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FASHION MAY 31,2022

信頼できる素材を、着る人に届ける。
「1dozen(イチダース)」のものづくり

かぐれで2021SSから取り扱いをスタートした「1dozen(イチダース)」は、素材だけでなく縫製までを国内生産にこだわった、知る人ぞ知るカットソーブランド。今回は、その着心地のよさに惚れ込み、自身もアイテムを愛用しているというかぐれバイヤーの越井がアトリエを訪問。「食と同じで、生地も生産者の顔が見えるものを」と語る企画の早川泰子さんに、ブランドの成り立ちから服に込めた想いまでを、たっぷりとうかがいました。


※撮影時のみマスクを外しております。会話中は二人ともマスクを着用し、一定の距離を空けるなど、コロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。

ブランド立ち上げのきっかけは、母になったことでした

URBAN RESEARCH MEDIA(以下、URM) 2021年の春から、セレクトアイテムとしてかぐれにお目見えした「1dozen(イチダース)」のアイテム。早くもお客様やスタッフの間で、その肌ざわりや使い勝手のよさが話題となっていますが、まずはこのブランドがどのようにして生まれたのか、その成り立ちを教えていただけますか?

早川泰子氏(以下、早川) 主にニットブランド『KOFTA(コフタ)』のプランナーとして、長年アパレル業界に携わってきましたが、9年前に長女を出産したことを機に、あらゆることに対する価値観が大きく変わりました。子どもの保育園で仲良くなったママ友が、環境や食などに非常に関心が高く、一緒に学んでいくうちに、食べ物だけでなく服に関しても「これは体にいい素材だろうか」「生産過程で環境に負荷がかかっていないか」などと、さまざまなことが気になるようになったんです。

越井恵実(以下、越井) 同じ小さな子どもを持つ母親として、その気持ちはよくわかります。

早川 元々ファッションが大好きで、毎シーズン移り変わるトレンドを追いかけ、次々に新しいものを作ることが当たり前だと思っていたけれど、果たしてこのままでいいのだろうか、と。ちょうど、時代が大量生産・大量廃棄という風潮から脱却しつつあることを感じていましたし、できるだけ環境に影響を与えないものづくりをしていくことが自分の中での目標になって。そこで、「信頼できる素材を使い、長く着ていただけるアイテムだけを扱えるブランドを作ろう」という信念を持ち、そのママ友と一緒に立ち上げたのが、この「1dozen」というブランドなんです。

「『KOFTA』は、さまざまな素材、色、デザインを試す、いわば実験の場。その中から厳選し、普遍性のあるアイテムだけを集めたのが『1dozen』という風に捉えていただけたら」(早川さん)

越井 実は、最初に「1dozen」というブランド名を拝見したとき、まず何と読むか分からなかったんです(笑)。そのネーミングの由来をお聞きしてもいいですか?

早川 「1dozen」は、皆さんもご存知のように、古代から使われてきた単位のひとつです。なぜそんな古いものがいまだに消えることなく、現代でも残っているのかというと、1ダース=12という数字は、2でも3でも4でも6でも割ることができるため、とても使い勝手がいいからなのだとか。それと同じように、私たちが作る服も、ずっと新鮮に、使い勝手よく着られて、時間を超越して愛され続けるものになって欲しい―そんな想いを込めて、この名前を付けました。

越井 私が初めて展示会で「1dozen」のアイテムに出会ったときも、パッと見ただけで直感的に「使える!」と感じる色や形のものが多く、手に取ってまたその素材のよさに驚きました。すごくオーセンティックなんだけれど、他ではなかなか辿り着けない服に会えたという感動があって。まさに長く愛されるアイテムを作られていると感じますし、こういうブランドこそ、かぐれを通して広めて行きたいなと思いますね。

アイテムデザインだけでなく、ブランドのネームタグもいたってシンプル。老若男女問わず、誰にでも使い勝手がよい理由は、こんなところにもありそう。

「この素材を着たい」という想いが原動力に

URM やはり「1dozen」の真骨頂と言えば、選び抜かれた素材。どのようなところにこだわっているのでしょうか?

