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CULTURE TRIP OCT 24,2018

【だれも知らない京都】京都の中華とコーヒーと牧野さんと

世界中の色々なものが、京都には集まっている。コーヒーしかり、中華料理しかり。どんなものでも京都流に寄せていく、そのパワーの源はなんだろう。


マメに豆を愛する。京都人とコーヒー

気持ちの良い川沿いに、
ほっかり佇む真っ白なコンテナ。

中に入ればコーヒーの香りと、つい手に取りたくなるような魅力的なランナップの本がずらり。

ここは<京都案内人>の牧野さんが店主をされている
TRAVELING COFFEEです。

もともとお隣の元・京都私立立誠小学校内で営業されていたのですが、耐震補修工事のために現在は南側の運動場に建設されているコンテナでの仮ぐらし営業中(ちなみに立誠小学校は昭和3年に建設され、日本で最初の「映画」を放映した場所としても知られています)。

コーヒーと本の相性の良さは、言わずもがな。

飲んで、読んで、飲んで、読んでと永久機関のように楽しめる名コンビです。

TRAVELING COFFEEにくるお客様も、思い思いの席で気になる本を手にとって、心ゆくまでゆるり。

ちなみに日本で「コーヒー」が一般人にも浸透したのは明治時代ごろだそうです。世界ではとうの昔にコーヒーの味が伝播していた中、(江戸時代)鎖国中だったので海外との交流がある一握りの人くらいしか「こぉひぃなるもの」を知ることは叶わず。

ですが開国するや否や、その他外国料理や文化同様にコーヒーも案外するりと日本人に溶け込んでゆきます。

当時はカフェ=「大人の社交場」だったそうですよ。コーヒーは芸術を愛する人々や、知識人たちが交流する場にて提供されていました。そうやって「ハイカラ」なものを愛する人たちに支持されたことでさらに一般的にも広がってゆきます。

以前取材した老舗と呼ばれる喫茶店の何軒かは、店内のインテリアや食器に非常にこだわった所が多く、話を聞けばかつてコーヒーが活躍した、社交場としての矜持を根っこに持つことを大事にしていらしたのが印象的でした。

さてさて、時代は変わって今は「お茶にする? コーヒーにする?」と食後に聞かれるほどコーヒーを飲むことが当たり前の時代になりました。

インスタントはもちろん、家庭でも本格ドリップを楽しむ人も多いです。

でもやっぱり喫茶店の店主が淹れてくれたものは美味しいですよね。何が違うんだろう? といつも思いながら、やっぱり自宅で淹れるのとはだいぶ違うよなぁ、と変な納得をしながら飲みに行っています。

そしてコーヒーと言えば京都。

京都には名店が多すぎる!!

本気で珈琲めぐりをしたければ、あっという間に数日過ぎてしまうほど。

なんで京都にコーヒーが根付いたんでしょう。それこそ京都はお茶の聖地みたいなとこなのに。

「京都は職人の街なんですよ。ぱっと食べてさっと仕事に戻れるようにパン食が広まったんですが、それとともに相性の良いコーヒーも人気になったんだと思います。それと京都ではタダで飲めるお茶も“いいもの”だからねえ。だからお茶でお金取る(商売する)のは本当に大変」

そういえば以前、“ちょっと良い豆”のコーヒーを飲んだ時になぜか「出汁」の味がして(出汁というか旨みというか)、だから京都の人の味覚に合うのかなあと思ったんです。

と聞いてみたら牧野さんがニヤリとした。

「それと京都はね、豆文化なんですよ。
納豆、豆腐、あんこ、で、ほら、コーヒーも豆でしょ?」

なるほど。コーヒーは言われてみれば豆の味。

京都でのコーヒーの草分けは、六曜社と小川珈琲と言われています。

両店舗とも“名店”と呼ばれ、わざわざ他県からコーヒー詣でに来る人が途絶えないほど。そして現在でも口の肥えた京都人のお眼鏡に叶うお店が続々オープン中。老舗もルーキーもレベルの高さはさすが京都と感嘆せざるを得ません。

「京都のコーヒーの良さは、むしろ東京などの外の人が見つけてくれたんですよ。中にいると当たり前すぎてなかなか気づかないからね。京都なら“何か深いものがまだまだあるはず”っている見えない期待もありますよね。確かにレベルは高いし、コーヒーひとつでも幅が広い。

