<SDR通信Plus⑥>世界中の災害から人々を救う「きっかけ」を作ろう。“BOSAI FASHION LABO”が目指す未来。
株式会社アーバンリサーチ(以下、UR社)は、SDGs(持続可能な開発目標)に関連する取り組みを積極的に推進しております。その取り組み内容を紹介するために始まった社内報<SDR通信>。本来ならお見せすることのない社内報ですが、その中から皆様に広く知っていただきたい内容を、メディアサイト独自の目線を加えた記事<SDR通信Plus>として不定期連載しています。
災害大国と言われ、これまで数多くの災害に見舞われてきた日本。地震、津波、火山噴火、台風、洪水、土砂災害、雪害など、さまざまな種類の自然災害が発生してきました。気候変動の影響により、気象災害は頻度や被害規模も年々増加しているといわれています。
本日9月1日は“防災の日”。UR社は、大阪府が主催する「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」と協働し、当プロジェクト防災班ユースメンバーとともに、新たなプロジェクト「BOSAI FASHION LABO」を立ち上げます。
プロジェクトテーマは「防災×ファッション」。ファッションの力で災害時と日常をシームレスにつなぐファッションアイテムを発信し、防災意識向上と、レジリエント(強じん)で持続可能な社会の形成を目指します。
今回は、大阪府環境農林水産部エネルギー政策課の興津 良介さん、「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」防災班のメンバーでもあり、本プロジェクトの協力団体である大阪防災プロジェクトで防災啓発活動に励む渡部 桂太朗さん、UR社の川瀬 晃子にプロジェクトに携わるまでの経緯や今後の展望はもちろん、日本における災害の現状や防災班ユースメンバーの思いについてお話を伺いました。
※撮影時のみマスクを外しております。会話中はスタッフ全員がマスクを着用し、一定の距離を空けるなどコロナウイルス感染拡大防止対策を施したうえでインタビューを行っております。
日本における災害の現状
— 今回のプロジェクトについて伺う前に、日本における災害の現状についてお聞かせください。
渡部 桂太朗さん(以下、渡部) 日本は、昔から地震や火山噴火、土砂災害、高潮などのさまざまな災害に見舞われています。例えば、地球の表面はプレートという十数枚の岩盤に覆われてできているのですが、日本列島は4つのプレートの上に位置する島国なので、地震がとても多いです。世界で起こる大規模地震の約2割は日本で起こっているともいわれています。そして、こういったプレートがせめぎ合っている場所ではマグマが形成されやすく、火山として地表に現れます。そのため活火山の数としても世界にある活火山の1割は日本にあるといわれています。
日本は四季があるなど季節豊かな島国ですが、気象的な側面では、時期によって梅雨や台風なども多く、大雨、洪水、高潮などの風水害の被害もよく起こっています。
— 東日本大震災や熊本地震、そしてここ数年の台風による被害など、確かに日本は災害が多い印象です。今後もこういった災害は増えていくのでしょうか。
渡部 大地震の例としては、南海トラフ地震の発生が予想されています。向こう30年間での発生確率は70〜80%と言われています。
想定される被害の大きさは、最大で死者数23万1000人 *1 と想定されています。東日本大震災での死者数が現時点で約1万6千人なので、それと比べても非常に大きな被害が出ると考えられます。
*1 内閣府政策統括官(防災担当)「南海トラフ巨大地震の被害想定について (建物被害・人的被害)」(2019)
— そのような大きな災害が割とすぐ近くまで迫っているんですね。地震以外の災害ですといかがでしょうか。
渡部 最近も頻度が高くなっていますが、風水害の発生率も増えていくと思います。仮に日本で平均気温が2度上昇した場合、降雨量が1.1倍。洪水の発生頻度は約2倍にもなると試算されています *2。
例えば台風。気候変動との関係性があるといった意見もあるため、気温上昇やそれによる大気中の水蒸気量の増加によって、台風の発生頻度や威力が大きくなっていく可能性があります。このまま平均気温が上がっていくにしたがって災害も増えていくと思われます。
*2 国土交通省 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会「気候変動を踏まえた治水計画のあり方 提言」(2019)
