笑)。

平松 銭湯を再定義しよう、新しいカルチャーとしての銭湯を考えよう。そんなことも話し合いましたよね。昔は家にお風呂がなかった時代の中での銭湯の存在価値でしたが、今はお風呂のある時代。それでも若い世代は集まってくれている。自然と生まれたこのカルチャーの流れを“形”にして伝えていきたいなと。だから新しいものを作る、というよりは銭湯があることで嬉しい人、救われた人、そんな人たちがいて、それを受けて色々と言語化していった形です。
“URBAN SENTO”は“小杉湯となり”を作っている最中のお話だったので、アパレルを通して銭湯を伝える、というのがいいなと思いました。アパレルも日常に寄り添うものだし、仲間たちも言語だけでなく色々な形で伝えたいという気持ちがあったし。

菅原 もちろん話し合いの中でファッション的なアパレルだけだとただ消費されちゃうかもしれないし…一緒に作れるのかな、という意見もありました。でもクリエイターさん一人にお願いするかたちのコラボではなく、こうやってみんなでアイデアを出し合って銭湯の価値観を掘り下げてグッズを作るってあまりないいい経験でした。

川瀬 グループミーティングでは本当にいろんなことを話し合いました。ロゴ一つ取っても色々なアイデアが出たんです。最初は東京プロジェクトのテーマでもある「余白のあるくらし」から“よはくらし”などのアイデアも出ました。その後弊社の宮が思いついた“URBAN SENTO”になったのですが、こちらはアーバンリサーチ×銭湯のコラボ感がよく伝わるので小杉湯さんたちからも好評でした。

たくさんアイデアの出たロゴ案。日本語案もかわいい!

 「余白のあるくらし」を表現するために、みなさんと一緒に何度もコンセプト固めをして、そのなかで出たいろんなキーワードを抽出しながら企画名やロゴを考えていました。東京や銭湯といったキーワードからストレートに表現できたかなと思います。
ロゴもアーバンリサーチ社のグラフィックデザインチームとすり合わせしながら、少しの緩さをもたせて「余白のあるくらし」をうまく表現できたかなと思います!

2019年12月 内覧会で初お披露目

川瀬 皆様に最初にお披露目したのは、2019年12月に行った春夏アイテムの内覧会です。ここでは小杉湯さんや小杉湯となりさんのご紹介をしたり、発売するグッズをみなさんに見ていただきました。来ていただいた方の中でも銭湯好きやサウナ好きの方が多くて、とても好評だったんですよ! 内覧会には平松さん、菅原さん、塩谷さんにも来ていただきました!

2020年3月 いよいよローンチ!

川瀬 キービジュアルには小杉湯さんで働いた経験のあるアーティストの江本祐介さんと野木青依さんに登場いただきました。

URM このプロジェクトはプロモーションにも力を入れていて、映画監督の中川龍太郎さんによる、松本穂香さん小野莉奈さん出演のプロモーションムービーも公開されましたね。

 平松さんのおっしゃる「新しいカルチャー」を作りたいなとなった時、表現方法も何かうまく伝えられるものが作りたいね、だったら動画がいいねってなったんです。

平松 プロモーションでただ芸能人や有名人が出るものを作るより、あくまでも銭湯が好きで想ってくれる人とやりたいな、と。中川監督はもともと銭湯を舞台にした映画を作ってらしたり、プロモーションを小杉湯でやってくださった縁もあって、お願いしてみたいなと。音楽を担当した江本祐介は小杉湯でアルバイトしていたし、マリンバ奏者の野木青依も小杉湯の番頭をしていたりと、小杉湯に関わる人たちが参加できたのも面白かったです。

川瀬 12月初冬に小杉湯さんで実施した「URBAN SENTO」イベントでは脱衣場にプロジェクターでプロモーションムービーを放映させていただきました(イベントの内容は次週お伝えします)。

平松 男女それぞれの脱衣所から見えるのでみんなすごくよくみてくれましたよ。

川瀬 ちょうど新型コロナで日本も大変だった時のローンチだったので、当時ほとんどプロモーションができなかったのが残念だったんです。こうやって改めてイベントでみなさんに見ていただくことができて嬉しかったです。

それぞれの銭湯愛

URM 前編の最後の質問になるのですが、締めとしてぜひ皆さんの銭湯への愛を教えてください!

