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CULTURE TRIP JUN 05,2019

【400年と少し前から新しい、長崎】長崎LOVERS!1 いつかに続くこの坂道で。<たてまつる>

長崎の街には、400年以上前にこの地にやってきた文化を大切に受け続いで磨き上げている人たちがいる。だからこそ長崎には「当時新しかった文化」が古くなることなく今に息づいている。1回目は長崎の情景や歴史を「手ぬぐい」に込める人に会いに行った。


かつて長崎奉行所西役所があった江戸町にある坂道の途中に、昭和28年に建てられた古民家を改築した素敵なお店がある。道のあちこちには歴史的に関わりの深いオランダ国旗カラーの旗が飾られていて、実に“長崎らしい”散歩道になっていた。

ここ<長崎雑貨たてまつる>は主にオリジナルの手ぬぐいを扱うその名の通り“長崎雑貨”のお店。

ご主人の高浪高彰さんは長崎出身だが、以前は東京の眼鏡屋さんの広告宣伝課で仕事をしていたという。築70年ほどだというお店は、高浪さんのお父さんが購入し、以前は叔母がお土産物屋さんを経営していた。それを継ぐことになり再び長崎に帰って来る。

かの有名な長崎のお祭り「くんち」で手ぬぐいが欠かせないこと、そして当時はちょうど雑貨としての「手ぬぐい」の存在が再評価され人気が出始めた頃。もともと絵と音楽、そしてそれにまつわるアートが好きだった高浪さんは独自でデザインを学び、手ぬぐいを含めた長崎雑貨のお店としてスタートさせた。

ずらりと並ぶ手ぬぐい。このお店では「たてま手ぬ」と呼ばれている。

長崎奉行所が近かったことから、店名も「たてまつる(奉)」とし、当時の手ぬぐいブームもあって順風満帆にスタートと行きたいところだったが…。

「お店を始めた当初は全く反応がなかったんです。ふとBGMでビートルズのホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスという曲が流れた時は(歌詞の中でギターがすすり泣くように)悲しくて涙が出たほど(笑)」

だけれど「長崎でしか買えないお土産=長崎雑貨」の価値は徐々に注目を集め、地元のテレビ局や旅行雑誌、個人ブログなどに取り上げられ始めると同時に話題となる。今では旅人のリピーターや地元ファンも多く集まる人気店となった。

01.手ぬぐいはサイズにより¥550〜。
02.バッグシリーズも人気。
03.長崎で陶芸を営む「陶彩 花と風」の箸置きなど長崎ゆかりの商品も取り扱う。

たてまつるの手ぬぐいの魅力は、何と言っても「長崎」が凝縮されていることだろう。と言っても写真をそのまま切り取ったようなものではなく、実在する建築物、人物、歴史に、“高浪さん”ならではのユーモア溢れる視点が加えられている。

長崎で日本初の株式会社『亀山社中』を作った坂本龍馬、グラバー園のグラバー氏、シーボルトの愛したアジサイ…。歴史好き、旅好き、そしてもちろん手ぬぐいコレクターの心をもくすぐるデザインの数々。また2枚組み合わせると1枚の絵が完成するアジサイや卓袱料理デザインなど「アート」としての完成度も非常に高い。

長崎名物「卓袱料理」をデザインした手ぬぐい。2枚合わせると「4人会席」の図になる。

「デザインするときは、まず“この歴史やエピソード、面白いな!”というところから始まるんです。

例えば坂本龍馬が台に寄りかかっている有名な写真がありますが、あれは当時の写真は露出時間が長くて、1枚とるのに時間がかかっていたんです。だから普通は首の後ろに支え棒なんかを置いて動かないようにしたんですが、龍馬はその代わりに台に寄りかかってるんですよ」

この龍馬、実はあえて顔が描かれていない。顔を描くとイメージが固定されてしまうけれど、ないことで逆にイメージが膨らむというユニークな仕掛け。

「見えない部分に何があるんだろう、と想像してほしい」

“お奉行さんがビリヤード”というものもあった。

「ビリヤードも長崎に初めて上陸した文化なんです。この当時は鎖国中で、出島でだけ外国と交流があったんですがオランダ人がそこにビリヤードを持ち込んで遊んでいたそうです。
当時は役人など限られた人だけが出島に出入りしてたのですが、きっと彼らもビリヤードを一緒に楽しんだんだろうなあなんてイメージを膨らませました」

俯瞰で切り取られた構図も面白い。

「江戸時代のぽち袋なんかにも俯瞰でデザインされたものがあるんです。手ぬぐいの35㎝×90㎝の画角って、絵としては不安定なサイズなんですがその分トリミングしたデザインには向いているんですよ。昔の千社札とかぽち袋、掛け軸も画角が同じなので参考にしたりも。結構トンチが効いてるデザインが多いんです」

そんな風に長崎の歴史だけでなく文化などにも詳しい高浪さんですが、かつては「長崎が嫌で、東京に出てきた」ほど歴史にも長崎にも興味がなかったそうだ。

「音楽好きにとってはずっと何もない町だなあなんて思っていたんです。雑誌の発売も2、3日遅れるし(笑)。でも東京に出てきてみたら案外沖縄から北海道まで地方の人が多かったんです。友達と話していると毎回みんな地元の自慢話をするんですが、自分は何も浮かばなくて…。しょうがないから神田で100円の長崎の歴史の本を買ったんです。そしたら面白くて、そこからどんどん長崎の歴史にのめりこんでました。

