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LIFE STYLE&BEAUTY MAY 20,2022

<URBAN RESEARCH DOORS × PAPERSKY> 日本のつくり手 〜岐阜編〜

全国各地で、その土地に根ざしたものづくりをしている作家や職人を紹介する、雑誌『PAPERSKY』との連動企画「CRAFTSMAN SERIES」。その拡大版として、取材に同行しているURBAN RESEARCH DOORSスタッフの思いや、ものの背後に隠れている物語を、より深くお届けする新企画がスタート。1回目の訪問先は、岐阜県多治見市。美濃焼の産地で磁器とガラスの制作をする、宮木英至さんの工房へ向かった。


焼き物のまち、多治見だからできた追求。
“型”から広がる宮木英至さんのものづくり。

URBAN RESEARCH DOORSと、ライフスタイルトラベル誌『PAPERSKY』によるコラボレーション企画「CRAFTSMAN SERIES」がスタートしたのは2014年のこと。これまで日本各地、20数カ所に足を運び、その土地の風土を色濃く反映させたものづくりをする作家・職人をクローズアップしてきた。一方、URBAN RESEARCH DOORSは2017年10月に、大阪・南船場店に併設していたカフェ「DOORS DINING」を、キュレーションスペース「DOORS HOUSE」にリニューアル。以来、URBAN RESEARCH DOORSのフィルターを通して、地域のいいものや作り手の思いを届ける「SHARE THE LOCAL」というイベントを、定期的に開催してきた。

「SHARE THE LOCAL 新潟」開催の様子
「SHARE THE LOCAL 栃木」開催の様子

「SHARE THE LOCALは我々にとっても重要な位置付けで、全国各地で店舗展開をするなか、ブランドとしてもスタッフとしても、地域に貢献していきたいという思いを込めています」と話すのは、URBAN RESEARCH DOORS ブランドPRの大家孝文。「<URBAN RESEARCH DOORS × PAPERSKY> 日本のつくり手 〜岐阜編〜」は「CRAFTSMAN SERIES」を深化させた企画で、『PAPERSKY』誌面では紹介しきれなかった側面を取り上げるとともに、取材を通して得た体験込みで、より多くの人にものの魅力を届けていきたいという思いがある。

「ものづくりの工程を見せてもらったり、作り手の思いを直接聞くことは、なかなかできない貴重な体験です。工房だけでなく、周辺の自然環境も含めて、ものと一緒に風景が浮かぶことは、お客様とのより深いコミュニケーションにもつながります。そのうえで、ショップというリアルな場を持っている自分たちだから発信・提案できることを、改めて大切にしていきたいと思ったのです」

左からURBAN RESEARCH DOORS ブランドPR 大家、DOORS HOUSE 岡、PAPERSKY編集長 ルーカス B.B.、ブランドPR 武谷、ブランドPR 千葉(敬称略)
日本に暮らしはじめて25年以上になるルーカス。日本の工芸、民芸にも造詣が深く、毎回、DOORSのチームとともに各地のつくり手を訪ねている。

今回訪れたのは、焼き物の一大産地として知られる、岐阜県多治見市。周辺の土岐市、瑞浪市などを含む東濃エリアで作られてきた美濃焼は、国内で生産される陶磁器の半数以上を占め、暮らしに溶け込んでいる。多治見出身の宮木英至さんはそんな器のまちで育ち、2004年に開窯。DOORS HOUSEの岡宏樹は、宮木さんの器との出会いをこう語る。

「DOORS HOUSEで2021年に、数名のガラス作家さんによる『作り手の、心のこもるガラス展』という企画展を開催し、宮木さんにもご参加いただきました。特殊な製法ながら、暮らしの道具としての器を作られていて、料理のお仕事をされているような方にも好評で、他府県からもファンの方が来てくださいました」

陶芸からガラス制作まで、量産の技法から生まれるオリジナリティ。

宮木さんは陶芸をメインにしながら、ガラス作品も制作している稀有な作家なのだが、それを可能にしているのが、型に土を流し込んで成形していく「鋳込み」と呼ばれる技法。

「独立前に働いていた製陶所は、デザインから鋳型作り、作陶まで、1カ所ですべて手がけていました。一連の流れを学ぶうちに、原料を変えたり、鋳型自体を自分で作ったりしたら、新しいものができるのではないかと思ったのです」

そもそも鋳込みは量産向きの技法とされ、石膏で鋳型を作る「型屋」、陶土を生成する「土屋」、生地を作る「生地屋」など工程を分業させることで、美濃焼は一大産地を築いてきた。宮木さんはこれらの工程をひとりで行う、「小さな工場」を作ってしまおうと考えたのだ。

