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CULTURE TRIP JUN 06,2018

【墨田区に、すもう】アーバンチック天国「墨田区に、すもうよ」

墨田区のイメージってなんだろう。スカイツリー? 下町? 飲み屋街? はたまたニューカルチャー? きっとそのどれもが“墨田区”を形作っているのだけど、まずはその名の通り“不動”な価値を知りたくて、「不動産屋さんを呼んでみた」。


アーバンチック天国にようこそ

少々乱暴に言うならば、ほんの少し前まで、世界にとって「東京」はただ「TOKYO」という街であり、「ニューヨーク」はただ「N.Y.」であり、「ロンドン」はただ「LONDON」だった。

そう聞いて『なんて古い考え方!』

そう思うのはきっとどっぷりすっかりSNS時代に浸かっているからかもしれない。

思い返せばインターネットができる前は、多くの人にとって物事はもう少し大きなカテゴリーで認識されていた。細かな情報を世界中に伝えるには時間も言葉も足りなかったし、みたことのないものを想像で補うには世界は広すぎた。

もちろん、そんな(今の感覚では)不便な時代でも世界にはいろんな流行が生まれそれを世界に伝える人はいたから情報が遮断されていたわけではない(映像も写真もあったし)けれど、今ほどに詳細な情報が伝わるまでにはタイムラグがあったせいで、いろんなズレや誤解が生まれたりもした。

ただ、それがまた別の文化を産んだりもする楽しみはあったし、少ない情報だったからこそ大事に語り継がれてきたんだけれど。

例えば少し昔までは、多くの人はパスタの種類にかかわらず全部「スパゲッティ」と呼んでいたし(その名残で未だに総称してスパゲッティと呼んでしまう人は多い。ちなみに私もだ。)、ご存知ナポリタンは「ナポリにそんな料理はない」と知られるまでイタリアでもメジャーな料理だと信じる人も少なからずいた。

逆に海外では日本のものであればとりあえず「ゲイシャ」や「サムライ」など“ぽい”名前で呼ばれていたり。

それこそ世界のどんな国の人とだって直接繋がれる今の時代にこういう素でユニークな誤解は減りつつあるのは確か。昔なら苦笑いで済まされることが炎上しちゃったりするしね。

幸か不幸か、インターネットにより“大きなカテゴリー”はあっという間に消費し尽くされ、物足りない人たちによって今はその中の、もっと小さなものへと情報は細分化していく。

“ガイドブック”的な情報もそうだ。

昔は“ガイドブックにも載っていない”情報にある程度の価値があったが、今は“ガイドブックに載っていない”情報の方が多いくらい(ただしその情報の正誤は置いておいて)。

例えば日本を訪れた外国人観光客が紡ぐTOKYOは、「東京」というカテゴリーは残しつつも「原宿(ファッション)」「浅草(お寺)」「三鷹(ジブリ)」「秋葉原(アニメ)」などに分解され、最近ではもっと細かく「古い喫茶店がある街」やら「惣菜が美味しい商店街」までもがあっという間にシェアされている。

そしてそういうものがさらに街の個性を出すのに役立っているように思う。

どこの街であっても、明確に街ごとに「ここは◯◯ですよ」「こっちは△△ですよ」と立て札が立っているわけではないので、大抵は自己申告もしくは訪れた人の客観的感想がその街の雰囲気作りの一部になっている。ネットのおかげでそうやって情報が情報を呼び、世界規模でミニマムなエリアカルチャーが発信されている。

これを密かに、世界規模の「アド街ック天国」化だと思っている。

SNSのおかげで人類は「日本」「東京」「大阪」「アメリカ」「ニューヨーク」などの大きなカテゴリーから自由になり、国や地域を軽々と超えて「自分(もしくは誰か)の目で見つけた“良いもの”」の発見が主流になりつつある。

「○○(都市名)に行ったよ」ではなく「1,000円以下で飲める酒場がいっぱいある○○を散歩してきたよ」が価値のある時代。

と少し大げさ目に言ってみたが、「アド街」的な面白さは実はこのネットによるハイテクさと真逆のところにあると思う。

こんなにも情報が溢れているのに、それでも知らないことがたくさんあったり、知ってたと思ってたことが実際は違っていたり。同じ情報でも情報をシェアした人のそれぞれの目線で全く違う雰囲気を感じられたり。

