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CULTURE TRIP FEB 27,2019

【森と未来をぐるりとつなぐ 下川町】下川町のとっておき冬遊び MOON WALKとアイスキャンドル

満月に心惹かれるのは何も狼だけではありません。
その光に導かれて、冬の間だけ人間も歩くことのできる「雪の森」へ。月明かりに照らされて輝く雪の上を、森の動物たちの気配を感じながら歩いてきました。


東京から履いてきたアウトドドアシューズのまま、新雪にそっと足を踏み入れてみました。サクッという音がしてずぶずぶと足が沈みます。

足が重い。雪の粒一つ一つはあんなにも小さいのに、塊になるとこんなにも重くなるのかと雪になじみのない私たちは驚きます。

前に歩きたいのに、とうとう雪に足をつかまれたまま足が抜けなくなってしまいました。

今日の夜、雪山を散歩する<MOON WALK>というツアーに参加する予定だったので、予行練習とばかりに宿近くの新雪部分を歩いてみたんですが、結果は上の通り。

でもだいじょうぶ。このイベントでは雪の上を歩くための靴、“スノーシュー”を履いて歩きます。

昔はかんじき、という名で呼ばれ、それは竹や木を曲げたものでできていたけれど今時のスノーシューはまるで小さなスノーボードみたいなものでした。

そのスノーシューを履いて、ふかふかの雪の上を散歩する。
しかも満月の夜に。

<MOON WALK>はそんな風に満月の夜に行われる雪山散歩です。

このツアーは、NPO法人『森の生活』が主催するナイトプログラム。およそ1時間半かけて、前回ご紹介した五味温泉に隣接する「美桑の家」の裏にある森を歩きます。

集合場所にはスノーシューが並べられ、まずは履き方からのレクチャー。

取材チームは念のためアウトドア用の靴を履いていたのですが、スニーカーのように丈の短いタイプは隙間から雪が入るということで長靴を貸していただきました。アウトドアシューズの場合は、防水パンツを靴にインしたり、ゲーターを履くといいそうです。

ストレッチをして体をほぐし、いざ夜の森へ。

事前に試してみたように、新雪はふかふかしていて見るのには綺麗だけれど、足を入れればズボッとはまってしまいなかなか歩くことができません。
けれどスノーシューを履けば1/5の力で歩けるんだそう。

普通に歩くとスノーシューの上にも雪が乗ってだんだん重くなるので、垂直に足を上げるのがコツ。
小学校の運動会の行進のように真上に元気よく足を振り上げて歩きました。

この日はNPO法人『森の生活』の藤原佑輔さんと、ゲストハウス運営とガイド業を行う大西遼佑さんのお二人がツアーガイドをしてくださいました。ちなみに大西さんは兵庫県出身。ウィンタースポーツのガイドがしたくて下川町に移住してきたそうです。
今日は参加者が多いので、ふた班に分かれてツアーを行います。

この日は雲も多く、最初のうちは月は雲に隠れがちでした。雪もちらほら舞っています。

「晴れるといいねえ」。
ちらちらと空を見上げながら皆口々にそんなことを言っていました。

森の中に進むたびに、五味温泉や美桑の家の灯りがどんどん遠くなりますが、それでも一面に降り積もった雪のおかげで、夜なのに森の中が「真っ暗」ではないことに驚きます。

目が慣れてくると雪に照らされた木々や頭だけ出している葉っぱなどのシルエットがくっきりと見えてきました。

この森は下の方はシラカバなど広葉樹が広がり、上の方はトドマツやカラマツの人工林になるそう。スノーシューのおかげでらくらく…と言いたいところですが慣れないうちはそれなりに雪に足を取られながらも、どんどん深い森の中へ。

途中で、藤原さんが“森の話”をしてくれました。

モデル歩きのキツネの足跡は、こんな風に1本の線になります。

例えばキツネの足跡。モデル歩きをするキツネの足跡は一筋で、跡が深くなる方へと歩いて行ってる。注意深く見ればキツネたちがどこから来てどこへ行くのかがわかります。

それから森の共生。
ツルアジサイはカラマツなどの高木に付着して、絡みながらどんどん這い上がっていく植物。初夏には白く可憐な花を咲かせますが、冬枯れしていてもカラマツにしっかりと絡んで共生しているその姿は、なかなか図太くもあります。

そうそう、木の幹にはクマの大きな爪痕もありました。
もちろん今は冬眠中だけれど、さりげなく藤原さんが「一応クマスプレーも持参していますよ」というので心の中でドキドキしていました。