ちなみに「喫茶店」は昔から数多くずっと存在していたんだけれど、人気としては下降線をたどっていたんです。2001年頃のカフェブームで今度はカフェが増えた。しかしカフェは“保たない”んですよね。だんだん廃れて今度はサードウエーブにより再びコーヒーブームが起きました」

牧野さんは以前無農薬野菜を使ったカフェを営業していたそうです。

牧野さんの後ろがショップ内の“図書館”。京都の歴史本やグルメまで幅広いジャンルが揃う。選書はブックディレクターの幅允孝氏

「たくさんできたカフェに片っ端から足を運んだけれど、食もそこまで美味しくなくて腹がたって(笑)。だから自分の農園で無農薬の野菜を育てたり、モンサンミッシェルから生きたムール貝輸入したり、そんなお店を作ったんです。
でも、その後同じコンセプトのお店もまあ増えてきて、つまんなくなって辞めちゃった(笑)」

ちなみに京都のコーヒーは深煎り文化なんだそう。イメージ的には浅煎り好きそうだったのでちょっぴり意外!

「カフェを営業していた当時はイリーの浅煎りの豆を仕入れていたんですが、浅煎りが当時はなかなか京都の人に受け入れ難かったようで、酸っぱいとか酸味がキツイとか、フルーツ?とか、これコーヒー? 的な事を言われていました」

現在のTRAVELING COFFEEでは京都のロースターに焙煎をお願いしているとか。有名珈琲店では1杯1000円クラスでも当たり前な時代ですが、牧野さんは「400円」で飲めることにこだわります。

「“いい豆をお客さんに飲んでもらい、より深くコーヒーを知ってもらいたい。そしてその窓口になる為に、安く提供したい”。それをロースターさんに理解してもらい、値段を安くで仕入れさせて頂いてます。コーヒーブームが終わるのもやだし、僕らは“抽出隊”、焙煎はプロの職人である焙煎家としてお客さんにいいものを出すために一つ一つの仕事をこなしたいと思っています」

ちなみに牧野さんがコーヒーに出会ったのは20代の頃だそうです。

「<フィッシュ&チップス>という京都の初めてのクラブ作った時に、お酒のつまみでバナナチップを知り合いの業者に頼むとコーヒー豆がおまけについてきたんです。もったいないからお酒に漬け込んでみたり。で、ちょっと自己流でガリガリと挽いてみたり。

そう、僕、珈琲はストリート派なんです。全部自己流(笑)」

今は小さな農園の質の良い豆を直接仕入れる個人バイヤーも多く、また腕のある焙煎所も増えています。だから例えば同じ「コスタリカ」でも全く違う個性を持った味のコーヒーが楽しめます。

昔は「コーヒーはコロンビアしか飲まないよ。キリッ」みたいなことをいうのがかっこいい。そんな風潮もありましたが(私も言ってました)、今の時代はむしろ「美味しいコーヒーは美味しい。この味は初めてだけど好き」と素直に感じた方が断然楽しいのかも知れません。だから牧野さんやロースターさんたちの努力でたくさんの種類とお手軽に出会えるのは本当に嬉しい!

牧野さんは地域のコーヒー店が一堂に集まる「ENJOY COFFEE TIME」というイベントにも関わってらっしゃいます。

お店の垣根を超えて、良い味に出会える。

なんともコーヒー好きには良い時代になりました。

「みんなが育てた」京都の中華

さて京都で何を食べようか。

イメージとして大きいのは、京風料理、おばんざい、伝統的な和菓子…つまりはいわゆる「和食」的なものが多いかもしれません。
でもいざ京都に入ると、案外中華料理さんの方が目に付いたりしませんか?

実は京都は餃子消費量が全国2位なんです。

チェーン店の<天下一品>や<餃子の王将>は京都発祥。そのくらい中華料理が根付いているとか。

しかしなぜ、京都で中華?

