【ニュートラソウル!】ムンチンは見た! ソウルなう

日本では今、第3次韓流ブームとも言われています。そして現地ソウルでは瞬きする間にも新しい流行が次々生まれているんだとか。そんな噂に誘われて、すっかり韓流ブームに乗り遅れたムンチンが20年ぶりに가즈아~!! 빨리빨리 Seoul !!(行くぞーソウル)。
20年冬眠している間に、ソウルはめっちゃ進化してた…

その街は音と色と熱にあふれていた。
建物の色だけではない。いえむしろ建物自体はシックな色合いにもかかわらず、それを飾るいたるところにある華やかな看板、派手な色の食べ物、そこに賑やかな人々の声にも感情の色が混じり、町は色ずく。パワフルで、元気。街のあちこちからそんなパワーを感じる。
ここは韓国・ソウル。羽田空港からたったの2時間ちょっと。下手をすれば東京—大阪よりも近い。日本から最も近い外国なのに、実は20年前にファッション誌の取材できて以来足を運ぶことがなかった。韓国人の友人は多かったし、K-POP始め韓国発のカルチャーを聞きかじりはしていたけれどその盛り上がりの最先端には乗り遅れた感があって、なんだか後乗りするのが少し億劫だったのかもしれない。
今回はそんな“「亡霊」みたいな古臭い人間が改めて見たソウル”なので「何を今更」と思われる人も多いかと思うが、(多分)少なくはない「冬のソナタ」あたりから記憶の更新がない同類の人々のためにも恥を忍んで記したいと思う。

今回その鈍っていた足を運ぼうと思った理由の一つが、SNS上で“ソウル情報”がなんだか急に目につくようになったからだ。
もちろんK-POPやオルチャンメイクはずっと流行っているのは知っていたけれど、自分の興味の範囲外だったこともあり若干スルー気味でああった。
でもここ数年はインディーズのバンドや、韓国人のアーティストの名が目立つようになっていたり、アートブックフェア情報など“今まで目にしてこなかった”韓国情報が増えたように思う。
それと前後して、少し前まではNYだのパリだの、ハワイやらグアムやらに足を運んでいた友人たち(多くはファッション関係)が、こぞって韓国に行くようになった。20代の男子は金曜にもなれば「ちょっとクラブに行くために韓国へ」行くという。俄然、「近くて海外」の韓国が気になってきたのだ。
さて、機内でひと眠り、することもなくあっという間に金浦空港に降り立った。空港を降りると青空の広がる快晴ではあったが、街にはすでに冬の香りがしている(ソウルは東京より、ずいぶん寒い)。薄手のコートしか持ってこなかったのを後悔しながら同行者にまずは「ソウルなう」について聞いてみた。
「確か20年前に来た時は、朝まで開いている東大門のファッション市場ビルが一番ホットな情報だったのだけれど…」と呟くと、同行者(韓国通の日本人女性と日本に長く住んでいた韓国人女性のコンビ)たちから苦笑と呆れた目線が飛ぶ。
「一体いつの昔話よ。もう今は全く違うエリアに中心は移っているよ」
あの頃は“朝まで買い物ができる”と言う日本とは全く異なったカルチャーにただただびっくりしたまま帰国したので、あれ以上に情熱的な場所があるのがまだ若干信じられない。
「また20年前の思い出に浸ってる」そんな風にからかわれたので、ならば今の旬はなんなのよ、と問う。
「ちょっと前はホンデも人気だったけど、今は川を挟んで向こう側、カンナムかな」「インスタ映えするカフェもたくさんできた」「ちゃんとドリップしたコーヒーショップも増えてきた気がする」「ちなみにカフェはカペ、コーヒーはコピって発音ね」
こちらがあっけにとられる間、「なう」情報は止まることがない。
「グーグルじゃなくてネイバーかカカオトークがメインね」「カカオタクシーなんてものあるし」「なんでも携帯一本あれば生きていけるって感じ」「そうそう、韓国人からハンディポン(携帯)を取り上げたら停止しちゃうかもね」「最近はアート志向が高まっているわ」「美術館もたくさんあるしね」「夜遊びは相変わらず賑やかなあ」「なりたい職業1位はアイドル」
止まらない韓国なう事情。再びあっけにとられているととどめを刺された。
「韓国の流行は早いの。ついていかないとあっという間に情報が古くなるわよ」
さらに追い討ちのように「あなたのような人をね、문찐/ムンチン(문화(文化)と찐따(チンタ/行動が遅い人)を合わせた略語)って言うの〜」と言うありがたくない情報もゲット。
言い訳のようだけれど、日本を発つ直前に読んだ40代向けのファッション誌でも「なんだか最近の韓国は進化している!」的な後追いぽい特集が組まれていたから、ある程度の人間には致し方ないじゃあないか(ブツブツ)
ちなみにホテルは東大門近くを選んだので、“念のため”20年ぶりにビルの前まで行ってみることにした。
ちなみに当時はピカピカした建物は他になく、夜な夜な若者がビルの周りに繰り出して、そこがプチクラブみたいになってて夜通し遊んでいた…と、昔の記憶を頼りに歩いていたら、記憶にある風景がない!
「えっ、そこにあるじゃない」
目をやると、たくさんのビルに挟まれた、古いビル。あれ、こんなだっけ?
どうやらその周りにもたくさんファッションビルが立ち並び、すっかり街並みに同化してしまっていた。
そしてすっかり同化してしまったビルの代わりに、ザハ・ハディウッドのあの巨大な繭のような東大門デザインプラザがどどんと新しい主役として鎮座してた。主役級の建物の移り変わりで、こんなにも街のイメージは変わってしまうものか。まあザハデザインの濃さもあるけど。

