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LIFE STYLE&BEAUTY AUG 02,2021

<SDR通信Plus⑤>“commpost”で繋がるヒト、そしてミライ – 河島製作所 編 –


株式会社アーバンリサーチ(以下、UR社)は、現在SDGs(持続可能な開発目標)に関連する取り組みを積極的に推進しております。その取り組み内容の紹介の場として始まった社内報<SDR通信>。
本来ならお見せすることのない社内報ですが、その中から皆様に広く知っていただきたい内容を、メディアサイト独自の目線を加えた記事<SDR通信Plus>として不定期連載しています。

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※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえで取材を行っております。

アパレル業界にはびこる問題の中に、「廃棄衣料問題」があることはこれまでにも述べてきました。汚損や不良品のみならずかすかにファンデーションがついたものでさえも、その瞬間から店頭に出すことはできません。その末路はご推察通り焼却となるわけですが、どうにかしなければならないとは分かっていても効果的な手段を見出せず解決を先送りにしてきたのが現状。UR社では、そこへ一石を投じるべくサステナブルマテリアル・プロダクトブランド「commpost」を立ち上げました(ブランド立ち上げ時のお話はこちら)。その中で、多大な功績を残した企業があります。それが、2年前から「commpost」のスマートフォンケースを製作している河島製作所。

今回は、プロジェクトに携わるきっかけや製作までの苦労、そして、プロジェクトを通して見えてきた新たな可能性など、同社の代表取締役を務める河島直也さんと、企画の立案、製作、広報などあらゆる部署に関わる同社の中心人物、帖地大輔さんにお話を伺いました。

「やってみなけりゃ分からんからね(笑)」

「大阪のバラエティ番組で、社長が出演していた映像をご覧になり声を掛けていただいたみたいですね(笑)」

UR社との初遭遇を帖地さんは楽しそうに回顧する。たまたま目にしたテレビ番組をきっかけに関係が始まったとは、なんとも稀有な縁である。とはいえ、持ちかけられた相談は思っている以上にシビアなものだった。

「“混ぜ物”、いわゆる、素材に性質の異なるモノをミックスした素材の成形は、成形メーカーからすると「うっ」と躊躇してしまうところではあるんです。なにせ、溶かして金型に流し込むのですが、金型にどう影響が出るかは不透明。成形機自体に残留物が残り故障の原因にもなりかねないなど、やはりリスクは伴いますから。ただ、UR社さんは我々も存じ上げている有名なアパレル企業。う〜ん…、どうしよう、というのがリアルな感じでしたね(笑)」

おそらく、一般的な成形メーカーであれば断りを入れているでしょうと帖地さん。成形業界はどこか閉鎖的なところがあり、昔から繋がりのあるクライアントとしか仕事をしないのが通例。基本的に飛び込み案件は対応せず、しかも、廃棄衣料を織り交ぜた成形技術の伴う“変り種”となればなおさらである。ただ、河島社長は言う。

「やってみなけりゃ分からんからね。それにね、なんだか面白そうでしょ?(笑)」
社長の笑い声に帖地さんも賛同する。

「ウチは、まず一回やってみるという気質が強いんですよ。それに、社長も話されたように面白そうだったことがやはり大きい。実際に製品が出来上がり、街へと浸透していく様子を想像するとなんだか楽しそうですし、そんなチャンスは滅多にないなと思いましたから」

果たしてカタチを成すことはできるのか? からのスタート

かくして、廃棄衣料を織り交ぜた樹脂のスマートフォンケース製作が始まった。先述した通り、やはり完成までに超えなければならないハードルは思いのほか多い。もっとも頭を悩ませたのは“混ぜ物”をどうカタチにしていくか。それは、業界に携わって36年、技術者として数多の商品に携わってきた大ベテランの河島社長ですら不安にさせたほどである。

「だいたいほかのモノを練り込むにしても数パーセントかそれ以下なんですよ。多く入れるほど成形は難しくなるからね。ところが、聞いたらUR社さんは30%入れると。「えっ!?」と思いましたよね。でもね、昔からそうなんですけどとりあえずやるんですよ、ウチは。そこから見えてくることもある。まあ…やっぱり難しかったけどね(笑)」

帖地さんも、出来上がった時には思わずガッツポーズをしたという。その言葉に、壁の高さをより実感させられる。

「まずはそもそも違う形へ成形できるのか、というところから始まりましたからね。たとえできる、となっても、今度は金型への影響も危惧される」

「金型は各材質に合わせて作られます。通常、スマートフォンケースはポリカーボネートという樹脂を使うことが多いので、ポリカーボネートの樹脂にあった金型が必要なんです。それに樹脂は成形後に縮むんですよ、ギューって。だから、成形してからもしっかりスマホにハマるのかも正直不安でした。担当者の方にも、やってみるけど(スマートフォンに)ハマらない可能性がありますよ、と念押ししてスタートしました」

