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CULTURE TRIP JAN 31,2020

〜光石研さんの熊本旅〜前編
飄々と、おだやかに。
強く暮らす熊本のひと。

もともとは九州の中心地として福岡よりも栄えていたとされる熊本。
東へ行けば阿蘇の山が。西へ行けば天草の海が広がる。
雄大な自然と熊本で暮らす人たちに、俳優の光石研さんと会いにいった。


以前、俳優の光石研さんと仕事で福岡県を旅したことがあるのだが、その時は役者歴40年を迎える節目に、光石さんの生まれ故郷や思い出の場所をめぐる、というコンセプトだったので、地図すら持参せず、ある意味丸腰でぶらり旅というものだった。

今回光石さんを誘ってのCULTURE TRIPの取材、旅したい場所はたくさんあったけれど、<熊本編>になった理由のひとつは光石さん自身の思いにある。

熊本には「5年ほど前に一度だけ、お墓参りで福岡に帰省したとき、九州新幹線に乗り日帰りで遊びにいったきり」だから「同じ九州人として、震災後に頑張っている方の話も聞いてみたい」という話を光石さんとしていたからだ。

それともうひとつは今回の旅のスタッフの“熊本との縁”。
個人的なことだが、わたしの父の出身も熊本だ。祖父は炭坑夫で、戦争でロシア兵の捕虜になり、命からがら生き延びて、早くに妻(父の母)を亡くして、小学生のころには愛知県に引っ越したらしいので、とは言え正直なじみはない。
昔、家族旅行で九州を周遊したことがあるけれど、その時に寄った記憶も曖昧なものだ。
だけどやっぱり父のルーツとなると、どんな場所なんだろうと、ずっと気にはなっている。
偶然にも、ともに編集している松尾さん(熊本旅・特別編担当)の実家も熊本ということが発覚し、早速段取りを組んで行くことにした。

幸いにも、松尾さんの親戚は今も熊本在住であること、わたしが新卒のときに入社した広告代理店時代の元同僚が熊本で店を構えていること、信頼のおける編集者の友人も熊本出身であることなど、すてきな人や場所を教えてもらうには十分すぎる友人・知人が揃っていたので、彼らから情報収集させてもらった。
そして、選りすぐりの5件を訪ねることにした。

復興は、人と人をつなぐもの。だからおしゃれなものがあってもいい。
【BRIDGE KUMAMOTO】

「今日の服、似てますよね」と盛り上がったポーズがこちら。

最初に向かったのは、2016年に起きた熊本地震をきっかけに誕生した産業復興支援活動チーム『BRIDGE KUMAMOTO』。
その創設者である佐藤かつあきさんの事務所に伺った。

「事務所の前にも民家があったんですが、城下町なので古い建物が多くて。震災で倒壊してしまったんですよね。いまコインパーキングになっているところなどは、まさにその跡地だと言えます」
熊本城の石垣が保管されている場所を指差しながら、淡々と当時の様子を教えてくれた。

もともと、パッケージやCM、WEBサイトなどのデザイン事務所を運営している佐藤さん。
地震が起きて、いろいろなものがストップして、仕事もなくなり、ふとSNSを見て、友人知人がボランティア活動に奮闘している姿を知る。

「不眠不休で働いている人がいる中、自分はデザインという表面的な仕事をしているだけで、役立たずだなと思ったんです。でも、肉体的な行動は得意ではないから、自分なりにほかに何か役に立てる方法はないかと。そんなとき東日本大震災での『FUNADE』の活動にインスピレーションを受けて、『BRIDGE KUMAMOTO』を立ち上げたんです」(当サイトで取材した『FUNADE』の記事はこちら)。

19万世帯が被災し、ブルーシートだらけになった熊本。
人々を風雨から守ってくれたブルーシートがゴミになる前に、再利用できることはないか。
いろいろなプロダクトがある中で、長い目で見て〝復興支援〟〝がんばる〟といったキーワードを前面に出さずに、おしゃれなものが作れないか。
そうやって生まれたのが、ブルーシートを再利用したトートバッグ〝ブルーシードバッグ〟だ。
そして、その収益の一部を寄付している。