当時は“朝まで買い物”のインパクトに目を奪われて、それ以外に注意を向けることがなかったのだけど、東大門はもともといわゆる問屋街。ファッション市場のビルの裏手には服飾関係の問屋が並び、ありとあらゆる素材・パーツ・布が集まっていた(日本のバイヤーもよく来るそうだ)。道を挟んで反対側にはカラフルなテープや電飾やらであふれている。もともとはこの問屋が主役の街だったのね。時に「流行」は目を曇らせるものだとムンチンなりに少し反省。
靴下屋の横では鍋を売っていたりしてカオスな雰囲気もありつつも気がついたら一人用のアルミの鍋300円を買っていた。帰ったら一人ラーメンしよう。

今回は東大門のほか、ホンデ(弘大)やらソウル内のあちこちを巡った。韓国はタクシーが安いので、ちょっと贅沢にタクシーを使用。カカオタクシーが多くて、メッセージを受け取るたびに車内に特徴的な受信音が鳴り響く(タクシーの運転手さんはいい人が多かったけど、運転は総じて荒めだった)。
おおよそ街から街まで30分から1時間程度(市内はとても混んでいるというのもある)。もう少しコンパクトな町のイメージだったけどよく考えればソウル市内はほぼ23区と同じ大きさ。地下鉄を乗りこなせればもっと時短ができたかも。

さてさて、もうちょっと“過去からの亡霊”から見たソウルなうが続きます。
20年前と変わったところ。それはパッケージ、看板などのデザインがぐんとおしゃれになっていたこと。
もちろんデザインにおいて4つの文字を組み合わせる(漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット)日本と比べて、ハングルのみ、もしくはハングルとアルファベットだけを組み合わせるからシンプルでスッキリとしたデザインになるのは当然だけれど、20年前に見かけた派手なデザインは鳴りを潜め、例えばスーパーの食品などにしても非常にセンスのいいパッケージが並ぶ。



ハングルは表音文字である。音のままに母音と子音を組み合わせる方式だから例えば文字のない国にハングルを輸出することもできるし、そういう意味でも非常にアグレッシブなのだけれど、ここ数年「ハングル」のデザイン力への可能性を見出すデザイナーも増えたそうだ。どこの国の文字であっても、フォントデザインが良いものは素直に美しいなあと思う。
スーパーやデパートで、たとえ文字が読めなくてもすっと手に取りやすいデザインのものは買う側にもなんとなく安心感を与えてくれる。安心感を与えてくれればその街にとても愛着が湧きやすい(ついでに財布の紐の緩みやすい)。この辺りのデザイン戦略、素直に感動した。
文字つながりでもうひとつ。
日本ではやや下火になりつつある“紙媒体”が韓国ではまだまだ盛んだ。もちろんウェブサイトも沢山あるのだけど、同じくらいアートブックをはじめとした紙本も盛んだった。
そういえば友人のカメラマンや編集者がちょくちょくアートブックフェアのためにソウルに行っているのをSNSで目にしていたが、聞けばソウルでは印刷代が安い上にクオリティが高いんだそうだ。だから今回出会ったアーティストたちもこぞって自己表現の一つとしてZINE、リトルプレスなど「紙」媒体を積極的に選ぶ。さらにそれがネットでの発信と同時進行なのが非常に面白い。どちらの特徴も上手に掴んでいるからとても「効果はバツグンだ」!!

ちなみに日本では小ロットの本を作るのがとても大変だ。コストも高い。結果紙の質を落としたり(それはそれで味が出て好きだけれど)、スタッフのギャランティが捻出できない、なんてことも割と大きな会社でも経験してきた。
自己表現とは、したくなった時が、しどき。
それが叶えやすいというのはとても羨ましい。
ソウルなうを支えるあれこれ

