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CULTURE TRIP MAY 23,2018

【踊れ!台湾】優しい台湾人。その秘密は「メイグワンシー」にある、かもしれない。

「台湾の人々は優しい」。一度でも台湾に旅行で訪れた人は皆そう感じる。そしてその優しさは帰国後も思い出すたびにじんわり心を温めてくれるし、また行きたくなる理由のひとつともなる。台湾人は優しい。それは何故なのか。いつしかその理由が知りたくなった。


台湾人の優しさは、なぜあんなにも自然なのか

台湾に旅行した人が皆口を揃えて言うのが、「台湾人は優しい!」という言葉。今回初めて台湾を訪れたというスタッフに帰国後感想を聞いたところ、彼の心に残った一番の思い出は、やはり「台湾人の優しさ」だったそうだ。

もちろん日本人も海外の方から「優しい」民族だと言われることが多いが、子供の頃から「親切に“しなくてはならない”」という厳格なルールを植え付けられている日本の優しさに対し、台湾の優しさはもっと自然体な雰囲気がある。
もちろん日本人だってナチュラルに親切な人は多いし、だからこそ他の国からは総じて「日本は優しい国」と言われていると思うけれど、例えば「なぜあなたは他人に優しくしますか?」と聞いたときに、多くの人は「困ってる人には優しくしないと“いけないから”」と答えがちではないだろうか。

台湾人の優しさのイメージを凝縮したようなごはん屋さんのおばちゃん。この笑顔を思い出すと今でも心が暖かくなる。

台湾ではどうか。例えば混んでいるお店に入ると先に座っていた常連客はこれ以上ないくらいぎゅうぎゅうに詰めて観光客のために席を空けてくれたり、道で地図を広げようものならすぐに“どうした?”と助けようとしてくれたり。台北は狭いエリアなのでどこも混雑しているが、それにイライラすることもなく通りづらそうな人がいたらさっと道をあけたり。文字にすれば普通のことに感じるかもしれないが、この一連の動作がとてもとても自然な感じがした。

同じように「なぜ優しくしますか?」と聞けば、台湾の場合は日本人よりもシンプルに、「だって困ってたから」という答えになる気がする。

台湾人はなぜ優しいか。現地の男の子に根掘り葉掘り。

「メイグワンシー的なマインドがあるからかなあ」。

このあと30分ほど「台湾人はなぜ優しいのか」と尋問されることになるアラン(左)。

今回の撮影で現地の協力隊隊長として頑張ってくれたアラン君に、なんで台湾人は優しいの!?と聞いたときのこと。住んでる人にとっては当たり前のことをしてるだけだから「優しい理由」を聞かれても…と頭を抱えるアラン君に、それでもしつこく(ごめんね)質問攻めした時の答えである。ちなみにこの一言を聞き出すまでに、“子供の頃から人に優しくなるような教育されているのか?”とか“近くに寺廟がある暮らしがそうさせるのか?”などと的外れな質問をいっぱいしたのだが、返ってきた言葉は意外なものだった。

「確かに台湾人は優しいね、って言われるけど、優しくしないといけないルールがあるから優しくしてるわけではなくて…。どっちかというと本当に何も気にしてない部分が多いんですよ(笑)。例えば自分がお店でゴミとかそのままにしちゃうから、自分の店でお客さんがゴミを置いて帰っても気にしない、とか。“自分も気にしないから相手の行動も気にしないよ”的な感じですね。お店の人が写真を気軽に撮らせてくれたりするのも、(それで何か悪いことが起きるわけではないなら)別にいいよーって。親切にしたいのも、やりたいからやる。ちょっとくらいの迷惑も、お互い様だし自分が特に気にしなかったら、「気にしない」と伝える。メイグワンシー、メイグワンシーって感じですね」

メイグワンシー。台湾でよく聞く言葉。
漢字で書くと「没(滅)関係」と書くけれど、割と幅広い意味を持つ言葉で、ざっくり日本語にするなら “関係ないよ”とか“気にしないで”とか“問題ないよ”的な感じ。
例えば「ごめんね」にも「メイグワンシー(きにしないで)」。「これでいいですか?」にも「メイグワンシー(OKだよ)」。「写真撮ってもいい?」にも「メイグワンシー(いいですよ)」などなど。ちなみに自分が遅刻したりした時や失敗した時などちょっとごまかしたい時になんかも「メイグワンシー!(まあ、気にすんな!)」的に使える。覚えておくととても便利な言葉の一つである。

もちろん「なぜ台湾人は優しいのか」の、それがたった一つの正解ではないけれど、私はこれを聞いて腑に落ちたのだ。

日本では「あらかじめ人に迷惑をかけないように」と気をつける文化がある。例えばインドは真逆で、「自分も迷惑をかけるから、人の迷惑も受け入れなさい」と教わるとか。感覚的に台湾はその真ん中辺の感覚というべきか。それぞれがそれぞれの範囲の中で、迷惑を受け入れている感じ。ただしもちろんこのメイグワンシーには悪い面もあり、最後の例文のように相手が悪い時でも「メイグワンシー」ひとつでごまかされることもあるってこと。

コンビニにさも当たり前のような顔で入る犬2匹。お店の人も特に店内を荒らされないようならむげに追い払ったりしなかった。これも台湾の「メイグワンシー」的な出来事の一つ。

日本の、それも都会に感じる息苦しさの理由の一つに、この「メイグワンシー」精神が減っているせいなのかも、とも思った。と言っても私たち日本人がなくした精神、というわけではない。逆に人に気を使いすぎて、「気軽にいいよと言ったらむしろ迷惑かも」的な方に少し転びがちだなあ、と思うのだ。例えば「写真は(個人的にはいいけど…会社や上司に許可を取らないと最終的に撮ったお客さんがきっと怒られるから)ダメ」とか、(  )の中の言い訳的なものが長すぎるし、考えすぎるきらいがある。

