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FASHION DEC 03,2020

FREITAG F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition
One by One、グリッドと余白の美。
アーティスト川上シュン氏 インタビュー


企業名や柄が描かれたままのトラックの幌を切り出してバッグとしてリユースする。だから同じ形であるにもかかわらず、一つとして同じものがない。

そんなユニークなコンセプトを持つFREITAG(フライターグ)。
今回はそのユニークさにアーティストの視点を重ね、さらにユニークなプロダクトとなった「F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition」が発売される。

今回タッグを組んでいただいたのは、アーバンリサーチでも数々のヴィジュアル・コミュニケーションを手がけたartless inc. 代表の川上シュン氏。川上氏は、グラフィックから建築空間まで様々な領域のアート作品やブランディングを手がけており、現在も世界中で多岐にわたる活動をしている。
川上氏の代表的作品でもあるモノクロームの松とタイポグラフィーを配置した、和と洋が絶妙に融合するスペシャルプロダクト「F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition」。この特集ではそのデザインの解体新書となるべく、川上氏自らクリエイティブについて語っていただいた。

川上シュン / shun kawakami

artless Inc. 代表/ブランディングディレクター/アートディレクター/アーティスト
ブランディング・エージェンシー artless Inc. 代表。独学でデザインとアートを学び、現在、東京と京都を拠点に、デザインとビジネス、そして、グローバルとローカルという視点を共存させ、グラフィックから建築空間まで、すべてのデザイン領域における包括的なアートディレクションによるブランディングやコンサルティングを行っている。また、アーティストとしての活動も行っており、「日本独自の美的理念」へ回帰しながらも「デザインとアート」そして「西洋と東洋」を融合的に捉え、独自の視点と価値観でのグラフィックアート作品やインスタレーションの制作と発表を行う。受賞歴は、NY ADC、D&AD、ONE SHOW、RED DOT、IF Design Award、DFA: Design for Asia Awards、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル/金賞など、多数の国際アワードを受賞している。
関連URL:artless Inc. / branding agency www.artless.co.jp
Instagram @ shunkawakami

FREITAG × URBAN RESEARCH × shun kawakami

写真右から 川上シュン氏、URBAN RESEARCH 齊藤悟、対談メンバーとしてリモートでURBAN RESEARCHメンズバイヤー 佐藤祐輔が参加しました。

URBAN RESEARCH 佐藤祐輔メンズバイヤー(以下、佐藤) 今回の「F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition」プロジェクトに至った経緯をまず説明しますと、前回のCAKE BAGの販売同様にフライターグとアーバンリサーチが日本市場においてより強いパートナーシップを結び、共に成長していきたいという過程から生まれたものなんです。従来のコラボレーションや限定商品とは違い、アートを絡めたコラボレーションという事もあり、まずどういったアーティストにお願いするのがいいのかいう点に関して非常に悩みました。日本のアーティストが良いのか、スイスのアーティストが良いのか、それともアジアの新しいアーティストが良いのかなど。
そんな時に弊社の斎藤に今回のプロジェクトを相談し、川上シュンさんのお名前が挙がりました。

URBAN RESEARCH 齊藤悟(以下、齊藤) 僕とシュンさんの関係は結構長いんです。きっかけは、昔プラスエイティーワンを読んでいて、単純にこの本のトーンやマナーがかっこいいな、と思って「誰がディレクションしてるのかな?」とネームを見たら“shun kawakami”とあって。こういうのかっこいいな、この人と何か一緒に作りたいなと思ったのがシュンさんと出会ったきっかけなんです。

