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CULTURE TRIP FEB 10,2020

〜光石研さんの熊本旅〜特別編
小鮒釣りしかの川。
JAPAN MADE PROJECT KUMAMOTO

俳優の光石研さんと熊本を巡りながら、「ふるさと」や「伝統」を大切にしていくその意味を考えてみた。


誰もが知る童謡に「ふるさと」がある。
兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川。

昭和の最後からまだ30年ほど。兎を追った体験をする人は少なくても小鮒を釣った体験をした人ならまだまだ多いかもしれない。小鮒じゃなくてカエルやザリガニ釣りとかね。

とはいえ今はいろんなものが“最新アップデート”していく時代でもある。
“手”をわずらわせることなく生活することが可能になり、そのうち空飛ぶ車だって実現しそうな時代。それとともに「かの山」や「かの川」、そしてその地方に残る伝統や文化も減りつつある。まるで「ふるさと危機一髪」だ。

そんな中でも「自分の故郷や地元」、「伝統」を大切に守る人や、つなげていく人は思うより多い。

歴史として残すべきという気持ちももちろんあるけれど、心情としてはどこかそういったものがホッとする存在であることも大きいのだと思う。

“手”がかからないものが増えた世界だからこそ、感じられる“手(作り手や伝え手、そしてそれを触る自分の手)”のあたたかな価値。
その伝統は「もの」だけではない。実際言葉の意味として「無形の風習」なども含まれているそうだ。

だから普段はカードゲームやスマホゲームで遊んでいる子が、道端のどんぐりや小石を自分の“手”で拾って歩くことが楽しいと思う感覚もまた伝統たる尊いもの。

ただこのまま近代化が進めば小石拾いだって…

「昔は石というのが道端に落ちていてねえ」
「うそ〜!石なんてまぼろし〜」

みたいな時代になるかもしれない(実際今ですら家から会社までの道のりは全て舗装されていて“石ころの一つ”も落ちていない)。

そんなことを勝手に想像して、勝手にぞわっとする。

だから伝統とは、そのものの価値だけではなくて「なくしたくない」気持ちを持つものなのかもしれないと思う。

ふるさとは遠く…てもきっと大丈夫。

話は変わって少々自分語りをば。今では笑い話だけれど、子どもの頃「熊本」の「クマ」の響きが怖かったことがある。

その名前を聞くたびにそこら辺を熊がのしのし歩き回っているかのような妙な想像をしては一人でぶるぶると怯えていたのだ。ちなみに小学校の授業の一環で<マタギVS人食い熊>の映画を見せられたせいである(なぜその映画だったのかは今でも謎だ。マジで怖かった…)。

今の子たちなら「クマ」と聞いても思い浮かぶのはあの可愛いくまモンだろうけど。

ちなみに熊本(というか九州全域)にリアル熊はいないらしい。

そんなことを言いながらもわたしは熊本生まれである(熊本旅前編でも紹介していただきましたが)。天草という島に生まれ、その後は親の仕事の都合で全国を転々としていたわたしにとって、出身はどこですかと聞かれれば「強いて言えば熊本」と答える程度にしか住んだことはない「ふるさと迷子」だ。

それでも夏休みになれば祖父母やいとこ、親戚に会えることを「クマ…」に怯えながらも楽しみにしていた。天草の下島の真ん中あたりにある祖父母の家には当たり前だけど子どもが好きそうな娯楽施設はなかった。ちなみに当時はスーパーもコンビニもなくて、山と、ただただ広い田んぼと、100Mほど離れた隣の家。電灯もほとんどないから天の川とホタルの光で夜道を歩くようなところだ。驚くことにそれで歩けてしまうのだけど。

だけれど不思議と田舎で退屈した記憶はない。

朝昼は近くの山を探検し(クマー…)、祖父に竹を切ってもらって竹とんぼを作ったり。夜はカンテラを持って近くの川に入ってフナを網で掬う(いわば小鮒“掬いし”かの川だ)。祖母がさっと処理をしてからりと揚げ、それを甘くて酸っぱい餡に絡めて南蛮漬けにしてくれるのが何よりも楽しみだった。自給自足に近い超田舎だとそれなりにやることはたくさんあるのだ。ちなみに朝起きると、大抵カブトムシが布団にへばりついていて昆虫採集も捗る(夏休みの自由研究課題ゲットだぜ)。

祖父の家は代々の庄屋だったのでかなり大きく、家や蔵の探検もまた楽しみのひとつ。木彫りの素朴な人形や、ちょっと顔の怖い和紙の人形、(多分じいちゃんが仕留めた)鳥の剥製、そして竹細工のあれこれ。子ども心に怖いなと思うのもあれば、気に入ってこっそり持って帰った小物もある(時効です)。リカちゃん人形やシルバニアファミリーも可愛いけれど、田舎で見つけた素朴なそれらもなんだか「可愛いもの、良いもの」として認識していたのだ。

