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FASHION SEP 04,2020

“あたたかい”を届ける。
<NANGA>のものづくりの秘密に迫る

滋賀県米原市。伊吹山の麓にあるNANGAへお邪魔し、そのあたたかさの源に触れてきました。


もう10年以上も前からURBAN RESEARCH DOORSが、そしてここ数年は他のブランドも参加し、毎シーズンダウンジャケットを別注している『NANGA』。

言わずもがな、『ダウンジャケットブランド』として、アウトドア好きには『シュラフ(寝袋)ブランド』として幅広く支持を集めているNANGAですが、その始まりは なんと“布団”の工場だったそう。
そう、様々なプロダクトを生み出すNANGAは長きに渡っての“あたたかさ”のスペシャリストでもあります。

今回はそのNANGAダウンのあたたかさの秘密に迫るべく、滋賀県米原市にあるダウンジャケットを縫製する工場を訪ねてみました。

あたたかさの秘密1 独自素材オーロラテックス

アーバンリサーチ各ブランドでも使用する、NANGAが独自開発したオーロラテックス。通常、防水効果を高めると透湿性は低下してしまいますが、このナイロンは多孔質ポリウレタン防水コーティング加工と呼ばれる加工が施されたことにより防水も透湿性も高めたもの。

なんと耐水性は20,000m、透湿性6,000g/m²/24hes(24時間で1m²あたり6,000gの水を外へ逃す)!

あたたかいだけでなく、雨天や熱がこもった状態にも快適さを叶えてくれます。

ちなみに通常のナイロン裁断は1度で100枚ほど切ることができるのに比べ、オーロラテックスは20枚が限界。それだけ良い素材を使用しています。

あたたかさの秘密2 チームワーク

ダウンジャケットは一着を作るのに非常にパーツが多いのだそう。例えばアーバンリサーチ ドアーズでリリースされるダウンならなんと最低でも50パーツあるとか。使う資材も20種類以上。裁断、縫製、ボタンやファスナー付けなどその細かな工程は各職人さんたちの手で分業される。
縫い工程は外国人技能実習生が担当し、チームワークがうまくいくように班分けやリーダー決めが行われる。真剣に作業しながらも常に挨拶が飛び交う。そんな工場内が印象的でした。

あたたかさの秘密3 職人技による羽毛のチェック

ダウンジャケットの要というべき“羽毛”。NANGAではハンガリー・ポーランドなどヨーロッパ産の食肉用として成熟した水鳥の羽毛を使用しています。 

ジャケットに羽毛を入れること「吹き込み」と言いますが、NANGAの高いクオリティの秘密の一つはこの吹き込み職人の長年の感覚。

羽毛は海外からロットで持ち込まれるので、一かたまりごとに質やフェザーの混入率もばらつきがある。だからこそ“手で触る”ことでその微妙な差もわかるのだとか。この日も羽毛をホースで吹き込んだあと、手作業での微調整がされていました。

あたたかさの秘密4 製品がお客様に届くまでのビフォアーアフターの“手”

ここではただ指示書通りに製品が作られるだけではありません。
例えば実際に商品が作られる前にサンプルを作成し、そのチェックは特に力を入れているそう。ファッションアイテムとしての使用も多いダウンジャケットですが、本来は寒さに対してきちんとあたたかくいられる服。サンプルを仕上げ、実際に着用し、機能性の部分をきちんと確認しているそう。

またNANGAでは検品や箱詰めまでも行なっています。1点1点丁寧で厳しい目でチェックされ、ようやく出荷。

さらにそれだけでなく“お客様のもとに届いたあと”もNANGAの手は止まらない。NANGAのスリーピングバッグであれば“永久保証”の対象になり、修理費無料で永久に修理保証してくれます(ダウンジャケットは有償)。

今までたくさんの修理保証をこなした中で、40年前にヒマラヤ・エベレスト登山で使われたダウンシュラフが持ち込まれたことがあったそう。表の生地はもちろん経年劣化していていたけれど、中の羽毛と今の羽毛を混ぜ、新しい寝袋に生まれ変わったのを見たお客様は大変喜び、お礼の手紙も来たとか。