「量産の技法というとネガティブに捉える作家もいますが、それもひとつの作り方だし、僕としては可能性を感じました。とはいえ、ゼロから器を完成させるシステムを作るのは、原料だけでなく道具や機材も揃えやすい産地だからこそできたことだと思います」

現在、宮木さんが工房を構えているのは、陶器の卸問屋を営んでいた両親が仕事場にしていた空間。個人作家のアトリエにしては広々としたスペースで、入口付近には鋳型が積み重なり、その奥に窯が並び、さらにその奥の棚には乾燥中の器が並んでいたりして、たしかに小さな工場のようだ。

「製陶所に勤めながら、両親の仕事場の一角を借りて実験的に作り始めたのですが、あっという間にこんなふうになってしまいました(笑)」

定番アイテムとなっているのが、深みのある藍色が美しい「インディゴブルー」と、澄み切った空のように明るく鮮やかな「ナイルブルー」という2色の器。

「いろんなブルーを試してできあがった、思い入れのある色合いです。ナイルブルーのほうは釉薬にも特にこだわっていて、よく見るとキラキラとした質感をしているんです」

色と質感が個性的であるのに対して、形で追求しているのはシンプルさ。

「もともと北欧などのデザインが好きなんです。スタッキングできて普段使いしやすいような、プロダクト的なものを目指しています」

使いやすいフォルムに、釉薬で遊びを加えるスタイルは、「ドリッピーシリーズ」にも共通している。縁からとろりとしたたる釉薬の動きが特徴的で、今にも流れ落ちそうで落ちない、絶妙なタイミングで時間を止めてしまったような、見ていて飽きない佇まい。もちろん同じ表情のものは、ひとつとしてない。

「マグカップは最も身近な食器といえるので、使いやすさのなかにアートを感じられたらいいなと思ったのです」

「垂らす」ための工程を見せてもらった。低温で素焼きしたカップに、均一ではなくあえてランダムに釉薬をかけていくのだが、釉薬が厚く乗った部分が焼成したときにしたたる。

「思い通りの動きが出ないときは、慎重に釉薬を重ねて二度焼きをして、理想に近づけていきます。作っていて楽しいのですが、作りすぎると基準がわからなくなるのが難点(笑)。自分がもらったらうれしいかどうか、という視点を大事にしています」

気温や湿度なども大きく影響するため、日々の天候の変化も織り込んで完成をイメージするのは、熟練の技を要する。回数を重ねて、ある程度の予測はできるようになっても、実験的な感覚はなくならないそう。そんな宮木さんが3年ほど前に「ついに始めた」と目を輝かせるのが、ガラス制作だ。

「僕が作っているのは磁器ですが、磁器は陶器よりも硬くて透明感があり、ガラスに近いので、磁器作家はガラスに憧れる部分があるんですよね。言ってみれば釉薬もガラスの成分ですし、僕自身も釉薬研究から派生して、ガラスをやるようになりました」

宮木さんが採用しているのは一般的な吹きガラスではなく、パート・ド・ヴェールというフランスの古い技法で、直訳すると「ガラスの練り粉」という意味。吹きガラスは、ガラスのイメージそのものといえる透明感や艶が特徴的だが、パート・ド・ヴェールは、宮木さんの陶芸に欠かせない鋳型を使うのが特徴で、ガラスの粉を鋳型に詰め込み、型ごと焼成していく。細かい気泡がいくつも入ることで、曇りガラスのようなマットな質感にできあがるのだ。

「原料は、ガラス工房で出た廃材を主に使っていて、細かくすればするほど雲ってアンティークっぽい雰囲気が出ます。陶芸に近いガラス製品を作りたいんですよね」

パート・ド・ヴェールは幻の技法といわれるだけあって、温度管理から焼いたあとの仕上げまで、実際にやってみると、陶芸よりもかなり手間がかかることが判明。「釉薬に対する考え方も、まだまだ甘かったなと感じています」という言葉からも、さらなる探究心をくすぐられているのが伝わってくる。宮木さんのガラス作品が今後どのように変化し、陶芸にはどんな影響を与えていくのだろう。作品を追いかけていく楽しみが、またひとつ増えた。

