10年、20年先も共に・・・
PIENI × アーバンリサーチの協業バッグ

利便性、デザイン、機動力…。バッグは日常にもっとも寄り添う道具なだけに、選びには個人差が出やすい。そして今、ライフスタイルの多様化や変化に伴いさまざまなバッグがシーンを賑わせているが、同時にひとつのものを長く愛でる心持ちも薄れているように感じる。その中にあって、異彩を放つのが今季で5年目を迎える『PIENI(ピエニ)』だ。スタート時からアーバンリサーチではその存在に着目。今季は初の協業によるモデルも発表する。そこで、ピエニデザイナーとアーバンリサーチバイヤー2名の会話を通し、ブランドの本質や両者の関係性、協業モデルのポイントについて紐解いていこう。
※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。
日本の技術力を背景に日本らしくないモノを作る
ピエニのファーストシーズンとなる展示会へと出向いたバイヤー佐藤は、質の高いアイテムに惚れ込み買い付けを決めた。それ以上に惹かれたのは、デザイナーである虻川氏の内に秘める強烈なパッションとモノ作りにおける重厚な背景。そこで、今一度、ピエニ誕生までの経緯をデザイナーの言葉とともに振り返る。

『PIENI』が産声をあげたのは2018年。その声はフィンランドから届けられた。虻川氏は、国内唯一の歴史ある馬具屋出身。革業界では20年ほどのキャリアを誇るが、その過程で彼はちょっとしたジレンマを抱えていたという。
「前職での経験は代えがたいものでした。なにせ、世界に誇れる最上級の技術がありましたから。そこで、生産から入り、さらに営業や企画も担当しました。ただ、仰々しいキャッチコピーこそつけられてはいましたが、お世辞にもそこまで認知度が高いわけではない。技術力や素材力を背景に雑貨なども製作してはいましたが、そのギャップにちょっとした危機感は感じていましたね」。
その中で聞こえてきた声が、「ドメスっぽい」。いわゆる日本ブランドらしいというもの。捉えようによって聞こえはいいが、どこか違和感も感じ得ない。そこで、独立を機に彼が向かった先はヨーロッパ。向こうのアイテム特有のほのかなエレガンスの源泉を探るべく、各地を行脚した結果、たどり着いたのがフィンランドだった。

「日本は古くから世界のいいものを率先して取り入れ模倣する文化がありましたよね。ジーンズなどはいい例ですが、とはいえ世界最高峰の技術を長年目の当たりにしてきましたから、やはり問題はアウトプットの方法なのではと考えました。だとすると、日本で培ってきたそもそもの自分の考え方をリセットする必要がある。そこで、ヨーロッパへ渡りさまざまなものを目にしてきた中で、街の建物などが自然と調和しているフィンランドに、掲げる理想のヒントを見たのです」。
同地に通い詰め、多くの現地人が集う同地でも有名な百貨店でマーケティングを実施。訪れる人の着こなしや手にしているモノをつぶさに観察していった。

「フィンランドには、百貨店と呼ばれるものが『ストックマン』ぐらいしかない。いわば、大半のフィンランド人がそこを訪れるということです。当然、おしゃれ感度の高い人も来る。そこで、スケッチを繰り返していく中でこの人達に合うものを作ろうと決めました。やはり、日本っぽくならないようにするには向こうへ行って向こうの人のために作るしかない。なので、我々よりも平均的に大きい彼らが持ったときに可愛らしく見えるバッグを作ろうと考えました。そして出来上がったのが、ファーストシーズンに発表した小さいトートバッグ「TOTE S」でした」。
小ぶりなその姿を見るにつけ、フィンランド語で“小さい”を意味する言葉を調べたところ、それが“PIENI”だった。
目利きのバイヤーたちが最初に抱いた想い
ピエニのファーストシーズンは6型を製作。それらを目にし、バイヤーの佐藤はがぜん興味が湧いたという。そして、最終的にTOTE SとTOTELの2型をバイイングすることになる。

「メンズとウィメンズの境界線がなく、非常にコンテンポラリーな印象を受けました。当時バッグは、さまざまなモデルが登場し、シーンでは出切った感が否めなかった。僕らとしても、新たにどういう物を店頭に加えるべきかすごく悩んでたタイミングでもあったんです」。

