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CULTURE TRIP DEC 12,2018

【ニュートラソウル!】忙しさの合間にソウルの若者は優しい夢を見る

夢をつかめる街は、時々ちょっと忙しすぎる。癒されたいな、そう思ったら昔からある良いものに時々触れたくなるのが人情ってもの。新しい世代が古き良きものに触れて、そして古いけど新しいものに変えていく。それはきっとどこであっても理想の新陳代謝だ。


夢を追う世代が癒しを求めるニューレトロ

今回取材したアーティストたちみんなに等しく「あなたの目にはソウルの街はどう映っている?」と聞いてみた。

共通していた答えは、「とにかく忙しい街」ということ。

確かにソウルには24時間後には違うものが流行してしまっているようなめまぐるしさを感じる。

何人かはそれを「忙しくて、ちょっと疲れる」と感じていたし
何人かは「(流行に流されず)自分で欲しいものを選べるなら、夢をつかめるドリームシティ」と感じていたのが興味深かった。

「ここは夢がつかめる街である」
若い世代がそうきっぱりと言い切れるというのは非常に頼もしい。

さて、そんな忙しいソウルだからこそ、今“癒し”の場にも注目が集まっているそうだ。前回紹介した漢江もそうだけれど、ソウルにはそれなりに「のんびり」できる場所も多数ある。

日本でも清澄白河など古い街をリノベーションしたエリアが注目されているけれど、ソウルでも同様にニューレトロ的なエリアリノベーションが盛んだ。

例えば古い工場を改築したカフェができたことで、一気に人気エリアになった聖水洞(ソンスドン)。こちらが注目されたのは少し前だけれど、今ものんびり街歩きしたい地元民&観光客に人気。
地震や台風などの自然災害が比較的少ない(特に日本と比べて)ソウルでは、古い煉瓦造りの建物がそのままがっしりと建っていることが多く、その味を生かしてリノベーションするお店が多い。それがとても懐かしくて新しい雰囲気をうまく醸し出している。
“ソウルのブルックリン”なんて呼ばれ方もなるほど納得。

01.少し小高い道路から見下ろしたソウルの街。平地はビルだらけですが、山の上の方は味のある建物が多かったです。
02.散歩していたら見つけた味のあるレンガ壁。青の配色が個性的でした。
03.ふと脇道に入ると、こういった昔の古い小道に出くわすことも。メインストーリーはほぼ綺麗に整備されているのでコントラストが面白い。

ソウルの中心街を歩くとまるで高層ビルしかないように見えるけれど、観光地や商業施設エリアから少し外れた街を歩くと、まだまだいい雰囲気の路地や家などを見ることができる。何気ない路地裏にある家やお店の外壁の色のチョイスなど、お隣の国なのにどこか日本とは違っていてなかなか素敵だ。

そして今最もホットな場所と言われているのがインタビューにも出てもらった亀スーパーのパクさんのお店がある益善洞(イクソンドン)。

昔ながらの韓屋(古民家)を改築したお店が次々とオープンし、朝から晩までひっきりなしに若者が訪れている。

時代により特徴は少しずつ違うそうだが、韓屋の特徴として瓦屋根が葺いてあり、板の間、土間などのシンプルな部屋づくりが特徴。
それがかえって“店”としてリノベーションしやすいのか、イクソンドンにはレストランからアクセサリーショップまで幅広いテナントが集結している。

イクソンドンはもともと城下町の一般市民が住むようなエリアだったので道と道の間も狭く、入り組んでいるそうだ。

したがって隣同士のお店との距離感も近い。ところどころ自然に崩れたような壁もあるがそれもまた味として生かしているお店があった。
一歩中に入ってしまえば、古き良き伝統的な雰囲気(お店は新しいけれど)なのに、ふと空を見上げると周りには高層ビルや新しい飲食ビルが立ち並んでいる。
都会の中のぽっかりオアシス。

まさにそんな雰囲気。

とはいえ夜はお客さんで細い路地がみっちり埋まっていたので平日のお昼前後の散策をおすすめ。

古い家とおしゃれな若者、の組み合わせがなんだか可愛い

そういえば日本でも数年前から若い女性中心に渋い飲み屋さんを開拓するブームや、下町散策ブームが起こっていますが、ここ韓国でも同様だそう。若い世代の人が”あえて”古くからある居酒屋や食堂を巡るブームが起きているそうだ。

レインボーパンケーキや巨大ソフトクリームとはまた違った意味の<インスタ映え>スポットにもなっているそう。もちろんそういう「ただ古い店巡りが流行っているから」行くって人も多いでしょうが、若い世代が最先端だけでなく「古き良き」を知ったことで、古いものがさらに「新しく生まれ変わる」世界を作っていくというのは、街にとっては理想の新陳代謝でもある。

ただしどこの国でもそうだけれど、「古き良き」の「古き」具合の残し方は非常に難しい。地震の多い日本では建物ごと変えてしまわざるを得ないことも多いし、そのまま残しておいたって「古臭い」だけでは人は集まらない。「古いものの良さ」を消化して理解して、そこに新しいものを加える手腕は必要なんである。

でもイクソンドンを今のように流行る前から支えていた人たちのように「古い街の価値」を理解している人がちゃんといたり、またそういった場所を「落ち着く」と感じる人がいる限りはきっと大丈夫なんだろう。

壊してしまうのは簡単だけど、価値あるまま存在させることは本当に難しい。
賑やかなイクソンドンを見る限り、それはとても上手に呼吸しているように感じた。

2018年の流行が、2019年にはムンチン(時代遅れ)になるかもしれないほどスピードと熱量のある街、ソウル。
頑張れば夢をつかめる。
でもその夢の合間に、公園や古い街並みの中でひと息つくこともできる。
そして何よりも、若者が<若者として楽しく存在していいよ>と肯定される仕組みがたくさんある。

なんだか今回は「ソウルの若者、いいなあ」。月並みだけどずっとそんなことをつぶやいていた。

PROFILE

松本 昇子エディター / ライター

愛知県出身。雑誌やカタログ、書籍、WEBサイトなどの編集、執筆、ときどきコピーライティングも手がける。

熊谷 直子Photographer

幼少期より写真を撮り始める。20歳で渡仏し、パリにて本格的に写真・芸術を学ぶ。2003年よりフリーランスフォトグラファーとして雑誌・広告などでポートレートや風景など多ジャンルにおいて活動し、個展での作品発表も精力的に行う。主な著書/二階堂ふみ写真集「月刊二階堂ふみ」、杉咲花1st写真集「ユートピア」、熊谷直子作品集「赤い河」

김세정 / キム セジョンEDITOR・COORDINATION

丁寧な暮らしが合言葉のカンナムOL。

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