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CULTURE TRIP FEB 13,2019

【森と未来をぐるりとつなぐ 下川町】森と人とまちを育む、あたたかい家。

夏は暑く、冬はとってもとっても寒い。広くて深い森に囲まれていて、動物たちとも距離が近いこの町で、「森も人も共に暮らせる」家があった。


もしも私が家を建てるなら。

大きくて光がいっぱい入る家がいい。広いリビングには座り心地の良いダイニングテーブルセットを置いて、対面式のキッチンで美味しいご飯を作ったり。
なるべくバリアフリーがいいし、友達をたくさん招きたいから変化自由なゲストルームも欲しい。それに暑さも寒さも苦手だから床暖房があったり風が気持ちよく通る、1年中過ごしやすい室温がいいな。

…そんな“夢のような”空想、誰もが一度はしてみたことがありますよね。

さて、いきなり夢を壊すようですが、本気でそんな家を建てるなら、なかなかハードルが高いのが現実。

土地代や建設費がものすごいことになりそうなのは置いておいても、そもそもの資材を確保したり、室温を安定させるような壁の造りや滞在する人数に合わせてアレンジできる部屋デザイン、そして何よりその大きな家を維持するエネルギー代を考えると途方にくれてしまいます。
ところがそんな夢のまた夢みたいな希望の家が、下川町にあるというのです。
しかも実際にそのモデルハウスに宿泊ができるということで、今回の取材の宿として泊まってみました。

下川の自然を映した家で暮らしてみる。

下川町の南へ車を走らせると、飴色のなんともいい雰囲気の木壁で囲まれた家が雪の世界の中に佇んでいました。
それが下川町環境共生型モデル住宅のエコハウス「美桑の家」です。

美桑の家は「1棟貸し」スタイルです。
最大12名まで泊まれるので大家族や複数の家族でお泊まりもできちゃいますよ。

1階には2ベッドの個室(障子で入り口を占めることができる)と、もう一つ障子で仕切れる部屋があり(ここに寝る場合は布団をひきます)、その奥には暖炉とウッドデッキがありました。
2階は1ベットルームの個室とリビング&キッチン、トイレ、浴槽など。

浴槽は木の香りが漂う、大きめサイズ。子供と一緒に入れるくらいのゆったり感です。全体的に段差のないバリアフリー設計で、エレベーターもあるので車椅子の方なども安心して過ごせます。また洗濯機も備え付けであるので長期間の滞在も可能。

さらに美桑の家では大きなキッチンがあり、鍋や食器なども揃うのでちょっとしたパーティもできちゃうのです。

この日の夜はジンギスカンパーティ!

今回の旅は大雪の中移動するということもあり、雪道に不慣れな私たちは、URBAN TUBEスタッフの友人で、北海道滝川市で農家(なかのふぁ〜む)を営む中野夫妻に運転など含め大変お世話になりました。

しかもこの日は夫妻による“北海道らしい”夕ご飯のおもてなし!

ジンギスカン鍋(この鍋は中野夫妻私物)に野菜をたっぷり、その上にお肉をたっぷりのせて…。はい、争奪戦になったことは言うまでもありません。

北海道といえばジンギスカンですが、味付きのパッケージ入りの肉が売っているので、野菜を切って一緒に焼くだけです(しかもとっても美味しい味付け)。北海道ではジンギスカンにうどんを入れることが多いそうなのですが、中野さんによるとうどんは締めではなくお肉などと一緒に入れるのがお勧めだとか。

他にも猟師見習いをしている中野さんが持ってきてくれた鹿肉のローストやなかのふぁ〜むの美味しいお米で握ったおにぎり、じゃがバターに塩辛を載せたやつなど大ご馳走。

外はしんしんと雪が舞う中、あったかい室内でジンギスカン。
美味しかったです。

ちなみに北海道ならではのこんなコツも教えてもらいました。

「ビールは雪の中に埋めて冷やす!」

雪の外にビールなどを放置すると凍ってしまうけれど、中に埋めてしまうと凍りにくいんだそう。冷蔵庫に入れるよりもひえひえのビールが楽しめるそうです(もちろん超長時間埋めちゃうと凍り始めるので注意)。雪の中へビールなどをぽすぽすと埋める作業も楽しい。

また宿泊者は隣にある「五味温泉」の温泉に入ることができるので、ご飯を食べた後や朝にゆったりと温泉につかることができました。ちなみにこの辺りの雪質はふかふかのパウダースノウ。防寒+長靴で迷子にならない程度に森散歩も楽しみました。

1日滞在してみて、何よりもいいなあと思ったのが自然とみんなが1階のウッドデッキか、2階のダイニングに集まって来ること。

個室でプライベートは確保されますが、障子を開ければそのまま家の中に部屋ごと同化してしまったような不思議な安心感があり、誰かがリビングの椅子に座るとなんとなーくそこへ行きたくなってしまう感じ。
また個室にいても、この家のどこかに誰かの気配がほんのり感じられてそれもまたホッとする。

