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CULTURE TRIP JUN 13,2018

【墨田区に、すもう】子どもに優しい街は、つまりはみんなに優しい。

墨田区にはいろんな世代が満遍なく住んでいる。生まれたての赤ちゃんも、おじいちゃんおばあちゃんも、いろんな国からきた人も。誰かにだけ優しいと誰かが困ることがあるけれど、ここでは<みんな>に優しい場所がたくさんあった。


公園でおじいさんとおばあさんが真剣な顔で体を伸ばす遊具の説明書を読んでいた。

すぐそばのベンチでは、ネクタイをちょいと緩めながらサラリーマンがひと休みしている。

その間を、子ども達が全速力で遊具に向かって走り抜けていった。

涼しい木陰はピクニックシートの上でゴロゴロする若者で埋まり、眩しい太陽の光をよけながらスマホで動画を見ている。

いい風景だなあ、と素直に思った。

木村紗八子さん。今日は娘の維十(いと)ちゃんと一緒に来てくれた。

ここは錦糸町にある錦糸公園だ。01 墨田区ワンダーウォールに出てくる野球場も併設されている大きな公園。

広い園内にはたくさんの遊具があるんだけれど、素敵だと思ったのは“小さい子用”、“大きい子用”の遊具から、“高齢者用”まで幅広い年代に向けた遊具が設置されていること。おじいちゃんおばあちゃん用の遊具まである公園はそうそうない。

「子どもがまだ小さいので、“小さい子用”の遊具があるのが本当にありがたいんです」。
そういうのは<生まれも育ちも墨田区。結婚してからも墨田区。子どもが生まれてもやっぱり墨田区>に住む生粋の墨田区民でもある木村紗八子さん。2児の母。

彼女が生まれ育ったのは、東武亀戸線沿いにある商店街や古い民家が多く残るエリアだ。前号の墨田区に、すもうよでも紹介した墨田区の中でもいわゆる“下町”風情を多く残す街。それなりに綺麗に整備されているけれど、どこか懐かしい雰囲気が残っている。

「他の街に住んでみたいな、と思ったこともあるんですがやっぱり墨田区の雰囲気や住み心地がよすぎて。私の住むエリアは墨田区の中でもかなりローカルで田舎の雰囲気もあるので、落ち着くんです。墨田区はキッズスペースが充実しているカフェも多いし、見ず知らずのおじさんおばさん、おじいちゃんおばあちゃんみんなが子どもたちによくしてくれます。やっぱりもう離れられないなあ」。

木村さんが言うように墨田区は気軽に声をかけてきたり、子どもをあやしたりしてくれるおじさんやおばさん、おじいちゃんおばあちゃんがとても多い。それゆえに人情の残る街と言われている。

また墨田区を歩くと、おじいちゃんたちだけではなく、それと同じくらい赤ちゃん連れの親、小学生、中学生、外国人など様々な種類の人を<満遍なく>見かける。

当たり前のように聞こえるかもしれないけれど、都心に近いエリアでは割と珍しい光景になり始めている。多くの街ではその街の雰囲気に沿った人種が集まることが多いから、大雑把な例えだけど渋谷や高円寺には若者が集まり、新橋はサラリーマンが多い。巣鴨は今でもおばあちゃんたちのメッカだ。そんなにシンボリックな街でなくても新しい建物が建つところは若い世代が、昔作られた地区には高齢者が多くなってゆく。他の世代が住んでいないわけではないんだけど、なんとなく主役になっていく年齢層みたいなものがある。

一方、墨田区は居住区、観光エリアに限らずどこへ行っても幅広い世代が入り混じっている印象がある。新しいカフェに“近所だったから来た”感じの普段着のおばあちゃんがお茶をしていたり、渋い商店街で若いママが買い物をしているのも珍しくない光景。

だからだろうか、墨田区には錦糸公園のように「みんなが」集まることのできる場所が多い。

01.錦糸公園の小さい子用遊具。滑り台も低めに設定されていた。
02.もう少し大きい子用遊具。大人でも楽しめそうなユニークな遊具も多い。
03.高齢者用遊具も充実。これは座りながらバーをつかみ、左右に体を倒すもの。
04.“子ども優先”はよく見るけれど”高齢者優先”があるのは優しい。
05.駐輪スペースも広いので自転車でくる人も多い。
06.広場では屋台やフリーマーケットなどよくイベントが行われている。

この後、近くにお気に入りのカフェがあるということで娘の維十(いと)ちゃんと共に向かった。

「普段は住んでいる場所から錦糸町まで自転車でいきます。墨田区はほとんど坂道がないので電車やバスに乗るよりも自転車の方が手軽なんですよ。普段は静かでのんびりした街に住んでいて、お買い物やカフェに行きたくなったら自転車で賑やかな街まですぐ。この距離感もちょうどいいです」。