昔はこの坂道を何も知らずに通学していたけれど、近くに長崎奉行所があって、勝海舟や五代友厚も歩いていた道だと知ってからは、歩くだけでグッとくる」

今では彼を知る人からは「長崎歴史の歩く辞典みたいな人」と称されるほど。そんな高浪さんは長崎の魅力についてこんな話をしてくれた。

「日本と西洋の文化が出会い頭にぶつかったとき、京都や東京ではそういうものを洗練させてしまうけれど、長崎の場合はダイレクトなんです。例えば大浦天主堂は前から見ると西洋屋根ですが、坂を登って後ろから見ると三角屋根(和風建築)なんですよ。大浦墓地も西洋と、日本のお墓が混在していたり。異文化と異文化ぶつかった結果、どんな化学反応が起こったのか知るのが面白いんです」

そういえばこのお店も、和の建築の中に中国の蔵扉がどんと置かれていたり、教会の椅子が置いてあったりする。よく見れば和洋中のミックスなのに、違和感はなくむしろそれぞれの個性がバランスよく存在しあっていた。まさに長崎の特徴を凝縮したよう。

01.あまりにも自然に馴染んでいたので当初から作り付けられていたのかと思ったら、あとで取り寄せたという中国の扉。
02.こちらも店内に馴染む、木製で味のある椅子。元は教会の椅子だったそうで、背もたれ部分に十字架が施されている。
03.高浪さんの集めた長崎の歴史の資料が店内にずらりと並ぶ。

また長崎人の特徴についてもこんな話を教えてくれた。

「長崎に昔からある言葉で、長崎の人のことを“墓、坂、馬鹿(はかさかばか)”って表現するんですが、その中の“馬鹿”は、バカがつくほど人が人がいいっていう意味なんですね。もともと外から来る人が多いから、外国人にもオープンに振舞っていた。それに居留地の外国人は何人であってもみんな“オランダさん”って呼んだり、イギリス人が作った坂も“オランダ坂”って呼んじゃうくらいざっくりしているところもあります(笑)。あと好奇心が旺盛。中国人が集められた唐人屋敷を丘の上から覗きに行って、彼らのお祭りを真似したり。しかし当時の人たちは初めて外国人をみたときびっくりしたでしょうね。今で言うなら宇宙人にあったくらい(のインパクト)だったと思いますよ。みんな彼らの姿がみたくて覗きに行って、メガネを見ては「目が四つある!」ってびっくりしたりね」

好奇心旺盛で、人がよくって。ああ、それってまさしく高浪さんそのものだ。話を聞きながらこっそりとそんなことを思った。そんな高浪さんの好奇心はリアルな歴史を飛び越えて、“IF”の世界へにも飛び込む事もある。

戦国時代を描いた<南蛮リサーチ>、江戸時代の<出島リサーチ>、幕末の<アーバンリサーチ社中>、明治時代の<アーバンリサーチバンド>の4種類が発売された。新作は秋頃登場予定だそう。

アーバンリサーチが日本各地の良品を紹介する『JAPAN MADE PROJECT』のNAGASAKI編では、たてまつるとのコラボ手ぬぐいをリリースしているが、そこには「もしもあの時代にアーバンリサーチが長崎にあったら…!?」というIFを主題に、16世紀から20世紀までの長崎のカルチャーが生き生きと描かれている。

「このシリーズでは戦国時代から昭和までを描いて来ていて、今は平成バージョンのアイデアを練っているところなのですが…昭和まであった個性がだんだんなくなって来てていることに気づいて困っています。どこの町もそうだと思いますが、“長崎だけ”の風景がだんだんとなくなってきているんですね。

だから令和時代は長崎の個性を取り戻して欲しいと願っています。
長崎には海、港があるからインバウンドも増えている。そういう地の利を生かした個性を伸ばして、国際都市に返り咲くのもいいんじゃないかなあ、なんて思ったり」

またこれからもっと掘り下げたい時代は、開国後の近代なんだそう。

「戦国時代や江戸時代の歴史に関しては研究が進んでいるけれど、明治以降の渋沢栄一さんをはじめ、企業が出来た頃、明治・大正・昭和初期の長崎はまだそれほど周知されていないんです。その後交易の中心は横浜に移っていくけど、開国後すぐの時代は長崎がまだまだ中心だった。その辺りの時代にも興味があります」

そんな話を聞きながらずらりと並ぶ“長崎”の情景を眺めていると、まるで自分が当時の時代に戻ったような気になったり、そして今まで興味がなかった時代の歴史についても知りたくなってきた。

それはきっといろんな角度で長崎を切り取った手ぬぐいを通して、いろんな時代の長崎に繋がったからだろうか。

そういえばお店があるこの古い坂道は、勝海舟やお奉行様、オランダ人や現代人など様々な人々が歩き、それぞれの時代の“いつか”に通じて来た道。

この坂道を行けば“いつかの長崎”に出会える。<たてまつる>はそんな歴史のドアみたいなお店だなあ、なんてことを思った。

長崎雑貨 たてまつる

〒850-0861 長崎県長崎市江戸町2-19

営業時間 : AM10:00~PM6:30
火曜日定休

TEL : 095-827-2688

URL:http://www5.cncm.ne.jp/~tatematsuru-net/

アーバンリサーチ アミュプラザ長崎店

〒850-0058 長崎県長崎市尾上町1-1 アミュプラザ長崎 1F

TEL : 095-808-1115

JAPAN MADE PROJECT NAGASAKI : 奉×URBAN RESEARCH  アーバンキャバレー手ぬぐいやキャバレープリント染めモノグラム を取り扱い中

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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