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FASHION OCT 01,2021

アーバンリサーチ バイヤー佐藤祐輔のココだけの話。
Vol.2 前編
〜セモー デザイナー 上山浩征さんと話す、アイデアの生まれ方について〜

バイヤー佐藤がブランドのキーマンに突撃訪問。クリエイションのことからプライベートでハマっていること、ぶっちゃけ話まで、付き合いの近いバイヤーだからこそ交し合える対談をゆるりとお届けします。

第二回は、バイヤー佐藤とは長年の付き合いを持つ〈セモー〉デザイナーの上山さん。『フランクに、いろいろなお話をお聞きしたい』とお伝えしたところ、呼び出されたのは六本木の森美術館! 上山さんの頭の中に触れてきました。


※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行っております。

朝の10時に森美術館に来たのは初めて。まだ人気が少なくて、もともと静かな美術館が、より静謐な雰囲気でした。僕が美術館に着くと、すでに上山さんは作品を眺めていました。

佐藤 「おはようございます」

上山 「あ、おはようございます。今日はわざわざすみませんね」

佐藤 「いえ、むしろ新鮮です。朝イチの美術館っていいですね」

上山 「でしょ。静かだし、頭もまだ冴えているから、刺激もすごくクリアに入ってくるんですよ。せっかくなんで、少し回りながら話しましょうか」

佐藤 「今はなんの展示中なんですか?」

上山 「これは、『アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人』※2022年1月16日まで開催。世界各地で挑戦を続ける70代以上の女性アーティスト16名に焦点を当てた企画です。面白いと思いますよ」

情報を制限することで頭がクリアになる

佐藤 「森美術館にはしょっちゅう来ているんですか?」

上山 「新しい展示が始まったら来ますね。面白い展示は2回見ることもあります」

佐藤 「インスピレーションを得るために?」

上山 「まあ、広くいうとそういうことになるのかな。定期的に来るようになったきっかけは2004年の『クサマトリックス』なんですよ。もちろん草間彌生さんの作品も圧倒的だったのですが、それとは別に感銘を受けたのが、森美術館のスタッフの方々の制服。それがめちゃくちゃ格好良かったんですよね」

佐藤 「スタッフの制服ですか」

上山 「全員白シャツを着ていたんだけど、シャツの裾をパンツから出してきていたんですよね。美術館って勝手にきっちりしている場所っていうイメージがあったから、それがなんか意外で。でも格好良くて。だいぶ後になって知ったんですが、ヨウジヤマモトさんがデザインしたものなんだそうです」

佐藤 「へー!」

上山 「それが本当に格好良かったんですよね。もちろんアートにも興味があったのもあり、それから定期的に通うようになったという感じかな」

佐藤 「セモーの服には毎シーズンアート的な要素がありますもんね。どこか抽象的というか。だから色の使い方が他のブランドとちょっと違ったりするんですよね。そのインスピレーションを得る瞬間に同席できていると思うと、バイヤーとしてはすごく興味深いです」

上山 「別に美術館じゃなくてもいいんですよ。ギャラリーでもいいし、骨董市でもいい。要はこういうものって、誰かが作り出した価値観を、作品を通して一方的に受け取る場所じゃないですか。そして受け取った側はそれを自由に解釈していい。もちろんインスピレーションも得るんだけど、僕にとっては、どちらかというとリフレッシュの時間かもしれません」

佐藤 「リフレッシュですか」

上山 「普段生活していて、余計なことを考えない時間を作るのって難しくないですか? 僕は電車に乗っててもスマホを開いちゃったりするし、一人でご飯を食べたりしていても仕事のことや遊びのことを考えちゃう。なにも考えない時間や場所を確保するのがどちらかというと苦手なんです。じゃあどうすればいいかなって考えたとき、〈極端に体を動かす〉っていう選択肢と、〈極端に情報を制限する〉っていう2択になったんですよね。その後者が美術館なんです」

佐藤 「確かに、何も考えない時間ってあまり無いかも。情報を制限することで、一旦頭をクリアにする感じですか」

上山 「なんていうか、加圧トレーニングに近いのかもしれない。一度、強制的に何かを遮断することによって、次の活動の糧になるというか」

佐藤 「一種の余白みたいな」

上山 「美術館はぶらぶらと歩くだけで何かに意識が集中しちゃうので、他のいろいろなことを一瞬忘れるんですよね。それが朝だとなお気持ちいい。自分はけっこう朝美術館派です」

