外部サイトへ移動します
CULTURE TRIP AUG 22,2018

【ハッとしてグッドな田原市!】ハワイみたいな楽園が、実は日本の真ん中あたりにありました。

「海へは行きたし、されど混雑はできれば回避したし。地のうまいもんにも出会いたし」。日本の真ん中よりちょっと下、おへそあたりにそんなわがままを叶えてくれる夢の国があるという。海と風とフルーツと、そして広い空に誘われていざゆかん、波を愛する街へ。


——どこまでも広く青い海!
吹き抜ける気持ちの良い風!
美味しい野菜やフルーツ、新鮮なシーフード。
そしてボリュームのあるステーキをお腹いっぱい召し上がれ——

もしもこんなキャッチフレーズを聞いたなら、
思いつくのはハワイやグアム、タヒチでしょうか。もしくは沖縄?

いえ、実は愛知県なのです。
いえいえ、タヒチじゃないです、アイチです。

愛知県といえば名古屋! 味噌カツ! エビフライ! ハワイっぽくなんてないじゃないか、と一瞬思った人もいるかもしれませんね。

でもあるんですよ。ハワイみたいな場所が。

もちろんそのまま“異国情緒あふれるイメージのハワイ”、というわけではありませんが、広い砂浜、ヤシの木、大きな波、のどかな田園風景、そして新鮮なフルーツ。
ほらね、そんなみなさんがハワイやグアムに求めることなんかがちゃーんと揃っています。

海を愛するサーファーに聞きました

さて、なぜその場所へたどり着いたか。

7〜9月は「URBAN TUBE大人の夏休み企画」をテーマにしています。
前回は山へキャンプに行きました。山と来れば当然次は海に行きたくなるわけです。

当たり前ですが日本は四方を海に囲まれた国。海に行こうと思えば全国何処へでもいけます。でも「大人の夏休み」としては、そこに美味しいものも加えたいし、開放的な気分も味わいたい。かと言って人気の観光地はどこも人でいっぱいだからできれば“知る人ぞ知る”場所でのんびりしたい。

そこで、“そうか、海のことならサーファーに聞けばいい”となったわけです。

とりあえず身近にいたサーファー数名にリサーチをしたところ、オススメされたのが今回行く“愛知県、田原市”でした。
みなさん同様、“愛知県といえば名古屋味噌カツエビフライ”、だったので最初は半信半疑でした。けれどサーファーが「あそこの海はいい。ついでに海の幸も最高だよ」というのだからきっと素敵な場所のはず。

そう信じて、東京から車を走らせ約5時間。
やっとたどり着いた私たちを待っていたのは、
ざざーん、ざばーんと波が押し寄せる、青くて広くてなんだかパワフルな海でした。

サーフィン準備室に潜入してみた

愛知県の形をよく見ると、まるで赤子が丸まっているかのような形をしていますが、その足元辺り、細長い半島(渥美半島)部分が“田原市”なんです。

内海(三河湾)と外海(太平洋)に挟まれ、豊かな海産物はもちろん、野菜、果物、花などの農作物も豊富。輪菊や冬春キャベツなど日本一の出荷量を誇る農産物も多いとか。

もちろん目論見通り、“うまいもん”にもたくさんありつけたのですが(3話目に報告予定)、その前に「田原市」についてちょっとばかりリサーチしたいと思います。

まずは田原市の市役所に行ってみました。

そこにあったのは???「サーフィン準備室」???

飾られるポスターもワクワクするサーフィンや海のものばかり。

市役所なのにサーフィン!?というところにまずハッとします。

なんでも今年の9月、田原市の伊良湖というエリアでサーフィンの世界大会があるそう。その大会のための準備室なんだそうですよ。(ちなみに正式名称は「ワールドサーフィンゲームス準備室」)

とはいえ普通なら「海岸企画室」などのお堅い名前になりそうですが、「サーフィン準備室」というネーミングにしたところに一気に親しみが湧きます。

そんなユニークなサーフィン準備室、室長補佐の松井茂明さんにあれこれ聞いてみました。

そもそも、なぜ「サーフィン」なんでしょう?