大人になってさすがに毎年遊びに行くこともなくなり少々足が遠のいていたのに、子どもの頃の思い出がぱぱぱっとフラッシュバックしたのは、今回の取材で6年ぶりに歩いた熊本の繁華街でのこと。もともと上町・下町という繁華街エリアは賑やかだったけど6年前よりももっと賑やかになっていたのにはびっくりした。

その繁華街にあるCOCOSA熊本というファッションビルにあるアーバンリサーチに入った時にひどく懐かしい、と言う気持ちになった。

写真はURBAN RESEARCH COCOSA熊本店ブログより。熊本県人吉地方の花手箱。

そこにあったのは、子ども心に「これをなんとかして持ち帰りたい」と思った(大きくて無理だったけど)竹細工の小物入れ。
雑貨屋さんでよく見かけた椿の絵が書いてある箱。
親戚が多いせいか大量に家にあった竹製の箸。
ついでに10年近く集め続けている大好きな小代焼ふもと窯の井上尚之さんの器もたくさんある。

取材の合間にお店にも寄っていただきました。小代焼ふもと窯の作品を手に取る光石さん

それが美しく(しかもおしゃれに!)アーバンリサーチの店頭に並べられていた。
懐かしいと同時に、なんだか誇らしいとも思った。

今の世の中、わたしのようにある意味「地元」がない人も案外多いかと思う。転校をしすぎて「地元の友達」は一人もいない。今その土地で流行っているものを答えることもできない。もちろんお正月やお盆に帰る家もない。それがどこか寂しくいたたまれない気持ちもあったけれど、今回アーバンリアーチの店頭で胸にしたのはなんとも言えない誇らしさだった。年に数回しか訪れない生まれただけの土地で、子ども心に素敵だな、と思ったものが時を超えて今も良いものとして紡がれている。

それがどうにも嬉しい。

店頭に並べられていたそれらは、「JAPAN MADE PROJECT」という日本各地の伝統や良品とそれにまつわるコミュニティを開発・セレクトするローカルプロジェクトのもの。KUMAMOTO編は2017年にスタートした。

当メディアサイトでは長崎などJAPAN MADE PROJECTに関連する土地を訪れ取材をしたことがある。

その地方の良いものを見つけ、磨き、選んで、伝える。つないでいきたいものをつなぐというその活動は、産業として地元が盛り上がるだけでなく伝統が続くということにつながる。それはつまり「ふるさと」が元気になるということ。

常々「地元がない」わたしの根っこはどこにあるんだろう、と思っていたけれどひっそり大切にしてた思い出経由でちゃんと熊本に(細々と)根を張っていたのかもしれない。「なくしたくない」思い出がたくさんあって、こうやって伝統をつなぐ活動や伝統工芸品なんかを見れば自慢したくなるほど嬉しくなるから。だからやっぱり熊本はわたしのふるさとだ。

というわけでこの取材中に熊本人としての矜持をある意味強引に取り戻したわたしは光石さんやスタッフに熊本の良品をお勧めしまくったのである。
ちなみに個人的オススメ熊本良品はやはり竹製品だ。

県内には竹林が多いので、自然と竹を使った民芸品が多いのだ。民芸品と侮るなかれ。いわゆる作家ものでなくても、長い間をかけて便利に素敵にアップデートされ続けた竹編み細工は普通のよろず屋で売っているようなものも可愛い。ぜひ手に取ってもらいたい。
あと熊本の名菓「陣太鼓」はちょっと凍らせると美味しい(プチ情報)。

ちなみに光石研さんの熊本旅・前編で登場いただいたBRIDGE KUMAMOTOの佐藤かつあきさんは、このJAPAN MADE PROJECT KUMAMOTOの立ち上げに大きく関わってくださった方だ。佐藤さんは熊本市内の事務所に、毎日天草から車で通うという猛者(天草―熊本はまあまあ遠いのだ)。そしてどこか妖精のような不思議な印象だった(これは光石さん他スタッフ全員が同意してくれた)。

事務所になんだかすごくかっこいい自転車があったので聞いてみると、「熊本震災の時に自転車屋のおじさんがお店を開けてたんですよ。パンクや修理にくるお客さんのためだけにお店を開けているって聞いて。そういえば神戸の震災時に車よりも自転車が役立ったという話を思い出して思わず買っちゃいました。まあまあ大枚はたきましたよ(笑)」。そんなことを言いながら嬉しそうに自転車を見てテヘッと笑う。
自転車故障支援のためにお店を開けていたおじさんもいきなり現物お買い上げにびっくりしただろう。でも震災の混乱の中でそんな風にまっすぐに見つけたのだから、その自転車はきっと佐藤さんのところに行く運命だったんだろうとも思う。

