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FASHION OCT 18,2022

ファクトリーブランドだからこそ到達できたクオリティ。
日本製ブランド〈ROUTINE〉のニットは、どこがすごいのか?

地球環境への配慮や、生活様式の大きな変化によって、ファッションに対する意識や嗜好が変わりつつあるここ数年。“長く着られる、ちょっといいもの”を求める声の高まりを受けて、アーバンリサーチでは、つくり手の顔が見える日本製ブランドに着目しています。その中から、今回は、この秋デビューしたばかりのファクトリーブランド〈ROUTINE(ルーティーン)〉をピックアップ。「一見ごくシンプルなのに、着るとひと味もふた味も違う」とアーバンリサーチのバイヤーも絶賛する、こだわりの詰まったニットづくりの背景について、ROUTINE デザイナー・水野努氏からお話を伺いました。


名だたるメゾンから求められる新潟・五泉のニット加工技術

“ニット工場による、ニット工場目線の、ニット好きのためのニット”―そんなコンセプトを掲げて、今季デビューした〈ROUTINE(ルーティーン)〉。そのルーツは、水資源に恵まれた新潟県五泉市にあります。

「デニムといえば岡山というのと同じように、あまり知られてはいませんが、ニットといえば新潟が古くからの産地。その理由のひとつに、染めや洗いに関係する、きれいな水が豊富ということが挙げられます。中でも五泉は、レディースに特化した工場が多く、全盛期に比べて数は減ってしまったものの、残っているのは世界のラグジュアリーブランドに並ぶ、クオリティーの高い工場ばかり。とても繊細で精巧なものづくりが伝統的に行われていますし、糸の編み立てから、洗い、整理加工、プレスなど、製造のすべてを一貫してひとつの工場内で行っているため、そこでしかつくれない絶妙な仕上がりとなります」

そんな高い技術に魅せられて、以前から自身のブランドのニットづくりを、五泉の工場に依頼していたという水野さん。ところが、オーダーする側、つくる側という関係では、本当につくりたいものを完成させることができないと気付いたといいます。

「自分が指示書を描き、それに従い工場に製作してもらうのですが、指示通りに上がっただけでは理想とはかけ離れてしまうのです。何度もやり取りを繰り返したり、依頼する工場を変えても、超えられない壁がありました。そこで、更に仕上がりの精度を上げるには、自分が工場の一員になるしかないと思い至ったんです。心を決めて、工場側に『ファクトリーブランドを立ち上げませんか?』とお話ししたのは、なんと秋冬の展示会のわずか2カ月前(笑)。そこからは、かなりスピーディーな展開でしたね」

そう話す通り、水野さんが工場の中に入っていくことで、それまでとは商品をつくるスピード感が全く違うと感じたそう。

「例えば、こんなニットがつくりたいと話すと、その場で『その編み方ならこの糸で、ゲージはこうして、仕上げは・・・』と、たくさんの選択肢を提示してもらえる。さらに、翌日にはもう編みのサンプルを見せてもらえることも。それは、工場や職人さんがそれまで培ってきた経験があればこそできることなんです。自分が飛び込んで行って感じた大きなメリットは、工場の一員になると、そこで出来うる限りの技術を惜しみなく見せてもらえること。指示されて作っていたときは、余計なことはせず予算内で言われたことのみを行うというスタンスだったのに、職人の方が“当事者意識”を持つと、細部に至るまであらゆる提案をしてくれる。だから、よりよいものができあがるんです」

ニットは生きもの。使う毛に合わせて都度ベストな加工を調整

水野さんとタッグを組み、ファクトリーブランドを始めることとなったのは、50年の歴史を持つ〈ナック〉という老舗工場。そこでは、どんな技術を得意としているのでしょうか?

「もともとナックは、『洗い』などを専門として創業した会社です。ニットの製造工程で一番重要なのは、そういった最後の加工だと、私は考えています。洗いだけでなく、『縮絨(しゅくじゅう)』といって、圧力や摩擦を加えて収縮させることにより、ニットの風合いを決める加工も、こちらの工場はすごく上手ですね。ニットって“生きもの”だと思うんです。そもそも毛が人工的につくられたものではないので、個体差がありますし、年によって毛質が全く変わったり、毛の色によって硬さもまちまち。それをどう料理していくか、そのさじ加減は職人次第。ここで加工されたニットは、あらゆる条件を加味したうえでベストな調整が施されるので、私の理想通りふわっと軽やかな風合いに仕上がるんです」

