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CULTURE TRIP NOV 26,2018

【ニュートラソウル!】Vol.3『MAPS』編集長 リュウ・ドヨン【恋しちゃったんだソウル】

悲しくも雑誌が下火の日本と比べ、小さい規模ながら質のいい雑誌が生まれている韓国。中でも特別異彩を放っているのが、ストリートとハイファッションを融合した雑誌『MAPS』だ。この素敵な本を作っているのは一体どんな人なんだろう。


アポイントは15時。
少し早めに『MAPS』編集部についてしまったので、編集長が来るまで会議室で待たせてもらった。
この会議室も含め、編集部全体がなんだかとても素敵。
わたしが知っている編集部とは違い(だいたいいろんな書類が山積みになっていて混沌・殺伐としている笑)、ここはきれいに整頓されていて、明るくて、気持ちのいい空間。
スタッフの人たちは、みな黙々と作業している。
バックナンバーを拝読しながら、ぽかぽか陽気にちょっぴりうとうと。

しばらくして、編集長のリュウ・ドヨンさんが到着した。
上階の談話ルーム(みんながリラックスして休んだり、話したりゲームしたりして、インスピレーションを得られる場所になっているそう)へ通してもらう。

取材陣の緊張を察してか、「お菓子でも食べますか?」と大きな缶に入ったポテトチップスを振る舞ってくれたリュウさん。その優しさに、きゅん。
(ちなみに部屋には『Cigarettes After Sex』が流れていて、その選曲にもきゅん)

創刊から12年。
当初韓国には、日本でいうところの『Boom』(祥伝社)のようなストリートのファッション誌があまりなく、関連する雑誌を作りたかったというのが創刊のきっかけだったそう。そこにハイファッションを融合して、オリジナリティを生んだ。

発刊ペースは月に一度。(日本の大手出版社に比べると)少ないスタッフ数に思えるけれど、それでも今はやりたいことをやり、体力(身体的&経済的)的な部分も大丈夫、という。
大人数が関わり、かつ毎回予算繰りに苦しむ日本で雑誌に関わっている身としては不思議で仕方ない。その理由を聞いた。

「普通雑誌というのは、広告収入があって、それらを制作費に当てることによってやっと作り上げられるものなのだけど、そうすると本当に作りたいものが作れなくなったりして。やっている意味がだんだんわからなくなってしまって。4年前くらいに、思い切って広告を入れることをやめたんです」

「4年前はもっと情報満載で広告もたくさん入れていて、制約がたくさんあって。もともと考えていた『MAPS』の方向性とズレてしまっていたんです。そうすることですごく利益が残るなら意味があるのかもしれないけど、そこまで利益は残らなかった。だったら商業的な部分はすべてなくしてしまおうと。そうしてようやくやりたいことができるようになった気がします。それに伴ってスタッフも〝エディター〟よりも、より総合的に制作に取り組める〝プロデューサー〟的役割の人を中心にして、彼らと共に作ってきています」

日本でも、きっと『MAPS』のような作り方をしたいと思っているクリエイターはたくさんいるはずだけれど、広告はどうしても入れざるを得ないというか、そうしないと廃刊の危機に追い込まれてしまう、という実感がある。仕事を〝まわしていく〟秘訣はなんなのか。

「デザイナーがほかのプロジェクトに関わっていたり、僕もキュレーションやプロデュースの事業をやっています。また年に3回くらいは、大きなブランドとのコラボレーション記事を制作したりするので、それを制作費に当てていますね。それに、自分たちがカッコいいと思っているものを載せたら、それに共感してくれる読者がきっといる、そう信じているんです。
万人に受け入れられる雑誌というよりは、クリエイティブな仕事に就いている人たちが見てインスピレーションを得られるような雑誌でありたいと思っています」

「以前はワンテーママガジン(毎号テーマを掲げる)だったけど、今年の頭からすこしネタ切れで(笑)、今は6回に一度テーマを変えています。大手だと商業的に変えていかないといけないところがあるけど、そういう意味ではもうやりきれたというか。〝編集長のひとこと〟みたいなコラムもやっていたけど、書くことも言うことももうあんまりない(笑)。テキストも少ないから、見る人によって受け取り方も様々だと思う。だけど、それがいいと思っています。ただ静かに、好きなものだけを作っていこうと思っています」

誌面には、韓国のみならず、様々な国のモデルやアーティスト、クリエイターが登場する。日本や世界のクリエイターにも常にアンテナを張っていて、SNSを使って若手アーティストをチェックしているというリュウさん。実際、彼自身も、本人の観点で写真を撮ったりするので、多くのアーティスト達とも交流をするという。情報交換も盛んに行っていて、人が集まる場での飲みニュケーションも欠かさない。こういうところにも、小さいながら質のいいものづくりに取り組めている理由があるのかもしれない。

まだ100%はできていないけど、当初描いていた理想の形に少しずつ近づいてきていると語るリュウさん。現在、新聞放送学科の博士課程に通っていて、編集長業務の他に課題もやらなくちゃ、と忙しそう。寡黙だけどアツくて、好きなものにまっすぐなその姿勢に、終止ときめいたのだった。

リュウ・ドヨン(Ryu Doyeon) / 『MAPS』編集長
1984年生まれ、韓国・ソウル出身。

http://www.maps-mag.com/
www.facebook.com/mapsmagazine
https://www.instagram.com/mapsworld_official/
https://www.instagram.com/maps_ryu/

PROFILE

松本 昇子エディター / ライター

愛知県出身。雑誌やカタログ、書籍、WEBサイトなどの編集、執筆、ときどきコピーライティングも手がける。

熊谷 直子Photographer

幼少期より写真を撮り始める。20歳で渡仏し、パリにて本格的に写真・芸術を学ぶ。2003年よりフリーランスフォトグラファーとして雑誌・広告などでポートレートや風景など多ジャンルにおいて活動し、個展での作品発表も精力的に行う。主な著書/二階堂ふみ写真集「月刊二階堂ふみ」、杉咲花1st写真集「ユートピア」、熊谷直子作品集「赤い河」

김세정 / キム セジョンEDITOR・COORDINATION

丁寧な暮らしが合言葉のカンナムOL。

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