席をゆずる、という行為もそうだ。優先席など「体の不自由な人やお年寄り」のための席で、席をゆずるのは問題なくても、普通の席で人に譲る時に少し躊躇してしまうのはなぜか。「ここで譲ったらむしろ気を悪くするのでは?」なんてちょっと思ってしまうこともある。親切にしたいからするのではなく、親切にしなくてはいけないからする。そっち方面に行ってしまうと、お互いに気持ちはちょっと苦しい。

台湾のタクシーのおじさんも優しい人が多かった。こちらのつたない中国語や、漢字での筆談も一生懸命応じてくれる。

台湾の人は実にあっけらかんと席をゆずる。台湾ではお年寄りだけでなく小さな子供にも席をゆずるのだが、「あ、どうぞー」的な感じ。

そしてここでも“謝謝(シェシェ・ありがとう)”、“不會(プーフイ=どういたしまして)”という簡潔なやりとり。

日本人感覚でいうとこういう時についつい丁寧になんどもありがとうと伝えてしまいたくなるが、ここではこの気軽な感じが良いのだ。でなければこの心地良いリズムがきっと崩れてしまう。台湾に長く住む日本人も、日本語の「ありがとう、どういたしまして」より台湾の「シェシェ、プーフイ」の方が気楽な感じがする、と言っていた。

余談だが、帰国後この台湾式を試してみた。

いつもは席をゆずる時など「よろしければ変わりましょうか」という聞き方をして、断られることが多かった。

そこで前置きなし、「あ、どうぞ」とシンプルに声をかけたところ、笑顔で座ってもらえる率が上がったように思う。勝手に“台湾式”と呼んでるが、要は日本人らしい遠慮がちな前置きを省いただけである。自分の中にも“よろしければ”の言葉の中に“よろしければ(立ちっぱなしではお身体辛そう出し、なにより私が座ってると感じ悪いので)”という(  )内の言い訳めいた気持ちがあり、多分それが漏れていたから今まで遠慮されていたのかな、と思った。

それともう一つ、今回様々な人に話を聞いたがその誰もが(言い方は様々だったけれど)「自分の好きなもの、気持ちをシェアする」ことを大事にしていたのにも興味を惹かれた。例えば台湾に今までなかったお店を作って、同じカルチャーが好きな人々に「場」をシェアする。人気DJは自らが経験したことやファッション、それに音楽を乗せて皆にシェアする。もっと身近に、美味しいご飯を友達にシェアする。もちろん台湾人に限らず、どこの国の人もそういった気持ちは持っているんだけれど、台湾の人々はそうやって“誰かを思ってシェア”することを、とてもまっすぐ、素直に伝えてくる。その素直さも、台湾人の優しさの一つなのかもしれない。

もっと踊れ、台湾!旅人をも巻き込んで

最近こんなニュースが流れてきた。
台湾では2030年までにストローやコップ、レジ袋などの使い捨てプラスチック製品を全面禁止にするそうだ。すでにコンビニやスーパーではレジ袋は有料になってるが、それを拡大する。
台湾はこう言った行政のスピードも速い。例えば自転車がブームになればメイン道路にいち早く専用レーンを作ったり(ちなみに残念ながらこの政策は台湾にはなじまず、ほぼ消滅しかかってますが)と、一度“いい”と思ってからの速度が速い。もちろん国土の広さの違いもあるので、日本と比べるものでもないけれど。ちなみに台湾の選挙は日本とは比べ物にならないほど“熱い”。以前選挙中に行ったことがあるが、街中ミュージックフェスかと思うくらいの熱気だった。

台湾ではテイクアウトにビニール袋を使うことが多いので、そういうものはどんな風に変わるんだろう、と思いつつも国を挙げてのエコ政策は素晴らしいことだと思うし、これも「良いものは素直にシェア」するマインドの一つだと思う。

もちろん台湾でも悪い面はあるし(まだまだゴミをポイ捨てする人が多いとか、交通マナーが悪いなど)、旅人としては良い面も悪い面も、片鱗しかわからない。それでも何度も台湾を目指す人々が多いのは清濁飲み込んでなお楽しい熱気が感じられるからであろう。

01.雨降る日に出会った台湾美女。寒い中にもかかわらず撮影させてくれた。このまっすぐな笑顔も台湾らしいと思う。 
04.台湾でよく見る光景に、折り畳み傘を店の前に立たせたまま放置、というのがある。日本では傘はよく盗まれてしまうが台湾ではこんな風に放置していても割と平気だ。また日本ではこんな置き方をするとお店の美観を損ねる…なんて言われがちだが台湾人にとっては「メイグワンシー」なのだ。
05.ほとんどの人が折り畳み傘を使うからか、傘袋は長いものと短いもの両方あるところが多かった。これもうれしい優しさ。

これからも台湾は面白く発展するだろうし、旅人もまたそれに惹かれ続けていく。台湾が踊れば、旅人もまた踊る。

だから台湾よ、もっともっと踊っておくれ。そして私達をどんどんと巻き込んで、もっともっと楽しく躍らせておくれと願う。

PROFILE

Naoko Kumagai
Photographer

幼少期より写真を撮り始める。20歳で渡仏し、パリにて本格的に写真・芸術を学ぶ。2003年よりフリーランスフォトグラファーとして雑誌・広告などでポートレートや風景など多ジャンルにおいて活動し、個展での作品発表も精力的に行う。主な著書/二階堂ふみ写真集「月刊二階堂ふみ」、杉咲花1st写真集「ユートピア」、熊谷直子作品集「赤い河」 

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

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