佐藤 「確かに、朝の美術館はすごく気持ちがいいです。アートという情報に触れながら、不思議と頭がクリアになっていく感覚がある」

上山 「それにアートって何を見ても全部プラスになるんですよね。少しでも作品から何かを感じ取りさえすれば、きっとそれは次シーズンの色や形の礎になるから」

どれだけ良いコミュニティが作れるか

佐藤 「上山さんと取り組んでいて面白いのは、ポップアップイベント。いつも面白い提案をくれますよね」

上山 「過去にはなかなかチャレンジングなイベントもやりましたよね。ああいうのに付き合ってくれるのって、佐藤さんくらいですよ(笑)」

佐藤 「初めて一緒にキュレーションイベントをやったときって、代官山のカフェで『こういうことやりたいですね』って話した2、3日後にアーティストのライブに一緒に行って、そのアーティストに出演してもらおうってことでいきなり口説きに行こうって、じゃあ古着屋さんも入れちゃおうってことになって…」

上山 「気がついたらそこそこ大きいイベントになってましたね(笑)。でもそういう衝動を形にするって大事だよね」

佐藤 「朝まで一緒に飲んだ回数は、上山さんがぶっちぎりで1位だと思う。あの時の肝臓が最強だったんじゃないかってくらい(笑)」

上山 「今はこんなご時世だから飲み歩くなんて考えられないけど、あそこで出会った人たちとか、生まれたものって大きかったよね」

佐藤 「本当に。その時、その場所で起きた偶然が、今の色んな大事なことに繋がっているのは間違いないです」

上山 「別に飲みにいくことが大事なんじゃない。要するに有益なコミュニティをどう形成するかってことだよね」

佐藤 「予想もしなかったことが起きそうな期待感、ワクワク感」

上山 「そう。そういうワクワク感は大事」

佐藤 「やっぱ楽しくやるためには、仕事というルーティンを飛び越えたいですもんね。どんな形であれ、遊びって大事です」

上山 「これからはセレクトショップも、もっと色んな楽しい仕掛けが増えてくるでしょうね。ただの“洋服屋”ではなく、文化を発信する場所というか」

佐藤 「そう。もはやお店は服を買いに来るだけの場所じゃありません。もっと色んな価値が生み出せる場所になれると思います」

上山 「今までは“コーヒーが飲める”とかだったと思うんだけど、もっとアートに関わるものがあってもいいですよね。アーティストのコラボレーションなんかもきっと面白いはずですよ」

佐藤 「洋服だけでなく、感性や感覚を獲得する場所みたいな」

上山 「そうそう」

服としてのリアルな進化が求められている気がする

佐藤 「さっき上山さんが言ったように、ファッションもあり方が変わってきています。単純に洋服だけを見て“これがファッションだ”とか、最新のコレクション観て“これがファッションの最先端だ”って思わなくなってきた。ラグジュアリーブランドもアートに対して積極的な姿勢を示しているし。定義は常に変動していますよね」

上山 「でもそこが面白いんですよね。ファッションの定義がいくら変動したって、洋服っていう根本的なツールにはそんなに大きな変化はないじゃないですか。昔はモードっていう言葉がもてはやされていたけど、今はいかにデイリーウエアとして成立するかが求められている。見た目だけじゃなく、服としてのリアルな進化が求められているというか。色んな価値観があるなかで、そのどこを切り取って表現するかっていうのが面白いと思います」

佐藤 「上山さん、お時間よければこの後、アトリエお邪魔していいですか? 改めて服を見させて欲しいんですか」

上山 「もちろん。その後ランチでもしましょう。いつものところで」

佐藤 「いいですね!」

Today’s coordinate

Point
今回は上山さんにお誘いいただき、森美術館へ。semohのミニマムなノルディック柄のシャツを主役にCOSEIのワイドトラウザーを合わせました。毎シーズンsemohの独自性のあるグラフィカルなシャツに個人的には注目。遠目にはドット柄に見えるミニマムノルディック柄のシャツも展示会の時から注目していたものです。シックな装いの中に色を取り入れたい気分の今季は、COSEIの紫のトラウザーはアクセントに最適。URBAN RESEARCH別注TRICKERSのチャッカブーツでジム・ジャームッシュの『パーマネント・バケーション』に出てくる気分でスタイリングしました。あのなんとも言えない複雑で抽象的なムード。ジョンルーリーもとにかくカッコイイ。ジム・ジャームッシュ作品は大好きです。メガネはいつもの相棒GUEPARDです。

TOPS: semoh
INNER: COSEI
PANTS: COSEI
SHOES: Tricker’s × URBAN RESEARCH
GLASSES: GUEPARD

中編 〜セモー デザイナー 上山浩征さんに教えてもらった池尻のキューバサンドと、これからのビジョン〜 に続く!

撮影協力

森美術館
アナザーエナジー展
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/anotherenergy/

Composition & Text: Jun Namekata
構成・文:行方淳

Photographer: Kanta Matsubayashi
写真:松林寛太

Instagram
佐藤祐輔(URBAN RESEARCH バイヤー) @ yskjohn

URBAN RESEARCH Men’s Official account @ urbanresearch_men

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