外部サイトへ移動します
CULTURE TRIP OCT 10,2018

【だれも知らない京都】うまいもん越しに愉しむ<崇仁新町>の“ネオ”

かつて「誰も知らない」と言われていた街に屋台村ができた。ビールで乾杯、ソウルフードでお腹を満たす。この場所では国も性別も年齢も何もかも関係ない、ただ「うまいもん越し」の会話が、日々生まれている。


崇仁新町、通称ネオスウジン。

京都駅から徒歩数分。高倉通りと塩小路通りの交わる交差点に突如として現れるコンテナ仕立ての屋台村があります。

立地の良さと、「酒よしつまみよし店構えよし」の雰囲気に誘われて、地元民から観光客まで毎日たくさんの人がやって来ます。

「おお、良さそうだ。いつか京都に行く機会があれば寄ってみよう」

そう思ったら是非お早めに。

ここは京都市立芸術大学が移転して来るまでの期間限定営業なのです(大学は2023年移転予定ですが、崇仁新町は2020年夏頃までの予定)。

地元のソウルフードから、京都の名店までが立ち並び、アルコール類も充実。夕方5時にもなれば、すでに席は埋まり始め国籍も年齢も性別も様々なお客さんたちが集まっていました。

とりあえずその熱気に負けじと、気になるものを片端から頼んでみましょう。

まずは牧野さんのコラムで登場して気になっていた「フライ」から。

フライとはレバーをからりと揚げて、ソースをかけたもの。
地元の名店・清華園(店主はドラマ「スクールウォーズ」のモデルとなったメンバーの一人だそう!)のミノテン(白)とレバテン(赤)各5P 550円。

東京でも下町エリアではレバーフライを売る店が多いので「さぁて京のレバーフライはどんなもんじゃい」とちょっぴり意地の悪い気持ちで一口パクリ。

嗚呼、レバーの新鮮さ、ソースの奥深さよ。

今まで食べたことのあるレバーフライの頂点にあっという間に駆け上がりました。東京下町の薄いレバーフライも美味ですが…こちらのフライは全然ベツモノ!

新鮮なレバーはサクッと歯離れが良くて、でも噛みしめると弾力があって、例えレバーフライを食べたことがなくても「ああ、これこれ」とつぶやいてしまうような身近な美味しさがあって。噛むほどに溢れ出るレバーやミノの滋味深い旨味に、さらにピリ辛のツバメソースが程よく絡みます(ビールおかわりください)。

ちなみに牧野さん+スタッフ6人で行ったのですが、「僕はいつでも食べられるからみなさんでどうぞ」と言われた瞬間、10個入りのパックを前に争奪戦になったことは言うまでもありません。

01.ニコニコ気さくな清華園の店主
02.ラガーマン時代のユニフォームが飾られていました。

もう一つ食べてみたかった地元ソウルフードだという「ちょぼ焼き」にもありつきました。

昔は何軒かちょぼ焼きを出すお店があったそうですが残念ながら店舗はなくなってしまい、この崇仁新町で復活したそうです。

ハガキ半分くらいのサイズの板に、たこ焼きのようなまあるい溝があり、小さいスプーンで少しずつ削って食べる方式です。
細かく刻んだ甘めの沢庵やちくわ、スジなどをモッチリとしたうどん粉でまとめたちょぼ焼き。あっさりしているけどいろんな具材の食感が効いていて、スプーンでちびちびと食べるのがまた楽しい。

他にもレモンの皮ごと入ったレモンハイやらビールやら、それに合う焼き鳥やら食べながら、ふと、「ここは毎日来ても飽きなそう」な事に気がつきました。それほどお店の個性がさまざまで、魅力的。

ここに出すお店を選ぶにあたっては牧野さんも尽力したそうです。

「地元のお店のお客さんを奪い合わないように、(べた焼きなどの)粉もんのお店はやめて、でも京都らしさと地元らしさを残したお店を選ぶようにしました」。

焼き鳥や天ぷらなど誰もが馴染みがあるものから、ちょぼ焼きなどの初めて食べるソウルフード、そしてハンバーガーやフィッシュ&チップスなどのがっつりフードまで。

食のチョイスは幅広く、さらにそれぞれが名店と言われるお店なのでクオリティも文句なし。

出張で京都に来るたび毎日ここへ通う人もいるそうですが、ウンウン、その気持ちわかります。

店内も広く、席も自由、雨天時もオープンとなれば知らない人同士の会話も自然と始まり、屋台村全体に賑やかな笑い声が広がっていました。

「よそもん」が新しい風となりて繋ぐ

さてさて、ここをプロデュースしたのは「東京」からきたwalksの小久保寧さんという方です。アウトドアが好きだという笑顔の素敵な小久保さんは、崇仁新町を運営するまちづくり団体「渉成楽市楽座」運営事務局長も担当しています。様々なイベント運営や映像制作を手がけてきたそうですが、関西圏でしかも飲食の運営は初めてだったとか。

