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FASHION MAY 25,2022

THE GOODLAND MAGAZINE Vol.8 masterkey

THE GOODLAND MARKET(ザ グッドランド マーケット、以降はTGM)がお届けする、未来を考えたものづくりや取り組みに関連したブランドやプロダクトをひとつひとつ紹介するTHE GOODLAND MAGAZINE。今回は、大阪南部の岸和田で自社工場を構えながら洋服づくりを続けているブランド<masterkey(マスターキー)>について。自社工場の立ち上げの理由から生産現場への想い。そして、非効率な洋服づくり(!?)についての話をデザイナーの石橋智弘さんとSNS担当の国貞祐人さんに聞いてきました。


※ 撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。

他と差別化した非効率なものづくりと
生産背景も配慮した現場主義の想い

まず初めに、<masterkey>のブランドについて話を聞きたいのですが、コンセプトやブランド名について教えてください。

石橋

どうやって価値を見出だしていくのか分からない今の時代に、ニューヴィンテージを構築していくっていう想いがブランドコンセプトにあります。ニューヴィンテージって何かって言ったら今すぐ価値が出るものではなかったり、時間が経つにつれて価値が出るものを示しています。また、時間が経たずとも古着のアイテムをサイズ感などを調整して現代版にアップデートしていくというのもニューヴィンテージとして捉えています。それは自分たちの解釈なんですけどね。ブランド名だけに価値があるっていうよりは洋服自体にちゃんと価値があるものを作っていけたらいいなっていうのが根底にあります。

masterkey デザイナーの石橋智弘さん(以降、敬称略)

ブランド名に左右されない、いいものを作っていくっていうことで。

石橋

もちろん、ブランドのタグを見て「これはいいものを作っている」って分かるように、ブランド価値を上げていくということは怠らずにやっていきたいとは思っています。

他のブランドにはない強みを教えてください。

石橋

強みって言うとやっぱり自社工場があるのが一番の強みですね。うちはリメイクをやったり異素材ミックスの商品が多いんですけど。簡単に言うと非効率な洋服づくりのこと。凄い非効率なことをしっかりやることで、「ここまでやっていてこのプライスでやれるんや」って思ってもらうように、非効率なことをブランドとしてやっていきたかったんです。

確かに、<masterkey>のアイテムはどれも手間がかかりそうなものばかりですね。

石橋

そうなんですよ。でも、それを工場さんにお願いすると僕らは生き残れるかもしれないですが、コスト面の問題だったりで工場さんが儲かりにくくなるんですよ。大げさに話したら日本の工場がなくなっていったり、工場をしなくなってる理由ってそこにあると思うんですよね。もちろん、高齢化っていうのはあると思うんですけど。例えばシャツを1着作るのに、今の日本のブランドが工場さんに払う値段では利益がそこまで出ていないと思うんです。昔だったらそれが1000枚とか10000枚とかあってラインを組めばちゃんと利益は出ていたと思うんですが、量も減ってきて何百枚単位の発注になってきたときには厳しいですよね。僕はブランドを続けていきたかったんで、ブランドをするにあたって作りたいものを作れる環境を整えていくことから始めました。

自社工場には経験豊富な職人が常駐。本縫い用のミシン、ロックミシンを中心に大型の芯貼り機や裁断機までとさまざまな機械が揃う

石橋

<masterkey>って古着のリメイクもするんですが、そのときにどこのパーツを取るかって重要だったりするんです。例えばシームが集まってしまった場所とかは縫えなかったりプリントの位置がおかしくなってしまったり。だから、どこで裁断してどこを縫い上げていくのかって、逐一見て自分たちでやっていかないといけない部分があるんです。

自社工場の裏手にある倉庫には大量の生地と貴重な古着資材がパーツごとにストックされている

工場の立場を凄く考えているように感じるのですが。

石橋

そうですね、僕は工場に勤めに行った経験はないんですが、縫う作業ってやっぱり人力なんですよね。いくらミシンを早く動かしても限界があるので。だから、「仕事出してあげてやってんねんぞ」っていう僕らの上の世代の人たちの考えでは、仕事を供給していてもイーブンではなかったと思うんですよね。あんまり偉そうにするのが好きではないし工場さんがいるから仕事が続けていけるって思いますし。そもそも、このままの状況であれば将来的には工場さんがなくなるって思っていたんですよ。だから、自分たちで工場を作って自分たちでやりたいことを自社工場で表現しようって。あとは、迷惑のかからない作業で量産できるものは他の工場になげるほうがお互いよいのかなって。それが長く続けていける秘訣だと思います。要は、優しいってことです(笑)。

めっちゃ優しいですね(笑)。

石橋

基本、優しいんですよ(笑)。やっぱり現場に立って同じ立場にならないとなかなか理解できないところもあると思うんです。

次は商品についてお話を聞きたいのですが、今シーズンのテーマやイメージなどを教えてください。

石橋

シーズンテーマは懐かしさという意味合いで“throwback”というテーマにしています。僕、結構混ぜるのが好きなんですよ。時代錯誤な感じで過去のものを持ってきて今っぽい雰囲気にしたりして。洋服って楽しいのが一番だと思っているので、生活するために着るというよりかは着たときにテンションが上がるというか。

写真右) SNS担当の国貞祐人さん(以下、敬称略)

テーマの部分は国貞さんとお話はされるんですか?