カフェに向かう道すがらにあるのは大横川親水公園。ここは錦糸町から押上までの川沿いがずっと公園になっていて(約2キロメートル弱)、近隣住民や東京スカイツリーに遊びに来た人の憩いの場となっている。

細く長い川に沿って緩やかにカーブを描きながらこしらえられたその公園は、子どもの目からみればどこまでも続く冒険道だ。段差も少なくおじいちゃんたちの散歩道にもなっている。水遊びができる水路や釣り堀などもあり、ここもまた「みんなが集う」公園である。

遊具もところどころに配置されているので、小さい子から大きい子まで飽きることなく思い思いの遊び方をしている。

木陰のベンチには女性がずっと本を読んでいた。その後ろを犬の散歩中のおじさんが通り過ぎる。

散歩の常連が多いのか、犬同士も鼻先やお尻の匂いをかいで挨拶をしあっていた。
公園にはたくさんの鳩がいたが、慣れたもので犬が近づいても平気な顔。

01.ところどころにこういった遊具がある。
02.人気のある長〜い滑り台。土台がくるくる回るユニークなタイプで子供達に人気だ。
03.撮影スタッフに緊張していた維十ちゃんもお気に入りの遊具に乗ればすぐご機嫌に。
04.後ろにはベビーカーもずらり。ベンチもたくさんあるので赤ちゃん連れの人も多かった。
05.緑も多く、晴れた日は気持ちの良い散歩道になる。
06.錦糸町から歩くと、だんだん押上にある東京スカイツリーが大きくなっていく姿を楽しめる。

維十ちゃんが遊具で遊んでいると同い年くらいの子らが集まってきた。

この日は若いママさんも多かったので声をかけると、スカイツリーに遊びに来たついでに公園で子どもを遊ばせに来たと言っていた。ママさんたちは墨田区外から来たそうだが「買い物も、子どもとゆっくり遊ぶのもできていい街ですね」と言っていた。

そうやって寄り道しながらものんびり歩いている先に、公園からつながるウッドデッキがあった。そこを登るとCAFEの文字が。

見上げるほど大きなカフェ。

<ささやカフェ>である。

「ここは店内も広くてベビーカーで入れるし、授乳やオムツ替えできるスペースもあるんですよ。キッズ用のオーガニックのランチプレートもあるし椅子席からソファー席まであるので好きな場所に座れるのが気に入っています。子どもと一緒の時は大抵ソファー席に座ってゆっくりくつろぎます」。

5年前にオープンしたというささやカフェのオーナー篠原さんにお話を聞くと、ここは元倉庫だったそうだ。なるほど、だからこんなにも天井も高くて広々とした空間なのか。

「もともとここで倉庫業をメイン業務にしていたのですが、演劇関係の人から空いている倉庫を稽古場として貸して欲しいと相談を受けたこともあり、“空間を貸す”ことを始めたんです。
その後スカイツリーができることになったときに地元の人とつながる何かができないかと思い、公園(大横川親水公園)を活用したいという墨田区の協力を得てこのカフェを作ったんです。もともと公園側は倉庫の壁だったのですが、そこに入り口を作り、公園につながるウッドデッキを設置しました」。

ウッドデッキが公園とカフェを自然につなぎ、さながら地域と溶け込んだ“街の休憩所”のようだ。撮影している間も子連れママから大学生、散歩途中のおじいちゃんまで様々な人が集まってきていた。ウッドデッキの横にはスロープが付いているのでベビーカーや車椅子でも入りやすい。

「墨田区は面白い街だなあと思います。職人さんも多くて昭和レトロな街もあって。私自身は別の場所に住んでいるのですが、ここでの仕事を通じて職人さんと知り合うことも増えました。近くに歌舞伎や雅楽の衣装に使われる友禅の工房があったんですが、そこの方にお願いして友禅のワークショップも行っています。とても評判で近所の方はもちろん、今は他県からも来てくださる方も増えてきました。他にも空中エクササイズというワークショップもあるんですよ」。

メニューはビーガン、オーガニックフード中心。トイレも完全バリアフリー仕様だった。子どもも大人も楽しめるイベントも多く、まさに誰にとっても居心地が良くて優しいカフェである。

01.元は倉庫の壁だった入り口。間口が広く外から見ても開放感のある雰囲気。
02.朝早くから空いているので朝食がてら、のお客さんも多い。
03.お気に入りの席でランチを待つ維十ちゃん。
04.子供用のオーガニックランチ。体に良いだけでなく大人が見ても食欲がそそられる盛り付け
05.店内にある授乳・おむつ替えスペース。トイレ内にあるところは多いけど店内でゆっくり子供の世話ができるのは嬉しい
06.公園と店をつなぐウッドデッキ。サイドにはスロープもある。