「デイパックやリュックなど、カジュアルなアウトドア物が主流になり、マーケット自体低価格帯に偏りすぎて中価格帯のものがなかなか動かない。そんな中、ピエニのプロダクトの濃厚な背景、モノ作りへの情熱とこだわり、そして何よりアイテムの質に他とは違う何かを感じましたね。ただ、仕入れて以降、当初はメンズよりもウィメンズの方がユーザーからの反応は早かったように思います」。
店舗にいた頃に初めてピエニと触れ合ったというウィメンズバイヤーの川畑もそれを実感していたとか。

「私が最初にピエニに触れたのは、ショップスタッフとして店頭に立っていた頃。入荷してすぐ、ブランドをご存知でない女性のお客様が「すごい素敵」と口々に話されていたのが印象的でした。スタッフからの評判も良く、みんな購入していましたね。丸みを帯び、革の艶やかさに品も感じさせる。とはいえ女性らしいデザインに振り切っているかというとそうでもない。大人の女性にはとても持ちやすいデザインだと感じましたね」。
ほかにはない、元馬具屋ならではのアプローチ
脳裏に強く印象付けられた両バイヤーだが、その理由はやはり濃厚かつ独特のアプローチによるピエニのモノ作りによるところが大きかったという。それを受け、虻川氏は説明する。

「世間一般でいうデザイナーという観点で、僕はモノを作っていないんですよ。馬具屋はあくまで道具屋。まあエルメスさんは200年近くやってらっしゃるからあれだけ洗練されたアイテムが作れますけど、僕の代からそれができたならおそらくオンリーワンになるだろうと考えました。真似できるものを作るといずれコモディティ化してしまう。だったらオンリーワンになろうと。だから他のブランドのモノはほとんど見ることはありません。むしろ目を向けるのは、デザインソースとなる我々の周りにある道具。僕がもっとも足を運ぶ場所はホームセンターなんです。この道具、可愛いなあって思って買ってくるんですよ、使いもしないのに(笑)」。
「かなり独特ですよね」と驚きを隠さない佐藤。ただ、だからこそ物が溢れているこのご時世ながら目を引くのではと指摘する。そして、衝撃をうけたのはアイテムばかりではない。

「毎シーズン、何らかでコミュニケーションはとらせていただいてますが、衝撃を受けたのは打ち合わせに実寸などが書かれた製図を持ってこられたことですね。スケッチやイメージビジュアルを持ち寄る方はいましたが製図はなかなか(笑)。協業アイテムも、構造や設計がまた独特でブランドのアイデンティティを感じますし、他の方がトレースしたとしても同じものはできないと思います。一見同じに見えたとしても、この曲線の出方やドレープ感はなかなか出せませんから」。
その点は川畑も同意する。

「展示会へ訪問する際は、パッと見たときに感じた可愛いといった瞬間的な感覚を大事にしていて。ピエニの場合もそれは感じました。さらに輪をかけデザイナーさんから製図を通してお話を伺うと、もうどんどん引き寄せられて使ってみたいと思いましたね。そこに関しては他ブランドさんにはない部分。スタッフの大半も特別なものという認識はあるように思います」。
男女の垣根を越える渾身の逸品
各自の想いを巡らせ作られた今回の協業モデルは、セカンドシーズンにインラインで製作していたDOUGUBACOというモデルがベースとなっている。佐藤は言う。

「当初、DOUGUBACOを目にしたとき、まずは横長で縦が短い、そのサイズバランスに目を見張りました。正直、あんまり見たことのないバランスだったので、これをベースに何か派生した形で新しい協業の取り組みができないかと考えました。そして出来上がったのが、今回のヴェリー&シスコ。我々二人のバイヤーが嗜好するアイテムや着こなしをソースに作っていただいたので、がぜん、思い入れの強い作品となりましたね」。
大きいモデルを紐解くと、縦をさらに長くすることで全体的に入るドレープ感を強調。持ち歩きやすいようハンドルを短くし、ライナーもイエローからオールブラックに変更した。