しかしこのソウルの熱を支えるものは何なのか。今回の取材だけでもムンチンなりに大きく3つほどテーマを見つけた。
まずもっとも大きな理由の一つは「インターネット」だとは思う。
韓国では街中でWi-Fiが飛んでいて途切れることなくネットが使える。
日本同様資源の少ない国なので、国を挙げて文化、情報輸出力に力を入れている。その場合輸出に必要なものは船でも飛行機でもなく、インターネットだ。
ちなみに韓国は世界で一番高速だと言われている(2位が日本)。この今の時代に、“早くて途切れない”場を提供することは何よりも新しいものを生み出すのには必要不可欠。それに気づいて即、それを整えてきたのはさすがだ。
二つ目は全体的なマインドとして、「素直」で「合理的」であること。それに加えて「せっかち(よく言えばスピーディ)」。
例えば。日本同様広いとは言えない街なので、飲食店も小ぶりのものが多いのだけど、ほとんどの飲食店にはスプーンや紙ナプキンなどがテーブルの下に収納できるようになっている。当たり前のようだけれど、その分スペースが効率よく使えてお客さんをたくさん入れることができる。これは一例だけれどこう言った目に見える合理的もすごく多かった。
流行に対して素直だ。「だってこれが今新しいんだもん」そう思った瞬間にその流行は彼女たちのインスタグラムを巡り、消費される。もちろん生き残るのは稀で、ほんの瞬きする間に彼女たちの興味はもう違うものに移っていることが多い。それでもそれが途切れることなく続いているのはすごいと思った。
決済やID、検索などをネイバーとカカオトークに集約しているのも合理的だと思う。日本にように有象無象に選べると結果不便なことが多いけれど、ほとんどの人が同じものを使えば何かと早い。ソウル民のせっかち気質にもそれがマッチしているんだと思う。(みんながバラバラだとまとめるの大変だしね)
三つ目は夢を叶えてくれるアンカー的な仕組みがとても身近であること。
先述の印刷所が安く、クオリティが高いこともそう。洋服に関しても、小ロットでものづくりができる環境が整っているそうだ。
だから「何かを作りたい」と思った時に、大量のロットを抱えてしまうリスクを負うことなく、気負わずにものつくりができる。これは韓国発のブランドの多さ、多様さにつながった。
「若者よ、どんどんアイデアを形にしたまえ」。いうのは簡単だけれど、叶えてくれるアンカー(例えば印刷所、例えば縫製工場、など)がいなければお金もリスクもかかり、満足のいく結果に到達するのは非常に困難だ。
非常に小ロットでものつくりを引き受けてくれる人たちがいる。それだけでまだモヤモヤとしたアイデアの卵を抱えた若者も、それを形にしやすい。
ちなみに今時のソウルっこは洋服はネットで買うという。
ネット社会にどっぷりと浸かっているせいもあるけれど、ソウル市内は家賃が高く(日本とは違い、最初に高額の保証金を払うシステムが多い)、実店舗を構えるのが難しいという背景もあるそうだ。“だったらネットでいいじゃない”。これまた合理的かつスピーディな選択。
人気のサイトをチラッとのぞいてみたけれど、日本のサイトと比べて圧倒的写真量だったのに驚いた。たしかに試着して買うわけではないから後ろも前も、動いたのも座った写真もあれば便利。ほらここでも合理的だわー。
少しマイナス面の話もすると、先述のようにソウル市内では一人暮らしもなかなかままならないほど家賃が高く、また日本同様若者の就職難が長引いているそうだ。ただ、だからこそ“就職できなければやりたいこと仕事にすればいいじゃない”というマイナスをパワーにする若者が非常に多い。
そういった若いサジャンニム(社長)たちの、表現への情熱と自由度を、それを叶える空気感(そういったものへの援助システムも含め)が支え、彼らはネットというものに乗ってあっという間に世界を駆け巡る。
もうひとつ、聞いてびっくりしたことはある。韓国のカルチャーがなぜこんなにスピーディに世の中に広まるのかと聞いたときのこと。
「韓国では一般人でもフォロワー1万人なんてのはざらなのよねえ。10万人フォロワーで、やっと知名度あるねえ、みたいな」、だそうだ。確かにお互いフォローしてつながっているような状態であれば、誰かが面白いものをアップした途端、広がるのはあっという間だ。
もちろんSNS経由で物事が進むのは全世界共通なのではあるけれど、その共有の仕方とスピードはここ数年見たどの国よりも速い。
と速さばかり強調してしまって「冬ソナ」世代時代には“速すぎてついていけない国”になっているかと思えば実はそうでもない。

ソウルにはインスタ映え!的なカフェもたくさんあるけれど問屋街や古い町並みもあって、ちょっとほっとする雰囲気もまだまだある。ソウルの中でも、やっぱり流行最先端なものよりも古き良きを大事にしたいという人たちもいて、古い町並みをリノベーションしたり、昔ながらの商店を若い世代が運営したりも。それに「横丁」的な場所も多いので、安く楽しく飲みたい人にもうってつけ!
その辺り、自分の範囲で選べるのも今の韓国の魅力の一つである。
とりあえず「冬ソナ」から冬眠していたムンチンな人こそ一度来てみると予想外にハマる魅力的な都市であることは間違いない。(冬ソナ世代が一番気になる美白コスメもいっぱいあるしね!)
ムンチンじゃない韓国情報が知りたかったらこちらをチェック!


松尾 彩 Columnist


熊谷 直子 Photographer

