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LIFE STYLE&BEAUTY NOV 18,2022

<URBAN RESEARCH DOORS × PAPERSKY> 日本のつくり手 〜山梨編〜

全国各地で、その土地に根ざしたものづくりをしている作家や職人を紹介する、雑誌『PAPERSKY』との連動企画「CRAFTSMAN SERIES」。その拡大版として、取材に同行しているURBAN RESEARCH DOORSスタッフの思いや、ものの背後に隠れている物語を、より深くお届けする連載、2回目の訪問先は、山梨県韮崎市。美しい山々に囲まれた地元に戻り、自然に還る心をさりげなくくすぐる木工作品を制作する「Atelier Bond」の野田沙織さんに会いに行った。


※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行っております。

いつでもどこでも、自然をかたわらに。
Atelier Bond・野田沙織さんのささやかなメッセージ。

甲府盆地の北西部に位置する、山梨県韮崎市。まちのさまざまなところから富士山をはじめ、八ヶ岳、茅ヶ岳など雄大な山々を望むことができる。韮崎市に隣接する、南アルプス市で生まれ育った野田沙織さんは、木工作家としてこの地で「Atelier Bond」を主宰し、自然を感じながら日々制作を行っている。URBAN RESEARCH DOORSと野田さんの作品の出会いは、コロナ禍で生まれたブランド「山と猫」を介して。アウトドアのアイコンである“山”と、インドアのアイコンである“猫”を組み合わせて、ライフスタイルを提案するユニークなブランドなのだが、URBAN RESEARCH DOORSでイベントの企画などを担当する千葉一孝は、その経緯を次のように説明する。

千葉 「山で猫のことを想ったり、家にいながら山を感じるような、本来別々に存在するものが同じ世界に共存できるような『山と猫』さんの取り組みが面白く、2022年3月に大阪・南船場のDOORS HOUSEでPOP UPイベントを開催させてもらいました。そのとき『山と猫』さんがセレクトしたアイテムのひとつが、Atelier Bondさんの作品だったのです」

それが「てっぺんに山の小さなヘラ」という、ジャムを塗るのにちょうど良さそうな、コンパクトなヘラ。気になるのはそのネーミングだが、よく見ると持ち手の先が少し尖っている。

野田さん 「八ヶ岳と甲斐駒ヶ岳を表現しているんです。手彫りなのでちょっとずつ形は違うんですけど、山が先端についたヘラになります」

写真提供:Atelier Bond

千葉 「一見わかりにくいのですが、使っているときに手元に目をやって、『あ、山がある!』と気づいたりしそうですよね。そうやって山に行きたい気持ちを駆り立ててくれるのも素晴らしく、印象に残っていました」

野田さん 「あってもなくても不便ではないけれど、気づいてくれたらうれしいというくらいのさりげなさがいいかなと思って作りました」

DOORS HOUSEの岡宏樹も、Atelier Bondの作品に対する思いをこう語る。

「かわいいディテールなんですけど、木の素材感が美しく出ているんですよね。山梨には素晴らしい作家さんがたくさんいらっしゃいますが、ぜひお話を聞いてみたいと思ったのが野田さんでした。たぶん自然やこの土地のことをDNAレベルで好きなんじゃないかなって(笑)。木工職人さんとはまた違うクラフトの良さを、私たちも学びたいと思っています」

回り道をしながらたどり着いた、山梨で木工に携わる選択。

野田さんが木工と“出会う”までには、紆余曲折があった。高校卒業後、保育士を目指して東京の大学に進学したが、インテリアや空間デザインに興味を持って中退。専門学校を経て、さらに美大でも学んだ。

野田さん 「もともと美大でやりたいと思っていたのはガラスなのですが、いろんな素材で実習をして一番やりがいを感じたのが木工でした。ガラスや陶磁器のように早い段階で出来上がりの形が見えるのも面白いのですが、徐々に完成の形に近づいていく木工のほうが、自分には合っていたんでしょうね」