右:川上氏が装丁を担当したヴィジュアルマガジン「プラスエイティーワン」
左:川上氏のアート活動をまとめたブック

今回アーバンリサーチ社がフライターグの「F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition」をやるにあたって、フライターグのストーリーやスイスのプロダクト、タイポグラフィーにマッチするアーティストは誰だろう、となった時にシュンさんをすぐ思い浮かべたんです。シュン氏ならデザイナーでもありかつアーティストで、プリントのデザインも手がけているのを知っていたので、きっとユニークなアイデアの作品ができるに違いないと信じて連絡しました。

artless inc. 代表 川上シュン氏(以下、川上) 僕、結構フライターグのものを持っているんですよ。パスケースとか財布とか。昔ロンドンに住んでいた時から知っていたので、アーバンリサーチが日本で大きく取り扱いを開始した当時に“日本についにきた!”と思ったのを覚えています。今でこそ認知された“サステナビリティ”というマインドも、フライターグは早すぎるほど早く取り入れていましたよね。
僕は常に“視点”を意識しているんですが、フライターグを知ったときに、幌の使い方を変えたところがすごく新しいと思いました。幌がいいんじゃなくて、それをリユースするという視点がいいなって思ったんです。普通の人は考えない美の発見。そこから好きになりました。

齊藤 僕は “一つとして同じものがない=デザインに終わりがない”の部分にグッと来ました。結果、数え切れないほど持っているコレクターです(笑)。ヨーロッパではまだまだトラックの幌は現役で、新品も作られているそうなんですが、以前気になってフライターグ兄弟に“幌がなくなったらどうするんですか”って聞いたことがあるんです。そしたら「君が生きている間くらいの分はあるから大丈夫」って言われたのでひとまず安心しています(笑)。

佐藤 以前、チューリッヒにあるフライターグに伺ったことがあるんですが、フラーグ兄弟をはじめ、働いている方々がとても素敵でした。バイヤー目線だと、フライターグの商品が作られるコンセプトやプロセスなど、“フライターグ”クリエイティブマインドをしっかりと理解した上で世界中のディーラーがお客様にストーリーテリングし、共感を得ている事。つまり“フライターグコミュニティ”に非常に魅力を感じています。このコミュニティの輪はどんどん広がっていて、特にアジアでの広がりは凄い勢いですね。
個人的にはフライターグはモノの変化だけではなくクリエイティブの変化というのが一番魅了されているところです。

スイスグラフィックの世界

川上 今回使用したタイポグラフィーは “アクチデンツ・グロテスク”という書体なんです。これはスイスの空港でも使っているもの。このタイポグラフィーが見たいがために、ヨーロッパに行くときにわざわざチューリッヒ空港でトランジットすることもあるんです。

ヘルベチカの元ネタとなったことでも知られているんですが、ヘルベチカと比べて男らしい無骨な書体が特徴。
僕はグラフィックを独学で学んだんですが、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンなどスイス系のデザイナーが好きで、その時にグリッドや書体などを勉強しました。

今回小文字にフォーカスしたのは全部小文字に統一することでよりいろんなものを削ぎ落としたかったから。これはバウハウスの思想の一つで、もちろん時代によって変わることはあるけれど、“より効率化するため”のその思想が好きだったんです。

日本に在住し、大塚製薬の「ポカリスエット」など様々なロゴデザインも手がけたシュミット氏。“日本に憧れつつも来日が叶わなかった”という師の意思を継ぐべく来日し、タイポグラファー、グラフィックデザイナーとして活躍した。

僕は自身をバウハウスとスイスタイポグラフィーを継承者だと思っています。
以前にスイスタイポグラフィーを継承しているヘルムート・シュミット氏に会いに行って、僕のポートフォリオを見てもらったことがあるんです。彼の本を見て勉強していたこともあって、彼に“合格”と言われたからには勝手に継承者に名を連ねていると思っています(笑)。

齊藤 僕も自分でグラフィックをすることがあるんですが、やはりスイスのデザインは特に好きです。僕の場合は独創性には自信がないので、規則性な美しさに惹かれるというのもあるかも。誰が見ても、どの国の人が見てもわかりやすい。それがスイスデザインの特徴で、かつシンプルだけどシンプルじゃないというところに惹かれます。

川上 僕も整然としているものが好きですね。この前改めて20代の時のデザインを見直したんですが、今とデザインがほとんど変わっていないんです。感受性の高い時代に出会えたのがスイスデザインで良かったと思っています。
スイスは基礎を大事にする。“感覚的”って実はすごいロジカルなんですよ。
そうそう、スイスのパスポートを見たことがありますか? すごくかっこいいんです。

齊藤・佐藤 (画像検索して)おおー!かっこいい!!