今回、アーバンリサーチで取り扱っている太畦のクルーネックニット、Vネックニットにも、積み上げられてきた工場の知識や技術力が存分に生かされているといいます。

「こちらのニットは、国内で紡績し、7G(ゲージ)の片畦で編み上げたもの。畔編みニットは目がギチギチに詰まっていると重たくなってしまいますが、職人技の整理加工のおかげで、ひと目ひと目がきれいに立ち、ふんわりとやわらかい質感に。脇線も、ずれずにきれいに閉じるよう、丁寧にリンキングしています。裾は、別編みしたリブを縫い付けるのではなく、下まで編み続きで、裾リブに相当する部分にストレッチ糸を入れることで、窮屈感のないフィットを実現。体のラインに自然となじむので、とても着心地がいいんです」

よく見るとこのニット、アウトリンキングになっていますが、実はもともとはこちらは裏側だったそう。

「たまたま裏返しにしてハンガーにかけていたら、『案外こちらを表にしても絵になるね』と。そこで、リバーシブルで着られるよう、衿ぐりは袋編みにして、品質タグは付けない仕様にしたんです。Vネックの方も、衿ぐりは耳をそのまま生かしているため、表裏両面で着用が可能。少し深めのV開きで、後ろはスクエアにカッティングされているところもポイントです。袖は途中からすぼまり、ひじ上にゆったりとたわんだシルエットが出るように。どちらもデザイン性をかなり削ぎ落したシンプルなつくりですが、心地いい違和感がある、そんな面白いニットに仕上がったと思います」

もう一点、見逃せないのが、両端が斜めになったダイヤモンドストール。こちらも、この工場以外ではつくることができなかった自信作なのだとか。

「端が斜めになったツイリーのようなストールは、以前から温めていた企画でした。ところが、細い畦組織を斜めに編む過程でニットが傷ついてしまったり、編み上がってもくるりと巻き上がってしまったり・・・ほかの工場ではなかなかうまくいかなかったんです。今回はやっと想像通りのものができて、非常に満足していますね。ちなみにこちらは顔まわりに触れるものなので、オーストラリア産のメリノウールの中でも、ベビーカシミヤ並みのやわらかさを持つスーパー180‘Sを使用しています。これだけ上質なものを使用してこの価格は、やはりファクトリーブランドだから実現できたこと。ちょっと安すぎたかな、と思ってしまうほどです(笑)」

着て心地いいのはもちろん、見ていて気持ちのいいものをつくりたい

水野さんが目指すニットは、派手さはなくとも、人が快く感じる“よさ”をきちんと持っているもの。実際にニットを手に取っていただける機会を経て、改めてそんなものづくりができたと実感しているそう。

「ニットにとても詳しい権威の方が、展示会でこの製品を見て、私も気付いていなかったような細かな工夫まで指摘してくださったんです。そのときに改めて、『本当に奥深いものができたのだな』と感じましたね。ニットはまず第一に着心地が大切ですが、それに加えて、空間に置いてあるときの“佇まいの美しさ”や、”見ていて気持ちのいいものであるかどうか”ということにもこだわって、今後もものづくりをしていきたいと思っています」

このニットのあふれる魅力は、写真や文字ではなかなか伝えきれないもの。水野さんも、ぜひ店頭で実物を見てほしいといいます。

「例えば、ひと目ひと目の立ち上がりだったり、ニットそれぞれが持つ風合い、肌ざわりや着たときのシルエットは、やはり実際に間近で見たり袖を通さないと分からないもの。素材やデザイン、製造過程でのこだわりや背景についても、お店のスタッフを通して、対面で伝えていきたいという気持ちが強いですね。まずはオンラインではなく、人から人へと、直接コミュニケーションで〈ROUTIEN〉の魅力が伝播していくのが理想です。できるだけ多くのニット好きの方にこのよさが伝わり、いつかは海外の方のもとにも届くといいなと思っています」

水野努
2015年に〈Dessin de mode(デッサン・ドゥ・モード)〉をスタート。2020年(株)京都マーブルのファクトリーブランド〈Pas deux pareils(パ・ドゥ・パレイユ)〉ディレクターに就任。昨年、(株)ナックのファクトリーブランド〈ROUTINE(ルーティーン)〉ディレクターに就任し、この秋初コレクションを発表する。

取材・文/栗田瑞穂

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