大阪府民の防災意識レベルは低い
— ここから今回の協働プロジェクトに関してお聞きしたいのですが、そもそも大阪府が主催する「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」とはなんですか。
興津 良介さん(以下、興津) 大阪府環境農林水産部の事業の一つで、2025年に開催される大阪・関西万博に向けて、多くの若者の「あったらいいな」と思うアイディアを集約して発信するプロジェクトです。
今回の万博のテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」ということで、社会を良くしていくためには地球環境もより良くしていくことが重要だと考えています。
過去に日本で開催された万博では、動く歩道を始め新しい技術や商品が生まれ、生活が便利になる「きっかけ」にもなってきました。
大阪府環境農林水産部では、以前より環境教育や環境啓発に力を入れてきました。大阪・関西万博に向けて環境の分野で実現してほしいアイディアを若い世代から集約し、世界に向けて発信していけたら、若い世代への環境意識向上を図ることができるとともに、より社会が面白くなるのではないかと考えました。そこから令和元年度より「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」をスタートさせました。
— このプロジェクトにおける渡部さんとの関わりは。
興津 このプロジェクトでは実現させたいアイディアごとにグループに分かれて活動しています。その内の一つが渡部さんをはじめとする「防災班」のグループです。「防災班」のグループは、地球環境の問題に対して、防災意識という側面からアプローチしようという意思をもつメンバーが集まったチームになります。
渡部 2018年の大阪府北部地震や、先ほど例として挙げさせていただいた南海トラフ地震など、大阪は災害の脅威にさらされていますが、災害対策は十分ではないと考えています。例えば、過去に大阪府民を対象に行った災害に対する意識調査では、全国平均と比べても非常に低いことが分かります。
渡部 防災においては、「自助」「共助」「公助」※の3種類の考え方があります。公助の側面でいうと、大阪府も力を入れています。例えば昔から高潮の被害が大きいことから防潮堤や水門などの対策を行っています。平成30年台風第21号では台風による高潮から大阪の町を守ったという実績もあります。
※ 「自助」災害が発生したときに、まず自分自身(家族を含む)の身の安全を守ること。
「共助」地域やコミュニティといった周囲の人たちが協力して助け合うこと。
「公助」市町村や消防、県や警察、自衛隊といった公的機関による救助・援助。
渡部 しかし、南海トラフ地震のような大きな災害に対しては、この公助だけでは防災対策は不十分だといえます。阪神淡路大震災や東日本大震災など、過去の大きな災害においても想定外のことが起きているので、公助の力だけでなく、一人一人の防災意識を高めて自助や共助の力もつけていくことが重要になってきます。
これらを含め、防災の面での課題を解決し災害に強い大阪を実現させたいと考え、今回のプロジェクトに参加しました。現在は、産官学が連携するような防災のプラットフォームがあればいいなというアイディアを元に、大阪の防災力の向上を目指してさまざまなステークホルダーに対して提案をしています。その中で「防災×ファッション」というテーマを掲げ、アパレル企業であるアーバンリサーチ様にお声掛けしました。
災害は環境問題とも密接に関係していて、日本に限らず世界中で防災は必要とされています。万博で防災先進国・日本の技術を世界に広め、世界を救う機会になればと思います。
アパレル企業として、何かミッションを与えられたような感覚になりました
— 「防災×ファッション」をテーマに、産官学が連携したプロジェクトの取組先として、UR社に白羽の矢が立った訳ですが、お声掛けいただいた時の気持ちを聞かせてください。
川瀬 晃子(以下、川瀬) 今年の3月に大阪府の興津様からお問合せいただいたのがきっかけでした。そこで防災班という形で学生の方々がファッションと防災を掛け合わせたプロジェクトを立ち上げたいというご相談を受け、その後すぐに防災班の皆様の報告会を拝聴する機会があったので参加させていただきました。