川上 パスポートに書かれた文字の、右寄せグリッドがいいんですよ!
スイスは基本トリリンガル表記なんですよね。英語、フランス語、ドイツ語かな。この3ヶ国語併記ありきのデザインをする上で、秩序を持たせるためにグリッドがあるんです。

実は今回の「F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition」でも文字を右寄せにしています。
それと“a+ur/”の+も、プラスの意味だけでなくスイス国旗の十字に見えるんじゃないかという気持ちも。

スイスと日本。つながる“わびさび”

川上 実は最初はタイポグラフィーだけのデザインも考えていたんです。でもフライターグと僕のフィロソフィーのいくつかの共通項を考えたときに、アート作品的なものも面白いかと。
僕のアーティストとしての作品の一つに墨を散らすというのがあります。
これはフライターグの、いい意味での“汚し・汚れ”とマッチする部分があると思いました。散らすことで空気感をつくるのと、幌のダメージや汚れをリユースする美しさ。いうなればヨーロッパ的なわびさびと、日本的なわびさび。

それと僕は作品を作るときには“紙”から特注するんです。印刷っていわゆるコピーで同じものが作れてしまうけれど、僕の作品は例えば金沢の職人さんに1枚1枚手で作ってもらったものを使い、“1枚として同じものがない”というのも哲学にしています。紙だけでなく木製の作品もあるのですが、それも節や色味など同じものは一枚もないのが特徴。つまりOne by Oneの作品になるんです。

東急プラザ渋谷fukurasに常設展示されている川上シュン氏のアート。
[art installation@東急プラザ渋谷 fukuras]

アーティストの時は複製できないものが作りたい。フライターグの幌から生地を切り出す=同じものが1枚もない、というところにも共通項があるし、僕の作品をフライターグで作ることができるなと感じたので最終的に今回の作品になりました。

齊藤 これって…川上さんの1点もの作品と考えた場合、かなり価格としてはお手頃ですよね!

川上 僕が言うのもなんですが、お買い得だと思います(笑)。

FREITAG と“wabi+sabi” edition解体新書

川上 今回のタイポグラフィーは“見えないグリッド”を意識しています。
構造主義というんですけど、線の距離を一定にすることで美しくなるんですよ。それをグラフィックに持ち込んでいるのがスイスデザインの特徴とも言えます。

見えない線を引いてデザインしているので時には無理をすることにもなるけれど、それでも“トラストユアグリッド”という教えを信じ、その見えない線を信じきればそれがデザイン的になるんです。今回のデザインでいうと、下面に配置した文字は全て余白を均等にとっています。

よく日本の絵画はグリッドがないと言われることがあるけれど、そうではなくて“余白”という概念を大事にしているんです。スイスタイポグラフィーも目に見えない“余白”があり、これは二国の似ている部分でもあります。

安土桃山時代の長谷川等伯や狩野永徳など、彼らの絵を数値化すると確かにグリッドがあるんです。日本でも昔から西洋の黄金比ではなく、独自の白銀比(大和比)と言うのがある。これは縦書き文化っていうのもありますけど。
他にも畳はまさにグリッドだし、着物も直線だけでできている。
ルールに沿ったデザインという部分も共通項がありますよね。

齊藤 このデザインされた松の元となった写真はシュンさんが撮影したものなんですよね。

川上 はい。皇居の松が特に好きで、今までに何回も撮影しました。それをグラフィックに落とし込んでいます。
松部分のデザインでいうと、今回は“描かれていないところ”を大事にしました。松の周りに配置した鶴や細かな点。これを少しずつ動かしてデザインの完成度を高めていったら、気がついたら夜中の3時でした。でもこの1ミリ2ミリの誤差がとても大事。
一見必要のないインフォメーションを入れたくなるんです。石を置きたくなるというか、それが余白をデザインするという感じです。

佐藤 それは…枯山水のようですね!