<フプの森>と幸運の満月と

ふと、ぽこぽこぷっくりしたコブがたくさんあるトドマツの前で藤原さんが止まります。そして「これでこのコブをつついてみてください」と木の枝を渡してくれました。

恐る恐るそのぷっくりした部分をつつくと、枝の先にねばねばした透明な樹液がたっぷり。

「アイヌ語ではトドマツのことを“腫れもの”を意味する“フプ”と言います。このぷっくりしたヤニつぼが腫れもののようなのでその名が付きました。」

潰したフプからはほんのりいい香り。

「トドマツはとてもいい香りがするので、アロマにも使われるんですよ。下川町では“フプの森”という会社が、以前はただ捨てられていたトドマツの枝打ちした葉を蒸留して、精油作りをしています」

以前はただ捨てられていたものに利用価値を見出して、それが下川町生まれの名産品にもなる。

そんなお話を聞きながら、雪の中で春をじっと待つ松ぼっくりを見つけたり、あちこちにある動物たちの足跡を見ながら、まさに<森とともに生きる町>なんだなあ、と改めて感じます。

3、40分ほど歩くとさすがに息が上がってきますが、広めの空間がある場所で焚き火と暖かいお茶休憩が待っていました。

焚き火に使ったのは白樺のガンピ(皮)。薄くて軽いのにあっという間に火がつきます。

今回ガイドしてくださった藤原さん(左)と大西さん(右)

市販では出回らないのでなかなか手に入らないそうだけれど、燃え上がった炎はあっという間に私たちを温めてくれました。

さっきまで雪の反射だけで見えていた世界が、一気に明るくなります。

なぜか、火を初めて使ったご先祖様たちの気分になって雪と炎、その性質の反対のものの美しさに魅入られます。

と、ふと空見上げるとさっきまでほんのり雲がかっていたのに、その雲が風で流されていつの間にか満月が現れました。

思わず全員で空を見上げます。

どうにかしてスマホのカメラでその美しさを捉えたいとカメラを向けるけれど<肉眼レフ>で見る満月の美しさには敵わなくて、撮影は諦めてじっと満月を目に焼き付けました。

そうこうするうちにまた雲がかかる。

その度に嬉しくなったりがっかりしたり。
普段月を見てそこまで感情が動かされることはないけれど、この日ばかりは雲の動きに、満月の姿に一喜一憂したのでした。

今回ご一緒した参加者の中にはリピーターの人もいました。
この満月散歩の特別な美しさを知ると、確かになんども参加したくなる気持ちがよくわかります。

また下川町に移住してきたばかりの方もいて、これからずっとこの美しい雪と満月を眺めることができるのかと羨ましくもありました。

赤い月、白い月。スーパームーンの奇跡

山の上の方にたどり着くと広い雪原に出ました。

そして幸運にもそこにたどり着いた瞬間に雲が完全に晴れて大きな満月がピカピカと輝き始めます。

「今日の満月は、縁起が良いと言われるスーパームーンなんですよ」

ツアーに参加したのは1月21日。この日はスーパームーンという地球から見る月がもっとも大きく見える日でした。ちなみに1月最初の満月はネイティブアメリカンたちの言い伝えにちなんで「ウルフムーン」と呼ぶことも。そうそう、この日は、アメリカでは「スーパーブラッドウルフムーン」と呼ばれる、月が真っ赤に染まる皆既月食になっていたそう。

同じ月なのに、今日は地球上で赤い月と白い月が見えている。
不思議でちょっとロマンチック。

さてさて日本の白い月の方はどんどん輝きを増してきます。

月の光に照らされて、空もほのかに青く、雪も青白く輝き始めます。
あたりもさっきとは段違いに明るいので、思わず参加者の中には雪原を走り回る人も。

深い雪なので、一度はまるとなかなか出られません。スタッフも数名、脱出できなくなり藤原さんたちにヘルプしてもらいました。

私も真似してダッシュしてみましたがうっかり雪に足を取られズボリと雪の中に埋まってしまいました。
それがなんだかおかしくて、そのままゴロンと雪の上に寝転んで月を見上げます。(あと、こっそり雪を食べてみました。ふわふわで美味しかったです)

ちなみにこのツアーは冬の間だけ行うそうです。
何故かと聞くと、夏は山には笹が生い茂るのでこんな風に歩くことさえままならないとか。

だからこのツアーは、“人間が歩くことのできる雪の森”が現れる時期だけのお楽しみ。

代わりに夏は天の川が綺麗なんだそう。また冬の新月時期は星が最も綺麗に輝くそう。次回は天の川を見に行きたいなあ。

1時間半のツアーはそんな風にあっという間に終了しました。
満月に照らされた夜の森から、人工の灯りの世界へ戻る時間です。名残惜しくもありますが、その人工の光にやっぱりホッとしてしまったりして。

そうそう、ちなみにこのツアー、五味温泉チケット付きなのです。
雪の中で冷え切った体を温泉で温めて帰るのもお楽しみの一つ。
3月にもツアーがあるそうなのでぜひ夜の雪の森と温泉を味わってみてくださいね。

今回のツアー参加者の方たちと集合写真撮影。お疲れ様でした!