東京から山梨に戻ってきたのは、6年ほど前。「何も覚悟はできていなかったけど、木工はやっていきたい」という思いで、実家近くに格安の部屋を借りて、空き時間に制作を始めた。8畳の部屋に置けたのは、スライド丸ノコと一般的なノコギリ程度。制作環境として十分とはいえなかったが、そんななかでAtelier Bondの最初のアイテムとして生まれたのが「マウンテンバーズコール」。山の形をした鳥笛で、ねじをひねると金属と木の摩擦で「キュッ」と鳥の鳴き声のような音がする。

野田さん 「東京にいるときに山登りを始めて、アウトドアショップで働いた経験もあったので、バードコールの存在は知っていました。それで山梨だし、山の形のバードコールを作ってみようかなと思いつきました」

Atelier Bondのアイテムはどれも「自然」を彷彿とさせる。それはもちろん、木を使っているからでもあるが、野田さんが大事にしていることの表れだったりもする。

野田さん 「当時は意識していませんでしたが、大学時代から山や風、植物など自然をモチーフにものづくりをしていたんですよね。山登りを通して山が大好きになって地元に戻ってきたら、以前は何もないと思っていたのが信じられないくらい、素晴らしいところだと気がつきました。本当に景色が美しすぎて、泣きそうになってしまったくらい。自然はこんなに人を癒やす力があるのだと私自身が実感したことで、より多くの人が山や森に近づくきっかけになるようなものを提案していきたいと思ったのです」

Atelier Bondのテーマは「身近に自然を」。

野田さん 「木工にたどり着いて山梨に戻ってきて・・・、時間はかかったけれども全部がつながった気がします」

現在工房を構えているのは、韮崎にある貸倉庫。大きな機械のいくつかは、引退した木工作家から譲り受けた。

野田さん 「韮崎には3年くらい前に引っ越してきたのですが、駅前のビルを友人とシェアして住んでいました。まだアメリカヤができる前で、リノベが始まり、移住してきたが方がお店を開いたりして、まちがどんどん変わっていく様子を見てきました。韮崎は人やまちの密度が、ちょうど良い感じなんですよね」

人気アイテム「ゴロゴロ岩のカッティングボード」の制作過程を実際に見せてもらった。

「非対称で珍しい形をしていますよね」

野田さん 「カッティングボードって形に変化を出しにくいので、何かひと工夫できないかなと思い、山でよく目にする岩をモチーフにしてみました」

使っているのはオーク材。まず手押しカンナと自動カンナという2種類のカンナに板を通して、両面を平らにしていく。どの機械も大型で、切ったり削ったりなど危険を伴うものばかり。慣れた手つきではあるものの、集中力を要する作業だ。

千葉 「緊張感がありますよね。息するのを忘れて見てました(笑)」

「カンナを通す前と後で、雰囲気が変わりそうですね」

野田さん 「削ってみないとわからないものも結構あるので、この工程が最初の楽しみだったりもします。思いがけない木目が出てくると、うわー! ってなります(笑)」

両面を平らに整えた板を、今度は意外なことに、木目に沿って棒状に等間隔で切っていく。

野田さん 「一枚板のまま作るのが主流で、工程も少ないのですが、それだとどうしても反りやすくなります。なので私は棒状に分解したものを、それぞれ90度回転させて面を変え、それらを圧着して作っています。はぎ合せることで反りにくくなるだけでなく、木目もわりと均一に。材料をより無駄なく使うこともできます」

「やっぱり見た目以上、想像以上に手間と時間がかかっているんですね」

ボンドで圧着させる工程は、スピード勝負。素早くボンドを塗って、面を変えた木をつなぎ合わせ、工具で固定していく。乾燥後は再びカンナにかけて平らにし、角を切り落として、特徴的な岩の形に整えていく。さらにトリマーという工具で、輪郭に沿って溝を彫り、丁寧にやすりをかける。

野田さん 「すべての工程で一番テンションが上がるのは、塗装したあと。最後の最後、仕上がる直前ですね。塗装して色味が変わり、木目も出てくる瞬間は何度経験しても毎回嬉しいです」

