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CULTURE TRIP JUN 12,2019

【400年と少し前から新しい、長崎】長崎LOVERS!2 “伝えたくなる”長崎を描く。<DEJIMAGRAPH>

長い歴史の中で、世界からたくさんのものが長崎に集まり、そしてそれが日本中に広まった。第2回では、長崎が長い間大切にしてきた文化やモノの魅力を“ブランディング”や“デザイン”で再発見させてくれる人たちに会いにいく。


<南蛮リサーチ>の回で触れた、日本で最初のアーチ型石橋と言われる眼鏡橋。川の両サイドは気持ちの良い歩道になっていて、地元の人から観光客までたくさんの人がのんびりと散策している。

その近くに素敵なチョコレートを扱うカフェがあるという。
入り口には白い暖簾が飾られ、カフェの名前はブリッジ、チョコレートショップはスペクタクルという名前が書いてある。

入るなり、お店の入り口にカラフルなチョコレートがずらりと並んでいるのが目に入った。パッケージには夜景や、名所など「長崎」の情景があしらわれている。発売以来、長崎土産として大人気となったチョコレートだ。

このお店のディレクションやチョコのパッケージを手がけたのは長崎市内で活動する<DEJIMA GRAPH (デジマグラフ)>というクリエイティブ事務所。デザイン担当の羽山潤一さんとブランディングを担当する村川マルチノ佑子さんにお話を伺った。

ちなみにチョコレートはオランダから長崎経由で日本に伝えられたものと言われている。
出島に出入りしていた遊女が飲ませて(当時のチョコはホットチョコレートのような液体だったそう)もらったものが初だとか。

「きっと初めての味にびっくりしただろうなと思って、店名をスペクタクルという名にしたんです。ロゴも店名の頭文字“S”と、液体状のチョコが入ったカップをイメージしました」と村川さん。ブリッジの方は眼鏡橋と、頭文字のBをイメージするデザインになっている。

さらに「スペクタルブリッジ」は英語で眼鏡橋という意味があり、幾重にも意味を持つデザイン。

店内にもさりげなく“長崎らしさ”があしらわれていた。

眼鏡橋と流れる川をイメージしたオブジェを施した床があったり、造船の街でもある長崎で船舶の家具を手がけている会社が作った椅子やテーブルが置いてあったり。
またちょっと目線をあげるとカフェ部分の天井は小さく仕切られ、それぞれに色や素材の違うデザインになっている。実はこれも長崎らしさの一つ。

「一緒にチームを組んだ建築士の百枝優さんのアイデアで、天井には長崎市の町屋の構造を取り入れ、4つの異なるデザインになっているんですよ」(村川さん)

後日調べてみたところ、長崎の町家は京町家と比べて間口が狭くて奥行きが長いのが特徴だとか。小さい箱が連なるように繋がっていて、例えば入り口から(今で言うところの)玄関、リビング、客間、続いて中庭やキッチン、トイレ、奥に井戸といった細長い建築デザインが多かったそう。
このお店も、町家のような細長さはないけれど、確かに入り口のチョコレートショップ、カフェスペースなどが連なり、入れ子のような雰囲気だ。

さりげないけれど、知れば“なるほど”、と言いたくなる「長崎らしさ」が詰まっている。

ちなみにお二人とも長崎県出身だが、羽山さんは諫早市、村川さんは波佐見町で育ったそう。
特集第1話冒頭で触れたように、長崎県はエリアごとに特徴が異なる。クリエーターから見た“長崎市”はどんな街なのだろう。

「長崎市は老舗の企業がすごく多いんです。100年経たないと入れない暖簾会とかあるんだよとクライアントさんに教えてもらったり、そのクライアントさんも江戸時代から続いているところだったり。長く続いているお店があるなあと驚きました。それと二人とも長崎市の育ちではないので、引っ越して来てびっくりしたのは“くんち”ですね。みんなくんちを見にいきたいから、その期間中はザワザワされていて打ち合わせもままらないほど(笑)。でも見ていてすごく幸せになるんです。練習する子供や、(ハードな練習で)日々痩せていくおじさんたち…。あの雰囲気はすごく素敵だなと思っています」(村川さん)

<デジマグラフ>ではブランディングを村川さんが組み立て、羽山さんがそれをデザインに落とし込むという流れでものつくりをしている。村川さんはその流れの中で大切にしていることがあるそうだ。

「その土地ならではのストーリーとか文脈を読み取るというのを心がけています。長崎には出島があったんだよ、的なことは教科書でもみるし、いろんなものを長崎経由で入って来たよねってところまで知っていてもじゃあ実際具体的に何が入って来たかまではなかなか伝わっていなかったりするんです。
身近で当たり前にあると思っていた…例えばピアノやボタンも、長崎を通じて日本に入って来ている。
そういうことを改めて市民が知ってもいいんじゃないかなと思っています」