率直に感じたことは、私自身、防災とファッションを切り離して考えているふしがあったなということです。しかも、「防災×ファッション」と聞いた時に、企業として防災関連のノウハウがあるわけでもない中で、ファッションの分野からどのように力になれるのか、また貢献できるのかという部分で不安でした。
しかし、お話を伺う中で、いかにアパレル企業として防災とファッションを繋げることができるか、というミッションを与えられたような感覚になりました。防災班の皆さんの熱量の高さに刺激を受け、また共感を抱きながら「何か力になりたい」と思ったんです。
— 特にどの部分に共感されたんですか。
川瀬 私自身は両親が阪神淡路大震災を経験していることもあり、防災意識を持った家庭環境で育ってきました。ですが、これからの若い世代の方が今後被災する可能性が高まる中で、そういった意識が根付いていないという問題に気付かされ、防災班の皆さんと一緒に解決していきたいという思いになりました。何より、問題に向き合う防災班の皆さんの姿勢に、強く心動かされたように思います。
いつ自分自身が災害にあうかわからないから
— 「防災」と「ファッション」。一見結びつきそうにないというのが率直な印象なのですが、どのような関係性がありますか。
渡部 ファッションと防災は無関係のように思われる方は多いと思うのですが、とても密接に関係していると私自身は思っています。
まず、災害時は衣食住がままならないです。食べ物がなかったり、避難所生活で同じ服を着続けなければならないかもしれません。もし同じ服を着続けていると、汗やにおい、汚れが気になりますよね。また、冷暖房設備も施設によっては整っていなかったり、もしかしたら停電などが原因で機能していない場合もある。そうなった場合には、暑さ・寒さ対策も必要になってきます。
予め避難することが分かっていれば十分準備することは可能かもしれません。しかし、地震などはいつ起こるかわからない。学校に行っている時、仕事に行っている時、もしかしたらデート中に起こるかもしれません。そうなった際には、今着ている服装で避難をしなければならない。普段から防災の備えをしていなければ災害時に役に立たないと思います。そのため、ファッションと防災には関係性があるといえます。
— この「防災×ファッション」を実現させるためにUR社を選んだ理由は何ですか。
渡部 万博に向けて産官学連携型のプロジェクトを進めたいと考えた時に、まず、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会が出している「TEAM EXPO 2025」(2025年の大阪・関西万博に向けて、社会課題に取り組む人や組織との共創によりSDGs達成への貢献を目指すプロジェクト)のサイトを見ました。「共創チャレンジ」や「共創パートナー」として登録している団体や企業から探す中で、アーバンリサーチ様が目に留まりました。その時に防災×ファッションで何か新しい事ができるんじゃないかなと考え始めたのがきっかけです。
アーバンリサーチ様について調べていくと、例えば「Green Down Project」や「commpost」など、すでにSDGsに対して積極的に取り組んでいることが分かりました。もしコラボレーションができたら、熱意をもって一緒に取り組めるんじゃないかと思いお声掛けするに至りました。
川瀬 今回の「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」もそうですが、TEAM EXPO 2025の「共創チャレンジ」「共創パートナー」に登録後、こちらのページをご覧いただいて弊社へお声掛けいただける機会が増えたので登録して本当に良かったです(笑)
普段、特に若い世代の方からお声掛けいただく機会は少ないので、今回のようなご縁に繋がるのは本当にありがたいですね。
いかに防災に無関心な層へ届けるかが課題
— お話に上がったTEAM EXPO 2025もそうですが、2025年開催の大阪・関西万博は、持続可能な開発目標として17の目標を掲げたSDGsが達成された社会を目指すことを目的に開催されるかと思います。防災はどのようにSDGsに繋がっていくのでしょうか。
興津 ここ最近はニュースでもSDGsというワードを聞く機会が増えましたが、どちらかというと環境問題などの側面が多いように感じます。しかし、SDGsが掲げる17の目標は一つ一つ見ていくと環境以外の項目も多いことが分かります。
防災と関連する項目について、「11. 住み続けられるまちづくりを」では、住み続けられる街を作っていくためにも環境に対して良いのはもちろん、防災に強い街、災害が起きたとしてもその街全体で現状を守れる「レジリエンス(回復力・復元力)」の高い街づくりを目指す必要があります。