川上 まさにそうなんです。枯山水も石がなければ景色が生まれない。石があるからリズムや動きが生まれる。
もちろんこの作品には否定的な評価もあるかもしれないけれどここから何か生まれることがあるんじゃないか。そう思っています。

齊藤 しかしこのシルクスクリーンの、松の細かいけぶった感じなどが想像以上に綺麗に仕上がったのには感動しました。今回シルクスクリーンはチューリッヒの工房が手がけたそうなのですが…職人さんの熟練の技に感動です!

The F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” Edition print on tarp in Zurich Atelier.
スイス チューリッヒにあるシルクスクリーン工房での作業風景。
(制作工程の詳しい内容はこちらの記事でご紹介しています)

川上 今回シルクスクリーンでギリギリ刷ることのできる8Pointの文字を使用しているのですが、本当に綺麗にプリントされていますよね。あと、タープのカラーが様々なのがやはり面白い。白地や青地のイメージはあったけど黄色や反転を使った小豆色を見たときに“こうくるか”って思いました。僕の作品では基本“反転”はやらないんですが、フライターグは“コントロールしないのが美学”だと思っているので今回はそれに乗るのもいいかなと。仕上がったものを見たら、まさに“エディション1/1”でした。

齊藤 個人的な感想ですが、例えば複数の色を購入して壁にアート作品として並べてもいいなと思いました。そしてそのアートピースをバッグとして持ち出してスーパーの帰りにネギや大根を入れてもいいですよね。
フライターグ自体“フリーウェイバッグ”、つまり高速道路と自由=使い方を定義しないというマインドがあるんです。自分で好きに使って欲しいしここから感じるものを自由に感じて欲しい。このバッグは10年後くらいに、1000人いたら1000通りの作品になっているまさにフリーウェイバッグだと思います。

川上 それはいい考えですね。それを聞いて思い出したんですが、以前有名なスケートブランドとコラボレーションしたときに、ほとんどの人はそれをアート作品として飾っていたんです。でもある日公園でそのスケートボードでガンガン遊んでいたキッズを見かけて。思わず“それ僕のデザインなんだよ”と話しかけたら“マジですか! こんなに使い込んじゃってすみません!”って言われたんですが、僕はその削れて行く様もいいなと思いました。

齊藤 今回の「F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition」もシルクスクリーンだから使い込めばそれなりにプリントが落ちてきたりすると思いますが、またそれもいいですよね。アートと思えばアート、バッグと思う人はバッグ。まさに感性とユーモアがリンクする作品だと思います。

佐藤 アーバンリサーチはフライターグをお取り扱いさせていただき、15年以上になると思いますが、おかげさまでアーバンリサーチのお客様やフライターグファンの方々には非常に高い認知度をいただいています。今回の「F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition」に関しては、そういったお客様にもちろん喜んでいただきたいプロジェクトですし、ARTという新たなベクトル通して、まだフライターグを買われた事のない方々にも広く知っていただくキッカケになれば良いなと考えています。バッグとして愛用したり、インテリアとして収集したり。今回のプロジェクトはお客様と新しいコミュニケーションができる事が最大の意義だと思います。


F52 MIAMI VICE “wabi+sabi” edition
価格:¥19,800 (tax incl.)
サイズ:330 × 160 × 400 mm (l × w × h)、27L
※1000個限定

【発売日】
店舗:2020年12月11日(金)
> 販売方法については、こちらをご確認ください。

オンラインストア:2020年12月11日(金) 正午12:00頃予定
※ システムの都合上、商品の公開時間が多少遅れる場合がございます。

【販売店舗】
アーバンリサーチ 札幌ステラプレイス店 / エスパル仙台店 / ルミネ新宿 / 静岡パルコ店 / 名古屋パルコ店 / ルクア イーレ店 / 堀江店 / KYOTO / 三宮店 / 広島パルコ店 / アミュプラザ博多店 / アミュプラザ鹿児島店

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