ちなみに今では知られるようになった「チョコレート日本初上陸は長崎」というのも、このお店ができるまでは地元の人でも知らない人が多かったそうだ。そこで「長崎チョコ」というネーミングを新しく生み出し、結果今では「チョコレート初上陸の街」という認知度が上がった。

また長崎にはチョコを始め、良いものや長崎らしいものがたくさんあるのにそれを「広げていく」ようなお土産物やが少なかったそうだ。

「今までの長崎のお土産といえば、ど定番の風景がポストカードになっていたり、レトロな昔からのお土産品の枠に止まっていました。でもその中に女子旅や、修学旅行で来た女子学生が買って帰るものがあるのかなあって思ったんです。他にも選択肢があればいいのにって。長崎土産がカステラ一択じゃなく、お土産品として「可愛いね」という視点で選べるものがあってもいいなと思いました」(村川さん)

例えばこれは、“女子高生のためにつくった”デザインの缶入りチョコレート。眼鏡橋にあるハート石がモチーフになっている。

「眼鏡橋に来るとみんなハート型の石を探して写真に撮ってインスタに上げています。気持ちが上がるそのテンションで可愛いと買っていけるようなものがあればいいなと思って」

他に比べて小さい缶で値段も安めで買いやすい。女子学生たちの「長崎でハートの石を見つけたよ、お土産にハートのおすそ分け!」そんな会話が聞こえてきそうだ。

そう、お土産とはその土地に行った証でもあり、“土産話”という言葉があるように、その地方の良いところを伝えてくれるものでもある。確かにせっかく良い場所に旅行にいってもお土産が「どの地方に行っても代わり映えのしないおまんじゅう」ではその良さはなかなか伝わらない。
もしもそれが見た目にも素敵なお土産なら、もらった方はその土地の話が聴きたくなるし、またあげる方も伝えたくなるだろう。

スペクタクルで扱うチョコレートには他にも長崎の夜景をモチーフにした「NAGASAKI Night & Light」や、長崎にはじめに入ってきたカルチャーなどを描いた「事始め」など様々なシリーズがある。

稲佐山の夜景や、ランタンなどの“夜景”を描いたシリーズ。「実際にそのまま全く同じ光景があるわけではないんですが、こういう雰囲気がいいなあと考えながらデザインしました」(羽山さん)

「長崎猫や椿、路面電車の線路、階段など長崎らしいけれど、今での長崎の視点とは少し変えたものにしたかったんです。それとお土産として持って帰ってもらった時に、人に話したくなるようなものになるといいな、そして地元の人が知って広めたくなるものにもなるといいなと思って。
だからさりげなく長崎らしいデザイン、文化、独自の色合いをとり入れて、例えば女性が見たときに気持ちが上がるようなものにしたかったんです」(村川さん)

また長崎の“ハタ”と呼ばれる凧のデザインをあしらったシリーズもある。ハタは中国文化とオランダ文化両方の影響を受けていると言われ、今でも長崎人に人気の文化だ。

デザイナーの視点ではこのハタモチーフが面白い、と羽山さんはいう。

DEJIMAGRAPH inc.2011-2018 より。写真中央が「ハタ」モチーフのシリーズ。
画像:長崎国際観光コンベンション協会 提供

「帆船が入ってくるときに「旗」を掲げて入ってきますが、それから「ハタ」が広がって来たと言われています。昔から伝わるハタのデザインは200〜300種類くらいあるんですが、シンプルで、濃紺と白と赤の基本3色を使っていて、すごく可愛いなあと思う。“井桁に升”のマークなんてめちゃめちゃ単純な形。それでいて意匠をきちんと伝えているし、“月にコウモリ”なんてこういう形にするんだなあと。色など今より制約がある中で削ぎ落とし方がすごいと思います」

スペクタクルのチョコレート一つ取っても、ハタなどの伝統文化やよく知られる長崎の観光名所、そういった「昔からある良いもの」がお二人のクリエーションを通すことで新鮮味が増しているのが伝わる。

だからこのお店に来たら“チョコレートを買う”ことがそのまま“長崎のいいところ探し”になったり“話したくなる長崎の土産話”に繋がる。それがとても素敵だと思った。

ちなみにデジマグラフでは、箱やロゴなどのデザインだけでなく新しい仕組みを提案したりなどハード面に関わることも。また長崎県の離島や農家さんなど“地域”との仕事も多いそうだ。