UR社が持ち寄った素材は、ポリプロピレンという樹脂に繊維を30%混ぜて構成されている。ポリカーボネートのみだと収縮率は約3/1000。一方、UR社の素材はおおよそ16/1000の収縮率予想。そのため、帖地さんは当初、iPhoneにはハマらないと考えていた。しかし、試作を進めていくうちにあることに気づく。

「繊維が30%入ることでうまくその収縮を邪魔するんですよね。最初からそこまで読めたらよかったんですけど、こればっかりはやってみないと分からない」

ただ、成形へのおぼろげな道筋ができたからといって、そう物事がトントン拍子に運ぶとは限らない。

「樹脂自体もすごい特殊で、事前になんらか手を加えないと成形できない。スマホケースは外観がすごく大切になってくるので、きれいに仕上げるためには技術の面で多々調整するところはありましたね」

知識と経験、そして自社一貫生産の強み

ほかにも、さまざまなハードルが行く手を阻む。樹脂自体は製造ロットごとに色が違い、試作段階で一週間も経たないうちにプリントがはげるという問題もおこった。でもその都度、迅速な対応、的確な判断、効果的な解決策で難題を解決していった。

「きっちり同じものを同じ精度、寸法、色で供給するのが成型の基本なので、同じものができない今回の素材に関しては正直戸惑いもありました。ただ、それも製品のウリとなりましたし、プリント問題もなんとかクリアできましたね」

「剥がれの要因は、生地の中に入っている繊維から油分が漏れ出し、その油分がインクの乖離を促してしまうというもの。なので、インクジェットプリンターで印刷するんですけど、印刷する前に溶剤で処理し、クリアの塗装塗料でならして印刷、コーティングすることでプリントの剥がれに対応しました。だから、初期ロットの製品といまの製品だったら、光沢や高級感が全然違います」

まさに災い転じて福となす、といったところか。ではなぜ、そのような迅速な対応をとり、コストパフォーマンスにおいても差別化を図れるのか。その秘密は、河島製作所の強みにあると帖地さんは語る。

「業界では、基本的に成形メーカーは成形するだけで、金型は金型メーカーが作る。もう完全分業制ですね。ただ、うちは自社内で両方やっている。型を作って自分たちで成形。それで何かトラブルがあっても金型を自社内でメンテナンスできる。だから、タイムラグが少なく、金型メーカーを挟まないことでコストダウンも実現しています」

今回の取り組みでいっそう増したSDGsへの意識

そして、ここに廃棄衣料練り込み済みの樹脂で作ったスマートフォンケースが完成。それもこれも、河島製作所の技術力と挑戦心の賜物である。ただ、今回のプロジェクトを通して河島製作所でも意識の変化が生まれたとか。

「これまでにも、バイオ素材を使って“脱プラ”“減プラ”への取り組みは続けていましたが、その意識はいっそう強くなりました」

「ウチみたいな零細企業でも社会に貢献できる何かをしたいという思いは強まっています。その意味でも、まずはなんでもやってやろうという気概は顕著になってきました。こちらとしてもいいきっかけになったと思います。SDGsの活動は、新聞やテレビで見かけるぐらいで、なかなか本気でやっているところと出会う機会がなかったんです。ですので、これを機に僕らも一生懸命に取り組もうと考えています」

そして、今回の成功により、今後の可能性が大いに広がったと語気を強める。

「この成功から、さまざまな可能性が広がったのは間違いありません。今回はスマートフォンケースでしたが、応用すれば、シューホーン、おしりふきの開口部パーツなど、ホームグッズにも転用できますよね。フックやハンガーといった店舗什器にも応用できる。まさに可能性は無限です」

難しい、どこにもできない。そんな案件を、面白そうと捉え取り組むところはやはり、普通の成形メーカーとはひと味もふた味も違う。この成功体験を、やがてUR社のみならず、ファッション業界全体が共有すれば、暗い影を落としていた問題に一筋の光明が差すにちがいない。それはまだまだ小さい一歩かもしれないが、明るい未来へと続く大きな一歩であると信じている。

創業36年目を迎える東大阪の老舗成形メーカーは、新たな成形機を導入しながら銀イオンやレモンユーカリなど“混ぜ物”の成形において豊富な実績を誇る。金型まで作れる強みは自社製品の開発にも活かされ、これまでにさまざまな「専用クリアケース」や「オリジナルの孫の手」などを発表。7月にはドラえもんをデザインソースとした抗菌スティックをリリースしたほか、ガジェット系やスマートフォンアクセサリー、フックなどの什器類も得意とする。

『河島製作所』
大阪府東大阪市高井田中4-6-24
TEL:06-6789-5656
HP:www.kawashimass.com

edit & text/Kikuchi Ryo

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