石橋

そこはしないんですけど。僕は40代後半、彼は20代前半なので、彼の話に耳を傾けられる状況には置きたいので、「どう思う?」って聞いたりします。やっぱり思いもよらないところで、そういう考え方してるんだって気づきもありますし、彼は彼なりに今の感性があるので。

国貞

はい、そうですね。

お洋服のデザインに対して相談などはされるんですか?

石橋

それはしますね。洋服って正解もないし、強いて言えばこれが正解やと思ったら正解じゃないですか。自分の思う正解と20代の祐人が思う正解がどんだけ差があるのかなとか知りたいので。

国貞

パッチワークの組み合わせとか考えたりしますね。

石橋

意外に古着のリメイクって個体差が出るじゃないですか。けど個体差とクオリティーの個体差って違うと思っていて。ものは違えどどっちもカッコイイよなって思えるものを作らないと、当たり外れが出てしまうといけないというか。好みで違うってレベルまでには持っていきたいのでやっぱり真剣に考えて組み合わせしてもらったりしています。

初めから古着やヴィンテージ素材に着目していたんですか?

石橋

岸和田って独特な文化があって、古着しか着てない世代の先輩たちが多かったんで。古着が周りに根付いていたので、古着に接していくっていうよりは自然と古着文化の中で育ってきたんであんまり違和感がないというか。その中で、古着独特の加工では出せない雰囲気とかを大事にしつつリメイクしたりしますね。リメイクアイテムは毎シーズン3〜5型ほど作っています。オール古着っていうタイプと新しいファブリックと古着を混ぜるタイプがあります。

本体は一から作った製品で、襟だけ古着のストールを使用。古着のストール遣いによって同じ色でも個体差があっておもしろい
masterkey MK-RE-DELOREAN ¥18,700 (税込)
古着のストールをパッチワーク風に組み合わせている。全体のトーンやバランスを考えて組み合わせているので統一感が生まれている
masterkey – MK -CURTAINCALL-T-SHIRTS ¥17,600 (税込)
全て新品のジャガードの生地を組み合わせて作ったシャツ。どこか古着のリメイクに通ずる一点もの感が漂うギミックが秀逸だ
masterkey MK – CARTEL ¥26,400 (税込)

石橋さんが着ているシャツは凄く手間がかかっているように思えるんですが。

石橋

僕、実はすごくテクニックがあるんです(笑)。すっごい手がかかっているように見えるように作る技術ってあるんですよ。騙してる訳ではないですよ(笑)。これは付加価値の部分でエンドユーザーさんがパッと見たときの印象の値段より安かったらテンション上がるじゃないですか。見た目よりも価値があるように見せるってブランド側の提案の仕方だなって。そこに関しては上手くできてるんじゃないかと思いますし、長年やってきている経験がうまく見せられる部分かなって思います。

洋服づくりの方程式みたいなのがあると。

石橋

そうですね。

毎シーズン、大胆な刺繍ものをリリースされていますね。

masterkey – MK – FREEDOM ¥11,000 (税込)

石橋

いつも評判がいいアイテムですね。これもテクニックが入ってるんですけど。僕がデータを作って刺繍屋さんとセッションしながら作っています。一筆書きのイラストデータなんですけど、そのまんま刺繍機に取り込んだら糸を切らずに一筆でずっと刺繍できるんですよね。そうすることで手書き風に見えるんです。このフリーダムって書いてる部分も下地をフェルトにすることによって立体的に見えるんです。それと、刺繍って針数でコストって変わってくるので、これだと針数も減るので工場さんの時間の短縮にも繋がります。だから、どちらもやりやすく作れて、変わった見え方にもできるという。コストも安くできるので、印象の値段よりも安く作れるんです。

長年やってこられた経験からくる工夫とアイデアがあるんですね。

石橋

はい。それと服作りって選択の連続なんですけど、迷うことが多くて。僕は迷ったときには売れるほうを選ぶのか楽しいほうを選ぶのかっていう考え方をしていて。それやったら楽しいなって思ってもらえるほうをなるべく選ぶようにしています。

石橋

これはMTVをパロった、正にthrowbackなアイテムなんですけど(笑)。ニットって独特な柄組みの仕方をするんですが、凄く良心的にやっていただけるニット工場があるんです。あと、同業のブランドさんと話をすることがよくあるんですけど、どこにこだわりを持っていくのかって結構重要な感じがしていて、そのこだわりが価値に変わっていくことがあると思うんですけど。ただ、それによってすごいコストが上がってしまったり、できる工場さんが狭まったりすることって結構あるんですよね。それをやって誰が得してるって言ったら決して工場さんではなく、ブランド側とそれを買ったお客さんだと思うんです。だから、工場さんがないがしろにされている気がしていて。その手間をかけずとももうちょっと作りやすいやり方でやると、工場さんも嬉しいし売値も下がるから買ってくれる人にも優しい、僕らもそれで喜んでくれるから嬉しいっていう三者が微笑ましい状況になるのが一番理想だなって思います。

TGMとのコラボ商品についても教えていただけますか?

