日本のローカル産業を手軽に、都会的に。
hibiのURBAN RESEARCH別注「10MINUTES AROMA」の魅力をたどる
シュッと擦れば、即リラックス時間。ライターは不要。今では使う機会が少なくなったマッチの利点を活かして作られた新感覚のお香。それが〈hibi(ヒビ)〉です。アーバンリサーチでも、アパレル以外でありながら1ヶ月で約6000点を売り上げる人気アイテム。そんなhibiとこの秋、念願の別注企画が実現。2022年11月11日(金)に、アイテムをリリースしました。夜明けのグラデーションが美しい、「Hajimari」と名付けられたお香。企画を担当したバイヤーの兒玉がhibiをつくる「神戸マッチ」を訪問しながら、その魅力を紐解いていきます。
※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。
1日のはじまりに背中を押してくれる香り
アーバンリサーチ25周年を記念して、スペシャルなアイテムができました。
手のひらサイズの小さな箱には、「10MINUTES AROMA」の文字。
箱の横にある側薬(箱の横の茶色い)部分で擦ると約10分のアロマタイムが始まります。
> 使い方はこちら
上段に8本のマッチ型お香、下段にお香の台座が入っているのが便利。
「Hajimari」という名前のとおり、パッケージデザインは1日のはじまりである美しい夜明けをグラデーションで表現しています。
やすらぎをもたらしながらも、朝、出かける前に楽しめば、今日1日がポジティブになれそうな爽やかな香り。
また、見た目も香りも、ユニセックスで使えるのがうれしい。
「まさに私がずっとhibiのヘビーユーザーで。本当に香りが素敵なんです。安全で、手軽に持ち運びができるので出張にも持って行っていて。ゆっくりと、でもスタートを切るのにぴったりな・・・お仕事や行動に移る後押しをしてくれるようなイメージで今回のアイテムを作りました」と、別注企画を担当した兒玉倫代。
今回は特別に、hibiを作る会社「神戸マッチ」さんを訪問。
兒玉が製造過程の一部を見学しながら、hibiと別注アイテムの魅力を探っていきます。
マッチ工場の新アイデア。キーワードは“日常”
hibiを企画・製作する「神戸マッチ」さんは、兵庫県の播磨エリアに位置します。
「播磨の南側はマッチ工場が多くあるエリアだったんですが、現在マッチを製造している会社は、姫路に2社、岡山に1社、神戸マッチを合わせて4社のみです。マッチの注文数が年々減少していて、hibiができた翌年に、マッチ製造機は手放しました。今もマッチ作りは続けていますが、マッチ棒は協力会社から仕入れています」と代表取締役の嵯峨山さん。
頭付けとは、マッチ棒の端に着火部をつける工程。
この日も朝からの頭付け作業が見られるということで、覗いてみました。
こちらは、棒の先に付ける頭薬(とうやく)を作っている最中です。
<頭薬(とうやく)づくり>
1. マッチ用の動物性ゼラチンを60℃くらいの湯煎にかけて練る。
2. 練り器で温度を下げながら固めていく。塩素酸カリウム等も加える。
3. 強度やカサを出す&色付け薬をプラス(別注アイテムは赤!)
4. 40℃の水を少しずつ加えてダマをなくしながら固めていく。適度な粘度に仕上げるのが、頭部分をきれいに丸めるポイント。
固まらないよう少量ずつ。実はこれ、パン用の練り器だそう。空気を含ませることで豊かな発火を表現できます。
2015年の4月に誕生し、8年目を迎えるhibi 10MINUTES AROMA。
きっかけはマッチの売り上げが減少し、事業として成立しなくなっていたからだと嵯峨山さんは言います。
「マッチ市場が縮小する中、市場を復活させようという試みはやってきたんですが、限界を感じていました。もともとマッチは日常にあって、生活を便利にするもの。市場環境が変わる中で、日常の中でオリジナルのプロダクトを創りたいという原点にかえり、自分たちの強みは何だろうと振り返ったとき、“着火機能”だと思ったんです」。
淡路島の“あの”産業とのコラボレーション
続いて、マッチ工場にしかない特別な機械室へ・・・。
<棒に頭薬を付ける(頭付け)>
1. 機械に先ほどの頭薬を流し込む。
2. お香がセットされた板(1枚に2000本くらい付いています!)を、ゆっくりと頭薬に浸していく。
3. この作業を5~6回繰り返して頭を形成する。
高さを変えながらきれいな丸みをつくるよう調整しています。
ついつい無心で見入ってしまいます。
この後、1日乾燥させてhibi(着火機能付きお香)の完成です!
ところで、この室内はアロマのいい香りに包まれているのに、どの工程で香り付けをしているんでしょう・・・?
答えは、この棒にあります。
実は、通常木で作られているマッチの棒、hibiは「お香」で作っているんです!