下川町発、アイスキャンドル作り

下川町の冬遊びをもう一つご紹介します。

下川町では冬になると家々の前にアイスキャンドルが並び始めます。

この「アイスキャンドル」は、下川町発祥の冬のお楽しみ。バケツなどに水を張り、それが凍ったら中の水を抜く。そうしてできた氷のキャンドルホルダーに灯りをともすというものです。

毎年「しもかわアイスキャンドルミュージアム」と言うイベントが行われ、会場にアイスキャンドルがずらりと並びます。(今年も2月15日〜17日に行われました)

残念ながら取材日はイベントより前だったのですが、下川町の万里の長城を見に行った際、そのアイスキャンドル祭りの準備をしている方に出会いました。

数名がかりで大量のバケツに水を張り、凍ったものを取り出して中の水を抜く。そうやって出来上がったものはどんどんコンテナに積み上げられていきます。

最初は遠慮がちに少し遠くからそれを眺めていたのですが、作業していた人たちに声をかけると中を見せてくれました。
コンテナの中にはすでにぎっしりとアイスキャンドルが並んでいましたが「まだまだ作り始めたばっかり。これからもっともっと作るんだよ」とのこと。

その量に圧倒されながらも、「きっと当日はものすごく綺麗なんだろうなあ」とイベント時に下川町にいないことを嘆いていたら、今回の冬の北海道案内人、中野さんが簡単なアイスキャンドル作りを教えてくれました。

トトロみたいなアイスキャンドルができました。

1 水風船に水を入れ、高さのあるところに吊るす。周りは凍っているけれど中はまだ水が残っている状態にするのが目安(長い時間つるしてしまうと中まで凍ってしまうので注意)
2 風船から氷を取り出して、中の水を抜けば完成。水を抜く時は、暖かいペットボトルや保温ボトルなどの底をそっと押しつけると、じんわり氷が溶けて穴が開きます。
3 そうやってできた雫型のアイスキャンドルホルダーにキャンドルをおき、火を灯す。

01.水の入れ具合は写真を参考に。水風船のように口はしっかり縛ります。
02.ロープがあるとこうやって吊るすことができて便利。
03.凍っているか確認したら、風船の上の部分を切り取るとするりとはがせます。

ある程度寒い日でないと凍らないので、この日は5個作ったうち、たったの2つだけ成功。

それでも自分たちで作った雫型のアイスキャンドルはろうそくの光をじんわり美しく輝かせてくれました。

他にも中野さんにキャンドル遊びを教えてもらいます。

もうちょっとで完成、というところで崩れてしまいました。そうそう、北海道の「プロノ」というワークウエアショップで買った「テムレス」という手袋が超優秀! 雪を触っても寒くない!

一つは雪玉を積み上げて小さなカマクラを作り、その中にキャンドルを入れると言うもの。
そうすると雪玉の隙間からホワッとキャンドルの光が漏れてとても綺麗なんだそう。ただし下川町の雪質はサラサラとしていてなかなか雪玉が作れず、途中で崩れてしまいました。

またふかふかに積もった雪を掘って、そこにキャンドルを置いても綺麗だということで近くの雪の中でチャレンジしてみました(もちろん、通行の邪魔にならないか、火気厳禁の場所かどうかチェック

大きい穴、小さい穴、深い穴、横に広〜い穴。
ただの穴なのに掘る人の個性が出てきます。そしてその穴の形や大きさでキャンドルの光の具合も変わってくるので、それがとても楽しい。

吐く息が真っ白になるほど寒い夜だったけど、寒さを忘れて夢中になってしまいました(火の始末はお忘れなく!)。

暦の上ではもう春だけど、北海道が春めくのはもう少し先の事。

森と人が共に暮らす街、下川町ではまだまだ冬遊びがたっぷり味わえますよ。
もちろん春や夏、秋にも素敵な遊びや風景が楽しめます。
ぜひお気に入りの季節に遊びに来てみてください。

NPO法人 森の生活

〒098-1204 北海道上川郡下川町南町477番地

URL:https://morinoseikatsu.org/

ムーンウォーク 〜 満月の夜の森歩き 〜

場所:五味温泉 エコハウス美桑前(19:00集合)

開催日時 : 2019年 3月21日(木・祝) 19:00〜20:30

料金 : お一人様 1,500円(大人の方でスノーシュー持参の方は1,200円となります。)
4歳〜小学生以下は900円、3歳以下のお子様は無料となります。定員15名

持ち物:防寒着、防寒靴(長靴またはスノーブーツ)、飲み物(任意)

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

木村 巧Photographer

1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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