しかも京都の中華は、やっぱり“京都の”中華としか表現ができないほど、少し独特。

ちなみによく「京都は薄味」とイメージされることが多いですが、それは「調味料が足りない」薄さではありません。

ジャンクフードのように舌にガツンとくる旨みではなく、咀嚼して、飲み込んで、ふぅと一息ついた時にふんわりとため息とともに立ち上がってくる旨み。それは中華料理であっても同様で、例えば麻婆豆腐でも、酢豚でも、なんというかはんなりと美味い。そんな雰囲気。

牧野さん曰く、「中華」もパンやコーヒーのように、京都の“中の人”の行動様式に結びついて広まったそうです。

「職人さんたちはずっと仕事場にいるわけですから、においのきついものなどは食べないんです。だから京都の中華はニンニクを使わないものが多い。あとは昆布だしを使ったり、具材も京都独特だったり」

職人さん以外にも、舞妓さんや芸妓さん、そして旦那衆。そんな京の文化を支える人たちの、ある意味わがまま的なリクエストが、京都の中華を育てたと言っても過言ではありません。全世界を制覇している中華料理ですら京都に寄り添わせてしまう。この辺りはさすが京都といったところ。

そういえば、以前京都で食べた春巻きはタケノコがいっぱい入っていてパリパリ、シャキシャキ、トロトロで絶品でした!

「京都は筍が沢山取れるんですよ。だから具材に筍をたっぷり入れるところが多い。“京都の中華”は、もともとは神戸から京都に来た中国人シェフが<支那料理ハマムラ>で考案したものが最初といわれています。高さんという方なのですが、独立した彼の流派をついだお店は数多く、お店に“鳳”の字がつくのが特徴」

あとで調べてみたら、以前食べた春巻きもその“鳳”のつくお店でした。たくさんの種類を食べたのに全然胃もたれもせず、もしろ麻婆豆腐の残りの餡をいつまでも掬って食べてしまったくらい飽きのこない美味しさだったのを生唾とともに思い出しました。

そうそう、京都の中華料理を体系的にまとめた、その名も「京都の中華」という名著がありますが、そこにこんなことが書いてあります。

(中略)京都の人は、衣食住すべてにおいて「もの」が持つ味を愛でるため、不要なものを「削ぐ」「抜き去る」、または「薄く味つけて引き立てる」ことに腐心する。「京都の中華」も同じかも知れない。にんにくのパワーではなく「香り」を、油の量ではなく「こうばしさ」を、強い火力で初めて知る「素材の味」を、かつを・昆布にはない「鶏がらだしの風味」を、和食にはない「ほんの少しの無礼講」を、私たちは求め、食べている。

職人さんや芸に関わる人たちの仕事ぶりはとても繊細です。

だからこそ中華の“ほんの少しの無礼講”が、仕事に、芸に刺激を与え、エネルギーとなったのでしょう。

京都で中華が根付いた、その理由がほんの少しわかった気がします。

いつまでも変わらない吸引力「そう、京都ならね」

とどこかで聞いたようなフレーズを書いてみたものの、あながちそれは間違っていない気もします。

コーヒーも中華も、別の国のものだったのに気がつけば京都に引き寄せられ、寄り添い、気がつけば「京都風の、」と呼ばれるある意味独立的な存在になっています。

新しい文化を拒否するのではなく、むしろ積極的に取り込んで、そして最終的には自分たちの暮らしに合わせてはんなりと馴染ませていく。

もしも京都の中に入るには、きっとこちらが一度丸ごと吸収されるくらいの勢いで行くのが良いのかもしれません。京都に飲み込まれて、そして消化された頃、もしかしたら本当の<京都>の中を覗ける、のかも。

引用
「京都の中華」姜 尚美 / 幻冬舎文庫

<京都案内人>

牧野 広志TRAVELING COFFEE 店主

1966年生まれ。
94年渡仏、90年代をパリ ルーアン リヨンで暮らす。
2002年 帰国後、京都の新しい情報発信空間の提案者として文化と地域に密着中。

-TRAVELING COFFEE –
昭和2年築の木屋町 元・立誠小学校 職員室で営業していたTRAVELING COFFEE が耐震補強工事の為に高瀬川沿いに建てられた仮設の立誠図書館内で営業。
図書館の選書はブックディレクター「BACH」幅允孝氏。
珈琲はブレンド2種類に加え、シングルオリジンは京都府内の焙煎所を毎月選び焙煎家と話し合い常にオリジナルを4種類程オーダーメイド。

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TRAVELING COFFEE

〒604-8023 京都府京都市 蛸薬師通河原町東入 立誠図書館 310−2 Bizenjimacho 中京

営業時間 : 11:00〜20:00

TEL : 080-3853-2068

URL:https://www.facebook.com/kyototravelingcoffee/

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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