菅原 子供の頃は風呂がない家に住んでいたので、母と銭湯に行って、帰りに毎回牛乳を飲んでいたのが思い出なんです。3歳の息子とも銭湯行きたいんですが残念ながら風呂嫌いなんですよね(笑)。
大人になってからの話だと、僕はもともとサウナが好きで、地方に行くと必ず銭湯に行くんです。銭湯ってその町の色が出ていて、ある意味町のゲートウェイ。知らない土地で、お風呂の中で地元のおっちゃんたちと話をしたり、自慢話を聞いたりするのが面白いなと。その場その場のコミュニケーションが楽しいんです。

塩谷 私はもともと設計事務所で働いていたんですが、体調を崩してしまって。そんな時に銭湯に通うようになって心も体も整ったんです。もちろん銭湯という場所も好きなんですが、ある意味恩人でもあります。
今は週7で銭湯に通っています。交互浴が好きなんですが、通ううちに自律神経が整って血流が良くなり体調も良くなりました。
それと建築に関わっているものからすると、“銭湯”のコミュニティは建築的にも面白くて興味が尽きないんです。だって100年以上同じ場所で同じ商いを続けているんですよ。しかも赤ちゃんからおばあちゃんまでみんなが集まる場所。設計者ならみんな“いつかそういう場所を作ってみたい”と思うことがすでに銭湯で実現されているんですよ。羨ましい場所なんです!

平松 僕は実家が銭湯なのでいわゆる銭湯愛的なものではないんですが(笑)。むしろ斜陽産業のイメージがずっとあったんです。覚悟を決めて働き始めたら想像した以上に若い人が来てくれて、銭湯を応援してくれて。孤独に戦うと思っていたから想像していない未来だったことが驚きでした。

川瀬 私にとって銭湯は、子供の頃から身近な存在ではありましたが特に大人になってからは特別なものに変わりました。疲れたり、悩んだりしても、銭湯に行けば「まぁいっか」って思えたりするんです。今思えば、銭湯によって前向きになって頑張れたことがたくさんあります。
あと会社では「銭湯シェアクラブ」を立ち上げて、社内のお風呂好きメンバーと一緒に活動したりするのも楽しみの一つになっています。入浴料は福利厚生として会社が負担してくれるんです。これはもう行くしかないですよね!(笑)。

銭湯シェアクラブメンバーと小杉湯さんへ。

URM ありがとうございました! 次回はみなさんのアイデアが形になった「URBAN SENTO」グッズについてお話を伺いたいと思います!よろしくお願いいたします。

INFORMATION

小杉湯
東京・高円寺にある昭和8年創業の老舗銭湯。
音楽、ファッション、サブカルチャーを中心とした多様な中央線カルチャーと、古き良き歴史が混在する高円寺の憩いの場として、多くの方から愛されている銭湯です。
http://kosugiyu.co.jp/

銭湯ぐらし
「余白のあるくらし」の価値を創造するクリエイティブチーム。建築家、デザイナー、コンサルタント、プロデューサーなど多様な職業のメンバーが集まる。銭湯の隣にある風呂なしアパートでの共同生活を経て、銭湯のあるくらしを体験できる施設「小杉湯となり」を企画・運営。
http://sentogurashi.com/

JAPAN MADE PROJECT
アーバンリサーチが「地域活性化」をメインタスクとして、日本各地の企業やクリエイターによって作られるローカルコミュニティとともに、その土地の魅力を再考し発信していくプロジェクト。
2014年9月に長崎にてスタートして以来、石川、熊本、東北、京都、東京で取り組みを行っています。
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