こうやってNANGAのあたたかいダウン製品には、たくさんのあたたかい手が携わっていました。

300着から年間9万着へ。
NANGA HISTORY
代表取締役社長 横田智之氏インタビュー

NANGAのある滋賀県米原市は、かつて全国シェア約30%を誇った真綿ふとんの生産地。祖父の代に工場で布団の加工を請負っていたが、その後海外生産が主流となったことで父親の代で当時流行し始めたアウトドアに使用する寝袋の縫製加工を始め、その後独自メーカー・ブランドとしての道を歩み始める。

お話を伺った3代目の代表取締役社長・横田智之氏の代からはダウンジャケットを手がけ、現在は日本の冬には欠かせないダウンジャケットブランドとしてもその名を知られるようになった。

「ダウンジャケットを手がけるようになったのは、OEMで依頼が来たことがきっかけです。当時ウエアはほぼやったことがなかったのでチャレンジしてみよう、と。ただ僕らは寝袋を作れてもダウンジャケットはほぼど素人。仕様書の読み方や型紙の見方、裁断縫製、出来上がりに対する評価まで本当に0からのスタートでした。

もちろんその1年ですぐにうまくいくはずもなく、その当時は300着作るのに4ヶ月もかかったし、出来上がりも満足はできなかったです。
なにせノウハウが全くない状態ですからね。僕たちにあったのは生地やミシンなどの“在庫”だけ。それは流用できたけどノウハウだけは1から組み立てて行かなくちゃいけない。でもそれが面白かったんです。
随分怒られたし、なかなか思うように作れなかったけど今は形になっているのがすごいなあと思います。現在は年間9万着製作しているのにあの時は300着も作れなかったのか…と当時が懐かしいです」

アウトドアの体験

アウトドア好きには“憧れの国産シュラフ”として有名なNANGA。

智之さんがまだ営業担当だった時代、お父様から言われ自身もアウトドアスクールに通ったそう。その時の経験を語ってもらった。

「今は全く山登りはしていませんが(笑)、でも20年前の当時現場で学んだことは色褪せていないですね。そこで体験した基礎の部分は今でもものづくりの根底に欠かせないものになっています。
あの体験があったからこそ、“−20度の中でキャンプをしたことがありますか?”と聞かれても“あります!” と答えられるし。
ちなみに寒い場所で保温に必要なものを挙げるとすると、火器とダウンジャケットと、合繊(合成繊維)です。火器は必須だけど例えば1週間分の燃料を持っていくのは大変だし限りがある。
親父も“天然素材に勝るものはない。合繊では勝てない”と言っていましたが火器の次は絶対にダウンがあたたかい。
自分たちの持っている熱をいかに保温するかを突き詰めると今も昔も合繊ではダウン以上には出せないんです。だからダウンにこだわるべき、というのを体験からも学びました。−20度だと眠れない夜も多々あるんです。その中でいかに快適に過ごすかを求めていくと、やっぱり質にこだわるべきだと思いました。
僕は行かなくなりましたが、スタッフの中には山登りをする人たちがいます。今、彼らの意見に共感できるのも経験があったからだと思います」

アーバンリサーチ社とNANGA

アーバンリサーチ各ブランドの中でもっとも古い付き合いなのがアーバンリサーチ ドアーズ。
NANGAがダウンジャケットを手がけ始めてから間もなくアーバンリサーチ ドアーズとの別注がスタートした。

「最初は1からでしたから色々トラブルもあったし怒られたりしたけれど(笑)、今の製品はクレームもほとんどないんです。長くお付き合いする中でノウハウも蓄積されたし、必要なスキームは全部出来上がりました。デザインは変わってもクオリティを変えずにアップデートするという考えは変わらないです。そして10年以上、同じようにものづくりをさせていただいるからこそ工員もアップデートされていきました」

滋賀県米原市とメイドインジャパン

今までは求人をすると圧倒的に地元の人の応募が多かったそうですが、最近はNANGAが好きで東京などからも面接に来る人がいるとか。

「この場所にこだわったわけではなかったけれど、ここで生まれ育って、祖父、父、そして僕が引き継いで数少ない国内縫製工場の中でやっていくことができた。ここに“現場”があるからこそ僕らはメーカーとして色々できる。だから海外に移そうなどは全く思っていません。