石橋

TGMのポップアップに行ったのがきっかけで作ったんですけど。URBAN RESEARCHの倉庫に行かせてもらって使えそうなアイテムをピックしました。ずっと眠っていたアイテムをアップサイクルさせるっていうことで。

国貞

楽しかったです。普段、あんまり入れないところなので。

石橋

普通に巾着を作るのもなって思い、持ち手をシャツっぽくして斜めがけにしたらシャツを結んでるように見えたり、そういう風にした方がキャッチーだなって思い。ネクタイでしたらそのまま先も使えるので。やっぱりURBAN RESEARCHのように大きな会社に発信していただけると共感してくれる方や知ってくださる方もたくさんいるので凄くありがたいです。

国貞さんはSNSを担当されているんですか?

国貞

そうですね。基本はスタイリングを組んで画像を編集したり商品のメイキング動画とか作ってリールに投稿したりしています。この辺りはロケ場所がいっぱいあるんで1人で撮影しに行っています。あと、やっぱり<masterkey>の強みは工場があることなので、制作動画とか作れるんでそこは発信していきたいなって思います。

石橋

野菜と一緒というか。生産者の顔が見えるというか。そういうのってこれからの時代大事なのかなって思いますね。

これからはどんな展開を目指していますか?

石橋

TGMさんでも一回させていただいたんですけど、お店でのポップアップを引き続きやっていきたいですね。オーダーシートを作ってあなただけの一着を作るというカスタムイベントみたいなこともよくやっていまして。お客さんからしたら多少割高ではあるんですけど、自分だけの一着ができるのでお客さんにも喜んでもらっています。僕らもそこのお客さんとコミュニケーションしながらやっていくので、ちゃんとお話もできて<masterkey>がどんな人たちが作ってるんだって認識もされると思うんです。ブランドって神秘的だったりちょっと見えない部分とかがカッコイイみたいなのがありましたけど、僕らはお客さんと近い存在でありたいと感じています。そういう関係性がこれからもっとできていけば、他のブランドとも差別化が図れますし、<masterkey>らしく成長していけるのかなって思います。

国貞

SNSの発信とかになってくるんですけど、もう一段階認知を上げていくっていうのが目標としてあります。<masterkey>を知ってお店に行ってもらうような認知度を目指したいです。

参考にしているSNSとかはあるんですか?

国貞

SNSというよりは、いろんなPVを見ますね。そこにいろんな発見があります。最近は<masterkey>のインスタを見てくれている方が若くなってきている印象もあり、嬉しいですね。

それでは恒例の質問になるんですが、“サステナブル”ってどういうことだと思いますか?

石橋

肩肘張って地球に素敵なことをしていますって言うのもなんか恥ずかしくて。無駄にすることって基本嫌いなので、今の自然体を守っていって必要以上なものは作らないことがサステナブルだなって思います。

国貞さんはどうですか?

石橋

難しいで、これ(笑)。

国貞

サステナブルですか・・・(笑)。僕のまわりの友達はボランティアで海を掃除する活動とかしていて、その集めたゴミの写真をアート感覚で撮っているんです。そういう活動してる人たちが最近増えているなって思っています。そういうのに近いものを<masterkey> でできればって思いますね。

石橋

それ、めちゃくちゃオシャレやん。ネガティブ気味なイメージの行動にも楽しみを見つけて取り組むのって大事ですもんね。

masterkey
ヴィンテージの生地と新しい生地をミックスした商品、新しい生地を加工した商品、古着を再構築した商品の3つで構成する岸和田発のカジュアルブランド。特に自社工場があるのが強みで、リメイクアイテムを含め、複雑な構成のウエア類が生まれる秘訣はそこにあり。代表兼デザイナーの石橋智弘さん(写真右)とSNS担当の国貞祐人さん(写真左)を中心に、全国各地でポップアップも行う。
HP : m-key.jp
Instagram @ masterkey.jp

PROFILE

にいやん編集部

THE GOODLAND MAGAZINEを発行するにいやん編集部。にいやん編集長は常にGOODLANDを担うブランドやアイテムを探し求めている。その中でも今一番HOTなTHE GOODLAND MARKETのスクープを狙い、365日24時間、情熱を燃やし続けている。
※将来発刊を目指す架空の雑誌

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