PIENI×URBAN RESEARCH 別注 VELI ¥49,500 (税込)
「初めはナチュラルだったんですよ。ただ、できればドレープを出しながら使い込んだようなちょっとクタッとした感じを出したかったので、それを演出するのに今回の黒のヌバックが理想的でした」。
川畑もその出来栄えに大いに満足しているという。
PIENI×URBAN RESEARCH 別注 SISKO ¥24,200 (税込)
「こちらは当初、A4が入ったらいいなどいろいろ考えてはいました。なので、ファーストサンプルはまったく違うサイズ感だったんです。でも、虻川さんと話を重ねる中で、メイク、携帯、ハンカチなど、普段女性が持ち歩くと想定されるものがパンパンにならずちょうど綺麗に収まるサイズを模索。結果、大きいサイズのものやインラインのアイテムとはまた異なる雰囲気に仕上がりました。実用性があり、普段からどんなスタイリングにも合わせられる形になったと思います」。
ただ、このサイズは今を生きる男性にとってもちょうどいいと語るのは佐藤だ。


「僕みたいな大きい人間が、バランス的にアンマッチで持つというのもすごくファッショナブル。男性、女性関係なく、女性でも大きいタイプは小旅行や日帰り出張などには便利でしょう。そのときのスタイルやシチュエーションに合わせてバックを持ち替えてもらったらいいかなと思いますね」。
さらに見どころは細かい部分にまで至る。佐藤は続ける。

「アイコニックになってるチャームも今回ならではだと思います。協業を示すアイコンをつけたいということで、通常のピエニのインコレクションには付いてないこちらを作ってもらいました。真鍮の部分もモチーフは馬具。馬の舌遊びといわれるハミからきています」。
協業を通して感じ、見た原点と未来
今回の協業によるアイテムは、自分が持ちたいという主観的な部分も多分に持ち寄らせてもらったと佐藤。
「もちろん僕らは、バイイングする際にトレンドや社会的な流れなどさまざまなフィルターを通してアイテムを見ますが、正直今回はシンプルに自分たちが持ちたいものを作ったという感覚。生活する中で便利か、ファッションとして使えるかというところが根底にありました。なので、細かいところも含め僕らのスタイルを意識しながら微修正してくださいましたね。もちろん個人オーダーしてます(笑)」。

「自分達が使いたいと思う物の方がやはりお客様には伝えやすい。ファッションビジネス的なエゴで作ってしまうと、一方通行になりかねません。それが、業界内でも慢性的になり、本質的なモノ作りをしづらくなった印象がありましたから、脱却したかったというのもありました。それを考えたら、今回はすごく完成度の高い作品に仕上がったんじゃないかなと思っています」。
それを受け、虻川氏もまた今回はいい機会に恵まれたと話す。

「僕が製作するうえでパッションは常に必要だと思っています。さっき川畑さんが言った可愛いという感覚。これもパッションだと僕は思っているんですよ。作り手からするとそこは絶対で、その先にうちの場合はストーリーを秘める。それまでが設計だと僕は考えていますね。そういう意味ではお二人のご意見は参考になりました」。

「たしかにパーツで見ると男性的なんですよ。あえて太く作っていますからね。10年もたせるのがプロの道具屋。どうしても太くなっちゃうんです。それをいかにウィメンズなら、骨太感を残しつつ可愛らしさを生むか。だからこそ、川畑さんのご指摘は嬉しいですし、川畑さんのような方が持ってくれるといいと思いますね」。
「ありがたいですね」と話しつつ、こちらを見て、触れてもらえれば、その魅力は多くの女性も腑に落ちるのではと川畑は話す。そして、佐藤は今後の展開にも言及する。

「そもそもまず虻川さんはファッションサイクルでモノ作りされてないんですよ。我々としても、今回の協業は短期的プロジェクトとして捉えていません。このヴェリー&シスコがアーバンリサーチのアイコンになっていき、弟分だったり、妹分へと派生していく。それは互いに共通しているビジョンではありますね。なので、今後の展開にもぜひ期待していただきたいです」。
長きにわたり培ってきたハイブランドの底力を潔く認めつつ、ピエニは所有者のセカンドブランドでいいと虻川氏は語る。ただ、使っていけばその魅力は存分に伝わると信じて疑わない。そして、いつしか自身のブランドが比肩するものであるとの認識を誰もが持つような未来図を描く。インライン、そして、今回のバイヤー2人の情熱と意志が通ったモデルを見るにつけ、ピエニっぽいね、と表現される日が来ることを確信せずにはいられない。
Edit & Text/Ryo Kikuchi
URBAN RESEARCH
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