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CULTURE TRIP FEB 20,2019

【森と未来をぐるりとつなぐ 下川町】<下川町移住暮らし 2> SORRY KOUBOU / 森のコスメを届ける二人の“キキ”

地域おこし協力隊として3年間下川町の活性化に携わっていた二人組が、夢だった無農薬ハーブの栽培とそれを使ったコスメを作る会社を立ち上げた。肌の悩みは人それぞれ。“魔女の宅急便”のキキの母のお店のように、一人一人に想いが届くクラフトコスメが誕生した。


“地域おこし協力隊”として下川町へ

前回ご紹介したように、下川町では「移住者」を支援する仕組みが充実している。例えば限界集落だった一の橋地区には、集合住宅を作り、暖房などのエネルギーに木質バイオマスを使用するバイオビレッジを作った。もちろん住居だけではない。そこに長く住み、経済を回すためにも“雇用”が必要となる。豊かな森林などの林業、農家だけでなく“町の活性”には様々な人材や職種が必要だ。

下川町で働くにあたって、「地域おこし協力隊」というユニークな活動がある。

これは一の橋地区で下川町の特産品でもある椎茸の栽培やコミュニティカフェの運営などに携わりながら(期間は1〜3年)下川町に住むというもの。もちろん任期の間はお給料が出る。

移住したいものの職はどうしよう、という人にも、せっかくなら地域の人と交流したり地域のために働いてみたい人にとっては素晴らしい雇用活動だ。

結果、地域の活性化の他に高齢者と若い層がともに町に暮らすという利点も生み出した。

そしてその協力隊として3年間の活動を終え、そのまま移住・新しい事業を始めた女性たちがいる。

代表を務める山田香織さんと製造責任者の小松佐知子さん。彼女たちが手がけるのは無農薬ハーブを使ったクラフトコスメ「SORRY KOUBOU(ソーリー工房)」。

とても可愛らしい名前だけど、なぜ「ソーリー」なんだろう。

「ここに至るまでに色々な人の手を借りたり、教えてもらったりしたから」。山田さんがそう教えてくれた。

SORRY KOUBOUのホームページにもあるように「ごめんなさい、わからないので教えてください」。そうやって素直に人や植物と向き合う、彼女たちが大切にしている想いが込められているそうだ。

ハーブチンキには、カモミール、カレンデュラ、よもぎ、ミントなどの種類がある。他手作りの石鹸やオイルなども販売。“化粧水”は販売していないが、チンキとグリセリンがセットになった「化粧水手作りキット」の販売も。

SORRY KOUBOUでは、無農薬でハーブを育て、そのハーブを原料に石鹸やオイルなどを作っている。畑も彼女たちが自ら開墾した。

下川町の自然を生かした化粧品作りとしては、それまで使われていなかった森林資源も活用するために生まれたトドマツ精油事業を手がける<株式会社フプの森>という大先輩がいるが、SORRY KOUBOUの化粧品もまた、下川町の新しい“地産の商品”として根付き始めている。

ハーブを知る、楽しむワークショップ

この日お話を伺ったのは、去年(2018年)オープンしたばかりの<COSOTTO ,hut/こそっと、ハット>というお店。

ここではSORRY KOUBOUの商品だけではなく下川町で生まれた木工作品や編み物アイテムなども一緒に並ぶ地域のセレクトショップのようなお店になっていた。

ちなみにこのお店を手がけたのは前回ご紹介した若園拓司さん。
小さくて、でも下川町の大自然にこっそり調和しているなんとも可愛らしい小屋だ。

ここでは化粧水のワークショップができる、とあって参加してみた。

化粧水は好きなハーブチンキとグリセリン、水を混ぜて作る。
余分なものは何も入っていないから、2週間ほどで使い切ることが前提のナチュラルな化粧水。

理科の実験のように、軽量スプーンでそれぞれの量を測り、ボトルに混ぜていくのがなんともワクワクする。

西洋・東洋にかかわらず、古来からハーブには様々な効能があるとされてきた。

例えばカモミールは保湿、シミの生成をふせぐ、炎症を抑えるなど。カレンデュラは抗酸化作用に優れ、火傷や虫刺され、ニキビにも有効とされている。ヨーロッパでは傷薬として重宝されているとか。マローというアオイ科の植物はかつてマシュマロの原料にもなっていたもので、水分保湿力が優れているそう。他にも昔から切り傷の治療に使われていたヨモギなど。

そういえば子供の頃、擦りむいた膝小僧におばあちゃんがヨモギの葉をもんだのを刷り込んでくれたのを思い出す。

もちろん無農薬で育てたものなので、口に入れても安心。例えばうがい薬として水に垂らすという使い方もできる。

ワークショップでは様々なハーブの効能が表になったものを見せてもらい、その中から自分の肌質や悩みに沿ったものを2種類選ぶ。これが楽しくも悩ましい時間だった。

シミ、乾燥、ニキビ、etc…。

考えるほどに思いつく肌トラブルは多く、「あれもこれも私の肌には必要!」となかなか選べなかったが、二人のアドバイスもいただき、カモミールとスギナ・エゾイラクサを選んだ(保湿と、毛穴を引き締めたかったので)。この日は他女性スタッフ1名と、冬の北海道の案内役をしてくれた中野恵美さんの3名で参加。結果、それぞれ異なった組み合わせになった。
本当に肌の悩みは人それぞれなんだな、と思う。

出来上がった化粧水は、ハーブの香りがとても良く、肌にスーッと馴染む軽さもある。香りも自然のものなので、つけた瞬間は植物の生命力溢れた香りがするけれど肌になじむ頃にはふんわりゆっくりと消えていくのもいい。