作業の合間、手間がかかりすぎるため制作を停止している「八ヶ岳の箸置き」をめぐって、こんなやり取りがあった。

PAPERSKY編集長・ルーカス B.B.(以下、ルーカス) 「八ヶ岳じゃない山にしたら、作りやすくなるのかな?」

野田さん 「そうなんですけど、ここから見える八ヶ岳に思い入れがあって、作るならこの形にしたいんですよね・・・」

ルーカス 「陶器みたいに型を作って、おがくずを材料にするのはどう?」

野田さん 「面白いですね! メモさせてください(笑)。私はいつも手を加えすぎちゃう癖があるんですよね。もうちょっとシンプルにしたいところなんですけど」

千葉 「だけどそれが、野田さんの作品のいいところですよね」

取材を終え、3人からはこんな感想が。

ルーカス 「今まで会ったことのある木工作家は、男の人がほとんどだったけど、彼女の作品は洗練されていて、無駄のないたたずまいがとてもいいよね。力仕事も多いだろうけど、やりやすいよう自分なりに工夫しているんだろうなって、工房の雰囲気や作業の様子から伝わってきた。八ヶ岳の箸置きは、僕のアイデアをぜひ試してみてほしいな(笑)」

千葉 「家の中にいながら山を思ったり、自然を身近に感じることの大切さを改めて教えてもらいました。そしてその豊かさを作品に落とし込まれている野田さんの人柄含めて、魅力が伝わってくる時間でした。野田さんが戻ってきて気づいた山梨の良さが体現されている作品なので、今度は僕らがその思いをイベントなどで多くの人に伝えていきたいですね」

「めぐりめぐって木工と出会ったり、東京から戻って地元の景色がまったく違って見えたというエピソードもどこか等身大で、日々歩んできた経験が作品のディテールに込められているように感じました。人が道具を作るという、生活に根づいてきた本質的なことを実践されていて、だからこそ豊かさを発見するきっかけになるような希望が詰まった作品だと思います」

写真提供:Atelier Bond

取材メンバー紹介

ルーカス B. B.
1971年、アメリカ生まれ。1993年、大学を卒業し、卒業式の翌日にバックパックひとつで来日。1996年に日英バイリンガルのカルチャー誌『TOKION』、2002年にトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』を創刊。1日30kmほどを移動する古道歩きや、地方へ自転車旅に出ていなければ、東京の自宅の庭でミントティを飲みながらおだやかな時間を過ごしている。

岡 宏樹
DOORS HOUSE 店長 とSDR(サステナビリティ推進)兼務。店舗でのイベント企画等と店頭販売を担当。 今昔のものづくりと作り手に魅せられた、ものを買う場所、使う場所、それらがただただ好きな人。

千葉 一孝
URBAN RESEARCH DOORS ブランドPR とSDR(サステナビリティ推進)を兼務し東京支社に勤務。主にDOORSの服以外担当として、家具・雑貨 のPRやイベントの企画を担当。 東京の下町で、卵料理の研究に邁進する日々。

Edit/PAPERSKY
Text/Ikuko Hyodo
Photo/Takashi Ueda

▼関連イベント
「SHARE THE LOCAL山梨」開催

「SHARE THE LOCAL 山梨」を11月19日(土)より開催いたします。

富士山だけでなく八ヶ岳や南アルプスなどの雄大な自然や景色に囲まれ、豊富な農産物や魅力に溢れた土地「山梨」をテーマに、単なる物産展ではなく私たちアーバンリサーチ ドアーズのフィルターを通した“山梨のいいモノ”を集めたイベントです。

今回、「山梨」をテーマに掲げるきっかけとなった、トラベルライフスタイル誌『PAPERSKY (ペーパースカイ) No.67』と連動した取り組みもご覧いただけます。

SHARE THE LOCAL 山梨
【開催期間 / 店舗】
2022年11月19日(土)〜12月15日(木)
DOORS HOUSE (URBAN RESEARCH DOORS 南船場店併設)

2022年12月24日(土)〜2023年1月15日(日)
URBAN RESEARCH DOORS グランフロント大阪店

2023年1月28日(土)〜2月12日(日)
アーバン・ファミマ!! 虎ノ門ヒルズビジネスタワー店

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