「田原市はたまたまサーフィンにとても適した波があるのに、今まで役所側からそういったアプローチがなかったんです。サーフィンなんてどこでもできるんじゃないのか、って思ってたくらいで。
でも、『そう(どこでもできるわけ)じゃない、波も地形もすごく良いし、海から見て人工物がない環境でサーフィンができるのは素晴らしいんだ!』と、田原の海の良さに気づいたサーファーの方たちに教えてもらったんですよ。

市役所の中に入るとサーフボードが飾られていました

ここ数年、市としても改めて田原市の魅力を見つめ直そうとした時に、そうだ、(田原には)サーフィンがあったじゃないか、となりました。
今までもイベントの後援などはしていましたが、サーフィンのワールドカップといわれるワールドサーフィンゲームスを“準備室”としてしっかり応援して行こうと思っています」
そういえば2020年の東京オリンピックでもサーフィンが正式種目になりましたが、ワールドサーフィンゲームスは1964年から続く歴史ある大会。なんでも日本で開催されるのは2回目なんだとか。

そんな大きな大会を開くことができるほど素敵な海が身近にあるってなんて羨ましい話。

「そういえば、私が高校生だった30年以上前に、町にある普通のホームセンターにボディボードを売っていて、それを買って自転車で海へ行っていたことがありました。現在だって、ホームセンターにボディボードは置いてありませんよね?そう考えると、昔から田原はけっこうやるな!と思いますね」

学生諸君、テストに出ますよ!田原の偉人。

渡辺崋山像。教科書などで見覚えがあるはず!

と、市役所ですらなんだか先進的で革新的。
なんでもそのマインドは昔っからだったそう。

田原市の歴史を語るうえで欠かせないのが「渡辺崋山」です。
幕末の田原藩家老であり、蘭学者・画家でもある人。

そういえば学生時代、“蘭学者”として日本史のテストに出題された記憶があります。(美術では“画家”としてテストに出たことも)
学生のみなさまは、これを機会に覚えておきましょう。

この崋山がかなり先進的な人で、ガッチガチの鎖国中に、広く海外に目を向けて鎖国に反対する思想を持っていたり、田原市の“まちづくり”にも深く関わります。
“家老”と聞くと、時代劇では賄賂で私服を肥やしたり、出世のために他人を蹴落としたりする“悪い家老”がよく出てきますが、どうやら渡辺崋山はその真逆、“良い家老”だったそうです。
特に稲作の改良や、流通用に作物を増産したり、これまたテストに必ず出る「天保の大飢饉」ではしっかり備蓄をしていたので餓死者を出さなかったとか。
今みたいにインターネットなどない時代。先の時代まで見据え、“農・工・世界”を俯瞰から見ることができたものすごい才能に溢れた人です。

そんな偉人ですから、田原市ではその功績は今でも称えられているし、そのマインドもしっかり引き継がれているとか。

それともう一人、すごい人がいます。
野菜や果物の天国みたいな田原市ですが、今のように農作物で有名になったのは実は割と最近のこと。今年50周年記念を迎える「豊川用水」ができてからなんだそう。
田原市のあるエリアは渡辺崋山も含め先人たちがたくさん努力をしたけれど、大きな河川がなかったので雨が降らなければどうしても干ばつになる、農業困難地域でした。
そこで近藤寿市郎さんという人が海外視察などを経て、田原にもダムを建設し溜めた水を導水するという構想を思いつきます。最初はあまり賛同を得られなかった計画ですが、最終的にはその計画通り、農場・水道・工業用水が引かれ、もともと温暖な気候だったので、まさに水を得た魚のごとく一気に農業が発展したそうです。

下の方の池のように見える部分は、なんと全部がソーラーパネル。他、風力発電なども多く設置されていてエネルギー生産にも力を入れている。

工業用水が引かれたことで、農業だけでなく、トヨタの工場などグローバルな工業も盛んになり、まさに渡辺崋山が考えたような“農・工・世界”のバランスの良い街へとなりました。

そしてそういう超有名人だけでなく、市井の人にもマインドは引き継がれています。

花の産地としても有名な田原市。商業用だけではなく、普通の道沿いにも春は菜の花、夏はひまわりなどが咲き誇っているのを見ることができます。

「例えば田原市では個人経営の人が多いんですよ。花や農作物などを育てながら、中小企業を経営する感覚の人も多くて、海外と直で取引をしたりする方もいます。
もちろん田舎(ローカル)コミュニティ的なものはありますが、かと言って閉鎖的ではなく、名古屋や関東などから情報もたくさん集まって、自由に“チョイス”ができる場所なんです」

