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CULTURE TRIP SEP 26,2018

【ハッとしてグッドな田原市!】田原市の宝物を探そう(後編)

田原市の宝物のひとつは、「安心して食べることのできる美味しいもの」を育てる人々です。そんな素敵なものを生み出す人たちの“手”を見たくなって、作り手たちに会いに行きました。


野菜を最初に美味しいと思ったのはいつですか。

子どもの頃ってたいていの人は野菜が苦手だったのではないでしょうか。

わたしも多くの子ども同様「野菜、きらい」という正しい(?)子ども時代でした。

ある日のこと、母におやつをねだると塩の小瓶を渡され、庭になっているきゅうりを食べるよう言われました。

クッキーとかが良かった…と思いつつも庭へ行き、きゅうりをもぎ、ヘタをとり水道でざっと洗って塩をかけて頬張る。

夏の暑い時期だったせいもありますがみずみずしくて、頑張ってかぶりつかないとかみきれない弾力があって、苦い(昔のきゅうりはちょっと苦味がありました)けどほの甘さもあって、あっという間に1本食べてしまいました。

その「初めての丸ごときゅうり」がびっくりするほど美味しくて、以来夏の楽しみになりました。

その後大人になり自炊を始めた時、今度はスーパーにほぼ年中きゅうりが売ってるのを知ってびっくりしました。便利だなとは思いましたが、同時に子どもの頃に食べて「美味しい」と思ったあの味には出会えなくなったことに気づきます。

スーパーに行けばほぼ1年中、同じ野菜が買える。
確かにそれは便利です。またそうなるまでにたくさんの努力もあったことでしょう。

でもきゅうりだけでなく、野菜を食べて美味しいなあと思うことは減りました。
旬ではない時期の野菜はどうしたって味が落ちます。

人参の土臭い甘みも、ほうれん草の出汁が効いたような甘みも、ネギのピリピリした辛さもだんだん減って、気がつけば個性的な味は薄まってきたような気がします。

ただ、そのことに一方的に文句をつけることはできません。

日本全国隅々までに野菜を届けるためには旬ではない時期にも栽培をしないといけないし、量を安定させるには農薬だって不可欠です。

何よりも旬を無視してでも1年中便利に野菜が欲しいと願ったのは、こちら(消費者)の方ですから。

ただ人間ってどこまでも贅沢ですから、そんな便利な生活を享受しているのにもかかわらず、むしろそんな便利な生活が当たり前になったからこそ、今度は「無農薬」や「旬」の美味しい野菜を求める動きが大きくなってきました。ここ数年、テレビや雑誌でも「有機野菜」を取り上げられることが増えたように思います。

「美味しい旬の野菜だけを食べるか」もしくは「1年中同じ野菜があって当たり前」を選ぶのか。

“どちらか”だけを選ぶことを今すぐ決めるのはおそらく難しいこと。それでも「旬」を忘れないように、その美味しさを知って、求め続けることは消費者側が忘れてはいけないことだと思います。

宝物を実らせる、田原の“手”

さて、田原には「おいしい」「安全」な野菜を育てるために有機農法での栽培を手がけている人たちがいらっしゃいます。

今回はサーフィン体験でお世話になったMIC GROWING SURF PRO SHOPの加藤さん(ミックさん)に、とても素晴らしい野菜を作る農家さんがいる、と紹介され早速お話を伺ってきました。

ほうれん草やネギ、オクラなど様々な野菜を無農薬で作っている<吉田園>。かつては花の栽培をしていらしたそうです。

吉田園の作る野菜は「渥美半島たはらブランド」に認定されていて、さらにほうれん草と春菊はそれぞれ日本野菜ソムリエ協会の野菜ソムリエサミットで賞をとっています。一般流通は行わず、多くはホテルやレストラン、一部通販、地元のスーパー、東京のデパートなどへ卸しているそうです。

お会いする前にミックさんから吉田園の「九条ネギ」と「春菊」「ほうれん草」をおすそ分けしていただいたのですが、冗談抜きで目玉が落ちそう(ほっぺが落ちそうの上位互換だと思ってください)なほど美味しかったです。

九条ネギは長めにザクザク切って、ゴマ油と塩を振っただけですがネギらしい辛味と、同じくらいの甘味があって、シャッキリとした歯触りと「辛い、甘い、美味い、辛い、甘い、美味い」の連鎖で永久機関のごとく食べてしまいました。