デザイナーとしてもいろんな所と関わっている佐藤さん。再生プラスチックでできた万華鏡に、海岸で拾ったゴミを入れて“きれいなもの”にしてしまおうという、不思議でアイロニーなプロジェクトを熱く語るかと思えば、「推しはヤマチクです!」とまるでアイドル話のように熊本県の竹箸メーカーをオススメしてくれたり。事務所前にある熊本城古城跡の話を嬉しそうにしていたから、もしかしたら熊本の文化を愛する古城の妖精かもしれない。

そうそう、佐藤さんのオフィスでこのヤマチクのお箸を触らせてもらったのですが、本当に手なじみがよくて光石さんもスタッフも大感動。

佐藤さんがパッケージを手がけた「okaeri」。実はこれお箸の長さに合わせてパッケージの長さが変えられるというエコ&おしゃれなもの。
アジアのパッケージデザインのアワード「Topaward Asia」を受賞したそうです。
佐藤さんにいただいた竹の写真。予想より大きい!お箸何膳分なんだろう…

「okaeri」と名付けられたそのお箸が欲しくなって、みんなで取材の後あちこちのお店を覗いてみたけれど残念ながら見つけられず…しょんぼり。が、なんと!
4月にJAPAN MADE PROJECT KUMAMOTOで取り扱いがスタートするそう。

“お箸の良さ”を言葉で伝えるのはとても難しいけれど…そう、このヤマチクの竹箸は、箸検定(そんなのあるのかな)高難易度の「小豆を一粒ずつ摘む」もらくらくとできそうだった。なんならゴマもいけそうだ。お箸の国の人ならこの感動、わかってくれるはず。

最後に。

今回の旅で、ちょっとだけ時間があったので熊本城の横にある熊本県伝統工芸館をみんなで見に行った。ちょうど「ちょっと昔の郷土玩具展」という、熊本や九州の県に伝わる伝統的な木彫りの人形や凧などの“昔の玩具”が展示されていた。

光石さんは福岡県出身。近隣の県と言うこともあって昔の玩具もだいたい姿形は似ている。

「この玩具知ってる」「懐かしいですね」なんていう話をしながら、光石さんは福岡の、わたしは熊本の玩具に魅入る。ガラスケース越しだったけれど見応えたっぷりの展示。

こういった玩具で実際に遊ぶことはもうないけれど、手は、ちゃんと触った時の木の触り心地を覚えている。お話ししながら光石さんの手が、まるでその玩具で遊んでいるかのようにちょっとだけ動いていた。きっとその瞬間、光石さんも思い出の「ふるさと」にヒュンと心が飛んでいたのかなと思う。

光石 研(みついし・けん)

俳優。1961年9月26日生まれ。福岡県北九州市出身。1978年に公開された映画『博多っ子純情』の主演で俳優デビュー。以降、日本映画界に欠かせない名バイプレーヤーとして多くの作品に出演。テレビ東京ドラマBiz『病院の治しかた』(https://www.tv-tokyo.co.jp/byouinnonaoshikata/)放送中。2月下旬よりMBS・TBS系ドラマイズム 『死にたい夜にかぎって』 (https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/)放送予定。

http://dongyu.co.jp/profile/kenmitsuishi/

JAPAN MADE  PROJECT KUMAMOTO

URBAN RESEARCH (アーバンリサーチ)が、2014年9月よりスタートした、日本全国にある、良品にまつわるコミュニティとともにデベロプするローカルコミュニティプロジェクト「JAPAN MADE PROJECT」
熊本の各地域の手仕事(伝統の工芸、食、芸能など)を百年後に伝える、熊本県の「くまもと手仕事ごよみ」、推進事業の取り組みであるホームページ「くまもと手しごと研究所」。
熊本地震をきっかけに、熊本地震のPR、熊本を元気にする、熊本のクリエイターを支援することを目的として“想像力は奪えない”をテーマに熊本のクリエイターたちにより結成された「BRIDGE KUMAMOTO」。
「くまもと手しごと研究所」と「BRIDGE KUMAMOTO」のコンセプトや取り組みにアーバンリサーチが共感し、2つの団体の協力のもと実現したJAPAN MADE PROJECT “KUMAMOTO”では、熊本の企業やクリエイターとアーバンリサーチのコラボレーションプロダクトをはじめ、熊本の様々な産品をセレクトし販売いたします。

URBAN RESEARCH COCOSA熊本店

PROFILE

松尾 彩Columnist

フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

〜光石研さんの熊本旅〜前編
飄々と、おだやかに。
強く暮らす熊本のひと。

もともとは九州の中心地として福岡よりも栄えていたとされる熊本。 東へ行けば阿蘇の山が。西へ行けば天草の海が広がる。 雄大な自然と熊本で暮らす人たちに、俳優の光石研さんと会いにいった。続きを読む 〜光石研さんの熊本旅〜前編 飄々と、おだやかに。強く暮らす熊本のひと。

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