たはら暮らしのススメ

松井さんには田原にまつわるあれこれを伺ったが、(一番気になっていた)グルメの話も面白かった。

海の幸、山の幸が豊富な田原市では、もちろん飲食店も充実しています。ハマグリか?というくらいでっかい大アサリや大きなエビフライ、ジューシーな豚肉料理などなど地のものの豊なグルメが楽しめます。

ふと、オススメの料理屋さんはありますか?と聞くと、ちょっと笑ってこんな話をしてくれました。

「もちろん私がとてもオススメしたい店はあるんですが、他の(地元の)人は別の店の方がうまい、と言ったりするんです(笑)。
つまり、ここらでは店によって“(味が)合う、合わない”が結構あるんですよ。でもそれはつまりは“画一化された味ではない”ということ。それが逆に面白いと思っています」。
そしてこんな羨ましい話も。
「メロンなんかは物々交換で家にゴロゴロしています。このあたりのメロンの食べ方は、1個を半分に切って、それをスプーンで食べるんです。で、最後に下の方に汁がたまるので、それを飲むのが美味しい。食べた皮は敷地に置くと朝にはカブトムシが止まっています。あと冬春キャベツは日本一の出荷量なのですが、“ここのキャベツでお好み焼きを作ると甘くて美味しい”とよく言われますね」

夢の“メロンハーフサイズ独り占め”が当たり前にできるのも、農産物が豊富な田原市ならでは。これだけでもメロン目当てに移住したい気になってしまう。

そういえば数年前から、若い世代でも“移住”を考える人が増えています。
その理由としては、ネットの発達で(職種によりますが)都心でなくてもできる仕事の選択肢が増えた、仕事と同じくらいライフスタイルを楽しみたい、健康のために美味しい野菜が食べたい、などなど。

発展しているけれど自然が残る。海もあって野菜や果物も美味しい。
そんな田原市にも、サーフィンが好きな人中心に移住者が増えているそうですよ。

「ただ現状では提供できる空き家も少なく、住宅にできる土地も少なくてまだまだ制度はととのってはいないんですが、それでも移住する方は増えています。田原市としては働き盛りの若い世代はもちろん、サーフィンなどを通してコミュニティの活性化ができるリタイア組もウェルカムです!」

田原市の観光パンフレットは歴史もの、グルメものなどいろいろ面白いものが揃っていました。

そういえばもう一つ田原市の面白いものを見つけました。ちなみに市役所には、いわゆる観光パンフレットがたくさん置いてありますよね?

田原市役所にももちろん様々なアプローチのパンフレットがあるのですが、その中で「たはらごよみ」という小冊子が気になりました。

インスタグラムの田原市公式アカウント@tahara_kurashiに「#たはら暮らし」で投稿された写真をまとめた、田原市の1年を巡る素敵なフォトブックです。
開いてみると草原、夕日、サーフィン、キャベツ、かき氷など様々な“たはら暮らし”の1シーンが繰り広げられています。

01.こちらが「たはらごよみ」
02.サーフィンなどの人気スポットの素敵な写真がたくさん。
 03.その他農家さんや農作物など「地元ならでは」の写真も楽しめます

ガイドブックや観光パンフレット、ネットの口コミなどから訪れた土地を観光するのではなく、例えばこんな「地元の人目線」の写真から、行きたい場所を見つける旅も楽しそうです。

観光大使キャベゾウ。他に貝をモチーフにしたかいくんもいます。

さて、渥美半島のきらり観光大使キャべゾウに見送ってもらいながら、明日はいよいよ美しい海でサーフィンを体験をしてきたいと思います。
なんでも波が胸くらいあるらしいですが…。キャべゾウに負けず、ノリノリで波に乗ってきたいと思います!

※今回は田原市を車で巡りましたが
新幹線の豊橋→渥美線で三河田原駅下車→市内バス
もしくは鳥羽などからフェリーを使用することもできますよ。

田原市内にある公共交通(バス・鉄道・フェリーなど)
公共交通(バス)

2018 URBAN RESEARCH ISA WORLD SURFING GAMES (2018 ISAワールドサーフィンゲームス)

愛知県田原市
開催日時 : 平成30年9月15日(土)〜9月22日(土) ※予定
お問い合わせ : 2018 ISA ワールドサーフィンゲームス実行委員会 広報事務局 (株式会社ニブリック内)
担当:大⽵
Tel:03‒6264‒1621 (平日 10:00〜18:00)
Fax:03‒5825‒4811
E‒Mail:otake@niblick‒tokyo.co.jp
URL:http://www.wsg-tahara.jp/

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

page top