世界に負けないものづくりをしている自負はあるけれど、その負けない部分をいかに表現していくかというのは今の課題です。
ダウン製品はあくまでも人の感覚や価値観が優先されるものでもあります。
だから“どういう人が使ってもこういう数値になる”というものを出していくのが大事だと思っています。

それと国内縫製業に未来があるな、というのも示していきたいんです。
働く人のモチベーションを上げるのにもお金はかかるけれど、働く環境や福利厚生、所得を上げたり。でもきちんとそうしないと国内の縫製は難しくなりますからね。

都会に出る必要も全くないと思っています。これだけインターネットが普及してアクセスが良くなったのだからそれを最大限使えばいい。せっかくこの地に工場もあるし、どこにいても仕事ができるならやっぱり生まれ育ったここで地方のメリットも生かしていきたいですね」

これからのNANGA

世界的にエコロジーやサステナブルが叫ばれる今、もちろん羽毛業界も独自の試みを始めている。その一つが「Green Down Project」。
不要になった羽毛製品を回収し、綺麗に洗い直したリサイクル羽毛はアーバンリサーチ社のダウンにも使われている。

NANGAでも一部の製品には使用されていますが、リサイクル羽毛は数値化が難しいこともあり、正しい基準が求められるアイテムには新毛が使われることの方が多いそうだ。

「ただ、うちで使用している新毛は食用の水鳥の羽なんです。食肉以外捨てられるはずだった羽根を使っているのでそういう意味ではエコなんです。またきちんと手入れした羽毛は50年持ちますしね。

こだわってものづくりをしている中で全てはエコには変えられないけれど、もちろんできることからは積極的に変えていきたいと思っています。
例えば会社で使っている電力は、100%自然電力なんです。太陽光や地熱、水力発電で作られた電気だけを買っています。あとは化学由来のものをどう減らしていくかを考えたり。布や羽毛リサイクル以外の部分でもやってきたいと思っています」

想いはぐるりと巡り、再び布団へ!?

今後手がけたいプロダクトはありますか?と聞くと意外にも原点回帰である布団の名前をあげた。
それは“おうち時間”が増えたこのコロナ禍にも関係があるそう。

「僕たちの製品は“外”に向けたものが多いけれど、コロナ禍を経てこれからは室内でも使ってもらえる製品を企画していきたいなと思っています。外でも室内でも使える、ライフスタイルの中で使ってもらえる製品をしっかり作っていきたいんです。

その中で今、見直していきたいのは“布団”なんです。前に若い子に聞いたのですが、彼らはお手頃でいい布団がどこで買えるか知らないっていうんです。
じゃあそこは僕たちができることなんじゃないかって。

ちなみにみなさんの家にある布団って、結構前に買ったものじゃないですか?
布団も3、4年で打ち返さないと持たないんですよ。当時数十万出して買ったような布団も手入れしなければスペックは半分になってしまいます。
365日そこで寝ているのに、その365日にお金をかけている人はほとんどいない。もし若い時代に買った布団なら、もう1回見直さないと寝ても若い頃のような回復はしていないんです。

ライフスタイルを見直すって本当はそういうところから始めていくものだと思うんです。

10年20年前の布団のパフォーマンスを見直して、若い頃の体力を取り戻すような睡眠をしませんか?という提案をしていきたいですね。

弊社の寝袋を買ってくれる人も、家での睡眠をもっと見直して欲しいです。働く人なら5日間家で布団で寝て、2日間キャンプで寝袋で寝ますが、本当に大切なのはその5日間。しっかり睡眠をとって2日間の遊びに備えて欲しい。

ちなみに布団のリメイクなら数万円で新しくできるんですよ。
これもきちんと提案できればリサイクルですよね」

様々な人の手や想いが込められたNANGA。
今年もアーバンリサーチ社各ブランドで別注アイテムがリリースされます。
この冬はぜひそのあたたかさを体験してみてください。

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