と、山田さんがこんな使用方法を教えてくれた。

先に肌に天然オイルを垂らし、そのあとに化粧水を加えるというもの。

手の甲で試してみた。
オイルが先だなんて水を弾いてしまわないか、と思ったのに、予想に反してなんども手のひらで抑えるうちに、すっと化粧水が肌になじむ。

そうやって保湿した手の甲はすべすべが長く続き、”オイル系は最後に使うもの”という先入観があった私にはちょっと目からウロコだったのである。

オイルから塗らなくても、化粧水にそのままオイルを数滴混ぜてもいいそうだ。導入剤や保湿クリームを使わなくても肌がしっとりする。

個人的な話で恐縮だが、毎年冬の間だけ目の下のちりめんジワがひどくなるのが悩みだったが、オイルとこの日作った化粧水を合わせていたらこの冬はちりめんシワはどこかへ消えてしまった。あまり化粧品にはこだわらないタチだったが、やはり肌にぴったり合うものが見つかるのは嬉しい。

それと、ハーブの効能リストを見ながら改めて自分の肌(の悩みやなりたい肌質など)にゆっくりと向き合う時間もよかった。

山田さんはもともと肌が弱く、出身地の福島の名産である桃の葉を使った化粧水を使うなどなるべく肌に優しいものを探したり、石鹸などを自ら作ったりしていたそう。大人になってからも時々アトピーなど肌の悩みは続いていたそうで、改めてハーブや植物などの勉強を始めた。今はメディカルハーブセラピストという資格も持つそうだ。

ともに東北出身の山田さんと小松さんは学生時代からの知り合いだったそうだ。東日本大震災をきっかけに、二人でハーブを栽培し、安心で安全な化粧品を作りたいという想いを強くする。

そして様々な土地を調べるうちにハーブを育てるに最適な、ここ下川町にたどり着いた。

SORRY KOUBOUと下川町の暮らし

正直、想像を超える冬の雪に心折れそうになったこともあるというが、下川町の四季の美しさを山田さんはこう語ってくれた。

「雪で一見何もないようなのに、その下では息をひそめて生きる植物や動物がいる。そしてそれが春の雪解けで音を立ててミシミシと大きく一斉に芽吹き、夏には虫や鳥の声、川の音を楽しみ、秋には燃えるような赤に染まる紅葉にハッとするんです」

その中でも特に好きな季節を聞けば、

「春なるとエゾエンゴサクなどのスプリングエフェメラル(早春に花咲く植物)がパッと咲くんです。それを見るとああ、春が来たなあって思います。でも冬のアイスキャンドルやムーンウォーク(満月の夜に歩くイベント)も好き。苦手なのは雪道の運転と夏の虫たちかな(笑)」

小松さんは下川に来て以来、“釣り”の楽しみに目覚めた。
「下川の観光協会の人に誘われて以来、すっかりはまっています。春は渓流に出かけるのが好きです。初夏から11月まが解禁シーズンなので、イワナやヤマメ、ニジマスを目当てに一人でも釣りに行くことも。私の中の季節は、漁の解禁シーズンと、12月から5月までのおやすみ時期、その二つです(笑)。」

釣りだけでなく、その副産物で山菜採りなど美味しい自然の恵みに出会うのも楽しみなんだそう。

「協力隊」として数年間町のために活動したお二人。だからSORRY KOUBOUやこそっと、ハットには今度は地元からの協力も大きく関わっている。
「こそっと、ハットの木材は地元から提供していただいたし、応援してくださる地元の方が、ドライブがてら寄って下って孫のためにと商品をかっていただいたり」

そしてSORRY KOUBOUもまた地域のお店でワークショップを開くなど「協力隊」が終わっても地域との関わり合いを続けている。

SOURRY KOUBOU ホームページより。一面ハーブが咲き誇る様子

春は種まき、苗付けをし、夏にぶわっと咲き誇るハーブを刈り取り、秋にはまた来年に巻く種取りをし、冬に成分を抽出する。そんな風に1年を通してじっくりゆっくり作られたオイルやハーブチンキは、つまりは下川町の自然がギュギュッと詰まったもので、さらに下川の町の人の優しい思いも詰まっているものだった。

写真右・山田さん 左・小松さん

最後にこれまた気になる名前の「こそっと、ハット」の由来を聞いてみた。
ちなみにSORRY KOUBOUもここも、名付けは山田さん。
「山田さんのネーミングセンスはすごいんですよ!」と小松さんが嬉しそうに教えてくれた。

営業は基本日月のみだがイベントなどで不定期な事も多い。だから入り口には「回覧板」みたいに営業日のお知らせが貼ってあった。

「こっそり営業してるハット(小屋)みたいなイメージでつけたんです。ロゴは名前にかけてハット(帽子)にしました。“魔女の宅急便”のキキの母のお店みたいに、一人一人に合わせたものをお渡しできるような、そんなお店にしていきたいんです」

SORRY KOUBOUの商品はインターネット販売も行っている。だからこの日買ったオイルがなくなりそうになったらネットでも注文できるけれど(そのつもりだ)、きっと加齢や気候なんかでどんどんと変化を遂げるだろう自分の肌のために、また会いに行って“こそっと”相談したいなあ、そんなことを思った。

SORRY KOUBOU
cossoto, hut

北海道上川郡下川町一の橋607の内
営業時間 : 日曜日、月曜日 10:00〜16:00
(臨時休業があるためお越しになる際はお電話にてご確認くださいませ)
TEL : 01655-6-2822
URL:http://sorrykoubou.jp/

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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