カフェでゆっくりした後、もう一つお気に入りの“子どもと過ごす場所”がある、ということで亀戸線に乗って東あずまという駅で下車をした。

まずは木村さんと娘の維十ちゃんがお気に入りのパン屋さんに寄る。

パンの袋を抱えながら向かったのは旧中川水辺公園。高い建物がほとんどなく、川に沿って綺麗に整えられた見晴らしのいい土手が延々と続く。ところどころにベンチもある。東あずま駅からは歩いて5分少々。

ジョギングする人、散歩する人、ベンチにねころがってゲームする人。

ここもまたいろんな人が通り過ぎる。

「実はここ、昔はもう少し雑多な感じだったんです。でもスカイツリーができるとなって、この辺りはすごく綺麗になりました! 天気の良い日はパンを買って、ここで子どもたちと一緒にランチします」。

01.観光地でもない都内で、こんなにも広い空を見ながら散歩ができるのは贅沢!
02.シロツメクサなど季節の花も咲く。子どもの好奇心もすくすく育ちそうだ。
03.川には鳥もたくさんやって来ていた

時間がある日は、このまま維十ちゃんお気に入りの銭湯に行くこともあるそうだ。

ちなみに墨田区は子どもにもお年寄りにも、もちろん若者にも優しい銭湯が多いのだが、この話は後日UP予定の 04 墨田区 ワンダーウォール にて。

墨田区での「みんなが楽しめる」ものは、他にも花火大会(ご存知隅田川花火大会)や祭りも有名だ。特に祭りは今でも各町内会で行われることが多く、シーズンになるとどこを歩いても神輿や盆踊りを見かける。

「私が子どもの頃から町内で山車を引いてまわったり、実家のマンションで行われるお餅つき大会やくじ引き等ご近所同士で集まるイベント事が多くって、それがとても楽しかったんです。今でもご近所の人たちは私の子ども達を孫のように可愛がってくれます。

神社のお祭りももちろんですが、町内会の盆踊り大会に並ぶ屋台が安くてボリュームもあって…やきそば、かき氷が150円でたべられるんです♡ 去年は盆踊りに子ども達が参加しました。昔から変わらない、おばあちゃん達の盆踊りや全然並んでない屋台の雰囲気が今でも大好きです。少し残念なのは、昔は沢山あったお団子屋さんや焼き鳥屋さん、駄菓子やさんが無くなってしまったこと。学校から帰ったらお団子や焼き鳥を頬張ったり、“アキバ”(駄菓子屋さん)集合ねー!で集まった私達の思い出の場所が今は無いのは寂しいかな」。

最後に若いママ世代には気になる「待機児童」問題についても聞いてみた。

「ここ最近墨田区にもタワーマンションが増えて待機児童増えちゃいましたねー。でも区が保育園を増やそうと頑張っているので期待しています!

スカイツリーのおかげで公園などが整備されたり、賑わうエリアになってきたとはいえ、墨田区はまだまだ下町感もあって渋くって子育てが本当にしやすい場所です。

もちろんおばあちゃん達や子連れが多いのにまだまだバリアフリーが整ってるとは言えないんですが、“だからこそ助け合いが必要だよね”と声をかけてもらえたりするのは下町ならではだと思います!」。

「子供にも、子供を育てる親にもいい街ですよ!」
「うーん、正直、こんなに爽やかな街だったとはびっくり(笑)!」

さてさて、維十ちゃんの笑顔パワーもあって、同行中ずっとニコニコしていた“西側のカノジョ”に、今日の感想を聞いてみた。

「正直に言っていいですか? …今日は墨田区イメージに全くなかった雰囲気を見た気がします!こんなにも気持ちがいい整備された川沿いとか、公園がたくさんあるなんて思いもしなかった。どの公園も子供がたくさんいて、自転車や車を気にしないで遊んでいたのが印象的でした。あと、公園近くにカフェがあったり、街と生活の動線がすごくうまくできてるなあと。
“墨田区といえば夜の印象”がだいぶ爽やかになりました!」。

墨田区に爽やかさを感じてくれて、墨田区民としては非常に嬉しい限り。
だがまたも価値観をひっくり返して申し訳ないが、次回は“西側のカノジョ”が想像していた<ディープな墨田区>を見せる予定である。
飲んべえミュージシャンとともに下町チューハイはしご酒。さてさてカノジョの反応は。

乞うご期待。

ささやカフェ

東京都墨田区横川1-1-10

営業時間 : 8:30〜18:00
定休日:不定休

TEL : 03-3623-6341

URL:http://www.sasaya-cafe.com/

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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