「ややこしいこの場所に、“東京の子ぉ”が何をやるんやろうか。お店の人たちも案外面白そうと乗ってくれる人もいました」と牧野さん。(崇仁地区についてはこちら

もちろん歴史的にも見て見ぬ振りを長くされていたこのエリアに「よそもん」が入ってきた。そんな声もあったのは確か。だからこそ小久保さんは地元の人たちに話を聞き、交流をすることから始めたそう。

「過去の歴史をなかったことや知らなかったことにするのではなく、地域をつなぐ場所にしたかったんです。いろいろリサーチした時に、もともと闇市から始まった屋台や粉もん文化を知りました。だからこの場所で何かする時にファッション的なものではなく原点回帰できるものが良いだろうと。とにかくいろんな人に来て欲しかったんです。今は月平均2万5千人くらい、多い時は3万人くらい来てくれますよ」と語ってくれました。

さらにこのプロジェクトには移転してくる芸大の学生たちにも参加してもらうことになり、<食と芸術の融合>をテーマに掲げたそうです。

実際「屋台村」としての魅力も素晴らしいものです。

牧野さんが「昔はそこら中にあったのに…」と悲しむほど、昔は京都駅前はじめ、いろんなところに屋台があったそうです。けれど大人の事情でしょうか、いつのまにか”屋台”はほとんどなくなってしまったそうです。

その時代を覚えている人や、外国人の中にも「アジアの屋台」が好きな人たちもたくさんいて、そんな「屋台愛」を胸にここに惹かれる人も。

賑やかではありますがゴテゴテした感じではなく、店内の椅子や壁はシンプルだけどおしゃれ。コンテナという無機質なものと手作りの温かみが調和していて、ついつい長居したくなる雰囲気を醸し出しています。

夕方になればやわらかにライトが点り、遠くからみても「あそこに何か楽しげな場所がある」と思わせてくれるオーラがゆらゆら。

コンテナの2階には、貸切のオープンエア席が登場しました。

「アートや椅子などは芸大の学生さんに協力してもらったんですよ。ライブイベントなどを定期的に行ったりもしています」
(小久保さん)

ちなみにここにはクーラーはないそうです。夏は扇風機、冬はストーブがたかれますが室内のお店と比べればどうしても気温の影響を受けます。

真夏と真冬は大変ですね、とこちらが問いかける前に…

「今年の…夏は…やばかった」

「ええ…」

と、牧野さんも小久保さんも急に遠い目をしてました。
(この日も気温が35度ほどありましたが、数日前に記録的な猛暑日があったそうです)

ちなみに冬は焚き火を焚くそうです。夏の暑さはちょっと大変(そのぶん冷えたビールがうまい!)ですが、焚き火を囲みながらお酒やおつまみを楽しむのは想像するだけでも楽しそう。

かえすがえす、ここが数年間の期間営業なんて勿体無い。
そうポツリと呟くと、
「大学移転計画が遅れれば遅れるだけ長くお店ができるんですけどね(笑)」と悪戯に笑う小久保さん。

<崇仁>の名を残し、かつてこのあたりにあった屋台文化を継承した<ネオスウジン>は地域と旅人をつなぐHUBステーションのようになっています。

観光客として訪れる<ネオスウジン>はただただ美味しく楽しい楽園です。

でもその中には
「なくなりつつある屋台文化」
「崇仁地区の歴史」
「これからここにくる学生たち」
が混ざり合っていて、過去の記憶と、未来の希望と、そして懐かしい思い出とがミックスされた結果の<ネオ>であるということ。

それを知って楽しむのもまた<京都>を深く知るためのひとつなんじゃないかな、と思います。

兎にも角にも<ネオ>な崇仁があるのはもうあと数年のこと。

だからほら、お早めにおこしやす。

崇仁新町

〒600-8207 京都府京都市下京区上之町(塩小路通)19-6 (塩小路高倉の交差点角地)

営業時間 : 平日17:00〜23:00 休祝日12:00〜23:00

URL:http://sujin-shinmachi.com/

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

page top