どんなにネットが発達しても、使う(発信する)のが人間である限り結果ファジーでゆるゆるとした情報に集約されているのは面白いと思う。
(だからこそ鵜呑みにしない心持ちは必要だけれど)

ハイテクを駆使して着地するローテク部分。こればっかりは脳に直接AIを埋め込まない限りはなくならないだろうし、人類らしさの楽しみとして大事にしていきたい。

というわけで、URBAN TUBEでも前回の「台湾」のような大きなカテゴリーだけでなく、時にはそんな細分化された「アド街」ぽいことをやって行こうと思う。

言うなれば「アーバンチック天国」である。

「これがアーバンだ」というたった一つの解ではなく
あくまでも「アーバン“チック”」という様々な街の曖昧さを愛する感じで。

と、前置きが長くなったが、今回選んだ東京都「墨田区」は、とあるカノジョの一言から始まった。

「墨田区って、ちょっと危険なイメージなんですよね。下町っぽさは楽しそうだけど、酔っ払いなんかも多い感じ」

ほらね、同じ東京に住んでいたってこんなものなのだ。

世田谷や渋谷区など東京の「おしゃれな西側」にしか住んだことのない彼女の発言。(これもまた私のあいまいな思い込みイメージだが)

だからここが世田谷マダムの集まる店や、おしゃれな表参道であれば同意を得ていた発言かもしれない。しかし彼女の不運はそこにいた人間の4人中2人が墨田区民(かくいう筆者も)だったのを知らなかったことに始まる。

しかももう1人は、今まさに墨田区近辺に家を買うべくリサーチしている人間だ。
この瞬間、墨田区民の心は団結し、「ならば墨田区の真髄を見せよう」。こうなったわけだ。

そんなことから今回のチューブは始まった。

多少行き当たりばったりである。

見せよう、と意気込んだものの、正直墨田区の飲屋街やディープな部分を愛している人間には、西側のおしゃれエリアの彼女に説得力を持たせることはできない。いくら声高に「墨田区は最高です」と叫んだところで今の時代「で、ソースは?」と返されるのがオチである。

ならば今回は手を替え品を替え寄ってたかって「西側のカノジョ」に墨田区を愛してもらおう、というのを水面下のテーマにした。ちなみにその“手”や“品”は墨田区に住む“中の人”だったり、墨田区に関わる人だったり。ある意味カノジョを墨田区漬けにするイメージだ。

写真には出てこないが、今回の「墨田区ツアー」には全て「カノジョ」を同行させてみた。さて、この旅が終わる頃には墨田区を好きになってくれるかしらん。

もちろん日本もしくは世界の“墨田区外”の人にもぜひ好きになってほしい。そんな甘い願いも込めて。

とりあえずプレゼンにはデータがあると話が早い。

そこでまず第1弾として「不動産屋さんを呼んでみた」

東京23区を中心に基本的にヴィンテージマンションを扱うというユニークな不動産屋さん、<株式会社 クローバー>の加藤 将さんである。

ちなみに加藤さんも現在墨田区在住。

「加藤さん、墨田区がちょっと危ないエリアだと思ってる女子がいたんですけど」
「いやいや、今墨田区はとても注目されているエリアなんですよ!特に女性に人気です」

そもそも、カノジョのみならず、他の地域に住んでいる人から見た「墨田区」のイメージは案外バラバラだ。(もちろん他の町でも同様の事が言えるが)

冒頭で、SNSによる情報の細分化とスピードがかえってファジーな世界を作り上げていると書いたが、まさに今、カノジョを含め多くの人が抱えているのは「あいまいな墨田区感」だ。

彼女のようにせんべろ的な少々ダークなイメージを持つ人もいれば、墨田区といえばスカイツリーしか知らない人もいる。

また少し前に「イーストトーキョー」という言葉がトレンドになったのもあるが、一部には「おしゃれなカルチャーが集まる町」だと思う人もいた。

隅田川を渡る総武線。奥が中央区・台東区で手前が墨田区。

さて、不動産屋さんから見た墨田区は、「将来的にも期待が持てる」地域だそうだ。

「墨田区と言って、頭に浮かぶのは、<錦糸町><両国>。この2つの場所が、有名ですよね。
両方のエリアとも、上から見ると碁盤の目のようになっている場所なんです」

ちなみにこれは江戸時代に「明暦の大火」と呼ばれる大火事があり、江戸の大部分が延焼した事から、防火対策や武家屋敷の移転で碁盤上に堀が張り巡らされていた場所だったところ、さらに関東大震災で区画整理が進み、東京大空襲で道路が広がり、現在のような形が形成されたんだそうだ。なのでこの辺りは日本の歴史から見ると「新しく」作られた街である。

