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CULTURE TRIP JUN 06,2018

【墨田区に、すもう】01 墨田区ワンダーウォール <ものまねプロ野球、開幕中>

錦糸町にある野球場では、セ・パリーグの垣根を超えて、超人気選手たちが同じチームとして試合をしている…!?スカイツリーというランドマークを得て、墨田区は観光地としても有名になった。だがここに新たに観光の目玉となるべく戦う、熱い男たちがいる。


ああ、錦糸町にものまねプロ野球があってよかった!

ワールドカップ直前ということもあってここ最近はサッカーに話題を持っていかれがちだけど、やっぱり日本では野球が人気スポーツである。

今でも漫画やドラマで「お父さん」像を描くのにもっともわかりやすい記号は<ビール・おつまみ・プロ野球中継>だし、

<カープ女子>を始め若い世代の野球ファンがブームの中心になることも多い。ちなみに一昨年にリリースした広島カープ×URBAN RESEARCHのコラボアイテムは即完売したし、今は阪神タイガースとのコラボアイテムがリリースされたばかり。

そんな野球好きな人たちに伝えたいことがある。

「錦糸町ではあの往年の名投手・元読売ジャイアンツ桑田真澄投手と横浜DeNAベイスターズ筒香選手が同じチームなんだよ」、と。

ある日墨田区錦糸町在住の友人から誘いを受けた。「錦糸町の錦糸公園で面白い草野球やっているんだけど見に行かない?」

正直、貴重な休日にプロの試合でもないのに…とは思ったが、「のんびりピクニックがてらビールも買っておくよ」(その日は5月中旬の新緑鮮やかなシーズンだった)の言葉につられ、錦糸公園に向かった。

ちなみに墨田区の中でも”錦糸町”はとりわけ賑やかなエリアだ。

飲食街もあれば会社も多数、そして住んでいる人も多い。したがって平日も休日も関係なしに毎日賑やかな街である。

錦糸公園は駅から近いのにとても広い公園で、土日ともなれば子供からお年寄りまで様々な人がのんびりくつろぐ姿がみられる。

そんな公園の奥にある野球場からはなにやら賑やかな声が聞こえてきた。

観戦席に着くと、目の前にいるのはかの名選手「桑田真澄…(現役当時読売ジャイアンツ)!?」例の肘のトミー・ジョン手術跡も痛々しい。

そして守備には筒香…選手(横浜DeNAベイスターズ)が見える。

審判は能見…選手(阪神タイガース)!?

もちろんここはオールスターの会場ではないし、ゲームの話でもない。

そう、これは「ものまね」選手たちによる“ものまねプロ野球”なのだ。

桑田選手の肘のケガをよく見るとマジックペンで書いてある。彼は桑田選手のそっくりさんであり、でもまさに試合では真面目にピッチャーとして投球をしている。

“真剣な草野球でありながら真剣なものまねをしている”

両立しそうで、しなさそうで、うん、でもやっぱり両立している。

ほのかな野球ファン程度の私でも、その瞬間腹筋が崩壊し爆笑していた。

スポーツ観戦は不思議なもので、たとえどんなに興味がないスポーツでも目の前で見ると不思議と高揚し、気がつけば手に汗握ることが多い。

それに加えて笑い要素まで加わるのだ。

興奮に笑いが加わると、それはもう止めることができない。

その日はピクニックがてらということで缶ビール片手の勢いもあったが、気がつけば説明のしにくい笑いと興奮のグルーブ感に取り込まれていたのである。

取り込まれたのは私だけではなかったようで、観覧席には野球好きの親とその子らが続々と集まり、ものまね選手がバッターボックスに立つたびに各選手の応援歌を歌い始めた。

ちなみに盛り上がりすぎて相手チームの長身イケメン選手は子供達に勝手に「陽岱鋼選手(巨人)」と認定され、打席に出るたびに応援歌を歌われていた。この辺り、野球好きの観客のノリも非常に良い。

単純に試合も面白いし、各選手のものまねも面白い。野球好きにとってはある意味「俺の考える最強のプロ野球チーム」の再現でもある。さらにこの観覧は無料!

気まぐれに訪れたこの1試合ですっかりはまってしまい、後日桑田真澄選手のものまねをしている「桑田ます似」さんの“練習日”に再び錦糸公園を訪ねてみた。

まず、ものまねプロ野球の成り立ちが面白い。

もともとは桑田ます似さんが「桑田真澄のものまねをするのに、野球ができるようにならないと」。その一心でこの野球場で練習を始めたそうだ。思った以上に真面目なところからスタート。

それがいつしか野球好きな人、同じく野球選手のものまねをする人、そういう人たちが集まって、今や200人ほどが参加しているそうだ。(試合や練習の日に空いている人が参加する方式なので、“チーム”ではないそう)

さらに訪ねた日は、「ものまねシーン(試合中に挟み込まれる本家桑田選手の名場面再現)」の練習も真面目に行っていた。この練習があってこそ本番の試合で“面白く”かつ“真面目”なシーンが再現できるのか。