たったの1日しか泊まっていないのに、なぜか懐かしくて馴染んでしまう
そんな雰囲気がありました。

また家の中にはたくさんの窓があり、そこから眺める森と室内との一体感も素敵。昼も夜も朝も、窓からの大自然をぼんやり眺めていました。

美桑の家のすごいとこ

ちなみにこの日は気温約マイナス10度ほど。風も強く外に数分いれば体は芯から冷え切ってしまいますが、一歩家の中に入るとじんわりと暖かく、裸足で過ごせるほど。

見た目にも美しいこの家ですが、様々なアイデアが詰まっています。
例えば室温。家の建築自体、夏は涼しく冬は暖かい仕組みになっています。

・高断熱・高気密の断熱材を張り巡らせて外からの気温の変化の干渉を少なく。
・草屋根(屋根に植物を根付かせる)で夏は遮熱、冬は断熱効果をもたせる。
・外壁には下川の木から作られた木質断熱材を使用。

とはいえ建築面積53.7坪ある広〜い家。特に冬季は暖房費がとんでもないことになりそうな気も。

ところがここにもたくさんの知恵と工夫が。

・日射の熱を床に貯めることによって暖房負荷を減らす。
・地熱の熱を利用する地中熱ヒートポンプを床暖房に使用。
・ペレットという端材を使用した木製チップを使うペレットストーブやペレットポンプで足りない熱を補う。
・さらに太陽光発電を使用して1年間で1ヶ月分の電気を発電。

と様々な方法を組み合わせて暖房費などを抑える工夫がされているんです。

そのほかにも炭を焼く時の煙と木酢液で加工したエコ建材を使ったり(これが外壁のいい感じの飴色の壁に使用されています)、広いウッドデッキが設置されていたりと「家」としての楽しい使い勝手の工夫も盛りだくさん。

下川でなぜこんな素敵なモデルハウスが生まれたか。
それは下川町ならではの厳しくも雄大な自然が関係しています。

下川町は夏は30度、冬は最大マイナス30度になるほど夏と冬との気温差がある町です。その環境に対応するべく様々な工夫が生まれました。

よく冬季になるとテレビなどで「北海道の冬の暖房費の高さ」を特集していますが、石油や電気だけに頼るとどうしても費用は上がってしまいます。
それらをなるべくエコに抑える工夫が発達しました。

・下川町の木を利用することで輸送にかかるCO2の削減
・建材の工夫や高機能の断熱材で光熱費の削減
・木質バイオマス(バイオマス:再生可能な生物由来の有機物資源)や地中熱、太陽光を利用してエコな熱を生み出す

ちなみにこれらの工夫は下川町のSDGs対策にも組み込まれています。

逆に下川町の大自然をそのまま利用する部分もありました。

・町の9割を占める大森林の木材を利用(ただし燃料用には木を切らない。材木として切られた木々の端材のみをエネルギー使用)
・風や森林の空気、積雪をうまく利用した建築デザイン

など。

「大自然」に囲まれている町だからこそ、厳しさも豊かさもどちらもうまく取り入れています。

無粋だとは思いつつ、どうしても気になったので1話目にも登場していただいた蓑島さんに建築費用をお伺いすると…
「ここ(美桑)は最高水準で作ったものなので建築費で7000万ほどでしょうか」
とのこと。あくまでもモデルハウスなので全てを高水準で揃えてあるのでこのお値段ですが、下川町ではそれらの工夫を一般家庭にも一部採用しています。

例えばかつて限界集落だった一の橋地区に、支援施設や研究所、誘致企業の試験場、集合住宅を作り、町の中央に作った木質バイオマスによる熱供給施設から各所に熱を送っています。

これによりより光熱費が安くなる仕組みを採用しているそう。

ちなみに下川町ではこの取り組みにより年間1900万円ほどのエネルギーコスト減に成功したそうです。

もちろんここと全く同じ方法で別の土地(東京や大阪など)に同じ家を建てようとすると、輸送費のコスト、それによるCO2などが増えてしまいます。また北海道と違い長い間高温多湿に晒されるのでその対策も必要。

ですが<美桑の家の自然との共存や工夫>のように、きっと別の土地であってもその土地とちの自然や地形・風景、そして無理や無駄のないエネルギー方法などとの共存・共生方法はあるはず。

もしこれからお家を建てたい!という人がいたら一度ぜひ<自然と生きる>この家をその目で確かめに行ってみてくださいね。

次回は冬の下川町ならではのお楽しみを紹介します!

美桑の家

〒098-1215 北海道上川郡下川町班渓 (五味温泉隣)
営業時間 : 駐車場有り
TEL : 01655-4-3311
URL:http://gomionsen.jp/mikuwa/

五味温泉

〒098-1215 北海道上川郡下川町班渓
営業時間 : 10:00〜22:00(受付終了21:00迄)
休館日:月1回月曜日(要連絡)
駐車場有り
開催日時 : 01655-4-3311
URL:http://gomionsen.jp/

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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