「墨田区といえば下町、のイメージの人が多いですが、この辺り(両国、錦糸町)は新しく作られたので道路も広く、一方通行の道路も多いんです。そのおかげで子供が歩いても安全と思える見通しの良い街並みが形成されていて、そういう意味では下町の雰囲気はほぼ残っていません。

ですが新しい建物を建てるにも区画が綺麗な為、建てやすく、これからの街並みも今のような整然とした形になることが予想できる場所なんですよ」

ちなみにみんなが思う“下町、墨田区”は旧中川を挟んで、上のエリアに残る。

大雑把に言うと現在のスカイツリーよりも北のエリア。その辺りが元々の墨田区のイメージと近い形だろう。

この辺りは様々な災害(火事や空襲)からも生き残ったエリアなので、昔のままの街が残っており、長屋や古民家もあるいわゆる下町感の強い場所。

「ただスカイツリーができた事により、古い建物を生かしたオシャレなお店や、新築マンションも建ってきていて近代化が進んでおり、昔ながらの街並みは少しずつ失われてきていますね。」

01.墨田区のシンボル、スカイツリー。
02.墨田区は八百屋や魚屋など個人商店も多い。これは昔から運河を通じて流通が発達していたからだそう。
03.両国、森下あたりはご覧のように道がとても広く、開けている。この雰囲気が好き、という人は多い。

【こんな人は“墨田区にすもう”、をおすすめ】

・3人家族もしくは20代独身女性、30〜40代の働き盛り

・車から新幹線、飛行機まで各種出張が多い

・飲みあるきなど夜遊びも好き

・安くて広い家に住みたい

・静かな環境がいい

東京の都心に住む場合、こういう条件は結構な贅沢である。

そもそもの土地(住居用)が少ないのもあるし、新幹線と飛行機両方使う出張が多い人はその辺りの利便性も考えると難易度が高くなる。

「静かな環境に住みたいけど、近くにふらりと遊べる場所が欲しい」もなかなかに贅沢な希望だ。

「墨田区を希望するお客様は、大まかに20代女性、単身の30〜40代、またはお子さんが一人の3人家族が多い気がします。つまり働き盛りの世代が非常に多い。賃貸の場合、希望する家賃は月々11万円台平均でしょうか。
都心からは大きく離れたくはないし、物件の満足度も捨てたくない方が選んでいる気がします。

利便性、都心へのアクセスは隣区と同じ位の距離感にも関わらず、相場的には、安く、広い物件が手に入る貴重なエリア。都心方面、空港アクセス、首都高速の乗りやすさがあり、どこに行くにも出やすいんです。

それにゴミゴミしたアーバンライフから、少し離れてゆっくりと過ごしたい方にも適した地域です。場所によってですが、区画が綺麗な事もあって間取りの形も使いやすいものが多く、家族連れの方に人気が高いです。最近では、曳舟エリアが駅前開発も進み、注目を集めていますね」

墨田区は小さい区だが、両国・錦糸町などの都会的なエリアもあれば、押上、曳舟などのもともとは下町だけれど再開発されたエリア、八広や東あずまのように古い町並みをそのまま残したエリア、また本所吾妻橋のように工場や職人が多く集まるところもある。

蓋を開けてみれば一言ではくくれないいろんな個性によって「墨田区」は形作られている。“西側のカノジョ”も思っていた以上にいろんな顔のある部分に少し興味を惹かれたようで“例えば働く女性”にオススメな場所は?”と尋ねる。

「家族連れで、駅から近く、築年数が浅い物件が欲しければ「東武亀戸線」エリアがオススメです。JR「亀戸」駅から浅草線や半蔵門線直通がある「曳舟」駅までを通るワンマン電車なので、都心に出るのに便利な両駅まですぐですし、この1回の乗り換えを入れただけで同じ価格でも1部屋増えたりします。