「使用頻度によって汚れの具合もさまざま。ふたつと同じものはありません。ダメージ具合が〝ジーンズのようだ〟とおもしろがってくれる人もいます。ただ、ひとつ作るのに、相当な手間もかかるし、時間もかかる。ロットも少ないし、そもそもがゴミだから、縫製を請け負ってくれる工場も少ない。それでも『BRIDGE KUMAMOTO』の思想に共感してくれる、まさに人と人とのつながりでできあがっているんです。『BRIDGE KUMAMOTO』も東北の活動からインスピレーションを受けているから、いずれは何か次につながっていくだろうという期待も込めて。被災地と被災地をつなぐきっかけになればいいなと思っています」
今はちょうど、台風被害を受けた千葉県でも活動をおこなっているという。

さまざまなアイテムがある中で、光石さんが「発想もおもしろくてすてきですね!」と言っていたのが、ノベルティとして市民に配ったという〝熊本城の瓦〟を入れたお守り。
その瓦は、震災で崩れ落ちてしまったものだ。
きちんと許可をもらい、加藤清正公を祀った加藤神社でご祈祷してもらったお守りは、〝一度落ちているから、もう落ちない〟という意味が込められているそうだ。

震災を悲観するだけでなく、ウィットに富んだものづくりに希望を感じる。
自分には何ができるかを考え、働きかけていくこと。
その大切さをじんわりと感じたのだった。

届け、熊本から全国へ。ナチュラルワインでつなぐ想い。
【Quruto】

熊本には、ワインショップとしてナチュラルワインの普及活動に努めている『Quruto(クルト)』という店がある。
その店主・古賀択郎くんが、まさに〝新卒のときに入社した広告代理店時代の元同僚〟なのだ。
(わたしが触るものみな傷つけていた尖ったナイフ時代を知っている貴重な友人でもある)。

代理店を退職後、東京の幡ヶ谷で『Kinasse(キナッセ)』というナチュラルワインを中心にしたワインバーを運営していた古賀くん。その頃から月に一度、満月の夜にだけ、地元である熊本に帰省してはナチュラルワインの紹介などをしていた。

結局それがきっかけで熊本にUターンしてワインショップを開業することに決め、熊本に戻ったのが2016年の3月。
そのわずか20日後に、あの震災が起こった。
借りようとしていた候補の物件は全壊して、振り出しに戻り、ようやく半年後に見つけた現在の場所を、当時は一時的に、という気持ちで借りたらしい。

「わずか7坪。酒屋を運営するには狭すぎるし、車も停めにくく、少し奥まった場所でお客さんからも見つけづらいかなと思い、仮住まいくらいの意識でいました。でもいざオープンすると、繁華街なのでアクセスもよく、全国からわざわざ足を運んでくれるお客さんもいるし、日が当たらない場所なので、ワインにはもってこいの条件でもあったんです」
「今では、結果オーライ(笑)」と、この場所がとても気に入っているという。

「熊本で(たぶん全国的にも)ここまでナチュラルワインが揃っている店は少ないですよね」と光石さんも興味津々。

いつも私は古賀くんに「しゅわっとしたやつが飲みたい」というざっくりとしたリクエストをしているけれど、毎回バッチリ口に合うワインを紹介してくれる。
ワイン初心者も、好きな人も、ぜひ一度足を運んでみてほしい。
熊本はもちろん、全国の美味しいワインがこだわり抜かれたラインナップで揃っている。

できれば奥様で料理家の古賀路恵さん(みっちー)のお菓子も一緒に食べてもらいたいな。
とってもやさしい味がするのだ。

信頼できる審美眼。熊本のライフスタイルショップ最先端。
【ON THE BOOKS】

1889年創業の長〜い歴史ある書店の上にあるから『ON THE BOOKS』。
〝なるほど!〟と思いながら、とりあえず大きな本屋を目印に歩いて探したところ、ありました、古いビルの2階の奥に、ひっそりとたたずむお店が。

オーナーの上田千春さんによる審美眼でセレクトされた国内外のウエア、シューズ、生活用品が、美しくディスプレイされている店内。
まさに、熊本のライフスタイルショップ最先端の店だ。

上田さんは、熊本でインポートを取り扱うセレクトショップで働き、年に何度も海外へ買いつけに出かけるような、多忙な毎日を送ってきたそうだ。
ちょうど50歳を機に、自分らしいペースで働ける店を作ろうと『ON THE BOOKS』をオープンした。

上天草の『麻こころ茶屋』のコーヒー豆が置かれていたり、定期的にポップアップや、お茶会(前述のQurutoの古賀くんの奥様、みっちーがお茶菓子とお茶をサーブするイベント)なども行うなど、上田さんの「好きな人たちのものしか置いてないんです(笑)」というこの場所から、地元のすてきな人やコトを発信している。