早川 素材選びで最も大切にしているのは、トレーサビリティです。この方に頼めば絶対いいものが出来てくると確信が持てる、“顔の見える生産者” と一緒に、服作りに取り組んでいます。私たちの会社が創業したのは32年前なんですが、なんとその頃からお付き合いのある国内の小さな工場で作られたものも多いんです。中には、日本に1台しかない100年ものの織機でしか編めない生地など、非常に希少性が高いものもあったりして。お願いだからその機械が壊れませんように! と祈る毎日ですね(笑)。また、作りたい商品のために、一から素材を開発していただくこともあります。そこまでしていただけるのは、今まで築き上げてきた工場の職人さんとの信頼関係があってこそ。本当にありがたいなと思います。

越井 今季お取り扱いさせていただいているこのTシャツの素材も、シャリ感があってすごく気持ちがいいですよね。

かぐれがセレクトした、ペーパーコットン素材のTシャツはこちら。「早川さんがおっしゃる通り、紙のようにサラッとしていて、汗ばむ季節もすこぶる快適に着られそう!」(越井)
1dozen ドルマンスリーブTシャツ ¥15,400 (税込)

早川 これは「ペーパーコットン」という素材で、カットソー産地の工場の方と一緒に半年ほどかけて開発した素材を使っています。その名の通り、紙のようにサラッと肌離れがよく、蒸し暑い夏でも涼しく着られるものを目指しました。実はこれ、限界まで撚糸の回転数を上げて高密度に編んでいるため、糸の伸縮性が増す湿度の高い時季でないと編めない生地なんです。

越井 すごいこだわりですね! 袖の切り替えがないパターンで、肩周りもラクちんそう。大人が着やすいほんのりとした透け感も素敵です。

早川 オーガニックコットンに限らず、その他の素材についても、環境になるべく負荷をかけないよう配慮して生産されたものを使用していますが、それを声高に打ち出すのではなく、心地よさそうだなぁと思って買ったら、結果的にオーガニックコットン製だった、くらいが理想的だなと思っているんです。

越井 環境に優しいものを、意識せず当たり前に手に取れるのは、お客様にとってもうれしいですし、今の時代性にとても合っていますね。

早川 他にも、お客様から特に人気が高い素材に「スポンディッシュコットン」があります。ものすごく伸びるうえに、とても柔らかくて繊細なため、実は縫製工場からは「縫えない」と一度断られてしまったほど。でも、諦めずに『どうしてもこれで服を作りたい』と再度お願いをして。裾や袖の一部を切り離して、独自の技術で縫われています。職人さんと一緒にアイデアを出し合って、やっとカットソーとして世に出すことができたんです。粘った甲斐あって、お客様からは『本当に気持ちがいい!』と大評判です。

スポンディッシュコットンを使用した長袖カットソーは、リピーターの多い人気アイテム。『全身をこの素材に包まれたい』というお客様の要望から、レギンスも生まれたそう。
1dozen スポンデッシュコットンラグランスリーブプルオーバー ¥15,400 (税込)

越井 「1dozen」の商品は、実際に触れてこそその魅力がわかるものが多いですよね。かぐれのオンラインストアでも販売をさせていただいていますが、やはり店頭で触って買って行かれるお客様が圧倒的に多い印象です。

早川 それはとてもうれしいお話です。『この素材を着たい、着てほしい』という想いが、「1dozen」の服作りにおける原動力になっているので、私たちの想いがちゃんと伝わっているんだなという感動があります。着心地って、意外と人は忘れないもの。肌が覚えていて、またこの素材の服を着たいと思ってもらえるとありがたいですね。

着る人も着方も制限しない。間口の広いブランドでありたい

URM まだまだこれからファンが増えそうなブランドですが、こういう方に、こんな風に「1dozen」の服を着てほしいという希望はありますか?