そして春菊とほうれん草! なんと両方とも生で食べられるのです。

ご存知のようにアクの強い春菊やほうれん草は通常湯がくなどして火を通さないとえぐみと苦味が出てしまいます。それが生で食べられるなんて。

ちなみに生の春菊は甘味と旨味の中に、ふんわりと春菊の香りが広がります。

ほうれん草も同様にほうれん草独特の上質な出汁のような甘い香りがたつ、柔らかで美味しいものでした。

01.品の良い辛みがある九条ネギ
02.甘く香り豊かな生春菊

そんな美味しい野菜を育てる吉田園さん。

太陽の恵みを浴びる大地の畑と、ビニールハウス両方で栽培されているということで、まずは畑の方に伺いました。

と、そこにあるのは想像してたものよりも小さな畑(と言っても、いわゆる大型機械をどーんと使うような大規模農家と比較して、です)。

最初に向かった畑は、オクラが2種類、その近くにナス、きゅうり、ピーマンなどが栽培されていました。

ただ、その小さな畑がすごかった。

こちらはもともと生け花用に使われていた品種の赤オクラ。味は緑のものと変わりありませんでした。

案内していただいた吉田訓章さんから、「食べてみます?」と誘われもぎたてのオクラを生でいただきました。

ここでも目玉とほっぺが落ちかけました。味は確かに知っているオクラなのですが、深みと甘味が段違いというか。

そしてきゅうり。

ひと口食べた時、少し泣きそうになりました。

子どもの頃に食べた「あの」きゅうりの味だったから。もちろん母の家庭菜園の100倍は美味しいものですが、ずっと思い出に残っていて、また食べたいと願いっていた「きゅうりの味」でした。

「オクラは毎日収穫できるんです。1本で2ヶ月間かけて、50〜60個ほど収穫します。美味しいから芽が出たらすぐに虫が食べちゃって木にならないこともあるんですよ。ですが取引先のホテルからは“できた分だけで良いから欲しい”と言っていただいてます」

さらりと吉田さんはおっしゃいますが、「できた分だけでもいいから欲しい」という商売が成り立つというのは、すごいことです。ホテルやレストランがそれだけここの野菜に惚れ込んでいるっていること。

以前は花の栽培を手がけていたそうですが、なぜ野菜にシフトしたのですかと聞くと「野菜の方が、(手間や工夫で)味が違うということが面白くて」とおっしゃっていました。

オクラの近くにある長ナス、ピーマンももちろん無農薬。お話を伺う間も畑に生えた雑草をこまめに抜く手は止まりません。

夏はカボチャやオクラ、きゅうり、小玉スイカ
冬はニンジンやキャベツ、大根などを育てているそうです。

少し離れたところで、ニラやネギを栽培しているビニールハウスがあるということでそちらにもお邪魔しました。

ちなみにこちらのニラも、1本味見させていただきましたが、春菊同様甘いんです。もう一度いいます。ニラなのに甘いんです。あの独特な鼻につく臭みはなく、でもニラの“いい”香りはちゃんとある。丁寧に育てられたものはこんなにも味が違うんだ、と不思議でなりません。

「以前数値を測ってもらったら、ニラは硝酸値が通常の10分の1だったんです。奇跡のニラだって言われました。ニラは出荷のために上部を切ってもまた2週間ほどで生えてくるんですよ」

畑も、ビニールハウスの規模も、“機械どーん”の農場と比べれば大きさで言えばそこまで大きいものではありません。

ですがオクラやニラのように実りは多く、またその味に惚れ込んだホテルやレストランと直接取引をすることできちんと「商い」としても成り立っていました。

ごちそうを食べて育つ、おいしい野菜

吉田園では堆肥も自ら作っています。またその堆肥が美味しさの秘密の素でもあります。

籾殻や米ぬか、豚糞(後述)などを含んだ堆肥をゆっくり、じっくり寝かせ、その栄養たっぷりな完熟堆肥を野菜にあげているそう。

野菜のごはんは土です。だから栄養たっぷりのごちそう(土)で育てられた野菜が美味しくないわけがありません。

家族と海外研修生(今年はベトナムから笑顔の素敵な若者が来ていました)という小規模経営ながらも、日々いろいろな美味しい野菜を生み出す吉田園。

野菜だけでなくパッションフルーツなどの果物や、ミニトマトのテスト栽培もスタートしたそうです。

「色々育てたいけど春菊を極めたいなあ」というのが訓章さんの目下の悩みだとか。

01.完熟を待つパッションフルーツ
02.こちらはネギを育てるビニールハウス
03.吉田さん一家と、ベトナムからの研修生さん(左)

全国でも数件しかない、本当に健康に育つ豚

さて、お次は田原の老舗宿の回でご紹介した、美味しい豚「保美豚(ほうびとん)」を育てている吉田畜産さんへ向かいます

お名前でピンときた方もいるかと思いますが吉田畜産3代目の吉田幸伸さんは吉田園の吉田訓章さんの従兄弟だそうです。

ちなみにここで育てられる「保美豚」は田原で唯一の、そして全国でも数件しかない「遺伝子組み換え飼料不使用、薬剤不使用」の豚です。

食べた瞬間、“くもりのない旨味”、という印象を持ちました。

さっぱりと柔かいのですが、口の中にはしっかりとした旨味が残ります。

そこに雑味はなく、ピュアでふくよかな旨味。

そして脂身の甘いこと。
脂身部分でチャーハンを作ったら
目玉とほっぺたが3回ほど落ちました。

ここでは生まれてから約200日大切に育てます。通常は180日程度だそうで、普通の豚よりも大きく育ちます。

3代目の吉田幸伸さん

「飼料も手作りしています。トウモロコシや米、麦、乳酸菌、納豆菌、カシスなどを入れて作るんです」

さらに堆肥も自社で作っているとか。お米を生産し、その籾殻などと豚の排泄物を混ぜ作っているそう。そうやってできたものは抗生物質などの残留がない良質な有機堆肥として、また田んぼへ戻すことで循環を行います。