気になったものをひとつひとつ手に取りながら「洗練されたものが並んでいる…これはつくられたおしゃれじゃない、上田さんの体に染み付いている本物のセンス…」とつぶやいていた光石さんが一番興味をひかれていたのが、店内に置かれていたアンティークの廃材でつくられたテーブルだ。
上田さんが、知人のデザイナーに頼んで譲ってもらったものらしく、世界にふたつとない味わいがある。

「すごく素敵です。これ、いらなくなったら絶対に売ってください!」と最後までお願いする光石さんなのだった。

取材後のお楽しみ話

「馬刺しと刺身が食べたい」という光石さんのリクエストにお応えして、この日の夕食は地のものがいただける『和GANSE』へ。

2軒目は古賀くんおすすめの『瓢六』、勢いに乗って3軒目は『瓢六』の板前さんが直接店前まで案内してくれておすすめしてくれた『LIFE』と、宴は24時をまわっても続いたのでした。

和GANSEで食べたもの。九州チーム(光石さんと編集松尾さん)が盛り上がった「ゴマサバ」。ゴマサバという名前の種類のサバではなく、ゴマがかかったサバ。味噌味やしょうゆ味があって美味しい!
光石さん待望の馬刺し。新鮮な馬刺しはとろけます…。
瓢六では2軒目なのにお寿司やおでんまで食べちゃいました。お母さんたちの笑顔が素敵なお店です。

深夜に一旦はホテルへ戻ったけれど、熊本には24時間営業で〝サウナの聖地〟と呼ばれているスーパー銭湯があると聞いていたので、風呂好きの血が騒ぎ、カメラマンと光石さんのマネージャーさんをそそのかし3人で『湯らっくす』へ。(とりあえずここのHPをぜひ覗いてみて)。
ここがもう、本当に素晴らしかった。
100%天然温泉なのに基本入浴料が590円、もちろん水風呂も天然水(水深が150cm!!男湯は170cmらしい)、ロウリュ(アウフグースサウナ)にメディテーションサウナ、無料の泥パックに極めつけは〝MAD MAX〟っていうしぶきを全身に浴びれるという。
漫画も充実、どうやら宿泊もできるそう。次は1日こもりたい。

そして翌日、銭湯に行かなかった光石さんに朝から3人がかりで自慢したのでした。

後編へつづきます。


<今回光石さんが着用したグリーンダウンジャケットはこちら>

URBAN RESEARCH iD NANGA別注ロングダウン ¥52,800 (税込)

国産シェラフ・メーカーNANGAとのコラボ、URBAN RESEARCH iD × NANGAの定番モデルをコート感覚で着られるロング丈をリリースにアップデート。“グリーンダウン プロジェクト”のリサイクル羽毛を使用しました。

BRIDGE KUMAMOTO
http://bridgekumamoto.com

Quruto
熊本市中央区上通町11-3 浅井ビル1F
TEL:096-240-5326

︎ON THE BOOKS
熊本市中央区上通町6-23 長崎書店ビル2F-B 
TEL:096-354-0876

光石 研(みついし・けん)

俳優。1961年9月26日生まれ。福岡県北九州市出身。1978年に公開された映画『博多っ子純情』の主演で俳優デビュー。以降、日本映画界に欠かせない名バイプレーヤーとして多くの作品に出演。テレビ東京ドラマBiz『病院の治しかた』(https://www.tv-tokyo.co.jp/byouinnonaoshikata/)放送中。2月下旬よりMBS・TBS系ドラマイズム 『死にたい夜にかぎって』 (https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/)放送予定。

http://dongyu.co.jp/profile/kenmitsuishi/

PROFILE

松本 昇子エディター / ライター

愛知県出身。雑誌やカタログ、書籍、WEBサイトなどの編集、執筆、ときどきコピーライティングも手がける。

〜光石研さんの熊本旅〜後編
飄々と、おだやかに。
強く暮らす熊本のひと。

阿蘇の山や天草の海。雄大な自然と、そこで暮らす人々。 俳優の光石研さんが旅する熊本、のんびりと歩いた2日目の記録。続きを読む 〜光石研さんの熊本旅〜後編 飄々と、おだやかに。強く暮らす熊本のひと。

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