【取材後記】

ルーカス 「宮木さんの作品は、“FIKA”の国、スウェーデンのベーカリーやカフェを訪れたときのことを思い出させてくれた。彼のカップは、まるで焼きたてのカルダモンロールのような美しさだね。北欧と日本の美意識を融合させたような色使いも印象的だった。そして、陶芸にとどまることなくガラスの作品にもチャレンジしているなんて、彼のものづくりへの愛情には圧倒されたよ。いつもの日常を“ちょっとエレガントな日常”に変えてくれる、そんな素晴らしさがあるね」

大家 「毎回この取材を通じて作家の元へ訪れ、作家それぞれのものづくりへの意識の高さを感じると、自分の仕事に対して襟を正すような気持ちになります。今回ガラスを使った作品への思いや、挑戦することを大変だけど楽しんでいるような部分が宮木さんの話から伝わってきました。DOORSというブランドを通していろいろな方に作家さんの作品への考えや熱意、そして岐阜県という場所への興味にも繋がっていければと思います」

「多治見という産地に惹かれていた自分がいて、それは何故だったのか、今回宮木さんにお会いできて、すっと心に入っていく思いでした。美濃の焼き物という伝統を大事にしたうえで、その作り手でしかなし得ない人生観が器へ込められていました。その在り方を手本にするように、また新たな作り手の世代もあって、宮木さんはまさにそのお手本でありながら、偉大な挑戦者でもあられました」

武谷 「初めてCRAFTSMAN SERIESの取材に同行させていただき、作り手の方の思い、そして思いののったものの尊さを改めて実感しました。何かの真似事ではなく、自分の理想をかたちにしていく熱量と、それに賛同して伝えていく人の輪が岐阜の文化を築いていっているんだと宮木さんを通して学ばせていただきました。物が溢れている今だからこそ、吟味し一つ一つを愛でる力を養い発信していきたいです」

千葉 「ヒト・モノ・コトの中でも特に前者2つ、ヒトとモノが大好きな私はこの企画でたくさんのつくり手の方々と出会い、素晴らしい作品や人柄と触れてきました。今回の宮木さんも過去の方々と共通するのは強い意志があること。その強い意志がこもった作品と思いをこれからもしっかりと伝えていきたいと思っています」

取材メンバー紹介

ルーカス B. B.
1971年、アメリカ生まれ。1993年、大学を卒業し、卒業式の翌日にバックパックひとつで来日。1996年に日英バイリンガルのカルチャー誌『TOKION』、2002年にトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』を創刊。1日30kmほどを移動する古道歩きや、地方へ自転車旅に出ていなければ、東京の自宅の庭でミントティを飲みながらおだやかな時間を過ごしている。

大家 孝文
URBAN RESEARCH DOORSのブランド販促で大阪本社勤務。ブランド販促チームの管理や、ブランドのあれこれを考えたりしています。      
今、気になっていることは小学校に入った娘の日々のこと。

岡 宏樹
DOORS HOUSE 店長 とSDR(サステナビリティ推進)兼務。店舗でのイベント企画等と店頭販売を担当。
今昔のものづくりと作り手に魅せられた、ものを買う場所、使う場所、それらがただただ好きな人。

武谷 優子
URBAN RESEARCH DOORSに勤務して10年。転々と店舗配属を経て、現在はウィメンズのブランドPRとサステナビリティ推進を兼務。
この夏はおうちの庭の森化と添加物フリーのお菓子作りに挑戦したい。

千葉 一孝
URBAN RESEARCH DOORS ブランド販促として東京支社に勤務。主にアパレル以外のPRやイベントの企画を担当。
卵料理の研究に邁進する日々。

Edit/PAPERSKY
Text/Ikuko Hyodo
Photo/Takashi Ueda

▼関連イベント
岐阜のつくり手や名産品を紹介する「SHARE THE LOCAL 岐阜」開催

「SHARE THE LOCAL 岐阜」を5月21日(土)よりDOORS HOUSEにて開催いたします。

白川郷などの世界遺産や焼き物の一大産地としても知られる土地「岐阜」をテーマに、単なる物産展ではなく私たちアーバンリサーチ ドアーズのフィルターを通した“岐阜のいいモノ”を集めました。
ぜひ、この機会に“岐阜の魅力”を体感しに店舗までお越しください。

今回、「岐阜」をテーマに掲げるきっかけとなった、トラベルライフスタイル誌『PAPERSKY (ペーパースカイ) No.66』と連動した取り組みもご覧いただけます。

【開催期間】
2022年5月21日(土)〜6月16日(木)
【開催店舗】
DOORS HOUSE (URBAN RESEARCH DOORS 南船場店併設)

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