また、「13. 気候変動に具体的な対策を」においても、今起こっている気候変動を緩和していく、温度上昇を抑えていくこと、そして、気候変動が一定程度起こるとして、その影響に対してどのように備えていくかが大事だと考えます。そのためには、今後起こりうる災害に備えたインフラ整備はもちろん、防災教育を行うなど、一人一人の防災意識をどのように高めていくかが課題になってきます。
このプロジェクトを始めて今年で3年目になるのですが、学生の皆さんのアイディアはとてもよいモノになってきています。しかし、そのアイディアを実現させるためには学生の力だけでは資金面・技術面で難しい部分があり、NPO法人や民間企業の方々との共創が必要です。大阪府としては学生とそういった方々とを繋げていくなどのサポート面を担っておりますので、今回このプロジェクトを通してアーバンリサーチ様と共に活動できることは非常に嬉しいです。
大阪府では普段からあらゆる世代を対象に環境啓発活動を行っています。環境教育はすべての人に伝える必要がありますが、その中で無関心層への啓発が一番の課題となっています。特に今の若い世代の方はTVからではなく、インターネットから自分の好きな情報を選択する傾向にあります。
そういった層へアプローチしていくために、ファッションなどの若い世代の方が興味のある分野や親和性がある分野と、防災というアプローチが必要な分野を掛け合わせることはとても面白いなと思いました。渡部さんを始めとする防災班のアイディアには期待しており、大阪府としてもしっかりサポートしていきたいと思います。
川瀬 本日お話を伺い、改めてとても責任重大だなと感じます(笑)
しかし、開拓の余地があるというか、まだまだファッションの可能性があるのだと感じることができましたし、後援で大阪府様に入っていただけるのは何より心強いです。
2025年の大阪万博までまだ少し先の話ではありますが、長いお付き合いができるよう、まずは今年度の取り組みを成功させたいなと思います!
災害という大きな課題に対して、一人の力では解決できませんが、自治体や民間企業、市民団体、そしてなによりも私たち一人一人が連携し、それぞれの役割を果たすことで課題解決への道を拓いていけると思います。
これはSDGsの目標の一つである「17. パートナーシップで目標を達成しよう」にも通ずる部分であり、取材をする中でこのプロジェクトはそれをまさに体現しようとしているのだと感じました。それぞれ立場の異なる三者の協働によってスタートした「BOSAI FASHION LABO」では、次世代を担う若者への防災意識啓発の一環として、「防災×ファッション」をテーマにアイディアコンペティションを開催いたします。ここから生まれたアイディアが万博を通して世界中の災害から人々を救う「きっかけ」になることを期待したいです。
株式会社アーバンリサーチが大阪府主催の「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」と協働し、同プロジェクト防災班ユースメンバーとともに立ち上げた、防災とファッションを考えるプロジェクト「BOSAI FASHION LABO」。初年度の取り組みとして全国の高校・大学・専門学校の学生を対象に、防災に役立つアパレル・グッズ企画を募集する「第1回 防災ファッション アイディアコンペティション」を開催いたします。
合言葉は「#もしもファッション」。
“身に付けたくなる防災アイテム” “もしものときに役立つファッション”をテーマに、あらゆる災害シーンで役立つアイテムのアイディアを募集します。募集期間中は、防災関連における有識者を招き、さまざまな災害テーマに沿った講習会を複数回にわたり実施予定。次世代を担う若者に、防災に対する啓蒙活動の一環として開催いたします。
さらに入賞作品は表彰の上、そのデザインを実際に商品化し、株式会社アーバンリサーチにて販売を予定しています。
第1回 防災ファッション アイディアコンペティション
【募集期間】
2021年9月15日(水)〜2021年10月31日(日)
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「万博×環境 未来を描こうプロジェクト」
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