「今、“ローカルデザイン”というのが流行り言葉のようになっているけれど、それ自体が画一的になっていることに違和感を感じています。例えば(ローカルを表現するのに)“素敵な田舎の風景で、素敵な人が写っている写真”ばかりあったり。でもローカル暮らしが画一的ななわけがないんです。それぞれのカラーがあるのに、って。生産者さんもメーカーも、そういう画一的なイメージに当てはまらない人たちがたくさんいます。だからこそ、それぞれの特徴をきちんと伝えたいなとブランディングしています」(村川さん)

01.デジマグラフさんの今までの仕事をまとめたブックをいただいた。「どうやって素敵なものが出来上がるか」「どう伝えるか」のアイデアがぎっしりと詰まっていた
02.“断面がハート形”という個性を持つ、糖度の高いトマトを栽培するたかしま農園。ページに載っているトマトカレーは市内のお土産物屋さんでも購入できるが、アーバンリサーチのスタッフが「美味しすぎてリピートしちゃっています」と絶賛。
03.島原にある人気の移動販売おとうふ屋さん「ゴチソイ」。本当の美味しい豆腐を知らない世代が増えている中、豆腐の美味しさを伝えたいから直売にこだわる。ご馳走とソイ(大豆)をかけた名前もデジマグラフのアイデア。

仕事を通じて、地元のいいもの、素敵な人たちとたくさん出会えると村川さんはいう。

「特に地域振興、離島振興の精神をクライアントさんから教えてもらいました。彼らは自分たちだけ(儲かる・人気が出る、など)ではだめだ、とおっしゃる。
例えばBARAMONの五島うどんのパッケージを手がけた時も、『ちゃんぽんも美味しいけれど、五島うどんもすごく美味しい。美味しいのにパッと誰かに贈れるようなパッケージがない。“五島うどん”を広げるチャンスを失っているかもしれない』と社長さんがおっしゃっていたんです。
そうやって、業務上は気にしなくていいのに自分たちのことだけじゃなく全体のことを考えていくのがすごいな、と感銘を受けました。
だから長崎の良いものを、きちんと伝えようと思ったんです」

ちなみにこの「五島手延うどん」はアーバンリサーチ アミュプラザ長崎店でも扱っているが、地元の人、観光客ともに大人気の商品なんだそうだ。パッケージは可愛いだけでなく、特徴である“椿油を使った”というのがデザインからもきちんと伝わる。

「長崎といえばちゃんぽんだけどさ、実は五島うどんがすごく美味しくて」。そんな言葉とともに渡せば、もらった方の笑顔まで想像できるのだ。

そうそう、<デジマグラフ>という名前は、その名の通り「出島」から名付けたのだそう。

「いい仕事が集まってきて、発信ができるように。まさにかつての出島の役割の様なことをできたらと思っています」(村川さん)

長崎は“400年と少し前”から、世界から到着する「日本初上陸」のものを一旦受け止めて、そして日本各地に広めてくれる役目も担っていた。その時に入ってきたものが今もちゃんと存在するのは、その良いものを素直に楽しんで、受け取り伝えてくれた長崎人たちのおかげでもある。
そして時は経ち、それらに“今の風”を加えてくれる人がいる。新しい目線で見たそれは、「知っているものなのに、なんだか新鮮」な気持ちにしてくれた。

長崎に来る前に、チョコレートなどの“初めて”を見た長崎市民はどれほどワクワクしたのかと想像していたけれど、きっと今日、スペクタクルの“長崎チョコ”の山を見てワクワクしたこの気持ちと同じだったんだろうなあとにんまりしてしまった。

最後にお二人に、今後やって見たいことを聞いてみた。

「長崎市の“甘い文化”、例えばカステラなどを手がけてみたいな、と思っています。カステラってすでにだいたいのイメージがついてるから、面白くやって見たいなあ」(羽山さん)

「私は保育園や老人ホームにも関わってみたいんです。体力面や病気などの困っていることもきっとクリエイティブが力になれると思うんです」(村川さん)

デジマグラフ株式会社

〒850-0028 長崎県長崎市勝山町7 グランドハイツ勝山201

TEL : 050-3444-1539

URL:https://dejimagraph.com/

株式会社メモリード スペクタクルブリッジ

〒850-0874 長崎県長崎市魚の町7-17 みやまビル1F

営業時間 : 10:00〜19:00

URL:http://spectaclebridge.jp/

アーバンリサーチ アミュプラザ長崎店

〒850-0058 長崎県長崎市尾上町1-1 アミュプラザ長崎 1F

TEL : 095-808-1115

JAPAN MADE PROJECT NAGASAKI : デジマグラフさんがパッケージデザインを手がけた「五島手延うどん」を取り扱い中

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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