そうそう、先述の吉田園の堆肥にも保美豚の豚糞が使われているそうですよ。つまりは吉田園の堆肥も抗生物質などが一切不使用ってことです。

ちなみに子豚に飲ませるミルクも薬材を使っていないものを使用。赤ちゃんの時から徹底的に安全でおいしいものだけを与えられ、すくすくと育つわけです。

大きくなった後は、遺伝子組み換えでない麦や米などを混ぜた餌を与えることでオレイン酸が多く含まれる臭みのない肉質になります。

こうやってここでは豚は赤ちゃんから大人になるまで、「健康」に育てられています。

餌だけでなく、飼料に乳酸菌を混ぜ、豚舎にも乳酸菌を散布、さらに腸内環境のために水にバイオ酵素を注入するなどして、「豚本来の免疫力」をアップさせているそう。それが薬剤に頼らない健康な育成につながっているそうです。

「原料が豚肉の味や香りになるんですよ。以前試験でサツマイモを食べさせたらその香りがちゃんとしました。だから本当にごまかしがきかないんです」と幸伸さんは言います。

手前の水が溜まっている部分で、靴底などを消毒します。

それと徹底的に病気を持ちこませないために最新の注意を払っているそう。

飼料を混ぜ合わせる建物や、豚舎の前には小さなプールのような水たまりがあり、中へ入るにはそこで靴底を毎回消毒します。

現在の養豚ではこの「ミルク、餌から無農薬・遺伝子組み換えでないもの、薬剤不使用」を行っているところはほとんどありません。コスト、出荷数、その他いろいろな問題もあり、特に餌は輸入品の遺伝子組み換えされたものに頼らないとなかなか難しいというのも現実です。

だから例えばハムやソーセージといった加工品の場合、その多くが薬剤、遺伝子組み換えを体に蓄えた豚肉に、さらに食品添加物が加わっている、ということ。

もちろん「なるべく安全に」と努力されてる方はたくさんいらっしゃいますが、それでも餌は無農薬だけどミルクに薬剤が含まれていたり、薬剤は使わないけど餌が遺伝子組み換えのものだったりすることも。

それほど吉田畜産のような育て方はコストも手間もとてもかかるということです。それでも吉田畜産では「健康な豚が一番美味しい」をモットーに、その手間を惜しまず、こうやって健康で美味しい豚を育てています。

特別に豚舎の中に入れさせていただきましたが独自の設計を取り入れた開放的な豚舎では丸々とした豚さんたちがのびのびしていました。匂いもほとんどありません。

吉田園の春菊×吉田畜産の保美豚コラボ商品「春菊フランク」も登場!

ちなみにそんな風に大切に育てられた保美豚ですから、加工品にも添加物は一切使用しないそうです。塩や香辛料だけで十分美味しいソーセージやハムを作成、販売しています。

ちなみに保美豚も渥美半島たはらブランドに認定され、ふるさと納税返礼品(2018年9月現在情報)にもなっていますよ。ぜひ一度味わってみてください。

吉田園の野菜も保美豚も、通販以外には全国展開の流通がない分、アプローチは少し不便です。

ですがそれでもわざわざ食べに行きたい、手に入れたい<価値>のあるものです。

宝物とは価値のあるもの。だから野菜も豚もまごうことなき田原の宝物なのです。

命の始まりから、終わりまでを大切にするということ。

吉田畜産の豚も、吉田園の野菜や果物も、
「命の始まりから終わりまで」大切に、そして安全にこだわって育てられています。

言わずもがな、「食べること」は何かの「命」をいただくということ。と同時に私たちの「命」をつなぐもの。

この「命の循環」の中に、できるだけ美味しさと健康と安全を持ち、大切に育てられた食物を取り入れることは、私たちの命を大切にすることにつながります。

もちろんスーパーで売られるお得セールの輸入品などに比べればこうやって手間をかけられた作物の価格はどうしても高くなります。だからと言って旬や、健康で安全なものを完全に手放してしまえば、また欲しいと思っても手に入れるのは難しくなります。子どもやその先の世代のためにも「旬」「有機野菜」「安全なお肉」があるってこと、それを作る人たちがいるっていうことを伝えるのは大事なこと。

例えば調味料で味を整える料理はスーパーのものでも、お鍋やサラダなど食材を活かした料理には美味しい有機のものを選ぶ。

そうやって自分や家族の体と「口福」のために暮らしに合わせてチョイスすることは今すぐでもできること。

そこまで難しく考えなくても、たまにはびっくりするほど美味しいものを口にするのは人生において何より素敵なことですよね。

旅に出て、そこで美味しくて安全なもの知り、食べる。それだけで人生は豊かになるはずです。

海、自然、作物、そしてそれを育てる人々。

田原にはそんな価値のある宝物がたくさんありました。

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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