早川 立ち上げのときは、初めて手に取る方にも分かりやすいよう、ブランドイメージを固めたほうがいいのかなと思ったことも。でも、これだけシンプルな服ですから、放っておいても多種多様な人に着てもらえるはずだと思い直し、あえてそういったものは提示しないことにしたんです。「気に入ってくださった方に、自由に着てほしい」というのが、私たちの願いですね。

越井 男性のファンもいらっしゃるそうですね。

早川 性別問わず誰にでも着ていただけるよう、最初のリリースの際はサイズ展開にも幅を出し、その中から多くの方に選ばれたものを残していくという方式にしています。デザインに関しても、『こういうのがあったらいいな』という声を聞いたら、柔軟に取り入れてみる。お客様に委ねているところが大きいですね。お陰様で、着てくださる方は本当に幅が広くて。年齢もまちまちですし、コンサバティブな方からモードっぽい方まで、本当にさまざまな方に楽しんでいただけています。

白、黒、グレーなど、定番カラーがほとんどを占める中、ひときわ目を引いたのが、シーズンカラーの赤のニット。「差し色として作ったものも、意外とすんなり受け入れられて、翌シーズンも残っていくことが多いんです」(早川さん)

越井 アイテムがこれだけシンプルで、展開されている型数もわずか。限られたものだけで勝負することは、とても勇気が要ることだし、難しいことなのではないのかなと思っていましたが、こうしてお話を聞くと、たくさん試した中で“本当に必要とされるもの”だけを厳選していった結果が、今のラインナップとなっているんですね。だから、きちんとお客様がついてくる。

早川 そうなんです。ですから、「1dozen」のアイテムを企画するときは、なくてはならない“相棒のような服”が生み出せるよう、生活の中からアイテムを考えます。例えば、ブランドのコンセプトのひとつに「旅」というのがあるんですが、旅先の疲れた体もこの服に包まれると癒される、だから旅に連れて行きたい―そう思ってもらえるようなアイテム作りを目指しています。

「旅」というコンセプトに合わせ、次のシーズンのために作ったのが、撥水のパッカブルブルゾン。表面に撥水スプレーなどをかけるのではなく、生地の裏をたたいて機密性を上げて、水を入りにくくするシレー加工を施して作られている。

URM セールにかけず、通年同じ価格で売るというのも、先取的ですね。

早川 素材を織ってくださっている工場も、それを縫製してくださっている職人さんたちも、頭が下がるほど細やかなこだわりを持って「1dozen」の服を作ってくださっているので、「これ」という素晴らしいものができたら、それを継続して売っていきたいという想いがあります。私自身も経験したことがありますが、すごく気に入ったからもう一枚同じものがほしいと思ってお店に行ったら、セールにかかって安くなっていたり、シーズンが変わってもう二度と手に入らなかったり・・・。

越井 とてもよく分かります。

早川 そんな風にお客様をがっかりさせてしまったり、逃してしまいたくはないなぁと。ですから、私たちはいいと思ったものを買い続けていただけるよう、広告宣伝は一切せず、原価率ギリギリの価格で提供し、年間通して同じ値段で売り続けていけたらと思っているんです。

越井 なるほど。セールの時期や在り方について、私も思うところがあったので、大変参考になります。考えさせられますね。

早川 「継続したい」と考えるのは、素材や服作りに携わってくださっている、工場や職人さんのためでもあります。先ほどお話ししたように、日本にはこの職人さんやこの機械でないと織れないという貴重な素材がたくさんあります。私たちが誰かに必要とされる服を作ることで、そういった素晴らしい素材や素晴らしい職人さんの存在を伝え、守っていく繋ぎ役になれるんじゃないかなと。頼まれているわけではありませんが(笑)、そういう一端を担っているということも頭のどこかに置いて、今後も服作りに携わっていきたいと思っています。

越井 単に服を作って終わりというだけではなく、その後ろにある環境や職人さんのことまで配慮されていることを知り、ますます「1dozen」の服に愛着が湧いてきました。私たちも、信頼できるブランドとお客様を繋ぐという使命を果たしていこうと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました。

沖縄で出会った作家さんに作っていただいた、ブランドイメージのフィギュア。「いずれはアートや食など、違う分野とコラボレーションしたイベントなども企画できたら」(早川さん)

Profile

(左)早川泰子(ハヤカワ ヤスコ)
「1dozen」企画。2000年に株式会社アリヴェに入社し、企画に携わる。
一度退社し、ニット専門学校を卒業後、繊維商社にてOEMを担当。2008年に再入社し「KOFTA」、2019年に「1dozen」を立ち上げる。

(右)越井恵実
かぐれバイヤー。新潟出身。歳を重ねるごとに天然素材の魅力に惹かれています。
ナチュラルな素材をモードに着るのが得意。

Photo/Takuro Shizen
Text/Mizuho Kurita

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