さらにおもしろいのがこのお香、線香の名産地である淡路島のお香会社で作ってもらっているもの。
hibiは地場産業のコラボレーションアイテムなのです。
「着火機能を何かと組み合わせて、日常の新しい何かを生み出せないかと考えたときに、同じ兵庫県の淡路島がお香の産地だし、お香とマッチを組み合わせれば今までにはありそうでないものが作れるんじゃないか!? と・・・」(嵯峨山さん)。
マッチの棒に代わる「折れないお香を」という業界の常識を覆すオーダー。お香会社の〈大発(だいはつ)〉の代表・下村さんは当時を振り返り、こう話してくれました。
「最初は驚きましたよ。ただ、もともとうちで和紙のお香というのを展開していたので、もしかして紙と木の間のようなものを・・・どうにか探せないかと。やれるかもしれへんから、やってみますよとお返事して、時間をもらいました。奥さんには“あんたのその根拠のない自信は何なん”って言われましたけど(笑)」。
こうしてまずはやってみる精神の下村さんにバトンが渡され、お香の新しい道を探り始めました。
「実際やってみると、硬くすることはできるんです。乾燥パスタみたいに。ただ、そうすると燃えない。それで試行錯誤して、結局完成まで3年半かかったんです。大変でしたけど、世界中でやれるところは今のところ他にはないと思います。」(下村さん)。
また、お香の調香師は少し特殊とも言います。
「お香は基本的に香木系のものと液体香料を混ぜて作るんですが、液体香料を混ぜたときにいい香りだったとしても、香木系と混ぜたときや乾燥したときにもまた香りが変わっちゃうし、火をつけたときも変わる。しかも、消えた後の残り香・・・ですよね。残り香の余韻が良くなるようにしているのも、難しさでありこだわりでもあります。今回の香りを作るのにも1ヶ月はかかりましたし、何百ものボツを出しました」と話してくれたのは、大発の調香師である土川さん。
そんな苦労を経て完成した別注の10MINUTES AROMA。
甘い中にもすっきり感があり、今出ているhibiとはまったく違うものでありながら、男女問わず好感が持てる新しい香りに仕上がったと言います。
「フラワーの香りだけれど、花束というよりハーブガーデンでいろんな花が咲いているイメージです」(土川さん)。
すでにアーバンリサーチ内でも男性スタッフから「hibiの中で一番好きかも・・・」と大好評とか!
ずっと使うものだからこそ、現代的に。
アーバンリサーチとhibiの視点
hibiは、香りを作る大発さん、デザインやクリエイションを担当するトランクデザインさん、マーケティングと製造を担当する神戸マッチさんが三位一体となってブランドを運営。
誕生2年目でコレットで展開されるなど、アメリカからヨーロッパまで約32ヵ国でも取り扱われています。
そのうえで一貫して掲げたのは「レトロテイストなし!」ということ。
「フランスの方なんかは日本文化が大好きで。でもそれって世界人口にすればほんの一部なんですよね。日常の中で使えるデザインっていうのは、スタイリッシュでコンテンポラリー、現代的なものなんです。日本びいきではなく、すべての方をターゲットにするために、いわゆる日本的なテイストは一切排除しました」と嵯峨山さん。なんとも思い切りの良い決断です。
約100年続く会社でいて「昔ながら」を封印。結果それが成功に繋がったのです。その後、発売から5年目にブランドヒストリームービーを制作し、地場(伝統)産業を前面に打ち出しました。
「小規模でやってるだけに、hibiはすごく大事にしているブランドです。発売当初から、売上よりブランド! って掲げて、ときには売上を犠牲にしなさいというくらい。だからこそ、お話しすることを大切にしていて。今回は兒玉さんと事前に何度も打ち合わせさせていただいて(笑)、アーバンリサーチさんの企業理念を理解し、共通点を探し合う、目指すものを擦り合わせることにすごく時間をかけましたね。でも、スタートするまでが一番大事」(嵯峨山さん)。
「それに長い目で見ているというか、継続展開する気がある、というところも決め手になりました」と話すのは、今回の別注企画を担当してくださった神戸マッチ営業部の内田さん。
「うちはアーバンリサーチの他にもたくさんブランドがあるんですが、まずは持続可能な社会への取り組みや地域共創の考えに共感してくださって」(兒玉)。
それに加え、アーバンリサーチが持つ洗練されたムードや都会的なライフスタイルでの落とし込みが、hibiが持つ“日常で使える現代的なもの”という方向にぴったりフィットした瞬間でした。
スタートするまで3〜4ヶ月を要したという今回の別注企画。兒玉の粘りが功を奏して(!?)、素敵なアイテムの誕生となったのでした。
コラボレーションで開かれる新しい道
今回のアーバンリサーチとの商品のできあがりの第一印象はというと・・・。
「まず、アーバンリサーチのブランドロゴの入れ方がかっこいいと思いました。こんなさりげなくていいの!? って(笑)。でも、すごくおしゃれなんで、リリースしてからの反応が楽しみですね」と内田さん。
「hibiってプロダクトとしては完成されている商品なんです。ロングライフなブランドにしたいので、コラボレーションを通して育てていきたいというのが今の展望です」(嵯峨山さん)。
他にも西粟倉村の森の学校とのプロジェクトでは無垢材hibi専用ケースを。丹波焼の窯元とのコラボでは専用マットトレイをリリースしています。
「hibiが目指すもののひとつとして、産地コラボの成功事例になれれば、というところは常に考えています。今は全国の産地ブランドさんががんばろうって立ち上がっておられるので、その勇気のようなものになればいいなと・・・思います」(嵯峨山さん)。
すばらしい産地コラボレーションを、アーバンリサーチらしく都会的に使えるものに仕上げた10MINUTES AROMA。
仕事を、好きなことをがんばるあなたの10分だけ、時間をください。
心をリフレッシュする香りが、今日も背中を押してくれるはずです。
Text/Mio Wajima