ちなみに全員がものまね<芸人>というわけではない。普段は公務員やサラリーマンをしながら、この試合で“ものまね選手”として活躍する人もいる。桑田さんもものまね芸人としての活動以外に、英語講師としての顔も持っている(なんとTOEIC満点!)。そして中には元プロ野球選手もいるとか。

動画カメラマンから無茶振りをされる筒GO選手。

本人にあまりにもそっくりな(バッターボックスの立ち姿ですら似ている)筒香…じゃなかった筒GO選手も、会社の同僚に「筒香に似ている」と言われて以来本人を研究し、今では「いつか本人にものまね認定される」のを目標にしているそうだ。

「似ている」具合も人それぞれだ。顔が似ている人、フォームが似ている人、もちろんギリギリ似ている…かな? という人もいる。

試合中、たまたま隣で観戦していた人にも話を聞いたが、「どこが似ているか、探すのがおもしろいねえ」とのこと。

“同じチームに球団もリーグも超えて、各球団の人気選手が勢ぞろいする”面白さは本家プロ野球では見ることができないし、“投手が外野を守る”なんていうシーンも見られない。これはものまねプロ野球だからこそのお楽しみだ。

ちなみに動画担当のカメラマンは熱狂的な野球ファンのため、最初から最後まで大興奮であった。ふと目を話すと筒GO選手に「スウィングを再現してほしい」など無茶振りをしている。(「めっちゃ似てますよ!」を20回くらい連呼していた。)

01.桑田ます似さんのグローブは、ご本人(桑田真澄さん)のものと同じ“ワールドペガサス”製(野球好きの動画カメラマン情報)
02.賑やかな雰囲気に惹かれ、観客も続々と集まってきた。
03.この日は2試合連続。最初の試合終了後の記念撮影。
04.「肘の故障から復帰した試合でマウンドに跪きプレートに右肘をつけた」の再現シーン。
05.桑田投手によるデットボールからの乱闘!
06.かと思いきや胴上げ。これは“お約束”のお楽しみシーン。

試合終了後、相手チームのキャプテンにも感想を聞いてみたが、草野球の試合としての面白さはもちろん、やはりものまね選手との対戦は非常に楽しかったそうだ。

試合終了後に桑田さんと記念写真を撮る姿は、まさに憧れの選手に出会えた時のようである。

また試合の合間や終了後に、ものまね選手たちの「野球カード」が配られるのだが、観客もカードにサインをねだったり記念撮影をお願いしたりとすっかり本家同様の興奮具合だった。

練習日には「肘をいためた日のフライキャッチシーン」を練習していた。こんなものまねシーンすら練習を重ねているからこそ本番で盛り上がる。

桑田ます似さんに「ものまねプロ野球」の今後の目標について聞いてみた。

「最初は自分のためだけに始めたことだけど、だんだん参加する人が増えてきて試合数も去年より増えました。土日に試合をやっているので、散歩中の人が見に来てくれたり、そうやって地域の交流の場にもなっていくのが嬉しいです。中には遠くからも見に来てくれる人も。スカイツリーやポケモンGOの聖地としてだいぶ有名にはなったけど、“ものまねプロ野球”が錦糸町の新しい観光名所になれたら、と思っています。」

観光名所には人が集まる。人が集まると何かまた新しいものが生まれる。

最初はたった一人で始めた野球がたくさんの仲間、ファンを得て、今や錦糸町という街全体を笑顔にしようとしている。その笑顔の輪はこれからもっと広がる予感がした。

その証拠にどの試合中に行っても、子供に野球のルールを教えながら楽しんでる若いお父さんがいたり、「あそこはもっと肘を引いて…ブツブツ」と解説者のような野球好きらしいおじさんがいたり、「何か楽しそうだったから」と観覧に来た若いカップルがいた(そして試合中笑いっぱなしだった)。

試合を通して錦糸町の様々な人々がここには集まっていた。“そこに行けば笑顔になれる”。そんな観光名所が近所にあれば、それはとても幸せだ。

「ああ、錦糸町にものまねプロ野球があってよかった」、そう呼ばれる日もきっと遠くない。

ものまねプロ野球観戦、もしくは対戦したいと思った人はこちら

桑田ます似オフィシャルホームページ

※2018年7月1日より、芸名表記を「桑田ます似」から「桑田真似(ますに)」へ変更

01.右投げなので「菊池右星(本家は菊池雄星)」選手。ちなみに楽天ファンだそう。
02.ハンカチ王子似の「斎藤祐髪(本家は斎藤佑樹)」選手。
03.“あの有名選手たちが一堂に”的な夢のシーンも楽しめる。
04.最近はウグイス嬢兼DJを取り入れ、より盛り上がる試合になっている。
05.若々しいたいよう(本家は藤田太陽)選手。
06.ものまね選手のカードを集めるのも楽しい。今のところ桑田ます似さん、リトル清宮さん(清宮幸太郎選手)、タチロー(イチロー選手)さんのカードを手に入れた。コンプリートしたくなる。
PROFILE

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

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