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CULTURE TRIP NOV 14,2018

【ニュートラソウル!】Vol.2 調香師 ハン・ユミ【恋しちゃったんだ ソウル】

ソウルで最初に感じたのは、懐かしくて、でも日本とは違う空気感だった。見慣れぬ景色なのか、東京より肌寒い気温のせいなのか。鼻をかすめる匂いもなんだかいつもと違う。これがソウルの香りってやつ? そんな目に見えない香りを形にする人に会いに行った。


待ち合わせは芳山総合市場(パンサンチョンハッシジャン)。

アロマやキャンドルの材料、包材などを扱う卸売や小売店がぎゅうっと集まる問屋街だ。日本でいうところの、合羽橋みたいな感じ? それをもっともっと凝縮させたような感じ。

きょろきょろとあたりを見渡していると、すこし離れたところから私たちを見つけ、手を降りながら走ってきてくれたのが、調香師のハン・ユミさん。『PROUST』という香りのブランドもプロデュースしている。

調香師とは、香料を調合して香粧品を作る人のことをいうのだけれど、実際はどんなことをしているのか、ハンさんの半日についていって、教えてもらうことにした。

一度足を踏み入れたら一瞬にして迷子になってしまいそうな芳山総合市場内を、ハンさんは先頭を切って慣れたようにすたすたと歩き、いつも行くという店を何軒か紹介してくれた。

「ここでは香水を入れる瓶やディフューザー用のスティック、キャンドル用の仕材などの買い出しをします。だいたい行く店は決まっていて、そこでは実際に使うツールの他に、いまどんな香りが流行っているのか、どういうものが求められているのかというリサーチも常に兼ねています」

01. 香水に入れるドライフラワーや瓶など、ありとあらゆるアイテムが揃う。
02. 香水に入れるドライフラワーや瓶など、ありとあらゆるアイテムが揃う。

品質のいいものだけで作るために、香水やディフューザー用の仕材は『CANDLE WORKS scent bar』で購入。ここにはフランスのハンドメイドのボトル(一本1万円!!)なども置いてあり、ハンさんのお気に入りなんだそう。

すべての店を回っていると、本当にきりがないので(ぜひ行ってみてください!)、早々に切り上げて実際に香りを調合するところを見せてもらうことに。

「そのまえに少し休憩しましょう」と取材陣みんなにコーヒーをごちそうしてくれたハンさん。「社長だからみんなにコーヒーをごちそうするわ」と冗談を言って、照れて笑う姿がとってもキュート!

実はハンさんのお店は今ちょうど移転している最中。ということでアトリエには伺うことができなかったけれど、実際に店舗の香りをプロデュースしている店『le cashmere』へ移動して、引き続き香りについて話を聞くことにした。

調香師としての肩書きはもちろんあるけれど、ブランドや店舗の香りをプロデュースすることもハンさんの大きな仕事のひとつ。

ちょうど今、韓国のコーヒーチェーン『The Coffee Bean & Tea Leaf』の香りを選ぶというので、実際にその行程を見せてもらうことに。

コーヒーに近い香りから、だんだんとローズやウッドなど異なる香りを嗅いでいく。

各々、好きな香りはあるけれど、いろんな匂いを嗅ぎすぎてわけがわからなくなる人が続出!

「ディレクターとして匂いを決める、ということはとっても重要だから、あなたたちの意見がとっても重要なの!(笑)。好みというよりは、自分がコーヒーショップに入ったとき、どんな香りがしたら気分がいいかということを考えてみてね」

そう言われながらも、これ!というひとつを選ぶのはとても難しい。

口々に好きな香りをハンさんに伝えるだけ伝えて(笑)、あとは実際にどの香りが選ばれたのか。次回またソウルを訪れるとき『The Coffee Bean & Tea Leaf』に行く楽しみが増えた。

香りに魅了されて、ハンさんの香りのワークショップに通うことをこの場で決めたコーディネーターのキム・セジョンちゃん。

あらためて、ハンさんが香りに魅了されたきっかけを聞いてみた。

「最初は、人々のライフスタイルに合わせたインテリアの提案などをしていました。例えば、“昔おばあちゃんが釜でお米を炊いてくれた”という思い出があれば、そこから着想を得てちゃぶ台をデザインしたり。インテリアは、<暮らし>という人のストーリーがあって。<香り>も、より創造的な物語がある。それに気づいてから、より広がりがある香りの方へ興味が移行していきました」

たとえば〝ソウル〟の香りを作ろうと思ったら、まずソウルには何があるんだろう?と考える。韓国人はアツくて、お酒も好きだし、夜遊びもする。夜中の3時4時でも精力的に働く人がたくさんいる。そういうふうにどんどんと物語のイメージを膨らませていって、ひとつの香りを作り上げていくんだそう。

では、ソウルではなく韓国全体と、東京の香りはどんなイメージなんだろう。そう尋ねると「韓国は、トラディショナルなサンべ(麻布)の香りを想像します。東京は少し透明で、フローラルやコットンのようなイメージ。わたしにとっての東京のシンボルは<東京タワー>だから、そこからストーリーを広げていって東京の香りを作ってみたいです」と答えてくれた。

その香りを探るような表情と言葉に、思わず聞いているこちら側の鼻先にふっとその匂いが漂った気がした。

ちなみにアジア人の中で香水をつけるのは、圧倒的に日本人が多いんだそう。せっかくだから、と簡単な香りの付け方を教えてくれた。「手首にプッシュしたあと、こすりつけるようにしてはだめ。香りは摩擦に弱いから、その熱でトップの香りが蒸発してしまうの。だから、トントンとやさしくおさえるのが秘訣よ」

同じ香水でも、人によって感じ方が違う。

その人によって、ベスト、と感じられる香りを見つけ出すというのが一生の課題というハンさん。

自分にとっても人にとってもいい香りをまとえたら、きっと心地いいに違いない。

香りは記憶とつながってる。持ち帰った『PROUST』の〝Seoul〟の香りを嗅ぐたびに、ソウルの町と出会った人たちのことを思い出してしまいそうだ。

ハン・ユミ /
調香師・『PROUST』プロデューサー

『PROUST』
ソウル市 鍾路区 ミョンリュン4街140-4
02-742-3552
(12月中旬オープン予定)

http://www.proust.co.kr

https://www.instagram.com/proustscent/

PROFILE

松本 昇子エディター / ライター

愛知県出身。雑誌やカタログ、書籍、WEBサイトなどの編集、執筆、ときどきコピーライティングも手がける。

熊谷 直子Photographer

幼少期より写真を撮り始める。20歳で渡仏し、パリにて本格的に写真・芸術を学ぶ。2003年よりフリーランスフォトグラファーとして雑誌・広告などでポートレートや風景など多ジャンルにおいて活動し、個展での作品発表も精力的に行う。主な著書/二階堂ふみ写真集「月刊二階堂ふみ」、杉咲花1st写真集「ユートピア」、熊谷直子作品集「赤い河」

김세정 / キム セジョンEDITOR・COORDINATION

丁寧な暮らしが合言葉のカンナムOL。

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