【ニュートラソウル!】Vol.6 ビジュアルアーティスト NOVO 【恋しちゃったんだソウル】

キャンバス、パネル、壁面、スケートボードやマリア像、そして自分の身体まで。すべてを表現の場として作品を生み出すビジュアルアーティストのNOVOさんに会いにいった。
〝ビジュアルアーティスト〟と聞いて、どんなことをしている人なのか最初はあまり想像ができなかった。
いわゆる視覚芸術といわれるもの。その表現方法はすご〜く多岐に亘っていて、理解するのはなかなか難しい。
だけど、だからこそ、とっても興味がある。
そこで、ソウルを拠点に世界で活躍するビジュアルアーティストのNOVOさんに会いにいくことにした。
NOVOさんの事務所は、白を基調としたとってもクリーンな空間だった。
そこに、たくさんの作品が飾られている。

「子供の頃から絵を描くのが好きで、趣味で続けていました。美大に進学して、最初は学校で彫刻科を専攻していたんです。でもだんだんと〝会話的〟な作業に興味を持ち始め、ドローイング的な作業、ボディーペインティング作業へと移行していきました。そして素材のひとつである僕の身体を、タトゥーという素材のキャンバスにしようと思ったんです。
当時の韓国では、ボディーペインティングやタトゥーも含めて、僕が探している好きな分野の本を探すのもとても大変で。インターネットで探せる資料もとても制限があったし、僕がやりたかった概念作業について指導してくれそうな先生もいなかったんです。
それが10年前くらいの話なんですけど、当時は常にモヤモヤ感を抱いてましたね。1年くらいは韓国で作業をしながら、自分自身に対する方向性について悩んでいたけれど、自分の思いややりたいことが正しいことだと思って、フランスへ行くことにしたんです」

実は22歳の時に、日本の会社で働いたことがあるというNOVOさん。
その同僚たちはヨーロッパに対する憧れがある人が多く、働く中で自然とフランスの文化やファッションについての話をたくさんしていたので、(フランス文化に)自然と触れることができた。
当時NOVOさんは、どちらかといえばアメリカや日本の文化に興味があったので、”日本の同世代の子たちは、アメリカよりもヨーロッパの方に興味があるんだな”と思ったらしい。
だけど、そのうちの一人がフランス留学をし、その地域についての実際の経験談などを語るのを聞いて、心がフランスへと動いたのだという。
フランスでは、タトゥーアーティストをリサーチして帰国。
そこから、オリジナルの方向性を見つけて展示をしたり、必ずしもタトゥーだけでなく、身体に刻まれる全ての多様性を持った作業を続けている。
表現は空間でもあり、平面でもある。ある意味では人間も立体的で、面がある。そういった部分ですべての局限を受けずに、メッセージを表現しようとしているそうだ。
NOVOさんの作品を見ると、キャンバスやパネル、壁面に描かれる絵や、スケートボードに施されたネオンやマリア像など実に様々な表現方法があることがわかる。


ふとかわいいダンボの絵が目に入った。思わずこれもNOVOさんの作品なのか尋ねた。

「木枠に入った3つの絵以外はすべて僕の作品です。この絵は、実は僕がフランスから帰ってきて、ひとり暮らしをした頃に一人でいるのが寂しくて…人形をひとつずつ集めはじめたんですけど(笑)。僕の家族みたいに一緒に生活をしてたので、人形たちのポートレートをひとつずつ描いてて、その絵だけで展示もしてたんです。今は唯一、この子だけが残りました(笑)」
「フランス留学から帰ってきてからは、ずっと韓国で活動しているんですが、その時は、完全に帰ってくるつもりではなくて、再びフランスに戻るつもりだったんです。だけど帰国して展示を開くことになり、その作業をしてたら長引いてしまって。そうしているうちに、韓国での仕事が徐々にスケールも大きくなってしまい、そのまま定着するようになりました。マガジンやアーティストたちとも一緒に作業することになって、今に至っています」
NOVOさんの作品の多くには、〝M〟〝HOPE〟〝UTOPIA〟など、特徴的なワードが随所に描かれている。表現するにあたっての、原点はなんなのだろうか。


「僕にとって、一番大きな原点は、母親です。〝M〟という綴り字はMotherの略。僕たちにとっての一番最初の家は、女も男も性別関係なく、母を通じてこの世に出てくるじゃないですか。 なので、母親だと思うんです。僕たちはその最初の家を通じて、生まれてきて、実際に住む家という空間で育てられ、性格というのが生まれて、趣味嗜好を持つようになり、夢も生ずるようになる。そんな過程の中の、家の垣根についての話が、僕の作品のもとになっています」
他のキーワードでもある〝Q〟も、〝Queen〟の象徴。女性が無くなれば、人間も存在しなくなる。女性に対するリスペクトの意味を込めて〝Q〟を描く。
作品だけではなく、企業とのコラボレーションも多く手がけるNOVOさん。一番多くはアパレルブランド、またビューティの分野にも挑戦しているという。
そんな、ソウルで今活躍しているNOVOさんにとって、ソウルのグルーブ感はなんだと思うか聞いた。
「ソウルは僕にとって、ドリームシティ、つまり〝Hope city〟です。 ソウルはすべてが速いんです。すさまじく変化していく中で、ソウルで活動している一アーティストとして、僕にはその変化さえも、実はすごい好奇心の領域なんです。もっと知りたい。でもそのスピードを追いかけようと躍起になるより、自分自身をもっとよく理解して、バランスをその速度に合わせてみる。そうすることで、より世界観が広がっていく。そういう意味でも、ソウルは希望であり、夢だと思います」

話を聞いている最中、隣りの部屋からカンカンと音がした。どうやらネオンをつくる作業場になっているらしい。
「実は、この事務所がある乙支路の街は、資材や原料を買える場所も多くて。こういった工場系が多いんですよ。近くのスペースには倉庫があって、いくつかに空間を分けて活動しています」
乙支路の街から、今日もNOVOさんの作品は生まれ続けている。
NOVO / ビジュアルアーティスト


熊谷 直子 Photographer