単身者で、通勤第一に考えるなら「両国、森下」エリア。ここはJR線と地下鉄が両方使える珍しい場所なんです。都心方面、千葉方面、埼玉方面、どの方面にも行きやすく、新幹線や空港にも出やすいので、帰りが遅い人に人気のエリアですね。

閑静な住宅街なので、静かで女性の方の人気も高いです。そういった方向けの1LDK~2LDKまでの間取り物件も充実しています」

01.様々なお店や人種の集まる錦糸町。墨田区でもスカイツリーと二分する賑やかなエリア。
02.両国はゲストハウスやホテルも多いため外国人観光客が急増。
03.墨田区には「すみまるくん」というバスがあり、墨田区内の移動に便利。
04.墨田区には公園も多い。夏祭りシーズンになると盆踊りや祭りが開かれる。 
 05.商店街もまだまだ元気。ここは曳舟駅近くにあるキラキラ橘商店街。
06.隅田川沿いはジョギングのメッカになっていた。対面は浅草。

ちなみに不動産屋さんから見た「価値が落ちにくい」エリアの特徴の一つに「ランドマークがあること」も重要だそう。

「都心ではもう土地が余っているエリアや新たにランドマークになるものがないので、スカイツリーなどのキラーコンテンツと、比較的都心からも近いものの建てるスペースが残っている墨田区は、期待が持てる場所ではないでしょうか。それにちょうどよい相場感が魅力の1つ。実用的な場所で都心からも程近く、そこまで田舎でも、うるさくもない場所。誰でもわかるランドマークもあり、これから発展する可能性を秘めた場所です!」

独自のカルチャーも楽しめる街

「昔の文化と新しいものの新旧融合が特徴的な町なので、カルチャーが好きな女性に人気ですね。墨田区は、「葛飾北斎」や「勝海州」など、歴史上の人物のゆかりの地や、花火大会、ちゃんこ鍋、相撲のイメージが強いですが、実のところイメージが固まっていないのが現状です。

スカイツリーが出来た事により、全国区になった「墨田区」は、これを契機に「すみだ地域ブランド戦略」を打ち立て、「和」「下町」「ものづくり」を中心に、新しい文化を作っている最中です。

下町の文化を活かし、江戸時代からの伝統を現代に繋ぐ、語り部的なエリアを目指していく予感がしています」

墨田区と台東区をつなぐ橋。

「とまあ、本当に女性にオススメの街なんですよ!」
「都心で飲んで帰ってもタクシー代がそんなにかからないのがすごくいいですね!」
「え、そこですか」

「実は今、20代女性でマンションを購入する人が増えているんです。低金利で買いやすいのもあるんですが、“自分の財産”として若いうちに購入する人が非常に多い。
その中でもライフスタイルともマッチする雰囲気で、同じ価格でも都心より広い家が手に入る。そんな理由で墨田区に家を買う若い女性が増えてきました。便利で街自体の発展も楽しめるエリアなので、本当に女性にオススメです!」

と、1日かけて加藤さんから熱い墨田区レクチャーを受けた“西側のカノジョ”に、街の成り立ちや利便性を聞いた上での感想を聞いてみた。

「とにかく、道が広いのは感動かも。歩道を自転車で走れるところが多いし(歩道が規定幅以上の場合、自転車走行が可能になる場合がある。規定を満たした歩道には自転車通行マークがあるので確認してから走行してください)、駐輪場もちゃんと多い。そして坂道も少ない!これは小さい子供がいるママにはすごいありがたいんじゃないかなあ。

それと実際に電車で移動すると思ったよりも都心まですぐだし、何より銀座とか東日本橋なんかで飲んで帰ってもタクシー代がそこまで高くないし。うーんもし20代の時にこの情報を知っていたら墨田区にマンションを買っていたかも(笑)」

とりあえず「怖い」イメージはすっかり払拭できたようだ。

だがさらに墨田区の虜にすべく、次の手はカノジョと同じ世代の「墨田区在住の女性目線」で攻めてみたいと思う。

協力:株式会社 クローバー
http://www.clover-estate.co.jp/
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PROFILE

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

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